11時すこし前、3組の教室は本日の予定が終わりみんな帰宅をはじめていた。

カガリはクラスメイトのミリアリア・ハウと話をしていた。ミリアリアは少し憂鬱そうだった。

「結局、企画係になっちゃった。」

「いいじゃないか、ミリアリアは器用だし。それに、去年のお前の活躍を知っているやつが推薦しちゃったんだから。」

ミリアリアは1年の時、キラと同じクラスだった。カガリとは去年の体育祭の時に知り合い仲良くなった。

「また私の服を作ってくれるんだろう。私は楽しみだけど。キラもきっと企画係だよ。」

キラにはっきり聞いたわけじゃないが、きっとそうだろうと確信してカガリは言った。

「まあ・・・ね。2年生はいいんだけどね。」

「ああ・・・3年8組の方ね」

カガリは去年の体育祭以来、ミリアリアにアタックをかけている男の顔を思い浮かべた。

ミリアリアは困ったようなでも少し頬をそめてうなづいた。

「まあ、必要以上に気にしなきゃいいんじゃないか?今年は副団長だし去年よりはいろいろ忙しいと思うぞ」

「そうだね。で、カガリはこれからどうするの?13時から顔見せでしょう?」

「この時間だから一回家に戻ってご飯食べてから来るつもり。」

「じゃあ一緒に帰る?」

カガリはうなづいてミリアリアと一緒に教室をでたが、階段のところで立ち止まった。

「何?カガリ?」

「あっ思い出した、おわったら8組にいくってキラに言ってたんだ。ごめん、ミリアリア。」

カガリはペロって舌を出して謝った。それを見てミリアリアはくすっと笑った。

「キラって相変らずなんだ・・」

二人の両親が働いており、学校が休みのときの昼食はカガリがいつも作っているということをミリアリアは知っていた。

「まあね。ほんとごめん。また25日ね」

「うん、じゃあね」

そしてカガリは階段を駆け上がり8組へ向かっていった。

 

8組の教室

もうすっかりみんな帰ってしまって残っているのはキラとアスランだけだった。

「カガリ、遅いなあ。忘れてないよな。」

とぼやくキラ。そしてアスランは少し不機嫌な顔をして机に突っ伏していた。

「なに拗ねてんの、アスラン?そんなに応援団がいやなんだ。カガリと一緒なのに」

「・・・・・・・」

「せっかく協力してあげてんのに・・・まったく君は」

「うるさい」

黙っていたアスランが姿勢はそのままで口を開いた。

「いいの?カガリがイザークさんや卒業生のミゲルさんにとられたって」

ピクッとアスランが反応した。

「まあ僕としては、カガリが誰かと付き合うなんてあまり好ましくないけど。

 でもカガリが選んだ男だったらしょうがないって認めざるをおえないよね。それが君でも他の人でも。」

「わかっている」

「せっかく一緒の組なんだし・・・これはチャンスだよね、アスラン?」

なおも不貞腐れているアスランの顔を覗きながらキラは追い討ちをかけた。

「わかっているさ。けど、なんで俺がこのクラスの応援団のリーダーなるんだ。」

アスランが身体を起こしてキラに言った。それはまるで小さな子供が駄々をこねているように見えた。

いつもと立場が逆だ。キラは笑いを噛み殺しながらアスランに答えた。

「何?それが気にくわないの?だって君以外に応援団の経験者がいないんだもの。」

それは確かに事実。アスランも知っている。

そして、2年生の応援団っていうのは1年の時に比べるとはるかにやることが多いこともまた知っている。

ましてリーダーだなんて。考えるだけで憂鬱になってきた。

「大丈夫だよ。たぶんカガリが3組のリーダーだから」

キラの断定的にいう言い方が少し癇にさわった。

なんでこいつはそんな風に確信しているんだ、アスランは感じた。

確かにカガリがリーダーだとすれば、話す機会はぐっと増えるし、二人きりでいてもおかしくない理由となる。

しかし・・・とアスランは思った。

3組のリーダーがもし女子のカガリだとしたら、副団長は必然的に8組のリーダーである自分に回ってくる。

それもまた憂鬱だ。確かにやれといわれれば人並み以上にやれるだろう。

が、もともとリーダーシップを発揮して皆を引っ張っていくというような性格ではないのだ。

「はあ・・・」

アスランは大きなため息をついた。キラはその様子をみてククッと笑っていた。

ドタドタドタ・・・

廊下を走る音が聞こえてきた。

アスランとキラが教室の入り口に視線を向けるとカガリがのぞいていた。

「ごめーん、キラ。遅くなった」

「いいよ。大丈夫。」

と答えた後、キラはこっちへおいでとカガリに手招きをした。

カガリは入り口から左右をみて他には誰もいないことを確認して教室の中に入ってきた。

 

