キラのアドバイスにより、ここ2、3日のカガリの急な態度の変化の理由を

なんとなく自分の中でみつけたアスランは少し気持ちが落ち着いた。

そしてなんとか彼女の誤解をとこうと彼は試み始めた。

しかしながら、彼女と二人きりになれるチャンスがなかった。

「後夜祭のダンスを俺と踊ってくれないか?」

その一言がなかなか言えない、いや、言える機会さえない。

ほんの1週間前までは彼女に言い出す機会がいくらでもあったのに

なぜ自分は実行しなかったのだろう・・・と悔やみたくなる気持ちを何度も押さえ込んだ。

昨日も帰りはキラと3人だった。・・・でも避けられるよりはまだいい。

何とかしなければ・・・体育祭まではあとわずかである。

体育祭が終わるまでにちゃんと伝えないともう彼女と会う理由がなくなってしまう。

このままだとただの幼馴染にも戻れないのではという不安ももたげてくる。

 

運動場の四隅・・・ちょうどトラックのカーブのところに鉄骨のやぐらが組まれていた。

体育祭の各組のシンボルとなるボードがそこに飾られるのだ。

応援合戦の時にそのボードのデザインも含めて審査されるため各組ともその作成に力をいれる。

体育祭まであと2日となった金曜日の午後・・・各組のボードの取り付け作業が始まっていた。

 

キラは、鉄骨の足場をよじ登りボードを取り付けるための準備をしていた。

視線を感じ彼が下を見下ろすと、自分を見上げていたカガリが目に入った。

その訴えるかける瞳が、普段は前向きで自分を頼ることがあまりないだけにキラはなんともいえない気分になった。

「キラ・・・やっぱり今日は帰り遅いよな・・・」

「うん・・・ごめん。」

企画係のキラは、今日はボードの組立てをしなければならない。

一方応援団のほうは、休養をとるために今日は15時で練習が終わることになっている。

ふと視線を上げると、カガリの少し後ろの方にいる人だかり・・・応援団の面々が目に入った。

アスランがダコスタやニコルに話しかけている姿があった。

そして再び視線をカガリへと戻した。

「カガリ・・・気にしすぎだよ。」

アスランと二人きりになることを避けようとしている妹にキラはいった。

「人のことは気にしなくていいってこの間言っただろう?」

「そうだけど・・・けど、あいつが私のせいで振られたりしたら・・・・それに・・・」

カガリはアスランのことを気にして心配そうな顔をした後に、ちょっと口を尖らせ拗ねたような顔をした。

「それに・・・何?」

「なんでもない・・・」

あいつの側にいるとドキドキするなんていえるかよ・・・

カガリのほほが少し赤かったのをキラは見逃さなかった。

相変わらず鈍感な妹に彼は小さく彼女に気づかれないように笑った。

アスランが好きなのは君なのに・・・ね。

カガリの態度に困っているアスランの顔を思い浮かべた。

まあこのくらい苦労してもらってもいいか・・・

自分としてはたやすくアスランがカガリと付き合い始めるのも少ししゃくなのだ。

 

