2日後水曜日午前中、休み時間の8組の教室

アスランは少し沈んでいた。キラも少し落ちつかなかった。

クラスのメンバーもいつもと様子が違うので二人のほうをチラチラと見ていた。

2学期に入ってから1日に2、3回いつも3組からドタバタと体育祭の件で

8組の二人のもとにきていたカガリが昨日、今日と来ないからだ。

最初のうちはカガリの行動に驚いていた8組の面々もキラの双子ということもあり

今はすっかり馴染んでいてダコスタ同様「ヤマト妹」と気安く声をかけてくる者もでてきたくらいだ。

そのうえカガリが訪ねてくることによりアスランはクラスのメンバーとも打ちとけはじめていた。

今まではどこか近寄りがたい感じがしていたアスランがカガリの前では教室で様々な表情を見せたからだ。

 

アスランがはぁとため息をついた。

キラがそんなアスランの席の後ろに座り背中をつついた。

「・・・・なんだ。」

少し不機嫌そうに振り返るアスラン。

「あのさ・・・何かカガリにした?」

キラが言う何かって何を指すのかアスランには今ひとつわからないため疑問の顔を浮かべながら答えた。

「いや、何も・・・したつもりはないが。」

「そう・・・なのか」

答えたあと、うーんと考えるキラをみてアスランが逆に質問をする。

「何だよ。何か気になることがあるのか?」

「いや・・・」

さらに考え込むキラ。それをみてもう一つため息をつくアスラン。

「いや、昨日の夜、カガリの様子がおかしくてさ。」

アスランのため息に反応してキラが話しだした。

「晩御飯の時にもボーっとしているし・・・あのカガリがだよ。それに・・・」

「それに?」

「君とは昨日帰ってこなかっただろう」

「ああ・・・」

そうだ確かに昨日は先に帰っててといわれたのだ。

「昨日も今日も教室にはやってこないし」

「そうだな」

「何かあったのかと思って」

「いやわからない。俺も知りたいぐらいなんだけど。」

アスランが不安そうにキラに答えた。

「そうなの?」

キラが訝しげにアスランを覗き込んで聞く。

「やっと告白したのかなと思ったんだけど」

「なっ、何を・・・馬鹿なことを・・・」

アスランが以前と同じように真っ赤な顔をしてあたふたし始めた。

「違うのか・・・」

キラがアスランの態度をみてつぶやく。

「じゃあ、どうしたんだろう。他のやつに告白されて悩んでいるのかな」

でも、そんなことは今までなかったよな・・とキラは考えた。

カガリもそれなりに人気があり、1年生の時から何回か告白をされたりラブレターをもらったりもしている。

が、いつもあっさり「まだそういうことは考えられない」と断っており悩んだりしたことはなかった。

その話はアスランもキラから聞いていて知っている。

もし誰かに告白されていて、悩んでいるのなら一大事だ。

アスランが慌てたように立ち上がってキラに掴みかかった。

「まさか・・・そんな・・・相手は」

アスランの必死な様子にキラは落ち着かせるように言った。

「いや、ちゃんと聞いたわけじゃないから、まだそうと決まったわけじゃない」

「・・・そうだな。」

「まあ今日の午後練習があるだろう、その時にでもきいてみたら?」

体育祭が近いので今日から午後は授業がない。

「俺が??」

目を丸くしてアスランが言った。

「だって君が知りたいのでしょう。」

「けど・・・」

はたして聞けるのだろうかとアスランは不安でいっぱいだった。

避けられてるのではないか

アスランは昨日から浮かんでは否定していた考えがまたよぎってしまった。

 

3組の教室

ここでもダコスタとミリアリアが頭を悩ませていた。

「どうしたんだ。あいつ?」

ダコスタが顎でさしてミリアリアに聞いていた。

わからないわ、とミリアリアが首をすくめた。

二人の視線の先にはボーっと机に肘をついて窓の外を見つめているカガリがいた。

「昨日からおかしいのよね。」

「そうだな。まあ応援団の練習の時はいつもと一緒だったんだけど」

「体育祭のことで、あーだこーだともいってこないし」

「確かに」

「8組には行かないし」

「ああ」

「変よね」

ダコスタも同意するように頷いた。

「午後、キラに聞いてみるか」

 

