アスランは目を覚ました。

とても気持ちよく眠っていたようだった。

背伸びをしようと思ったところで左腕に重みを感じ視線をそちらへ向けた。

そこにはカガリがいた。

彼女はすやすやと寝息をたてていた。

ああ・・・と彼は思い出した。

彼女が遊びにきていたのだ。

そしていつものように彼女の柔らかい肌を堪能したのだ。

アスランはカガリを起こさないように体を起こした。

時計をみると、17時前だった。

今日はバイトがないことは事前に聞いていたので急いで起こすこともないだろうと、

アスランはカガリをしばらく寝かせておくことにした。

アスランの視界に、彼女が持ってきていた紙のおもちゃと紙袋が目に入った。

彼は、彼女が見ていた資料に手をのばした。

「自動車学校?」

紙袋の中には自動車学校のパンフレットがいくつか入っていた。

車の免許・・・・そういえば18になったら取れることを思い出した。

自分もいつかは免許をとってカガリを横に乗せて・・・とは思っているけど、まだ具体的に考えたことはなかった。

「学科講習もあるのか・・・」

パンフレットの中身を読んでいたアスランは思わず呟いた。

そういえば、カガリと一緒に授業をうけたのは中学2年の時が最後だ。

その後一緒のクラスになったことはなかった。

そして、これからも、そういう機会はないだろう。

一緒に行きたいな・・・自動車学校。

アスランはそっと資料を紙袋に戻し、ベッドにもたれかかり考え込んだ。

 

しばらくしたら、ベッドでゴソゴソっと音がしたのでアスランはそっと声をかけた。

「目が覚めた?」

「何時?」

小さな声が聞こえた。

「17時ちょっと過ぎ・・・。起きる?」

「あ・・・う、うん。」

アスランはそっと立ち上がって、散らばっていたカガリの衣服を彼女がとりやすいようにベッドの側にまとめた。

ちらりとカガリを窺うと、彼女はまだ少し寝ぼけているのか目をこすっていた。

アスランは机の前の椅子に移動した。

カガリは彼が椅子に座った音を確認して、そっと床に手を伸ばした。

「そういえばさ・・・カガリって車の免許は取るつもりなの?」

「はあ?」

身繕いする手を止めて、カガリは少し間の抜けた声をだした。

「まあ・・・そうだけど・・・どうして急に?」

実はこっそり紙袋の中身を見たとはいえなかったアスランは顔を少し赤くしながらも言葉を続けた。

「いや、教室でみんな話しているから・・・カガリはどうするのかなと思って。」

この話は事実だ。

自分は話題には参加していないが・・・周りからきこえてくる会話でよく上っている話題だった。

一方、カガリはアスランの口からそういう話題がでてくるとは思わなかった。

確かにカガリのクラスでも休み時間に車の免許の話がちらほらと話題になっている。

が、もっぱら推薦などで大学も決まったメンバーだ。

「キラがさ、一緒に行こうって。だから今学校を選んでいるのさ。」

「キラが?」

アスランは思わず振り向いた。

ちょうどキャミソールを着たカガリがベッドの端に座ってジーパンをはこうとしていた。

彼女は顔を赤くしながらアスランに向かって軽く睨み、頷いた。

ごめん・・・と小さく口を動かして、アスランも赤い顔をして机の前の問題集に視線を移した。

「学年末試験が終わったら、学校に行かなくてもいいだろう。だから、一緒に行こうかって。」

がさがさとカガリが紙袋を触る音が聞こえてきた。

もう着替えは終わったらしいと判断したアスランは振り向いた。

カガリはテーブルの上に自動車学校のパンフレットを出していた。

「2月に入ったらすぐ行くつもりなのか?」

「そうしようかって・・・うん?」

カガリはアスランの様子に首をかしげた。

彼は椅子に左ひじをつき、ちょっと頬が膨らんでいるように見えた。

何か気を悪くすることを言ったのだろうか・・・カガリは自分の行動を思い返していた。

「どうした?」

思い当たらなかったカガリは仕方なく尋ねた。

「俺も免許は取りに行くつもりだから・・・一緒に行かないか?」

「え?」

ああ・・・そうか、アスランも免許は取ろうと思っているのか・・・と

アスランの拗ねた表情を見てカガリは納得した。

どうして思い浮かばなかったのだろう・・・・。

キラと一緒に行くことばかり考えていた自分にカガリは気がついた。

「お前も免許取るつもりだったのか・・・・。ごめん、誘わなくて・・・。」

そこまで言って、カガリは思い出した。

「最初はアスランも一緒に・・・とキラに言ったぞ。

けど、アスランはまだ受験が残っているからってキラに言われたから誘わなかったのさ。」

「俺の受験が終わるまで待っていてくれたって・・・」

「3月になると自動車学校が混むから、キラが早いほうがいいって。」

カガリはちらりとアスランの様子を窺った。

まだ拗ねている表情をしていた。

アスランのそんな表情は久しぶりに見た気がした。

幼い頃たまに見ていた表情だ。

アスランには内緒だよ・・・時々、そう言ってキラと二人で決めたことが、アスランにばれた時に見せていた表情だ。

「うーん。」

カガリはちょっと考え込んだ。

実は、キラは春から家を出て大学の近くで暮す計画を今たてている。

そうすると今までのように顔を会わせることができなくなる。

それは当たり前といえば、当たり前なのだが・・・

双子で生まれたときから気がつけばいつも一緒にいたこともあり、カガリはキラとの時間も大切にしたかった。

それに・・・アスランとは・・・これからも一緒にいるわけだし・・・。

だから今回はキラの誘いにのったのだった。

「先に行ったからって、お前、運動神経がいいから、追いつくよ。」

カガリの言葉にじろりとアスランは彼女を見た。

自分だって運動神経は人よりいいくせに・・・。

そんなカガリが一ヶ月も早く通い始めたら・・・追いつかないだろう。

それに・・・。

「せっかく一緒に学科が受けられる機会なのに。」

はっとアスランは口を抑えた。

その顔は真っ赤だった。

思い余って思わず口から零れてしまったのだ。

カガリはアスランの勢いに一瞬目を大きく開いた後、アハハと笑い出した。

「笑うなよ。」

アスランがぶっきらぼうに答えた。

「だって・・・。」

クスクスとカガリは笑っていた。

さっきまで余裕いっぱいで、私を翻弄していたくせに・・・とカガリは考え、その時の事を思い出して赤くなった。

アスランが拗ねて駄々をこねる姿はあまり見られない。

なんだかちょっとだけカガリは嬉しくなった。

確かに彼の言うとおり一緒に授業を受けたいな・・・とカガリも思った。

「わかったよ。アスランと一緒に行くよ。」

「いいのか?」

半ば諦めていたアスランは思わず立ちあがり、カガリの側にやってきた。

「うん。キラにはアスランと一緒に行きたいっていうよ。」

その言葉にアスランはカガリを思わず抱きしめた。

 

(2006.1.29)

 

あとがき

ちょっといつもより短いですがキリがいいので。

別にアスランは、カガリに対して余裕しゃくしゃくではないのですが・・・。

受験がないカガリは、高校3年の冬に何をするのかな・・・と考えて、自動車の免許を取りに行かせることにしました。

某S様からリクエストもあり、アスランとカガリには一緒に自動車学校に通うことにしましました。

まあ結局ほれた弱みなのかアスランに甘いカガリです。

次回はセンター試験も終わり、アスランはお父さんと進路のことで再び対決する予定です。

 

 

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