要旨
「合気会合気道(合気会スタイル合気道)」とは2代道主植芝吉祥丸先生が教えられた合気道の非公式名であり、その概要は植芝吉祥丸・植芝守央著「規範合気道(基本編)(芸術出版社、平成9年9月9日)」の冒頭において2代道主自ら簡潔に解説されておられる。
2つのスタイルの合気道の特徴をできるかぎり公平な立場に立って分析・評価するためには、初めに主観的観念である「強さ」という言葉の意味をはっきりさせなければならないが、ここでは「護身能力」という意味で使うことといたしたい。
またどちらも大先生の合気道から生まれたものであるから、どちらが正しいとか間違いだとか言ってはならない。
その意味ではほぼ同じくらいの期間にわたって2つのスタイルを稽古してきた私自身の体験( 第3章 )は比較的公平な立場に立つことができる根拠になり得ると思っている。
合気会合気道(以下適宜「合気会スタイル」という)も岩間神信合気道( 以下適宜「岩間合気道」あるいは「岩間スタイル」という)も目ざすところは同じ「和合」の合気道であるが、その過程としての実技の内容、稽古のし方にはそれぞれの特徴があり、先ずそれらをできる限り公平な立場に立って知ることが大切である。
そのためには主観的観念である「強さ」という言葉の意味をはっきりさせなければならないが、ここではわれわれ一般大衆(アマ)にもわかりやすいように「護身能力」(必要なときに自分の身を守ることができる力)という意味で使うことといたしたい。合気道の真髄は非常に深く、単なる武道や護身術を乗り越えて常に自分の周囲を和合させてしまう武道であるけれども、その絶対の前提条件としても護身能力の修得は不可欠なものであると思うからである。
また現在の社会環境を考えた場合、実際にはこの「護身能力の修得」こそ、われわれ一般人にとって最も効果的な贈り物となるのではないだろうか。
私は32歳(当時千葉県沼南町在住)で合気道を始めてから約25年間(途中数年間は自分の仕事の都合で中断している)は合気会合気道を稽古し、そのあと約25年間は岩間合気道を稽古している。( 第3章「過去50年の反省と両スタイルの比較」 )
岩間合気道の特長は「固い稽古」( 第2章合気会合気道と岩間神信合気道」(注7))によって武道としての強さを効率よく鍛練することと、体術と一体になった「武器技」( 第2章(注5))によって合気道の基本の技の形を正しく会得することである。現実には少人数のスタイルであるが、初心者、女性、高齢者などにも十分に修得できて、そこにははかり知れぬ魅力が存在している。
なぜなら岩間合気道は大先生(植芝盛平先生)晩年までの合気道そのものだからである。それは茨城県岩間の里で大先生のおそばに23年間の長きにわたって仕えられた前茨城道場長齊藤守弘先生によって受け継がれ、それを一般人(アマ)にも修得できるようにしたものである。( 第7章「岩間神信合気道の立場」 )
合気道においては「強い」とか「弱い」とか自分と他人を比較する考え方自体が間違っており、それを超越していくのが合気道であるということを私はよく承知している。
相手が弱ければ勝ち、相手が強ければ負けるのだから、彼我関係において「強さ」を論じることは意味がないということであろう。そのことを指摘される方に申し上げたいのは、私は私自身の経験を自己反省し、私という一人の人間を基準として「強い」「弱い」を比較しているのであって、決して自分と他人を比較しているのではないということである。
また合気道というものはその道場の指導者によって少しずつスタイルが違っていても何ら差し支えないのであって、わざわざ2つのスタイルを比較すること自体に意味がないという一般的な事実についても私はよく理解している。
そのことに関しては、私は両方のスタイルを経験していく過程で知り得た「事実」すなわち合気会合気道と岩間神信合気道の実技の面での歴史的かつ基本的な相違点を披露したいのであり、世間でよく知られている道場の指導者のよる微妙なスタイルの相違を問題にしているわけではないということを申し上げたい。
私はこの2つのスタイルのどちらについてもその利点、欠点(注意すべき点)を述べるつもりであり、私ができるかぎり公平な立場に立とうとしていることをご理解いただきたい。合気道をたしなむ方々が井の中の蛙にならないためにも、どうか冷静な心をもって私の過去の反省を参考にしていただきたい。
初めにはっきりしておきたいことは、どちらのスタイルも大先生の技を出発点としたものであることは明白であって、一方が正しく他方が間違いなどとは言えぬものであり、従って私は合気会合気道そのものを否定する意図は毛頭ない。
私の論文の主旨を冷静に判断していただいた上で、現実的にはいろいろな理由で合気会合気道を続けられる方はそのようにしていただきたいと考えている。どちらのスタイルであろうとも、とにかく一人でも多くの方が合気道を楽しむということが現実的にはより良いことだと思うからである。
論文の内容としては、先ず 第2章「合気会合気道と岩間神信合気道」において両方のスタイルの違いを率直に表示し、その上で私自身の経験に基づいて合気道の「強さ」は何できまるのか ( 第4章「合気道の「強さ(護身能力)」をきめるもの」 )、合気道の「強さ」はどのように育てられるのか ( 第5章「合気道の「強さ(護身能力)」を育てるもの」 ) などについて2つのスタイルを比較しながら記述していきたい。