と、アスランが近づいてきているのが目に入ってきた。

が、カガリは気がつかずキラに話しかけ始めた。

「なあ・・・遅いのはわかるのだけど・・・その・・・待って・・・」

「カガリ!」

彼女の言葉をさえぎるようにアスランが声をかけた。

「な・・・なんだ。」

彼はすでにカガリの側に立ち、キラにも視線を向けながらも彼を無視してカガリに告げた。

「今日は練習が早く終わるだろう。だから終わった後、俺のうちにみんなで集まって最終チェックをやろうということになった。」

「はあ?」

「お前も来るよな。」

有無を言わせないくらいの勢いがアスランにはあった。

「あ・・・、だ・・・他に誰か来るのか?」

「ダコスタやニコル・・・あと各班のリーダたちかな」

「そっ、そうか・・・。わかった、行くよ。」

その言葉を聞いてアスランは嬉しそうな顔をした。

「やあ、アスラン!」

二人の様子をみていたキラが笑いをかみ殺しながらいった。

「僕も今日はボードのとりつけで帰りが遅くなっちゃうから、カガリをよろしく、ね。」

アスランは赤い顔をしながら、キラを見上げ少し睨んだ。

「わかっているよ。」

そう答えたあとアスランはキラの手元を見てたずねた。

「それは何だ」

キラは鉄骨の足場の少し上にまた木材を張っていた。

「ああ・・・鉄骨だけだとボードの仕掛けがうまく設置できないので、木材をはっている。」

「そっか、じゃあ強度はあまりないってことか」

「まあそうだね。カガリ、気をつけてね。」

キラがカガリを見て言った。アスランもカガリの方をみていった。

「お前登るなよ。」

「やらないよ。」

カガリは小さい子供のように口を尖らせて答えた。

「さて練習が始まるぞ。行くぞ。」

アスランはクスクス笑いながら、カガリの頭をつかんで向きをかえ、練習に行くようにうながした。

 

「なあ・・・今日こんな大人数でおしかけて大丈夫なのか?」

練習がアスランの家に行く途中でカガリは彼の上着の裾をひっぱって声をかけた。

「うん?何?」

アスランは普段とかわらない彼女の態度に少しホッとしながら答えた。

「いや・・・おばさんがびっくりするのではないかと思って。こんな大人数で。」

「母さんが?大丈夫だよ。この時間だし・・・最近はまた遅いから。」

「そうなのか?」

カガリが疑いのまなざしを向けてきた。

「夏休みだってみんなできていたじゃないか。」

「だって、あの時はおばさんいなかったから。」

「今日も大丈夫だよ。だからさ・・・」

「何だよ。」

「みんなにお茶出すのを手伝ってくれる?」

アスランはウィンクしながらカガリに言った。

「えっ・・・、ああ・・・いいけど。」

カガリはそう答えてプイと横を向いた。

アスランはその顔を見ながらクスクスと笑った。そして少し緊張してきた。

彼は台所でみんなにだすお茶を準備するときに、後夜祭のことを彼女に言うつもりでいた。

が、彼の目論みは散ってしまった。

「母さん・・・」

玄関の鍵が開いていたので、アスランが首をかしげながら扉をあけたところ

リビングから顔を出したレノアと目があった。

「アスラン、お帰りなさい。それから、みなさんいらっしゃい」

 

お邪魔します・・といって何度かここに来たことのあるダコスタを先頭してみんなはアスランの部屋へ上がっていった。

アスランは玄関先で、驚いた口調でレノアに話しかけていた。

「どうして・・・しばらくは遅いって・・・」

「あら、私がいるとなにかまずいのかしら?アスラン」

レノアは少しからかい気味な顔をしてアスランを見つめた。

「あ・・・いや、別に。ただみんな気にするからと思っただけだよ。」

「そう・・・じゃあいいけど。お茶は用意してもっていくから、あなたも部屋に行きなさい。」

そういってレノアはリビングに入っていった。

アスランは小さいため息をついた。と、そこにカガリが声をかけた。

「あのさ・・・私、おばさん手伝うから・・・」

「えっ・・・、ああ・・・じゃあカバン。」

アスランはそういってカガリの返事も待たずその手からカバンをもぎ取った。

そしてちょっと不機嫌そうに2階の自分の部屋へと上がっていった。

触れた手にカガリはどぎまぎした。

結局アスランは何も伝えることができず、体育祭の日を迎えた。

 