「あれ?アスランも一緒だったんだ」

「僕が誘ったんだよ。」

「何で?」

一瞬カガリは不思議そうな顔をした。

それを聞いたアスランは少しガックリとした顔をし、キラは笑いをかみ殺していた。

カガリはアスランの様子に気もとめず、それ以上にキラに話したいことがあったので

キラの隣、アスランの斜め前の席に座って話をきりだした。

「キラ、今年も体育祭は一緒の組だぞ。よかった!」

「そうだね。僕も嬉しいよ。それに赤組だし。」

「そうそう。赤なんてすごいよな、私はイザーク先輩が説明している間ワクワクしてきちゃった。」

カガリは新しいおもちゃをもらった子供のように目を輝かせてキラに説明していた。

アスランは二人の会話に入っていけず、仕方がないのでカガリを見ていた。

「で、カガリは応援団なんでしょう。」

「うん。で、キラは企画係なんだよね。」

「もちろん」

「やっぱり!」

二人は顔を見合わせて、クスクスと笑った。アスランはちょっと不愉快になってきた。

「それでさ・・」

カガリがクスクスと笑いながら楽しそうに話を続ける。

「ミリアリアもまた企画係なんだ。」

キラとカガリの共通の友人であるミリアリアの話が始まった。

「そう。じゃあ応援団の服はミリィに任せられるね。よかった。」

「でもね、ミリアリアは8組だってきいてちょっと憂鬱になったんだって。」

「えー。僕は8組なのに」

「ちがーう、3年8組と一緒なんで憂鬱なんだって。」

キラも3年8組ときいてある男の顔が浮かんだようで、笑い出した。

「なるほど」

「わかるだろう・・・アハハ」

キラとカガリハまた顔を見合わせて笑った。

「何の話をしているんだ?」

さっきからキラとカガリが仲良く盛り上がっている話についていけなかったアスランが不機嫌な声で尋ねてきた。

「あっ、ごめん。内緒の話」

とカガリはエヘヘと笑った。

「えっ、内緒って・・・」

そんな・・っという顔をする、アスラン。

「そうだね。内緒、かな?」

「キラまでそんなことを言うのか?」

少しむっとしたアスランを見て、キラはクスクス笑いながら答えた。

「きっと後でわかるよ・・・たぶん。」

「そうか?わかるか?」

せっかくのキラのフォローに揚げ足をとるカガリ。一方、きょとんとしているアスラン。

「わかるだろう・・見てれば」

キラの答えに対し、カガリは手を口元にあてちょっと考えるようなそぶりをして

「そだね。」

と答えて、またキラと顔をみあわせて嬉しそうに笑った。

一向に二人の会話についていけないアスランはさらに不機嫌な声で聞いた。

「おい・・・。すまないが、俺にわかるようにいってくれよ。」

「だから、内緒だっていってるだろう。そんなのアスランに教えられるか。」

と、カガリは頬をふくらませた。

でも・・・とアスランがさらにカガリに追求しようとしていたのを見たキラがこれではいつまでも話が終わらないと悟り話題を変えた。

「そういえば、カガリ。アスランも応援団なんだよ。」

「そうなのか?」

と、カガリは先ほどのふくれ面がどこかにいって、ニッコリとアスランの方を見た。

「あっ、ああ。そうなんだ。」

いきなり話題が変わり、カガリが笑顔で自分を見ているのに気がついたアスランは

今まで心にわきあがっていた不愉快な感情がきえて、ドキドキと胸がなりはじめた。

「そういえば、去年も応援団してたよなあ」

「ああ・・一応」

カガリは去年の体育祭のアスランを思い出した。そして無邪気に言った。

「お前さあ、あれで凄く人気がでたんだよ。知ってた?」

「はあ?」

俺はお前にだけ思ってもらえれればいいんだけど。

そんなアスランの複雑な思いなどまったく気づかず、カガリは続けた。

「そうか。今度は一緒なんだ。楽しみだなあ。」

「ああ俺もだ」

楽しみだなあ・・・カガリのその言葉に、アスランは嬉しくなって顔が緩むのがとめられなかった。

キラはさっきまで不快指数120%という表情をしていたアスランの変わり様にまたしても笑いをかみ殺していた。