水曜日の午後

今日から運動場を使った練習が可能となる。

1時間ずつ各組で時間を決め、運動場で応援合戦の練習が行われる。

赤組は水曜日は2時から運動場を使えることになっていた。

今日は実際の衣装を着て初めての通し稽古となる。

学ランに白い手袋、長い赤い鉢巻をした男子応援団員が運動場の片隅、体育館の側に集まっていた。

そこへ女子応援部員が黄色い声を少し上げながら近づいてきた。

彼女達は男子と同じ様に赤い鉢巻をし、揃いの赤い運動靴に赤いサテン生地で作られた赤のミニスカートと

胸に「RED WINGS」と青で描かれた赤いTシャツまたはタンクトップの姿だった。

「ヘぇー、なかなかいいじゃん。ミリィってさすが」

その様子を見てディアッカがつぶやいていた。

衣装に関してはミリアリアが中心となって手分けして作っている。

そんな女子団員の中で一人だけスカートじゃなくショートパンツをはいている女の子がいた。

カガリだ。上はタンクトップで、鉢巻はまだしていなかった。

アスランはその姿に見とれていた。

そんなアスランにディアッカとダコスタが気づき顔を見合わせてニヤニヤしていた。

 

黒い布を持ったミリアリアがカガリに近づいてきた。

「カガリ、これ。」

カガリにミリアリアが手にもっていた布を渡した。

「応援合戦用のズボンだから。それ以外のときは昨日渡したやつを着てね。」

「ありがとう。ミリアリア。で、私だけパンツなんだ。」

回りの女子を見ながらカガリがミリアリアに言った。

「だって、ズボンの下にスカートじゃちょっと動きにくいかと思って。」

「そうか。それもそうだ。」

カガリはミリアリアから受け取ったズボンを着始める。

「だって、早変わりなんてことをあいつが考えつくから、余計に服をつくらなきゃいけなくなったのよね。」

カガリは苦笑する。

「えっと脱ぎやすいように、マジックテープにしてみたの。」

ミリアリアがカガリに伝えた。

「ありがとう。助かる。でもその案にのったのは私だから。ディアッカに文句いうなよな」

「まあね。カガリも第2応援歌の振付を二種類覚えることを自分できめたんだしね」

カガリが話を聞きながら上着をきて、鉢巻をする。

「でもアスランも副団長の演技を覚えなきゃいけなくなって大変だったみたいだけどね」

アスランのことが話題にでてきて、カガリはドキドキしはじめてきた。

「あ・・・あいつにはちょっと悪かったとは思っているけど」

なるだけ平静を装ってカガリは答えた。

「しかし、カガリはこっちの姿も似合うわね。」

「えっ?」

そこには白い手袋をした学ラン姿のカガリがいた。

「女子のファンも増えるんじゃないのかしら」

ミリアリアはくすくすと笑っていった。

同じ頃カガリとミリアリアをみていたディアッカが呟いていた。

「うひょー、かっこいいな。カガリちゃん」

 

応援合戦の時、カガリは前半は男子に混じって副団長の演技を行い、

途中で早変わりをして女子だけの第2応援歌のパートの演技を行うことになっている。

そしてカガリが早変わり後はアスランが副団長の演技をするのだ。

カガリを副団長におしたディアッカが演技にインパクトがつくといって提案し、採用されたのだ。

 

赤組の運動場での練習の時間が近づいてきた。応援団部員は所定の位置で待機している。

アスランは隣に座っていたカガリに声をかけた。

「カガリ、今日も遅いのか?」

えっと驚いた顔でカガリがアスランの方を見た

「遅いのであれば待っているから・・・その、一人では帰らないでくれないか。」

アスランは普段と変わらないようにつとめていった。

「なんで」

カガリは少しドキドキしてきたが、なんとか平静を装って答えた。

「し・・・心配だから」

「大丈夫だよ」

心配って私より他に心配しなければならない相手がいるんじゃないのか、と心によぎって

カガリは少し不機嫌に答えて横を向いた。

「でも・・・それに・・・」

アスランはカガリが横を向いたので慌てた。が、なかなか上手く言葉がでてこなかった。

「なんだよ。早くいえよ。」

カガリははっきりしないアスランに顔を再びむけ口を尖らせながらいった。

「俺のこと避けてないか?」

アスランは意を決して聞いた。

「えっ・・・さ、避けてないよ」

言葉とは反対にプイッと横を向き視線をあわせようとしないカガリをみて、

アスランは避けられていると確信した。

「俺、何かカガリにした?怒らせるようことした?避けられるようなことした?」

落ち込みたい気分を振り払ってアスランは尋ねた。

「気がつかないうちに、もしそういうことしていたのなら謝るよ。でもいってくれないとわからないし」

「ば・・馬鹿いうなよ。避けてないっていってるだろう」

「じゃあ一緒に帰ろうよ。待っているから」

本当か?という感じでちょっと睨むような視線でアスランはカガリにいった。

「わ・・・わかった」

 

