俺の夢のために

 

「えー、理Tだと5教科7科目、文Uだと6教科7科目もセンター試験って受けないといけないのか。」

アスランは、机の上の化学の問題集に取り組んでいたが、

背中から聞こえてきたカガリの声に中断された。

センター試験まであと2週間足らずとなっていた。

冬休みも今日で終わり、明日からは学校も始まる。

アスランは正月2日から塾の冬期講習に通っていたが、それも昨日で終わった。

それで、久しぶりにカガリがアスランの部屋を訪れていた。

アスランが振り向くと、ベッドの上で寝転び赤い本を手にしているカガリが目に入った。

 

カガリは、なにやらいろいろと資料を抱えていてアスランの家にやってきた。

アスランはその資料について尋ねようとしたのだが、

「しばらくはこいつらを読んでいるから、勉強していていいよ。」

彼女はそう答え、アスランのベッドにもたれながら、持って来たものを読み始めた。

が、それも一通り読んでしまったのか、

今度は本棚から通称赤本と呼ばれる大学入試問題集を手にしていた。

その背表紙には「T大学(理科−前期日程)」と書いてあった。

そして、彼女の手元にはもう一冊「T大学(文科―前期日程)」の本が見えた。

「ミリアリアは1日目で試験が終わるって言っていたけど・・・お前は2日間フルフルか。」

そう言ってカガリはまた体の向きをくるりと変え、うつぶせになった。

セーターのVネックの彼女の胸の白い肌が目に入ってきた。

アスランの胸がどきんとなった。

「そ・・・そうなのか。」

「ミリアリアの志望する大学は理数の科目はないみたいだから。」

なるほど・・・とアスランは頷いた。

「でも、アスランは8科目も受けないといけないのか。」

大変だな・・・と小さくカガリは呟いたあと、無造作に体を起こした。

アスランは苦笑し、立ち上がって彼女の側へと向かった。

問題集も区切りがよく、もう勉強する気分ではなくなった。

「8科目と言っても、余分なのは社会の1科目だけだ。」

アスランは、カガリの側に座り、そう答えた。

カガリはじっと彼の顔を見つめた。

「なんだ?」

結局、理Tにいきたいって事だ・・・カガリはそう思ってクスクスと笑った。

「なんでもない。」

「気になるな・・・」

口を尖らしてアスランが答えた。

その様子を見てカガリはさらにククッと笑った。

アスランは少し面白くなかったので、カガリの肩に手を回して引き寄せ顔を近づけた。

だが、カガリは笑いながらさらに言葉を続けた。

「そういえば、昨日片づけをしたって言っただろう。」

「ああ・・・そうだな。」

アスランはちょっと残念に思いながら近づけていた顔を止めた。

そういえば、昨日の電話でやけにはしゃいでいたカガリをアスランは思い出したからだ。

 

「なあ、アスラン。冬期講習は今日でおしまいだよな。」

「ああ・・・そうだけど。どうして?」

「その・・・明日、遊びに行ってもいいか?」

「えっ、ああ、いいけど。」

アスランは電話口で首をかしげた。

彼女の方から部屋に来たいということは最近なかったからだ。

アスランは嬉しくなってきた。

「勉強の邪魔じゃないか?」

「ああ・・・大丈夫だよ。」

一緒に年を越してからはカガリと会ってはいない。

一応受験生なので、我慢している。

電話で話をして、メールのやり取りもしてはいるけれども。

そろそろ顔を見たかった。

「今日な、母さんに言われて片づけをしたんだ。それでな・・・」

アスランにはカガリの声がとても機嫌のよいものに思えた。

「いいもの見つけたんだ。」

「いいもの?」

「ああ・・・明日持って行くからな。」

「なんだ・・・気になるな。」

「明日の楽しみだ・・・。」

 

