いつまでも立って話していてはなんだからといって窓側の席に、アスラン、カガリ、ニコルと並んで座った。

教室の入り口から人が入ってくる。

カガリやニコルに気がついて声をかけてくるものも何人かいた。

どうも3組は夏休み前のクラスマッチでかなり1年から3年の間にかなり交流がなされているようだ。

カガリが一人の男子に気がついて手をあげながら声をかけた。

「ダコスタ!こっちだ。ニコルもいる。」

「ヤマト妹に、ニコル。・・と、こいつは?」

カガリに声をかけられた赤毛の男が近づいてきて、カガリの前に座って聞いた。

「8組のアスランだよ。キラと同じクラスの。」

「へえー。君があのアスラン・ザラなんだ。僕はマーチン・ダコスタ。3組だ、よろしく。」

「ダコスタ。アスランのこと知っているんだ。」

不思議そうな顔をしてカガリが聞いてきた。

「いや。名前だけだ。アスラン・ザラといえば1年の時からずーっと学年TOPで有名だよ」

知らなかった・・とカガリが目を丸くしてアスランの顔をみつめた。

アスランはそんなカガリの様子を見て苦笑した。

「ヤマト妹は人の成績には興味ないからな。ちなみに僕も常にTOP5の中に入っているんだけど。」

へえ・・・って顔をしてカガリはダコスタの顔をみた。

アスランもマーチン・ダコタの名前は知っていた。が、カガリと彼が親しいことは知らなかった。

確か1年のときもカガリとクラスが一緒だったよな。

キラから何も聞いてないから、ライバルではないらしいと思うが、少し気持ちが揺れた。

と、そこへ別な声が聞こえてきた。

「なあ、カガリちゃん。ミリィって3組の企画係になった?」

カガリとダコスタが顔を見合わせて少し渋い顔をした。

一方、アスランとニコルは彼らの表情の理由がわからずきょとんとしていた。

「ディアッカ先輩」

「なんだお前らその顔は・・・?」

「いやなんでも・・・ミリアリアは確かに企画係ですよ」

ダコスタの答えを聞いて、ディアッカはガッツポーズをしていた。

「そうか。やっぱり。じゃあカガリちゃん。ミリィに頼りにしてるからっていっといて」

そういって、ディアッカは教室の前の方に行った。

前を見るとイザークも既にきており、打ち合わせが始まりそうだ。

「カガリ?ディアッカ・エルスマンのこと知っているの?」

アスランはカガリの背中をつついて、小さい声で聞いた。

カガリちゃん・・・なんて。

カガリは振り向いて答えた。

「去年、応援団で一緒だったんだよ。」

 

打ち合わせが始まった。

各人の自己紹介。最近の流行歌から選ばれた第2応援歌の発表。

これからの練習のスケジュール等が発表された。

そして1、2年生の副団長も決められた。

1年は3組のニコルがなることにすんなりと決まった。もともとメンバーが全員きてないのだけれども。

2年はかなり時間がかかったが、結局カガリがなることになった。

アスランが予想していたとおり3組のリーダーがカガリなので自然と8組のアスランにという声が多かった。

が、アスランがかなり渋ったためなかなか決まらなかったのだ。

そして、ディアッカが楽しそうに提案した。

「女の副団長もかっこいいんじゃない?兄貴の、キラの学ランかりれるだろう。」

昨年もカガリと同じ組で応援団だったディアッカは双子の兄、キラのことも知っている。

「えっ!じゃあ、男子と同じ振りをしてもいいのか?」

それを聞いたカガリが逆に質問してきた。

「ああ、いいさ。いいだろ?イザーク。」

イザークはちょっと眉をしかめた。おかまいなしにディアッカが続ける。

「こいつはきっと学ラン着たら男にしか見えないよ」

その一言には少しカガリがむっとした様子で「私は女だ」と文句を発したが、皆は苦笑いをしていた。

アスランもまさかカガリになるとは思っていなかったものの学ランを着たカガリを想像し、クスっと笑った。

それに気づいたカガリは不機嫌に

「アスラン、お前まで・・・」

といいかけたが、

「でも、これであの応援合戦の演技できるぞ」

というアスランの言葉をきいてやめた。

アスランはカガリのチアガール姿が見られないのは確かに残念な気もしたが、

これ以上ライバルが増えることを考えるとまあいいかという気分になった。

相変らず渋い顔をしているイザークに対して、ディアッカはさらに提案した。

「とりあえず、明日からの練習の様子を見てみようぜ。だめだったらこいつがやればいいだろう」

ディアッカはこいつといってアスランをアゴで差した。

「わかった。じゃあ2年は、カガリ・ヤマトにやってもらう。まあまだ暫定だが。」

イザークはまだ少し不満そうにいった。

「じゃあ、明日から練習に入る。9時に学校に集合。

 あと、2年生は第2応援歌の振付けを始業式まで考えておくように。

 では、今日のところは解散」

 

