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杏林大学外国語学部英語学科准教授 倉林秀男のホームページ

杏林大学外国語学部1年生の大学入門科目「基礎演習」の授業実践報告を随時行います。

【基礎演習とは】
大学の導入科目として、メディアリテラシーや大学での学びについて少人数のクラス単位で実施する科目です。高等学校から大学への学びへのスムーズな移行を行い、学生の学ぶ意欲を高めるように工夫をしながら授業を行っています。
授業を経済産業省の定めるところの「社会人基礎力」を向上させるための準備として位置づけ、「基礎演習」の授業計画を作成しています(観点別評価)。
同時に、授業後に担当学生とは個別面談をしながら、授業内外のフォローをします。

【実践報告の公開の目的】
現在、多くの大学で1年次の大学入門科目として、大学の学びや、レポートの書き方、図書館の利用法などを組み込んだ授業を実施しています。ただ、これまで専門科目の授業を行っていた大学教員が高校の教員のようなホームルーム的な授業をすることには、違和感を感じたり、困難を感じたりしている方々もいらっしゃると思います。そういう方々に、一つの授業例として、今年度の授業実践をここに報告し、先生方のご参考になればと考えております。

【授業報告】
1年次の9月からの授業実践について報告します。
○第1回目「オリエンテーション」
【目的】評価やシラバスについて確認。

○第2回目「履歴書を書いてみよう」
この授業では、一般的な履歴書を書くことを行いました。学生たちには「今後アルバイトの応募などで履歴書を書くことが多々あると思うので、今回の授業では、履歴書を書いてみましょう。一度、履歴書の見本を自分で書いておくことで、今後書く必要があるときに参考にすることができるから」ということを伝えます。
まずは、いっさいアドバイスを与えずに、履歴書に記入させます。そのとき、学生たちからは次のような質問が出ました。

・シャープペンでいいですか?
・ボールペンでいいですか?
・間違えたのですが、修正ペンで直していいですか?
・西暦で書くのですか?
・年号で書くのですか?
・住所と現住所が同じなのですが?

など、「記入法」に関する質問が飛び交います。そのときの教員の解答としては、「もう一度、書き直すチャンスがあるから、自分が正しいと思う方法で書いてみよう」とだけ伝えます。

一通り、記入をさせたら、履歴書の書き方について説明をします。

この段階では、単なる履歴書の書き方という講義になってしまうのですが、本来の目的はそこにはありません。ここで、学生たちに気づかせたい点は、「資格」の欄です。
大学1年次では、「資格」の欄には運転免許や英検、漢字検定などの急を記載するだけだったり、記入する項目があまりたくさんありません。
この点を強調します。つまり、資格の欄に記入する事柄がほとんどないということを学生一人一人に気づかせるというのが本当の目的です。

つまり、
「資格」の欄に何を記載すればよいのか=これからの学生たちの目標
ということです。

その後、大学のの資格講座などを紹介します。
学生たちに一通りの資格について説明した後、自分たちがどのような資格を卒業時までに取得するかに着いて考えさせることが可能となります。
つまり、自分たちの足りない部分を、自分たちが発見し、それをどのように改善していくかということを考えさせるきっかけになります。
こうすることで、いつまでにどのような資格を取ればいいのか、大学では何をどのように学んでいけばよいのかの動機付けを可能にします。

履歴書を書かせるということで、大学での学びについて強い意識を持たせることで、目標を明確化し、キャリア教育に結びつけることとが可能となります。
もちろん、丁寧な文字で履歴書を書き上げるということも一つの課題となりますので、清書用の履歴書を配布し、宿題としました。

【社会人基礎力としての位置づけ】
「前に踏み出す力」
   主体性(物事に進んで取り組む力)
   実行力(目的を設定し確実に行動する力)
「考えぬく力」
   課題発見力(現状を分析し目的や課題を明らかにする力)

資格の欄に記載したことについては、随時面談をしながら学生の学習状況の把握や意欲向上をはかっています。

○第3回 「夏休みの出来事について書いてみよう」
夏休みの出来事のうち、自分に取って思い出に残っていることを3つ列挙してみましょうというところから始めました。その後、3つのうち1つの出来事について詳しく書いてみようという課題を出し、書かせるというのが今回の授業で行うことです。
もちろん、夏休みの出来事について書いてもらうということにはそれだけではなく、本当の課題がその裏に隠れています。
この授業で学生たちに気がついてもらいたいことは、「なかなか自分の考えがうまくまとめられない」と言う点です。
このようなところまで、学生を誘導したら、「書く」というところに焦点をあて説明をしていきます。
自分たちにはうまく自分の考えをまとめることが難しいということを理解してもらい、そこから、「事実の描写」と「自分の意見、感想」という2つの描写スタイルがあるということを説明します。うまく描写方法を理解すればある程度意味のまとまりがある文章が書けるようになるということにつなげていきます。

【社会人基礎力としての位置づけ】
「考えぬく力」
   課題発見力
   創造力(新しい価値を生み出す力)

○第4回「上手な文章を書くには、上手な文章をまねよう(その1)」
前回の授業で、簡潔にまとめることが意外と難しいということに気がつき、なるべく早い時間で的確な文章が書けるようになると、これからの大学生活だけではなく、卒業後も役に立つということが学生たちには理解してもらえました。
そこで、上手に文章を書くには、上手な文章をまねるということが必要であると話を進めていきます。ただ、「まねる」というと「そのまま書き写す」というようなイメージを抱きかねないので、まずは冗長な文を提示し、それを簡潔に書き直すというトレーニングを行います。
一通り課題を終えたら、グループ内を作り、自分たちが書き直したものを見せ合いながら、その中でよいものを選んでもらうということをします。そして、選ばれた学生はグループのメンバーに対して、「なぜこのように書き換えたのか」ということを説明し、メンバーに理解をしてもらいます。こうすることで、学生同士での学び合いが可能となります。その後、全体でそれぞれのよかったものを共有し、教員がひとつずつコメントをしながらまとめます。

【社会人基礎力としての位置づけ】
 「考えぬく力」
   課題発見力
   創造力
 「チームで働く力」
   発信力(自分の意見をわかりやすく伝える力)
   傾聴力(相手の意見を丁寧に聴く力)
   柔軟性(意見の違いや立場の違いを理解する力)

○第5回「上手な文章を書くには、上手な文章をまねよう(その2)」
前回の授業に引き続き、要約の練習をしながら文章能力を向上させます。そのためには、長い文章の中から、要約をするために必要な部分を発見し、それらを自らの言葉で表現し直すということをさせます。
授業の進行は前回と同じで、教員がよいと判断した要約は黒板に書かせるなどして全員でよいものを共有します。
扱う文章は社説などで、意見や主張がはっきりしているものを利用し、また同時に時事問題についても理解を深めてもらいます。
このようにして徐々に、要約をするという目標が、情報を的確に処理するという目標へとスライドできるような仕組みにします。