「そうっか、応援団か。なあキラ、そしたらアスランもさっきの話あとで絶対わかるよな」

ふとカガリがまた先ほどの内緒話のこと思い出した。

アスランの顔がまた少し不機嫌になってきた。

それに気づいたキラはまた話題を応援団に戻すことにした。

「たぶんね。それはそうとカガリ、13時から応援団の打ち合わせがあるんだろう?」

「あっ・・・そうだ。」

「だからお昼は家で食べられるよね。」

カガリは思いだした。

そうだ、もともと昼食をどうするかを決めるかために8組に帰り寄ったんだ。

「うん。そのつもりだよ。」

「じゃあ、アスランも僕の家でご飯食べない?」

キラがアスランの方を向き誘った。

「えっ?」

予想もしていなかった展開に、アスランは少し戸惑った。

「どうせアスランもカガリと一緒で13時からの打ち合わせには行くんでしょう?」

「ああ・・まあ」

「だからうちで時間を潰して、また学校にもどればいいじゃない?」

「あっ!そうか。それいい考え。」

カガリも嬉しそうにキラに同意した。

えっ・・・それって・・アスランはまたしても心臓の鼓動が早くなった。

「でっ、でも・・えっと、おばさんがビックリすんじゃないか?ご飯の用意とか。」

嬉しい気持ちを抑えつつ、アスランは優等生の回答をする。

「大丈夫。夏休みはカガリが作っているから、カガリがいいって言えばいいのさ。母さんはいないし。」

そうだよねっとばかりにカガリにウィンクしてキラが言った。

「そうだ!私がいいといえばいいのさ」

なぜか胸を張っていうカガリだった。

一方、アスランはこれまた予想をしていなかった事実に驚く。

「へぇえ・・・カガリが作ってるんだ。」

「なんだよその顔は。失礼なやつだな。」

「いっいや、違う。ビックリして」

なんというか男勝りのカガリが女の子らしく見えてきた。

というか新しい一面を発見したことにアスランは内心喜んだ。

「『もうさすがに高校生なんだから、夏休みの昼ご飯をいちいち作りにこないわよ。』って

 母さんが去年言ったんだ。それで、カガリが作るようになったんだ。」

説明するキラの横で『うんうん』とカガリはうなづいたあと、アスランに同意を求めるように言った。

「でもこいつはちっとも作らないんだぞ。そのくせ人一倍文句を言うんだぞ。ひどいと思わないか?」

「カガリ、僕は君のためにアドバイスしてあげてるんだよ。おいしいものはおいしい。

 そうじゃなければそうじゃないといわないと上手にならないでしょう。」

「まあ・・・それはそうだとは思うけど・・・」

アハハ・・とアスランが二人のやりとりを聞いて笑った。

そしてこれ以上二人の話が続いては時間がもったいないと気づき声をかけた。

「じゃあ、カガリ、俺もお邪魔していいかな?」

「ああ、歓迎するよ」

カガリは少し照れながらこたえた。

 

12時45分

カガリはアスランの家の門にいた。荷物を置きにいったアスランを待っていた。

13時からの応援団の打ち合わせのためアスランとカガリは学校へ向かっている途中だ。

アスランは部屋に荷物を置きにいっている間、楽しくて心が弾んでいた。

今日は思わぬことでキラとカガリと昼食をとることになり、

高校になってから初めて二人の家に寄ったアスランはカガリの手料理をご馳走になったのだ。

「最初の頃に比べたらずいぶん上手くなったんだよ。僕も味は注文してるし。」

というキラの言葉どおり、カガリの料理は美味しかった。

学校だけでは見られないカガリの一面にアスランは胸がときめいた。

しかし、キラの部屋は相変らず散らかってたなあ、と思いつつ、

今日に限っては少なからずキラに感謝せずにいられなかったアスランだった。

「ごめん。待たせてしまった。ついでに母さんに連絡しちゃったんだ。今日からこっちに戻るって。」

「あっ、そうか。応援団になったからか。」

「うん。」

夏休みはいつも母親の仕事場の近くの別荘でアスランは過ごしているのが常だった。

母さん笑ってたなあ・・・とアスランは思った。

 