「振付けか・・・」

アスランはポツと呟いた。ダンスとか苦手なんだよな。

「ダコスタ、うちのクラスでダンスとか得意そうなのいたっけ?」

カガリがダコスタに尋ねる。

「うーん、応援団にはいないな。やっぱりミリアリアあたりだな。」

「そうか。アスラン、8組でダンスとか得意そうなやつとかいる?」

「えぇっ!いっいや、俺はあまり知らないんだ。」

急に話題をふられたアスランが困ったようにいった。

するとカガリがじろりとアスランを見上げていった。

「お前、キラと同じクラスだから、今年は人付き合いに力をぬいてんだろう。まったく。」

「うっ・・・」

どうやら図星だったようでアスランは何も言うことが出来なかった。

「キラにきくか・・・。」

ダコスタは頷いた。

「そうだね。それに明日からの練習をみてから決めるか。」

「わかった、じゃあアスラン、ダコスタ。24日の練習の後うちに集まって作戦会議だ。

 それまでに、この曲を聴いてイメージを湧かせておくこと。」

「あっ、僕も参加していいですか?」

今まで黙って話を聞いていたニコルが声をかけてきた。

「ああ、助かるよニコル。じゃあよろしくな」

 

「えぇー、副団長?」

家に帰ったカガリがキラに事細かに今日の顔見せであった出来事を話していた。

「そうなんだ。だからキラ、制服貸してくれよ」

「ああ・・まあいいけど。上着は丈を詰めればいいかもしれないけど、ズボンは入らないんじゃないのかな。」

「そうか?ウエストは私の方が細いぞ。」

カガリが胸をはってキラにいった、その姿にキラは笑いを噛みこみながら答えた。

「まあウエストはね。でも、男と女の体のつくりはちがうじゃない。だからきっと無理な気がする。」

納得がちょっといかないカガリにキラは続けた。

「後で貸してあげるから、企画係の打ち合わせのときまでに一回着てみといて。」

「うん。」

「だめでも、ズボンはミリィに作ってもらえばいいし。」

「そうだな。それでさあ、キラ、24日はうちで振付けの打ち合わせをすることにしたんだ。

 お前も出てくれないか?・・・そのラクスも都合がいいと助かるんだけど。」

「わかった。けど・・・ラクスは無理かも」

夏休みいっぱいは僕も会えないんだ・・と少し寂しそうにいった。

「そうか。まあしょうがないか。それにしてもキラ?」

「何?」

「アスランって相変らずだな。」

「何が?」

キラはカガリがアスランのことを話題にするのはここしばらくなかったので興味深く次ぎの言葉をまった。

「キラがいるから、友達を作ろうとしてないんじゃないか。8組で。」

「もしかして、それアスランにいった?」

「うん。的を得てたみたいで反論してこなかったぞ」

キラは頭を抱えた。まあ、アスランの自業自得ということなのだが。

でもきっとカガリに言われたんじゃ今頃落ち込んでいるんだろうな。

少しばかりアスランに同情した。

 

次の日から練習が毎日続いた。

午前中の練習の後、昼食をとってカガリやアスラン、ダコスタは応援団の準備の打ち合わせをしていた。

顔見せの時に言われた第2応援歌の振付以外にも様々な課題が3年生から伝えられた。

応援合戦の構成、通常応援時の編成、一般応援の練習メニューなどだ。

24日午後は当初の予定通りキラとカガリの家に第2応援歌の振付けのために集まった。

応援団ではないが企画係のミリアリアも呼ばれていた。

また練習の様子をみてダンスが得意そうなにアスランのクラスの女子2人ほどにも声をかけていた。

カガリは元の歌のビデオクリップを流し始めていった。

「あのさあ。キラとも話したんだけど、この元歌の振付のままでもいいんじゃないかと思ったんだけど。」

一通りビデオクリップを見た後、みんなの反応をみた。

「まあ考えるのは大変だからこのままでも言いと思うけど」

と好意的な意見もあったのだが・・・・

「ごめん。俺自信がありません」

と頭を抱えたアスランがいた。すると助け舟を出すかのようにダコスタがいった。

「悪い、ヤマト妹。僕もちょっと自信がないところがあるな。」

「そうか・・」

「使えるところは使って、難しい所だけ他の振りにしたらいいんじゃありませんか」

ニコルが提案してきた。カガリはっちょっと考えた後その意見に同意した。

「そうだな。それがいいな。」

そしてじっとアスランを見つめてカガリは言った。

「アスラン、全部だめってことじゃないよな。どうしてもダメって所だけ教えてくれ。

 そこの振りを皆で考えることにしよう」

 

