夕方、台所で母親の手伝いをしながらもカガリは落ち着きがなかった。
時折、時計をみてはため息をついた。
カガリからアスランの話を聞いていた彼女の母親は、娘のその様子を微笑ましく思っていた。
きっと正月明けには友人のレノアもアスランの様子を報告してくれるだろう。
18時頃、食事のため自分の部屋のある二階からおりてきたキラはカガリのそわそわしたようすに呆れた。
「どうしたの・・・あれ」
リビングでくつろいでいた父親に声をかけた。
「カガリか?」
「うん。」
今日はアスランのところに行くって言っていたような気がするけど・・・とキラは思った。
「さっきから、あんな調子だ。」
「出かけるって聞いていたけど・・・」
キラは父親の隣に座ってテレビをつけた。
あえてどこへとは言わない。
父親の複雑な気持ちがわかるからだ。
そりゃカガリとアスランが上手くいっているのにこしたことはないのだけれど。
「母さんがいうには、予定が変わったらしいぞ。」
「へ?」
キラは驚いた。
あのアスランがカガリの約束よりも優先させることがあるなんて。
「用事がすんだら、家へくるといっていた。神社には一緒に行くのだろう。」
父親もあえて誰とはいわない。
キラは苦笑した。
男親と男兄弟というものはそういうものなのかもしれない。
母さんが楽しそうにレノアおばさんと二人のことを話すような心境にはちょっとなれなかった。
でもだからといってなんであんなにカガリは落ち着かないのかな・・・。
キラは不思議で仕方がなかった。
アスランとの約束が変更になったので、キラやカガリ達も久しぶりに家族4人で自宅での食事となった。
「今日はどうしたの?出かけるはずじゃなかったの」
キラがカガリに話しかけた。
「ああ・・・アスランに用事が出来たから・・・」
「珍しいね。」
「なんか大学のことで家族会議らしい。」
「あらら・・・正月なのに。」
キラは食事の手をとめ、思わず緊張しているアスランを想像した。
うちの父さんと違っておじさんは気難しいからな・・・キラもカガリと同じことを思っていた。
すると今度はカガリの母親が尋ねてきた。
「でもアスラン君はT大を受けるのでしょう?」
「たぶん・・・そうだと思うけど。」
キラがカガリの顔をみながら答えた。
「ただ・・・どこの学部に行くかで話がしたいとおじさんに言われたらしいよ。」
カガリが母親に向って答えた。
あいつ・・・ちゃんと考えているかな。
中途半端な気持ちだとおじさんとケンカになってしまうかもしれない。
それとも言い負かされてしまうかもしれない。
「まあカガリが気を揉んでも仕方ないと思うよ。」
考え込んでしまったカガリに向ってキラが告げた。
「心配なのはわかるけどさ。」
食事を終え、母親と後片付けを終えてリビングのソファに座り、時計をみると19時半を過ぎていた。
キラにはいわれたものの、やはり、カガリはアスランのことが気になっていた。
おじさんと上手く話せるといいな・・・そう考えていた。
もう食事はほとんど終わっている時間で・・・今頃大学のことを話しているのだろうか。
はぁーっとカガリはため息をまたついた。
「どうだ、受験勉強は順調にいっているか?」
「あっ、はい。」
アスランは緊張した声で答えた。
「もちろん志望校はT大だろうな。」
アスランは頷いた。
その様子にパトリックは満足した。
彼は自分の息子がそれだけの能力があると知っていた。
「それでT大のどこに行くつもりだ。」
そう言って彼はちらりとレノアの方を見て続けた。
何のことを言われるか悟ったアスランはさらに緊張をした。
「一応・・・」
「理Tを第一志望、文Uを第二志望にしていると聞いたが、本当か?」
アスランの言葉を遮って、パトリックは尋ねた。
「あ・・・はい。そうです。」
「どうしてだ?」
パトリックはじろりと見つめてアスランに尋ねた。
「え・・・どうして・・って・・・。」
アスランは父親の質問の意味が汲み取れず、言葉に詰まった。
「理Tにしているのはなぜだ?どうして文Uにしない。」
「いや・・・あの・・・ロボット工学とか面白そうだなと思って・・・」
「アスランは・・・お前はマクロ経済とかは興味が無いのか?私に以前いろいろきいてこなかったか?」
はたとアスランは以前、父親に読んでいた本の意味がわからず尋ねたことを思い出した。
覚えていてくれたのか・・・彼はちょっとだけ嬉しくなった。
「ええ・・・マクロ経済も面白そうだなと思っています。」
「そうか。」