体育祭が始まった。

さすがにカガリもアスランを意識している暇がなく・・・朝から二人は一緒にグラウンドを駆けずり回っていた。

夏休みから念入りな準備を続けていたこともあり、応援合戦のカガリの早変わりも成功し喝采を浴びた。

とはいえ、赤組は常にTOPをキープしていたけれども、今年は白組が善戦しており、

最後のリレーの結果によっては逆転されるかもしれないというくらいまで得点差が迫っていた。

リレーのアンカーは各応援団の団長となっている。

またディアッカもリレーに出場することから、リレーの応援はカガリとニコルが中心となってやっていた。

カガリは応援に勢いをつけたくて、前方の応援団のスペースから後方へ駆け出し、鉄骨のやぐらに登り始めた。

あの馬鹿!登るなって言ったのに。

アスランはカガリが駆け出したときに・・・最悪な事態を予想して追いかけた。

「わっ!」

カガリの声が聞こえた。

足場がぐらついているのにアスランは気がついた。

やっぱり予想していた通りだ、しかも、キラが言っていた木材に足をかけるなんて。

落ちる!彼はそう思った・・・と同時に体が動いていた。

バランスを崩したカガリは上の鉄骨に手を伸ばしたが届かず、落下し始めた。

 

やばい!落ちる・・・

しまったと思っても後の祭りだった、カガリは体を強打するのを覚悟した。

が、衝撃はなかった。

「痛!」

駆け込んだアスランがカガリを受け止めて、バランスを少し崩ししゃがみこんだ。

 

みんながいっせいに二人の方を見つめ、応援の手が止まりかけた。

「ニコル!いいから続きを。」

アスランは叫んだ。

心配そうに二人に近づいてきたニコルは、はっと気がつき、アスランに向かって大きく頷いて赤組の応援スペースに戻る。

ここで騒ぎを起こしてはみんなの頑張りが無駄になってしまう。

「第2応援歌はじめ!」

ニコルの声が聞こえた。

 

「この馬鹿!・・・無茶するなっていっただろう」

「ごめん・・・」

「まったく・・・」

「だから・・・ごめん。」

カガリがシュンとして上目遣いにアスランを見た。

キラもそこへ駆け寄ってきた。

「大丈夫か、アスラン・・・と、カガリ・・・は大丈夫だね。」

カガリもようやく状況に気がつき、アスランの腕の中から立ち上がった。

アスランも自分の体を起こそうとした・・・が、できなかった。左の足首がはれていた。

「痛・・・」

「アスラン、つかまって。」

キラがアスランに肩をかし、立ち上がらせた。

カガリは真っ青な顔をしてアスランを見つめ、小さな声で呟いた。

「ごめん・・・アスラン、足・・・・」

「捻挫しただけだ・・・心配するな。お前は怪我がなくてよかった。」

アスランがホッとした顔でカガリに微笑んだ。

「けど・・・」

「ごめん、キラ・・・医務室まで付き合ってくれるか。」

キラは頷き、二人は医務室へ向かうべく歩き出した。

「わ・・・私も・・・」

カガリは二人を追いかけて医務室に行こうとした。

するとアスランが制した。

「ついてくるな。お前はいい・・・応援団の仕事をしろ。」

「でも・・・」

カガリは泣きそうな顔をしていた。

「お前は副団長だろう。」

アスランはカガリを見つめた。

「わかった。」

カガリは頷き、前方の応援スペースのへ駆けていった。

 

続く

(2004.11.14)

 

あとがき

すいません。ほぼ4ヶ月ぶりに体育祭更新です。ごめんなさい。

体育祭のシーンもいろいろ書きたかったのですが・・・終わらなくなってしまうのでやめました。

あと・・・レノアがカガリに向かって「アスランは張り切っているのよ!」とか言わせたかったのですが。

ちなみに体育祭のシンボルボードの描写がうまくされているか自信がありません。あと、カガリの落下のシーンも。

そうそう・・・赤組のシンボルボードにはジャスティスが描かれていたりして・・と思っています。

さて次回はいよいよアスランが告白!です。

あまり間をおけず更新したいと思います。

 

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