次の日からは練習のあと第2応援歌の振付けを中心にカガリたちは集まった。

カガリやアスランの家に集まりミーティングを行いカガリの家の近くの公園で練習を重ねた。

8月最後の日、いつものように学校で全体の練習が終ったあと

カガリたちは3年生の前で第2応援歌を踊ってみせた。

2、3点追加注文を受けたが、大筋はOKをもらえた。

9月に入り、第2応援歌の振付けのマスターと応援合戦の練習がスタートした。

学校が始まると練習時間が以前の半分ほどになってしまった。

そこで、カガリやアスラン達は放課後だけでなく昼休みも集まるようになった。

そして、体育祭まであと少しとなってきていた。

 

アスランは3組の靴箱の入り口でカガリを待っていた。ここ最近の日課である。

ぼんやりと今日の昼のキラとの会話を思い出していた。

 

「アスラン、最近楽しそうだよね」

「えっ?そうか?・・・そんなことないよ。」

口では否定するが、少し頬が赤くなり顔が緩んでいるのをキラは見逃さなかった。

「応援団やることにしてよかったでしょう?」

キラがイタズラっぽくいった。

「ああ、それは感謝してるよ。」

「で、告白したの?」

「はあっ・・なっ、何・・・いって・・・ここ、教室・・・」

アスランは真っ赤な顔をしてしどろもどろに慌てふためいた。

いつもは冷静な彼のそんな様子を見てキラは苦笑した。

「まだなんだね・・・・まあカガリも変化がないから、そんなことだと思ってたよ」

「えっ・・」

ちょっと落ち着きを取り戻したアスランがキラにぽつりとつぶやいた。

「やっぱり、俺は相変らずただの幼馴染なのかな、カガリにとって。」

普段の彼と違って自信なさそうな呟きにキラは思わず、

ただの幼馴染だけの関係だったら、毎日一緒にはさすがに帰らないんじゃない?

カガリが自分の恋心に気がついてないだけだと思うよ、といいそうになったが、

さすがにそれは悔しいので

「さあ?僕はなんとも。ただ、僕の妹はとっーても鈍感だからね。」

とだけいった。

「鈍感ね・・・」

「折り紙つきのね・・わかってるでしょう?」

アスランは左手で肘をついて、はあ・・と小さくため息をつき、右手で髪を掻いた。

「ああ、知っている。」

「だからちゃんと言わないとわかんないと思うよ。」

アスランの気持ちだけじゃなく、カガリ自身の恋心にも。

「でも・・・、でもそれで「ただの幼馴染」としか思えないっていわれたりしたら、

 もしそれがきっかけで、幼馴染の関係も壊れてしまったらどうしようかと思うと・・・」

こわくていえないんだよなあ・・・と最後の言葉は飲み込んで、アスランは盛大にため息をついた。

そんな彼を励ますようにキラは言った。

「もう少し自信もってもいいと思うけどな。兄として複雑な気分だけど、親友としてのアドバイス。」

 

「自信をもっていいのかな・・・」とアスランは呟いた。

確かに、応援団の練習が終わった後にその他の準備で帰る時間があわない時でも

どちらかともなくお互いが、お互いのクラスの靴箱の入り口で待っていて一緒に帰るようになっている。

夏休みの練習の頃は、アスランが「待っていてもいいか?」とか「待っててくれないか?」と

都度彼女に言っていたのだが、最近はあまりいわなくなっていた。

ただの幼馴染だけではそこまではしないよな・・・と思ってもいいのだろうか。

少なくとも好意がある・・と思ってもいいのだろうか。

鈍感な彼女が自分でその気持ちに気づいているかは怪しいけれども・・・とも思うが。

はっきり自分の思いを伝えた方がいいのだろうか。

アスランは一人逡巡としていた。

体育祭は今度の日曜日だ。

はたして体育祭がおわっても当たり前のように一緒に帰れるのだろうか。

せっかく手に入れたカガリとの時間がなくなってしまうのだろうか。

もしそうなってしまったら、幸せな時間を知ってしまった今は

その時のことを想像するだけでも寂しく感じる。

そして、気持ちが少しづつ固まってきた。

 

