1.まさかの追突事故
免許取得から丸丸5年が経ったいま、俺の駆る車はトヨタビスタ。
車好きなら、まず選ばない車だ。・・しかもAT車。
この 5 年ですっかり車好きになっていた俺も、当然この車への愛着は薄い。
とは言いつつも、いま家族で唯一の車はこれ。
楽しむことができるのは、「個室付き音楽プレイヤー」としての機能くらい。
最近仕事ではクライアントの担当者にいつも文句をつけられ、困らされている。
この 40 歳前後のおばちゃん(失礼)に、深夜の終電近くまで拘束される。
この日も、電話越しで散々いじめられた。
そして、ぐったりして家に着いた。
「ふぅ、今週も終わったか。」
でもまだ、何度も頭の中に、ひしゃがれたような声の余韻が残っている。
「よし、明日は土曜日だし、鬱憤晴らしをしよう。」
と、トヨタビスタに乗り込んだ。
今日もアンダーワールドを全開で鳴らしながら近所を流していた。
家のクルマには滅多にガスを入れないが、ちょっと遠出するには少ない。
そこで、最近慣れた、セルフスタンドで給油をして出発。
これで、満タン。今週のストレスは、今日のうちに吐き出そう。
そう思いながらスタンドを出て、ゆるく長い坂を下る。
「ちょっとボリュームが大きいかな」と思い、オーディオに目をやった。
再び前を向いたその瞬間、RV 車の赤いブレーキランプが、いきなり目前に!
慌てて床いっぱいまでブレーキペダルを踏む。が、
「間に合わないっ!」
激しいスキール音を出しながら、前車の RV のスペアタイヤに向かって
「ガシャンッッ」
その瞬間、ボンネットは直角に近いくらいの角度で山折り状態。
再び静かになった室内には、アンダーワールドが、
何事もなかったかのように流れ続けている。
「やばーい、またやってもうたー。」
思えば 2 年前も友人の運転とはいえ、親の愛車カリーナ ED を、
雪山でおシャカにしてるし、これで、 2 台目かぁ・・・。
とりあえず警察を呼び、携帯で保険会社と家族へ代わる代わる電話をする。
こんなとき、焦りと、不安と、落ち込みと、絶望感が、同時に襲ってくる。
自然と手足は震え、声はかすれる。
事故対応は何度か経験があるけれど、何度やっても、良いものではない。
不幸中の幸いにも、相手はいい人で、さらに相手の RAV4 も
当たり所がよかったらしい(スペアタイヤにあたったため)。
バンパー 2 センチ程度のかすり傷しかつかなかった。
落ち込む自分に励ましの声を掛けてくれる相手。なんていい人。
警察の処理も終わって、相手ともお詫びをして別れる。
クルマも何とか自走できる状態だった。
とは言ってもバンパーとボンネットは激しくゆがんでおり、
このまま自走するのは、かなりの注目度だ。
超低速でハザードを着けながら、みんなの注目を浴びつつ自宅へもどる。
夜間だったのが、まだ救いだ。
先ほどの電話口では、あせって状況を伝えていたのが悪かったのだろうか。
家では、ドラマで見るような超険悪ムードが展開されていた。
親父は怒るは、母は泣くはで、どうしましょう状態。
とりあえず廃車等の諸手続きと、代わりのクルマの購入を約束して一段落。
仕事のストレスもあってボーっと運転していたとはいえ、たった1回のミスで
約100万円の緊急出費とは、かなりのショック。
ストレス発散しようと出かけたドライブで、こんなにストレスを溜めるとは!
せっかくのウィークエンドが最悪に始まった。
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