パトリックはアスランの返事を聞いて嬉しそうにした。
それを見たアスランは自分の正直な気持ちを伝えた。
「実はまだどちらの学部に行こうか・・・迷っているのです。」
「迷っているのなら、文Uにしなさい。その方が将来うちの会社に入るのに役に立つ。」
が、パトリックの反応はアスランの予想に反するものだった・・・
どちらかというといつものパトリックの反応とかわらなかったというべきか。
パトリックの言葉にアスランは戸惑った。
父の会社を継ぐことなんて・・・まだ遠い未来のように思えた。
「どうしても理Tに行きたいというわけじゃないのだろう。だったら文Uにしなさい。
私はお前にうちの会社を継いでもらいたいと思っている。」
アスランは困った。
会社を継いでもらいたいという父の気持ちもわからなくもない。
だが、理Tでロボット工学を研究するのも魅力なのだ。
もともと機械いじりが好きで・・・それに母レノア譲りで、どちらかというと研究員肌なのだ。
本当にまだ迷っているのだ。
彼としてはセンター試験が終わったところで、どこの学部へ行くのか決めるつもりでいたのだ。
そんなアスランの心のうちにきづかないのか、それとも気づかぬ振りをしているのか
パトリックはアスランに対して最後通告とばかりに告げた。
「だから・・・大学は文Uということでいいな。」
父パトリックにうまく説明できず、アスランは困った顔をしてレノアの方を見つめた。
レノアは「このままでいいの?」と視線では訴えてくるが、助け舟はだしてくれなかった。
「アスラン?」
パトリックはアスランがいつまでも黙っているので不機嫌そうな声になっていた。
「返事はどうした。」
確かにどちらにも興味があるというのであれば、父の言うとおり文Uを選んでもいいのだ。
父の言うことも一理あるとは思う。
だが、このまま父の言うとおり文Uに進んで、会社を継ぐというように歩むべき道を決めていいのだろうか。
「なあ、大学行って何するんだ?」
不意にカガリの言葉が頭に浮かんだ。
「そうか、アスランは大好きな機械いじりをやりたくて行くんだよな。」
アスランは膝の上にのせていた手をギュと握った。
「父さん・・・その・・・大学の学部のことは、もう少し検討したいので時間をいただけませんか。」
「何だ?」
パトリックはアスランの言葉にちょっとムッとした顔で答えた。
「まだ2次試験までは時間があるので・・・今日結論を出すのは・・・その・・・」
「何を言っている?もう2次試験まではあと2ヶ月をきっているぞ。」
「ですが・・・」
アスランは食い下がった。
パトリックは少しきつい口調でいった。
「センター試験だってもうすぐだ。中途半端ではうまくいかないぞ。」
「センター試験はどちらの学部もうけることができるような成績をとるつもりです。」
アスランはきっと目を開いて強い口調で答えた。
なんといわれようが、これは譲れない・・・そういう意思が感じられた。
パトリックの方がアスランの態度に目を丸くして驚いていた。
その隣でホッとしたレノアの顔にアスランは気がついた。
「まだ今は決められません。あと一ヶ月ゆっくり考えたいと思っています。」
パトリックはじっとアスランの顔を見つめ・・・小さくため息をついて答えた。
「わかった。」
「父さん・・・もしその時俺が理Tを選んだとしても許してくれますか。」
「勝手にするがいい。」
まだ自分の進路についてはっきり決めていないが・・・
父に言われるがまま自分の進路を選ぶということは今回なんとか回避することができた。
センター試験が終わったらきちんと考えよう。
自分が本当にやりたいことを何かを。
「アスラン、私、やりたいことみつけた。ケーキ職人になろうと思っている。」
やりたいことを見つけ、前に進みだしているカガリ。
自分もちゃんと彼女のように自分で見つけなければならない。
アスランは無性に彼女に会いたくなった。
(2005.8.3)
あとがき
さてさて、大晦日です。でもまだ途中です。
アスランはまだはっきり志望の学部を決めていなかったので、お父さんに結構いわれてしまいました。
が、なんとか今回は自分の意見を父親に主張することができました。
当初はパトリックに言い負かされて凹んでカガリに会いに行くということを考えていたのですが
カガリの言葉を使いたくなってしまい、アスラン頑張るということにしてしまいました。
さて次回、ようやく2年参りに行きます。・・・たぶんらぶらぶだとおもいます。