夢の全固体電池を実現する
~液体から固体へ~
わたしたちの生活に電池は欠かせません。こどもの頃には、電池で動くおもちゃで遊び、大人になった今ではスマートフォンやモバイルパソコンで利用しています。自動車のエンジンを始動するときにも電池は必要です。電池には1次電池と2次電池があります。乾電池のように、使い切ったら終わりの電池を1次電池、車や携帯電話のバッテリーのように、充電して何度も使える電池を2次電池と呼びます。何度も繰り返し充電して利用できる電池が理想的な2次電池です。
リチウム電池は、正極(プラス)、負極(マイナス)、電解質の3つから構成されています。電解質を通って、リチウムイオン(Li+)が正極と負極の間を行き来することにより、充電と放電の反応が起きています。正極と負極は固体ですが、電解質には可燃性の液体が使用されています。そのため液漏れや発火の危険性があり、重大な事故につながることもあります。そして、固体の電解質を利用した全固体電池は、安全性に優れ、電気自動車などの大型バッテリーへの応用が期待されています。また、電気自動車の普及によって、エネルギー・環境問題の解決につながることも期待されています。安全で、充電を繰り返しても劣化しない全固体電池をつくることが、わたしたちの電池研究の目標です。
【プレスリリース】 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現
【プレスリリース】 全固体電池実現のネックを解明
エピタキシャル薄膜
~高品質な薄膜の合成~
バルクでは単結晶の合成が困難な物質であっても、薄膜の状態であれば単結晶ライクなエピタキシャル薄膜の作製が可能になる場合があります。薄膜合成では、薄膜の元となる材料を高温に加熱して気化し、基板上でエピタキシャル成長させる手法が一般的です。わたしたちは、パルスレーザー堆積法(Pulsed Laser Deposition, PLD)や分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy, MBE)を用いて高品質なエピタキシャル薄膜の作製に取り組んでいます。エピタキシャル薄膜の表面構造を走査トンネル顕微鏡(STM)で観察し、X線回折や電子顕微鏡により薄膜内部の構造を評価します。また、それら薄膜を積層し作製した薄膜型の全固体電池を用いて、充放電動作、サイクル特性、交流インピーダンス法を用いた抵抗分離測定等の評価を行っています。
S. Shiraki et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 10 (2018) 41732.
S. Shiraki et al., J. Power Sources 267 (2014) 881.
走査トンネル顕微鏡(STM)
~原子・分子を観る、操る~
走査トンネル顕微鏡は、原子や分子を観察することができる顕微鏡です。探針と表面の間に数ボルト(V)の電圧を印加して、探針の先端を表面に1ナノメートル(nm)程度まで近づけると、探針と表面がつながっていないのにも関わらず、その間にとても小さな電流(トンネル電流)が流れます。これをトンネル効果といいます。走査トンネル顕微鏡では、このトンネル電流の大きさを測って、探針と表面が衝突しないように制御します。先端が鋭く尖った探針を使って表面の凹凸をなぞれば、原子がどのように並んでいるのかを観察することができます。 また、原子や分子の種類を識別することができます。 原子が1列に並んだナノワイヤや、分子が自己組織化し形成された2次元配列について、そのナノ構造と物性に関する研究を行っています。
S. Shiraki et al., Appl. Phys. Lett. 96 (2010) 231901.
S. Shiraki et al., Surf. Sci. 552 (2004) 243.
X線光電子分光・回折(XPS・XPD)
~組成と原子配列を知る~
X線光電子分光は、元素識別、化学状態識別、組成分析を行う手段として幅広く利用されている分析手法です。X 線を試料表面に照射し、光電効果により放出される電子のエネルギーとその強度を調べることで、試料を構成する元素とその酸化数、分布を調べることができます。また、原子から放出された光電子は、周囲にある他の原子により散乱された後に検出されます。このとき結晶物質のように原子が規則的に配列していると、回折現象が生じて原子配列を反映した散乱パターンが観測されることが知られています。この現象は光電子回折と呼ばれ、X線回折(XRD)などの回折現象を利用した構造解析手法と同様に、光電子回折もまた光電子の放出角度分布から試料の原子配列に関する情報を得ることができる手法です。わたしたちの研究室では、特に硬X線光電子分光(HAXPES)を利用して、固体と固体の埋もれた界面の構造に着目し研究を行っています。
S. Shiraki et al., Surf. Sci. 493 (2001) 29.