学校へ向かう道、二人は話が弾んでいた。

カガリは去年の応援団での話や3組の応援団のメンツをアスランに説明していた。

彼女のころころと変わる表情、たまに自分を見上げ、身振り手振りで話す姿にアスランは魅入り、心ときめかせていた。

「明日からきっと練習だな。楽しみ!」

「きっとな。」

アスランが相槌をする。

「赤組の基本形をまずやるんだよな。アスランは去年白だったんだろう。」

「ああ・・」

「私は青だった。やっぱりそれぞれの組で少し違うんだよな。」

「たぶん」

「そうえいば、赤って応援団合戦のときのあれはカッコイイなって去年思っていたんだ。」

「ああ・・・そうだな。俺もそう思った。」

「あれって男子しかできないんだよな。」

赤組の応援合戦の見せ場は太鼓の音にあわせて演じられる男子応援団の演技だ。

他の組は終始音楽を流して演技をおこなうのだけれども。

「いいよなあ・・」

「えっ、カガリやりたいの?」

「格好いいじゃないか。でも私は男子じゃないからなあ」

確かに男だったら俺困るな・・と心の中でアスランは呟いた。

「けど、1年の時と違って応援する機会が増えるし、少し大変だよな」

「そうだな。でも、2年生の頑張りが勝利への一歩なんだぞ。」

「それはそうだけど。振付けを考えたり、編成を考えたりいろいろ大変じゃないか。」

カガリはふと考えて呟いた。

「確かにそうか。クラスのリーダーになってしまったから去年より大変か」

「えっ、カガリ、リーダーなの?」

アスランは驚いて少し声が大きくなった。

キラが言っていたとおり、カガリは3組のリーダーになっているなんて。

「悪かったな。女の子にみえないからなんて思ってるだろう。」

「いや、違うよ。俺も8組のリーダーになってしまったんだ。だからちょっと驚いただけ。」

「えっ?そうなんだ。」

「中学の時のようにまたカガリと一緒にやれるんだよな・・。なんか楽しみだなあ」

懐かしそうな顔をアスランがした。

カガリもふと中学2年の時の修学旅行やクラスマッチの事などを思い出した。

その時は二人ともクラス委員でいろんな行事を一緒に企画したものだった。

「そうだね。」

学校が近づいてきた。

-カガリが心配だからね。帰りとか遅くなるじゃない。

ふと、キラが今日午前中に言った言葉を思い出した。そうだよな・・・暗くなるし。

「なあ、練習おわったら一緒に帰らないか?その・・帰り遅くなるだろうし」

それは何気なく口からでた言葉だった。アスランは言った後に意識をして顔が赤くなってくるのがわかった。

カガリに気づかれないようにアスランは横を向いた。

カガリはそんなアスランの様子には気がつかずあっさりと答えてきた。

「いいよ。なんか小さい頃を思い出すなあ。」

「ああ・・・」

アスランはうれしくてそれ以上は何もいえなかった。

 

3年3組に人が集まっていた。

「やっぱり1年生は少ないな」

アスランは苦笑する。

どうしても1年生は欠席裁判のようになってしまって、登校日を休んだものが応援団に選ばれるケースが多い。

アスラン自身も去年はそうだった。

カガリが薄い緑の髪のまだあどけない顔の少年をみつけて声をかけていた。

「ニコル!お前も応援団になったんだ」

「あっ!カガリさん。・・・やっぱりカガリさんも応援団なんですね。」

アスランはカガリさん「も」という発言にピクリと眉が動いた。

こいつはカガリが応援団になるだろうと確信して自分も応援団に入ったのか?

カガリと話していた少年はアスランに気がついて自己紹介を始めた。

「僕は1年3組のニコル・アマルフィです。クラス委員やってます。よろしくお願いします。」

3組つながりか・・アスランは心の中で思った。

「俺は2年8組のアスラン・ザラだ。よろしく。」

「ニコルとはこの間のクラスマッチの時に仲良くなったんだ。1年のクラスをまとめてくれたんだぞ。」

「そうなんだ」

「いえ、僕はたいしたことしてないです。みんな先輩達に引っ張られただけです。・・」

「そんなことないぞ。応援団もよろしくな。」

「はい」

カガリに言われて、ニコルの頬がほんのり赤くなったのをアスランは見逃さなかった。

 

続く

(2004.6.26)

 

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