いよいよその日がやってきた。
カガリは眠い目をこすり、目覚まし時計を止めた。
「寒い!」
急いでガスファンヒータ-のスイッチをいれた。
窓の外を覗くと、隣の公園が真っ白だった。
「わぁ、積もっている!天気予報の言うとおりだ。」
確かに天気予報では雪になるかもといっていたが、
昨日、アスランの家から帰る時はまだそんなに寒くなかったのだが。
カガリはセンター試験の前日だというのにアスランの家に遊びに行った。
アスランがそう望んだからだ。
「受験生だから前日も勉強するだろう。」
会いたいと最初にアスランから言われた時、カガリは驚きそう彼に答えた。
「試験の前日だからリラックスしないとだめだろう?」
だが、アスランからの切り返しにカガリは何もいえなくなった。
結局カガリは彼に甘いのである。
「センター試験のときはいつも雪だな。」
カガリはもう一度時計を見た。
針は7時を回ろうとした。
「急がなきゃ。」
早くしないと彼が駅へ向かってしまう。
えい、とばかりにカガリはベッドからおり、着替え、階下の台所へ向かった。
センター試験の会場は地元の国立大学だ。
もしかしたらカガリもそこで受験したかもしれなかった。
一応申し込みはしていたので、家に資料はある。
確か最寄りの駅から二駅ほど電車に乗って、そこからバスで15分ほどかかる場所にあった。
まあ1時間ほどあれば、余裕でつくだろう。
試験は9時半から始まる。
だが、アスランは念のために7時半過ぎに家を出ると昨日言っていた。
あいつらしい・・・カガリはそう思い出すと頬がゆるくなってきた。
彼女は台所を出て階段を半分上り、外と室内の温度の差で曇っている窓ガラスをこすりながら覗き込んでいた。
カガリの予想通り、アスランは7時半に家を出た。
普段仕事で忙しいレノアもこの日は家にいて、朝から彼のためにお弁当を作っていた。
昨日、カガリと一緒に過ごしてリラックスしたせいか彼の目覚めはよかった。
外の雪もあまり気にならなかった。
「いってきます。」
アスランはレノアに声をかけて家を出た。
5分ほど歩くとカガリの家が目に入ってきた。
風邪をひいたら困るから・・・と言い張られて、昨日は彼女を家まで送ることができなかった。
もう起きているのかな・・・。
アスランはカガリの部屋を見上げて思った。
と、その時、
「アスラン!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえて、アスランは玄関に目を向けた。
そこには顔が見たいと思っていたカガリが扉から顔を出していた。
「カガリ・・・。」
どうして・・・。
まさか、彼女の顔を見られると思っていなかったアスランは一瞬体が固まってしまった。
が、次の瞬間、はっと、彼女が傘もささず、玄関から出てこようとしていることに気がつき慌てた。
「ちょっと待って、俺が行くから!」
アスランはそう声をかけ、門を開け、玄関口へと足を運んだ。
「会えてよかった!」
カガリの言葉にアスランの胸が弾んだ。
「えっと・・・俺も・・・。」
照れくさそうにアスランは言った。
カガリはその言葉にちょっと満足し、頬を染めながら手に持っていた水筒を差し出した。
「えっと・・・これ・・・。」
アスランは彼女の顔と水筒を交互に眺めた。
「コーヒーだ。昼休みにでも飲んでくれ。」
カガリはアスランの手に水筒を押し付けるようにしながら答えた。
アスランは慌てて受け取り、カバンの中へとしまった。
「ありがとう。」
アスランの嬉しそうな表情にカガリの気持ちも弾んだ。
「今日はバイトなのか?」
アスランの言葉にカガリは首を振った。
「あのさ・・・帰り寄ってもいいか?」
「うちにか?」
「ああ。これも返さないと明日困るし・・・。」
彼はカバンを指しながら言った。
「わかった。待っているよ。」
最初は違う水筒で明日また渡そうと思っていたカガリだったのだが、
彼の顔が見られるならそれもいいなと思った。
「じゃあ、俺は行くよ。」
「頑張れよ!」
彼は振り返り、大きく頷いた後、駅へ向かって歩き始めた。
カガリは彼の自信に満ちた態度に安堵して家の中へ戻った。
早めに出て正解だったようだ。
バスは増発しているようだったが、ダイヤは雪で乱れ始めていた。
バス乗り場には列ができ、ちょっとざわついていたが、アスランは落着いていられた。
彼は時間に余裕があるので1台待ってゆっくり座って行った。
1時間目の試験科目がすんだ後、アスランは前方に座っているダコスタに初めて気がついた。
