−まもなく後夜祭を始めます。参加する生徒の皆さんはグラウンドに集まってください。

 

校内に放送が流れる。

「・・・っと、あいつはいったいどこに?」

カガリは自分の教室を出て、アスランの教室を覗きに行ったが彼はいなかった。

途中、廊下でクラスメイトなどに「グラウンドへいかない?」と声をかけられたが、「あとで」と断っていた。

カガリは外にでた。

グラウンドには人が集まっていた.その中でダンスを踊る人々が目に入った。

後夜祭が始まったのだ。

キラとラクスが一緒にいるのが見えた。二人とも楽しそうだ。

カガリは1週間前に聞いた彼の言葉を思い出した。

 

「ああ、まだ誘ってないけど・・今年は誘ってみるんだ。去年は勇気がなかったんだけどさ。」

 

あいつ・・・ちゃんと誘ったのかな。

けど・・・あの足じゃ踊れないよな。

どうしているだろう・・・。

もし足の怪我のことで誘えなかったとしたら私のせいだ。

落ち込んでいるに違いない。

会って謝らないと・・・カガリは体育館の方へ向かった。

でも・・なんだ、この気持ち。

あいつが足の怪我のせいで他の女の子とダンスができないことを私はどこかでよかったと思っている・・・のか、私は。

まさか・・・でもホッとしたような気がするのは気のせいなのか。

カガリは自分の感情に少し戸惑いながらもアスランの姿を探していた。

 

アスランは体育館に背をもたれて座っていた。

そしてダンスを踊っているグラウンドの人たちをみていた。

左の足首に包帯がまかれていた。

「結局ダンス誘えなかったな。」

まあこの足でカガリを誘ったとしても踊れないか・・・少し自嘲気味につぶやいた。

「でも・・まあいいか。」

あいつを助けたのだし・・・しょうがないよな。

彼は人々の中にカガリの姿を探した。

馬鹿だな・・・もし他の男と二人で踊っていたらどうするつもりだ。

そんなことがないようにとはしていたつもりだったが。

ふと、ディアッカがミリアリアと踊っている姿が目に入った。

あっディアッカは・・・OKもらったのか・・・よかったな。

俺も踊りたかったな・・・カガリと。

アスランはしばらくディアッカとミリアリアの踊る姿を見ていた。

 

「アスラン!」

不意に呼びかけられたアスランは声の方へ顔をむけた。

そこには彼が会いたいと思っていたカガリが立っていた。

「カッ・・カガリ」

「やっと見つけた。」

そう言って彼女はアスランの隣に座った。

久しぶりに二人きりとなったので、アスランの胸はドキドキと高鳴っていった。

「今日は・・・その・・・助けてくれてありがとう・・・」

「いや・・・お前が怪我をしなくてよかったよ。」

アスランは努めて平静を装って答えた。

カガリは自分の無茶な行動を思い出し、少し恥ずかしくなってアスランの足元の方へ視線をそらし、

彼の足首の包帯に気がついた。

「ごめん」

カガリは少し顔をゆがめて小さな声でいった。

彼女は右手を伸ばし、少し体を前方へ曲げ包帯の上から足首を撫でながらさらに続けた。

「痛いよな・・・本当にごめん。」

アスランの心臓は鼓動を早め、顔は熱をおびてきたのを感じた。

きっと赤くなっているに違いない・・・と彼は思った。

彼女が触れている足首も熱を帯びてきたような気がする。

「だ・・・大丈夫だから」

上擦ってきた声で答える。

「そうか?」

カガリは心配そうな顔をして見上げた。

 

言おう・・・・今言わなきゃ・・・

ダンスは一緒に踊れなくなったけれども・・・

こうしてカガリが来てくれた。

 