その日、カガリはアスランとキラと3人で帰った。

アスランが少し不機嫌そうだったのをカガリもキラも感じていた

 

「カガリ?寝ちゃった?入ってもいいかな」

その日の夜、キラはカガリの部屋を尋ねた。

「まだ寝てないけれど、何?」

カガリはベッドの上に座りこみ応援団の衣装をたたんでいた。

キラはカガリの机の前にある椅子に座り聞いた。

「いや・・・その・・何かあったの?昨日からちょっと様子が変だなと思ってるんだけど」

「そうか?いつもと一緒だと思うけれど。」

カガリがキラの方を向いて答えた。

「そう?アスランと何かあったんじゃないの?」

「えっ」

カガリの手がとまり、キラから視線をそらし、俯いていった。

「何もないよ」

「そうなの・・・・」

キラはカガリの態度から何もない・・ということはないと思った。

さてどうやって聞き出そうかと思案していると、カガリのほうが口を開いてきた。

「キラ・・・」

「何?」

カガリはちょっと口に出すのを一瞬ためらっていたようだが、意を決したように言った。

「アスランって好きな娘いるんだって。知っていた?」

キラが驚いていて、目を丸くしたが、次の一言をきいてカガリに気がつかれないように脱力した。

「キラは誰だか知っている?」

カガリ・・・君なんだけど・・・とは僕の口からはいえない。

キラは頭が痛くなった。そんなキラをよそにカガリが独り言のように続けた。

 

「私、もうアスランと一緒にいちゃいけないのかな。だってその娘が見ていたらいい気持ちしないよな。」

「それにアスランがもしその娘に告白しても断られてしまうかもしれない。」

「だからもう今までのように話し掛けたりしちゃいけないような気がするのだけど。」

「もしアスランがその娘とうまくいってしまったら、今までどおり話せなくなっってしまうのかな。」

「けど、そう考えたら寂しくなってきて、なんか悲しくなってきてしまって。」

「でもさ、あいつから話し掛けられると私は嬉しくなってしまって・・・」

「それにキラ変なんだよ。私、アスランのことを考えたりするとドキドキしてしまって。」

 

「カガリ」

キラが優しく声をかけた。カガリがはっと気がついてキラを見つめた。

「どうして、アスランに好きな娘がいるって思うの?」

カガリは困った顔をして俯いた。

さすがに、靴箱でアスランとニコルが話をしていたのを聞いていたとはいえない。

「アスランに聞いたの?」

ブルブルと横に首をふるカガリ。その様子を見てキラはクスっと笑った。

「アスランにちゃんと聞いてみれば?」

「えー!聞けないよ。そんなこと」

カガリが真っ赤な顔をしていった。

「でも、そうしないと解決しないよ」

「そうかな・・・。でもさあ、あいつって変だよね。」

「何が?」

「だって、私の世話を焼こうとするんだぞ、相変らず。」

「えっ・・・・」

「だから、私の世話より好きな娘の世話をすればいいんじゃないのか?」

そりゃあ、幼馴染だからかもしれないけど・・・とぶつぶつカガリがそのあともつぶやいていた。

ぶーっとキラは堪えきれず笑い出した。

「何で笑うんだ・・・お前」

「ごめん、ごめん」

ちょっとカガリ・・・あまりにも鈍感すぎるよ・・それって。

報われてない親友の顔をキラは思い浮かべた。

「ちょっと・・・キラァ!」

笑われているのが少し不愉快になったのかカガリが不満の声をあげた。

「カガリはさ、アスランに世話をやかれたくないの?」

「えっ・・・・いや・・・その・・・」

カガリは少し赤い顔をしてうつむいた。

キラは椅子からたちあがりベットに腰をかけカガリを抱きしめた。

「カガリ、自分の気持ちに素直になってね。」

「・・・・」

「アスランと話がしたければ話せばいいと思うよ。」

「キラ・・・」

「カガリはアスランの好きな娘なんてことは気にしないほうがいいよ。」

「あ・・・」

「そんなことはアスランが自分で考えればいいことだから」

「そうだね」

「じゃあおやすみ」

 