カガリはベッドの上から身を乗り出して、リュックの中から何かを取り出した。

「見せたいものがあるって言っていただろう。」

カガリはアスランに赤い色の紙の車を差し出した。

「これは・・・」

それは幼稚園の確か年長の時のクリスマスにアスランがカガリにプレゼントした車だった。

キラのために青色、カガリのために赤色に箱に色を塗り、車輪をつけた。

「ほら・・・確かここを巻いて・・・下に置けば・・・」

カガリは紙の車の後ろについている金具をくるくると回し、下に置いた。

のろのろと車が動いた。

ネジを回すと一方の車輪の軸にゆっくりと糸が巻きつけられ

ネジを離すとその巻き取られた糸が元に戻ろうとして車輪を回していたのだ

自分の誕生日に父パトリックが作ってくれた車を真似して、アスランは作ってみたのだ。

「覚えているか?お前から貰ったものだ。」

 

「わー!すっごーい!すっごーい!」

「すっごーい!アスランありがとう!」

「アスランがつくったの?おまえ、すごいな!」

カガリとキラは、アスランからのクリスマスプレゼントをあけてそれぞれ言った。

そして何度もネジを回しては車を動かしていた。

「そういえば、アスランのくるまはないの?」

カガリが首をかしげながら尋ねた。

彼は少し照れくさそうに答えた。

「あるよ。おとうさんがつくってくれたんだ。」

「アスランのおとうさんってすっごーい!」

カガリが目を輝かせて答えた。

アスランは自分のことをほめられているようでう嬉しそうに答えた。

「なにいろ?きょうはもってきてないの?」

キラが今度は尋ねてきた。

「みどりだよ。」

「アスランのめのいろだ!」

二人が声を合わせて言った。

 

ベッドの端に座っていたアスランは、そのまま後ろに体を倒して目を閉じた。

父の手が作り出したおもちゃのしかけが面白くて、興味深くて、自分もやってみたくて

カガリ達にプレゼントしたいからと頼んで、少し手伝ってもらいながら車を作った。

それから・・・軸を増やしたり、歯車を使ってみたり・・・と工夫をしていろいろ作った覚えがある。

いつ頃から作るのをやめたのか・・・

そうだ、中学を受験するからと、勉強に力をいれなさいといわれた頃からだ。

結局、中学は受験することなく・・・そのまま、キラとカガリと同じ中学に通った。

「おい、聞いているのか!」

カガリの声にアスランは目を開けた。

と、彼女の顔が間近に見えた。

カガリもアスランが目を開けると思っていなかったようで、顔がみるみる真っ赤になった。

「寝ているかと思ったぞ。」

「ごめん。考え事していた・・・。」

体を起こしながら、アスランは謝った。

そして、カガリが手にしていた車を受け取った。

「懐かしいな。まだ残っていたのか。」

「だから、さっきも言ったけど、昨日片づけをしていて押入れの中から箱を見つけた。」

その箱には幼い自分の字で「アスラン」と書いていたことは内緒だけれど・・・。

「なんだろう、と思ってあけてみたら、こいつが入っていた。」

「箱?」

「ああ・・・お前、いろいろ作ってくれただろう。それが全部入っていた。」

結構な数だったぞ・・・というカガリの言葉にアスランは赤くなった。

「昔から、こういうのを作ることが好きだったよな。」

アスランは堪らなくなって彼女を抱きしめた。

いつもそうだ。

迷いそうになった時に彼女は俺にアドバイスをくれる。

本人は意識しているのか、していないのかわからないが・・・。

「ありがとう、カガリ」

そう言ってアスランは彼女の唇を塞いだ。

 

 

 

(2005.12.3)

 

あとがき

ネジまき式の紙の車・・・C.E.ではないので幼いアスランが作れるのはこの程度です。

でもこれでも十分だと思ったりして。

え?幼稚園ではありえない・・・かな。

「すっごーい!」と二人が声をそろえるシーンは通勤電車の中で浮かびまして・・・しばらく頭から離れませんでした。

拙い絵はイメージです。このくらいかけるかなとか思ったのですが・・・色はつけていません。

あ・・・この後ですか・・・もちろん、うちのアスランは積極的ですから・・・はい・・・たぶん。

そういえば、センター試験情報等は今年の受験情報を参考にさせてもらっています。

まあこういう時ってインターネットって便利ですよね。

 

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