図書館の閉館を知らせる放送が聞こえてきたので二人は片付けを始めた。

カカリは宿題が片付いたのが嬉しかったのか少し気分がはずんでいた。

「あー!きてよかった!」

と図書館の玄関でカガリはを手にカバンをもったまま大きく背伸びをしながら言った。

そんな彼女の仕草に跳ね上がる心臓の鼓動を感じながらアスランは声をかけた。

「さてっと、これからどうする?まっすぐ帰る」(できればもう少し一緒にいたいんだけど)

「あっ!」

とカガリが伸ばしていた手を止めて大声をだした。何か忘れていたことを思い出したようである。

「そういえば母さんに朝言われたんだ。」

「何を?」

「えっと、『アスランに帰り寄ってもらうように』って。確か、おばさんに届けて欲しいものがあるとかいってた」

「母さんに渡すもの?」

アスランがまだ何か思い出そうとしているカガリの顔を覗きながらきいた。

「うん。えっと・・・『店に寄って』って言ってたかな?家だったかな?うーん。でもこんな時間になったし。」

「ほら・・」

と、ブツブツいって悩んでいるカガリの様子をみて、アスランはクスっと笑い、カバンから携帯をだしてカガリに渡した。

「あっ、ありがとう」

「いい加減に買ったら?キラは持ってるんだろう。」

「まあそうだけど。けど、父さんが『だめだ』ってうるさいんだぞ。『買うなら自分で買え!』って。私はキラに比べて小遣いも少ないから・・」

さすがに息子と娘の差なのかもしれないが、双子の兄であるキラに比べると父親はカガリに対して少し厳しい。

「わかった。わかった。とにかく早くかければ」

「うん」

カガリは母親に電話をかけはじめた。

 

カガリの家はちょっとしたケーキ屋だ。駅前に店をだしていて、ケーキ屋だけでなくカフェもやっている。

父親はその世界ではちょっと有名なケーキ職人なので、店売りだけでなくホテルのイベントなどの際のオーダーの仕事が入ってくる。

たまに会社を経営しているアスランの両親も会社主催のパーティなどの菓子類をカガリの父に頼んでいる時がある。

そのせいか父親はもっぱらケーキ作りに専念しており、母親がケーキ屋とカフェの経営を行っている。

デパート等からも出店の話がちょくちょくきているらしいが、あまり手を広げてはといって断っているそうだ。

ちなみにカガリの双子の兄であるキラは情報処理に関して並外れた才能を発揮しており、

ケーキ屋の会計システムを構築しメンテナンスを行っている。そのためカガリより小遣いがかなり多いのだ。

 

「うん。わかった。じゃあまたあとで」

電話が終ったカガリは、アスランに携帯を返した。

「で、おばさんはなんて?」

「うん、もうこの時間なんで家に来てくれってさ。家でご飯食べていってくれって。おばさん、今日は遅いんだろう。

 そのつもりで用意してあるって。おばさんにも話してあるっていってた」

「そうか。じゃあ歩いていくか?」

「うん。バス停3つくらいだし。」

二人はどちらともなく手を伸ばし繋いで歩き始めた。

 

「ただいま」

「おじゃまします」

カガリは玄関から駆け上がり、リビングとキッチンを覗いた。アスランはそんな様子を廊下で見ていた。

「えっと、やっぱりまだ母さんは帰ってないや」

そして2階へ顔を向けて声をかけた。

「キラ、いる?」

「カガリ、おかえり」

キラの部屋から声がきこえてきた。

「えっと、アスランがきてるよ。アスラン、リビングで待ってる?それともキラの部屋に行く?」

カガリは2階への階段を上りながら、アスランに顔を向けていった。

「じゃあ、私は着替えてくる。今日はロールキャベツだってさ。母さん下ごしらえをしていて、

 あとは軽く煮込むだけっていっていたから、ちょっと待ってて」

カガリは自分の部屋のドアをあけようとしたところで、キラが自室からでてきた。

「おかえり、カガリ。母さんはまだだよね?」

「うん、でもおかずは途中まで出来てるから私が残りやるよ。じゃあ着替えてくるから。」

「わかった」

部屋に入るカガリに声をかけたあと、キラは階段の下にいるアスランに気がついた。

「やあアスラン、いらっしゃい。で、なんか用?」

階段をおりながら、キラはアスランに尋ねた。

もともとこの二人は仲のいい親友なのだが、カガリが絡むとキラはアスランに対して厳しくなる傾向がある。

「おばさんが用があるからって。」

二人はリビングに入っていった。

「そうか。父さんの見本か。」

『みたいだ』と言う代わりにアスランがうなずき、ソファに座った。

「で、こんな時間ということは食べていくんだ。うちで」

キラはもう一つの一人かけソファに座りながら続けた。

「ああ、今日は母さんが遅い事を知っていて、おばさんが気にかけてくれたんだ。」

「ふーん。それで今まで何してたの?二人で。学校が終ったあと」

「えっ・・」

キラがじろりとアスランを見つめる。

(いや、今日はやましいことは何も・・というかキラ、俺達親友だろう。カガリのこととなると・・もう)

「図書館だ!」

と、そこにカガリが割り込んできた。

「一応、受験生だろう?私たち」

そういってキッチンへ入っていった。

「まあそうだけど」

キラはカガリのほうに視線をうつし答えた。

キラの鋭い視線から逃れられてほっと息をついたアスランはキラに尋ね始めた。

「ああ、そういえば聞いてもいいか?キラって推薦入試受けるって聞いてたけど、どうなってんだ?」

「えっと、一通り終った。結果待ち」

キラは少しリラックスして両手を頭にまわしてソファにもたれかかりながらこたえた。

「そうか。じゃあもうセンター試験とか受けないのか?」

「うーん。推薦がだめだったら、しょうがないから受けるよ。だから申し込んではいるんだ。

 まあ僕はアスランと違ってアールマイティじゃないから国公立は受けないけどさ。」

「キラの古文や世界史の成績って最悪だもんな。でもそのせいで私が大学いくなら国公立にしてくれっていわれてるんだぞ」

お茶をもってきたカガリがキラに向かって『ベーっ』と舌をだしながらいった。

キラは『うるさい』とばかりにカガリの頭をこづいた。

カガリはジーンズにフードがついたノースリーブのセーターに着替え、エプロンをしていた。

アスランの前にコーヒーを、キラの前に紅茶をおき、カガリはまたキッチンへと戻っていった。

アスランはエプロン姿のカガリはみとれていた。

 

続く

(2004.5.26)

 

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