昼食の時に声をかけてみようとアスランは思いながら次の試験へと臨んだ。
午後、カガリは落着かなかった。
気を紛らわすようにキラの部屋を訪れた。
彼はゲームをしていた。
カガリはキラの隣に座り込み、画面を見つめた。
「自動車学校って本当に2月からでいいの?」
ふいにキラが声をかけてきた。
「うん。アスランはそう言っていたよ。」
「余裕だよね・・・アスラン。」
「いい気分転換になると思うから・・・って言っていた。」
キラは急にカガリの方を向いて話し出してきた。
もちろん、ゲームはちゃんとポーズボタンをおし、中断してからだが。
「そう。・・・まったく・・・カガリがアスランに相談するから自動車学校に行くの、2月からになっちゃったじゃないか・・・
もっと早くから行けたのに。」
「べ・・・べつにアスランに相談したわけじゃないけど・・・。」
少し頬を膨らませながらキラはカガリに言った。
「でも、話したんでしょう?」
僕はラクスとは一緒に行けないのに・・・と小さくキラが言った。
「昔からそうだよね。・・・いっつも、カガリはアスランに話しちゃうでしょう?」
うっ・・・とカガリは言葉に詰まった。
「まったっく・・・・アスランに甘すぎるよ、カガリは。」
「で、でも・・・ほら・・・言わないと・・・内緒にしていたことがばれたら、あいつ結構拗ねるだろう。」
拗ねたら拗ねたで大変だから・・・と赤い顔をしながら小さく呟く妹を見て
キラはアスランのその様子をちょっと想像しかけて・・・
でも、すぐやめて、一つため息をついた。
「そうだね。・・・仕方ないね。」
「いいじゃないか・・・3人で一緒にいろいろできるのもこれが最後かもしれないし。」
カガリもちょっと頬を膨らませてキラに向かって言った。
たぶん、この表情は自分とそっくりなのだろうと彼は思った。
「確かにそうだね。」
まあ、カガリの言い分も尤もだともキラは思った。
小さい頃から3人で一緒に過ごしてきたのだ。
この春から初めて、3人が違う学校に通うようになる。
それに・・・。
「なあ・・・キラ・・・その・・・部屋は決まったのか?」
そう自分は大学の近くに住むことにしたのだ。
「うん、決めてきた。」
「そっか。」
小さな声でカガリが俯いたまま言った。
キラがちらりと横目で彼女を見た。
生まれたときから一緒にいたけど、いつまでも一緒にはいられない。
それはお互いわかっているのだが・・・やっぱり寂しいよな。
コトリ・・・とカガリがキラの肩に頭を預けてきた。
「じゃあ、もう引越しするのか?」
「まだだよ。3月の終わりかな。」
カガリがパッと頭をあげてキラの方を見た。
その様子を見て、キラがクスクス笑った。
「うん。まだ前の人が住んでいるからね。」
「前?」
「そう。前の人が卒業して出て行った後に引っ越すから。」
「よかった!」
うわ!
喜びのあまりカガリがキラに抱きついてきた。
キラはそれを受け止めながら、ちらりと時計を見た。
15時か・・・まだアスランは試験だからいいか。
この光景を彼が見たら思い切り眉間に皺がより、睨みつけられただろう。
「部屋が決まったらすぐ引越するのかと思っていた。」
カガリが見上げながら言った。
「じゃあ、一緒に自動車学校に行こうな。」
「そう言っているじゃない。」
キラは笑いながら行った。
「そうだったね。」
エヘヘと笑いながらカガリが体を起こした。
「アスランが行ける時は3人で行こうな。」
カガリの言葉に、うーんそれは、彼の機嫌が悪くなるかもしれないな・・・と
キラは思いながらも、そういう彼を見るのももうあまりないのだろうと感じ
ニコリと笑って答えた。
「そうだね。」
夕方、アスランが訪ねてきた。
その顔が晴れ晴れとしていたので、カガリは安心した。
アスランは自己採点を2日目が終わったらするつもりだったが
今日の感触では手ごたえがあった。
二人の次の日の朝の時間を今度は約束した。
あと1日で試験が終わる。
今日帰ったら、父親のスケジュールを確認しようとアスランは思った。
(2006.4.8)
あとがき
お待たせしました。なかなか思うように進まずといった感じです。
前回の予告と違い・・・まだセンター試験の当日です。おいおい。
早く試験を終わらせてくれ!という声も耳にしたりもするのですが・・・
もうちょっとだけお待ちくださいませ。
次回こそお父さんと対決です。今度こそ間違いなく。
それから自動車学校話もかきたいな。でも卒業の章かな。