次の日、8組の教室

アスランは相変らず沈んでいる。キラがアスランの席の後ろに座り声をかけた。

「アスラン・・・あのさ」

「何だ?」

アスランはキラの方は見ず、気の無い返事をした。

「カガリのことなんだけど。」

アスランがキラのほうを振り返った。その態度にキラは笑いをこらえつつ言った。

「とりあえず他の男から告白されたりして悩んでいるわけじゃないみたいだよ。それは確認したから」

少し明るい顔になったアスランがさらに聞いた。

「じゃあ何で・・・」

「うーん、どうも誤解しているような気がするのだけれど。」

「誤解?」

アスランはきょっとんとした顔になった。

「うん、君のことで」

「俺?俺のことで?」

アスランは思い当たらず首をかしげた。

「うん。誤解をして自分の気持ちに気づきはじめたみたいだよ。」

「何だよそれ」

「じゃあ、あとは自分でがんばって」

キラはぽんとアスランの肩をたたいて、自分の席へ戻っていった。

「ちょっ、ちょっと待ってキラ」

ちょうどその時先生が入ってきて授業が始まった。

 

そのくらいは意地悪していいよね、とキラは授業中アスランの方をちらりと見て思った。

アスランは先ほどのキラの言葉からいろいろ思い悩んでいるようだ。

親友のその様子をみてキラはもまた考えを巡らせた。

理由はさだかではないが、カガリはアスランに好きな娘がいるのを知った。

それは本当は自分のことなのだが・・・そのことは知らないらしい。

ただ、そのことがきっかけでカガリの心に変化が起きているのは事実だ。

本当に鈍感なんだよなカガリは、自分のことに関しては。

 

アスランは授業どころではなかった。

誤解・・・何を誤解しているんだ、あいつは。

やはりニコルとの話を聞いていたに違いない、様子がおかしくなったのもその次の日からだし。

アスランはそう認めた。

じゃあ、いったいどこからニコルとの話を聞いていたのだろうか。

あの時カガリの名前が出たのは最初のうちだけだ。

もしカガリが最初から話をきいていたとしてたら・・・

俺が好きなのはカガリだと気づいかれてしまっていたら・・・

今のカガリの態度は自分にとっては辛い事実となる。

が、途中から聞いていたとしたらどうなる。

誰かわからないけれども俺に好きな娘がいるとカガリが知ってしまったら・・・

カガリのことだ、俺の恋が上手くいくように考えるだろう。

キラがいっていた話と辻褄があってくる。

そうか・・・誤解ってそういうことか。

そこまで考えてアスランは寂しい気持ちになった。

俺が好きなのはカガリなのに・・・。

なんで気がついてくれないんだろう俺の気持ち。

やっぱりなんとも思ってないのだろうか、俺のことなんて。

アスランはため息をつこうとした。

と、その時授業でさされて発表しているキラの声が彼の耳に入ってきた。

そういえばキラはさっきなんていっていた。

 

「誤解をして自分の気持ちに気づきはじめたみたいだよ。」

 

カガリが自分の気持ちに気づきはじめてるって・・・

それって俺のことを意識しているってことかな。

そうだとしたら嬉しい。

 

「僕の妹はとっーても鈍感だからね。」

 

確かに昔から自分のことに関しては鈍感なんだよな。あいつ。

人の事に関しては聡いくせに。

 

アスランはここ2、3日自分を襲っていた鬱々とした気持ちが晴れていくのを感じた。

さてどうやって誤解をとこうか・・・

ニコルとの話を聞いていただろうなんていったら逆効果だろうからな。

そう考え始めたら俄然アスランはやる気が出てきたのを感じた。

 

続く

(2004.7.27)

 

あとがき

結局アスランはカガリを後夜祭に誘うことがまだできてません。が、前半の落込みは忘れて自信を持ちはじめちゃったかも。

カガリはようやく恋の自覚ということを描きたかったのですが。次回はいよいよ体育祭です、

(ディアッカとミリィの話はかけませんでしたね。おまけで書こうかしら。)

 

 

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