アスランが勇気を振りしぼり口を開こうとした瞬間、カガリが話し始めた。

「ごめんな・・・本当に。この足じゃ踊れないよな・・・・ほんとすまない。」

「・・・いや・・・」

アスランはちょっと虚をつかれた。

「その・・・・お前、ダンスに誘いたかった娘がいたのに、この足じゃ誘えないよな。本当にごめん。」

「えっ・・・うん・・・まあ。」

やっぱりこの間の話をきいていたのかとアスランは心の中で呟いた。

が、アスランの歯切れの悪い返事にカガリは誤解して、

「あ・・というか・・・もしかして誘っていたけど、踊れなくなった・・・のか?」

と、申し訳なさそうに上目遣いで見つめながらいった。

アスランはそんな顔で見るなよと思いながら苦笑混じりで答えた。

「いや・・・まだ誘ってはなかった。」

その返事にカガリが少し安堵したように見えた。

「あのさ・・・アスラン。実は私・・・」

カガリがうつむいて・・・アスランと視線を合わせないようにしながら続けた。

「お前が誘いたい娘がいるって話を聞いて少し寂しくなった。もう今までのように一緒にいたらいけないのかと思って。」

アスランは驚いて眼を見張った。

「けっ、けど・・・それで怪我をさせたわけじゃないぞ。」

カガリが顔をあげて手を違う、違うといった感じでふって言った。

「まあ・・・でも、そんな感じになってしまったけどさ・・・」

そしてまたシュンと下を向いた。

・・・期待してもいいかなか。俺・・・

甘い予感で胸いっぱいになったアスランは黙り込んでしまった。

一方、何もいってこない彼にカガリはいたたまれなくなったのか

「本当にごめん、な。」

といって立ち上がった。

そして

「あっ!」

と大きな声を出した。

考えに浸っていたアスランが顔をあげた。

「そうだ。私がその娘をここに呼んできてやるよ。」

「ええ?」

「お前歩くのはつらいだろう。だから・・・」

アスランは驚き眼を開いた。

きれいな瞳だな・・・・カガリは思ったが、いまはそれどころではないとかぶりをふった。

「えっと・・・誰だ・・・何組のやつだ・・・おまえの好きな娘って・・・。あっ今さら私に教えたくないなんていうことはなしだぞ。」

アスランは思わずカガリの腕をつかんだ。そして自分の方へ引き寄せた。

「えっ・・・お前。」

急にひっぱられたカガリは彼の腕の中にはいりかけて・・・あわてて体勢を整えて、両膝ついた。

「いいよ」

「はあ?」

「いいから・・・呼んでこなくても」

「けど?」

カガリは怪訝そうな顔をした。

すーっとカガリの肩にアスランの両手が回されて抱きしめられた。

「えっ、なっ、何?アスラン」

カガリは混乱していた。

そんなことはお構いなしに彼女を抱きしめるアスランの腕に力がこもる。

「その娘はここにいるから・・・その・・・呼んでこなくてもいい。」

「へっ?」

カガリの眼が丸くなった。

「好きだ。」

カガリの顔が赤くなった。

アスランの好きな娘って私・・・なの。

「俺が好きなのは・・・・お前だから」

彼はさらに彼女を抱きしめる腕に力を込めた。

「痛!」

カガリはあまりの力に小さな悲鳴を上げた。

「ご・・・ごめん」

アスランはあわてて体を離した。が、腕は彼女の首に回したままだった。

その顔はちょっと赤くなっていた。

が、彼は勇気をだして彼女を見つめた。

驚きで身じろぎができなくなっていたカガリも、見つめられているのに気がつき赤くなってうつむいてしまった。

その様子をみた彼はおそるおそるカガリに聞いた。

「俺のこと嫌い?」

カガリが首を横に振る。

「よかった。」

アスランは心からの安堵の声をだした。

「俺と付き合ってくれる?」

カガリはチラッとアスランの顔を上目遣いに見て・・・そしてうつむいた。

「・・・私でいいのか?お前」

小さな声でカガリがいった。

「うん。カガリがいいのさ。」

アスランは再びカガリを抱きしめた。

私はアスランのことが好きなのだ。

カガリはこの1週間のもやもやの理由がやっとわかった。

アスランが自分でなく他の娘を好きかもしれないことがショックだったのだ。

おずおずとカガリも彼の背中に手をまわした。

「本当に?」

「うん。」

「私・・・そんなに可愛くないし・・・」

「可愛いよ。」

「えっと、口も悪いし・・」

「昔からだろう?」

「今日みたいな無茶をするかもしれないし。」

「ちゃんと守ってあげるよ、ね。」

「けど・・・」

「じゃあ・・・カガリは俺でいいの?」

「あ・・・」

カガリは顔をあげて、アスランの顔を見た。

そしてニッコリと笑った。

「うん・・・アスランがいいのさ。」

「よし。」

そういってアスランは目をとじて、カガリの方に顔を近づけてきた。

えっ・・・これは・・・まさか・・・

カガリの心臓はばくばくとなりはじめていた・・・がギュッと自分も目を閉じた。

アスランの唇がまさにカガリのそれに重なろうとしたとき・・・

「あ・・・アスラン!やっと見つけた。」

というキラの声がアスランの後方から聞こえてきた。

二人は思わず体を離した。

 

そんな二人のところへキラとラクスがやってきた。

アスランはキラを睨みつけ・・・カガリは真っ赤な顔をしてうつむいていた。

キラの隣ではラクスがニコニコと笑っていた。

「その足じゃ一人で帰るのは大変だと思って探していたら・・・こんなところで」

そういわれて、カガリが顔をあげてグランンドの方をみた。後夜祭は終わりに近づいていた。

よかったね・・・といったか感じでキラは、カガリにむけてウィンクをしてみせた。

カガリははにかみながら、ウィンクを返した。

「そうか・・・もう体育祭は本当に終わりだな。」

「ああ・・・」

「楽しかったな。」

「そうだな・・・。そうだ、カガリ、明日・・・帰り靴箱で待っているから。」

カガリはアスランを見上げ頷いた。

「じゃあ、帰ろうか・・・」

そして4人は荷物を取りに教室へと向かった。

 

 

おまけ

 

教室に戻るとき、足を捻挫していたアスランに肩を貸していたキラが

カガリに気づかれないようにアスランの耳元でささやいた。

「協力するっていったけど・・・まだキスは早いよ」

「なっ・・・何を馬鹿なことを・・・お前・・」

「まったくもう・・・油断も隙もありゃしない。」

 

(2004.11.21)

 

あとがき

やっとおわりました。長くてすいません。どうだったでしょうか。

ここで一気にファーストキスかとも考えたのですが、お兄ちゃんに邪魔させることにしました。

このあと、アスランは機会がなく・・・・初めてのキスは早慶戦です。

そっちもそろそろ書かないとまずいですね。

それでは読んでいただいてありがとうございます。

 

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