5. 策略に負けた
送迎車は、幹線道路沿いにある店ではなく、
直接ストックヤードへ向かう。
こちらに、そのZがあると言うのだ。
「ほら、あれですよ。どうですか!」
と指差したほうに白いZの横姿が。
なるほど、見るからにスポーツカーだ。
雨のなか、傘をさしながらボディや車内を
まじまじと見てまわる。
Zってこういう形だっけ。
とにかく横幅がデカい。
運転席に座ってみると
「・・低!」
前があんまり見えないし、後ろなんか
フィルムも張ってあってぜんぜん見えない。
クラッチペダルとチタンのシフトノブを
いじりながら助手席のシートを見ると、
確かにBRIDEのセミバケットシート。
でもずいぶん古そうだ。
内張りもやっぱり年季を感じさせる。
MTには全く自信がないので、
ここで兄ちゃんにお願いしてみる。
「これ、動かしてみていいですか?」
すると、
「ここを前後するくらいなら大丈夫ですよ」
とエンジンを掛けてスペースに出してくれた。
「ボボボボッ」
と低音を奏ではじめた。
ふと気になって、後ろ姿を見てみる。
うわっ!マフラーがデカい。
運転席に乗り込み恐る恐るシフトを1速にして、
アクセルに足を乗せる。
「・・エンストするなっ」
と祈りつつ、ゆっくりクラッチを戻していくと、
そろそろとクルマが前に進んでいく
よかった、クラッチはノーマルっぽい。
今度はバック。
前進よりもやや急に動き出す。
なんとか動かせるようだ。
外で傘もささずに見守っている兄ちゃんをよそに、
1速、バックと行ったり来たりをしばらく繰り返す。
傍から見たらバカみたいだ。
ひとしきり動かした後、
「どうですか」
との押しの一言に、
「これにしようかな」
と思わず口にしてしまった。
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