「あっ!アスラン先輩。」

ふいに声をかけられて、アスランが声のほうに顔を向けると、そこにはニコルがいた。

「なに難しそうな顔しているんですか?」

「えっ?そんな顔してた?」

「ええ・・まあ。眉間に皺が寄ってましたよ・・」

とニコルは自分の眉間に皺を寄せ真似をするような仕草をした。

「そうか・・そんなつもりはなかったんだが」

「あっ、カガリ先輩待っているんですか?」

「えっ、ああまあ」

アスランはいきなりカガリのことを聞かれてすこし動揺した。

「いつも仲いいですよね」

「そうか?まあ幼馴染だから。」

少しはに噛みながらこたえた。顔がほんのりと赤くなっている。

「幼馴染だけなんですか?彼女だとばっかり思ってましたけど。」

ちょっとからかい気味にニコルがはなった発言に、アスランは思わずのけぞりそうになった。

「かっ、かの・・彼女って」

「違うんですか?応援団の1年生はみんなそう思ってますよ。」

ええ・・・アスランは真っ赤な顔をして口をぱくぱくしていた。

 

丁度その時、靴箱にカガリがやってきた。

彼女は靴箱での出口から聞きなれている声がしたので、そちらに視線をむけた。

ニコルと・・・あの声はアスランだ。急がなきゃ。

 

「なんでそういう話になるんだ・・」

アスランは少し気を落ちつかせ・・・でも恥ずかしそうにぷいっと視線をニコルから逸らしていった。

普段の冷静な彼から程遠い姿に思わず笑いを噛み殺しながら、

「少なくとも先輩はお好きなんですよね。様子を見てればよくわかります。」

とニコルがカバンを肩に担ぎながらいった。

「そんなにあからさまなのか?俺って」

アスランは思わずニコルを見た。彼は答える代りに微笑んだ。

「後夜祭に誘って告白されるんですか?僕応援しますよ」

アスランはここで恥かしがってもしょうがないと思い、真っ赤な顔のままニコルに告げた。

「ああ、まだ誘ってないけど・・今年は誘ってみるんだ。去年は勇気がなかったんだけどさ。」

 

えっ・・・アスランって好きな子がいるんだ。

カガリは驚きで上靴を靴箱に入れようとしていた手が止まった。

どくん・・・どくん・・胸の奥が早鐘のようになってきた。

今年は後夜祭に誘うつもりでいるんだ・・・知らなかった。

というか・・・まあ知っているはずはないか。だってそういう話はしてないから。

しかも去年は勇気がなかったってことは、少なくとも1年以上その子のことが好きなんだ。

どくん・・どくん・・

ああーどうして私はドキドキしてきているんだ。そしてこんなに動揺してるんだ。

落ち着け・・このままではあの二人の前にでれないぞ・・

 

アスランの言葉にニコルは満足したのかニッコリと笑って

「よかった。先輩がんばってくださいね。だって僕、相手がアスラン先輩だったから諦めることにしたんですから。」

と爆弾発言をした。

えっ、それってやっぱしニコルお前もカガリのことが・・アスランは驚きで目を丸くし言葉が出せなかった。

「じゃあ僕はこのへんで。お二人の邪魔はしたくありませんから。」

そんなアスランには気にもとめず、ニコルはペコリと頭をさげて校門へ向かっていった。

アスランは思わずしゃがみこんでしまった。

俺ってそんなにわかりやすいのか・・・というか、どうして本人は気づいてくれないんだ。

はあ・・とため息をついた時、頭上から声が聞こえてきた。

「アスラン、ごめん。待たせた・・よね。・・っておまえどうしたんだ?」

「あ、カガリ・・」

アスランは立ち上がりながら、ふと不安がよぎり、カガリに尋ねた。

「もしかして、お前、ニコルとの今の話・・・」

「何?ニコル君がいたの?」

さえぎるようにカガリが答えた。

アスランの不安が完全に拭われたわけじゃなかったのだが、それ以上は聞かなかった。

「帰るか、カガリ。体育祭まであと1週間だよね。あとちょっとがんばろうね」

カガリがうなずき、二人は校門へ向かって歩いていった。

 

続く

(2004.7.11)

 

あとがき

もっといろいろエピソードを書きたいと思ったりもしてたのですが、きりがなさそうなのでやめました。

途中、中途半端な感じになっているかもしれません。

ディアッカとミリィの話は次にでもかこうと思ってます。

 

 

BackNext

 

目次へ戻る