カガリに見とれていたアスランに向かってちょっと不愉快になったキラが声をかけた。
「そういえば、アスラン、明日から補講だよね。」
「えっ?そうだっけ。って、キラ、今日は何日だ?。」
慌ててキラのほうを向いて答えるアスラン。
「6日(むいか)」
「あっそうだ。明日からだ。お前も受けるんだろう?というか、まあみんな受けるんじゃないのか?」
3人が通っている高校では毎年10月〜12月にかけて受験対策の補講を夕方2コマ行っている。
内容はセンター試験対策で、学校の先生の有志により運営されている。
(とはいえ運営費用として少しばかりの講習費を徴収するのだが)
もちろん強制ではないのだが、受験向けということでほとんどの生徒が参加する。
「ううん。僕は出ないよ。だって希望者だけだったよね。それ。」
「でも、お前推薦とかだめだったらセンター試験受けるんだろう?」
「うん。まあそうだけど。11月の追加募集の時に申し込めばいいと思ってるから。」
「そうか。みんな受けるもんだとばっかり思ってたよ」
「そう?ラクスも1コマで数学だけだって言ってた。仕事の都合もあるから。アスランは全部受けるんだよね。」
生真面目なアスランのことだからきっとそうだろうとキラは尋ねた。
「何の話をしてるんだ?」
キッチンから料理をもって出てきたカガリがテーブルの上に並べながら、二人の話に参加してきた。
「うん?ああ、明日からの補講の話だよ」
キラがソファごしに顔を向けてカガリに答えた。
「はあ?補講って、アスランお前何か赤点とかとったの?珍しいな」
カガリは首を傾けながらいった。
心外だな・・と少しむっとした顔をしてアスランはぶっきらぼうにいった。
「違うよ。ほら、センター試験対策のための補講。先月プリントが回ってただろう?」
きょとんとするカガリ。アスランとキラは顔を見合わせた。
「プリント?」
「っていうか、お前まさか申し込んでないのか?」(そうだよな、今日の図書館の様子じゃ)
アスランは『はあ・・』と思わずため息をついて、ソファに深くもたれかかった。
テーブルの上のセッティングの作業をとめて、『そんなのあったけ?』と考えているカガリをみてキラが助け舟を出すように言った。
「あれ、カガリ。母さんに見せてないの?僕は見せたけど。ちょんと今月は受けないからって報告済みだよ。
カガリは母さんから何かいわれてないの?」
「うーん。補講の話について聞かれたような気もするけれど、『赤点とかとってないから関係ない』って答えたら深く聞かれなかったよ。」
そしてアスランの方をチラッとみて、少しはにかむように言った。
「だってアスランに教えてもらうようになってから理科系の赤点はなくなったし、数学も安定してきたし・・。」
そのカガリの態度を嬉しく思いながらも、どうもカガリの頭の中では、『赤点=補講』の図式があるようだと悟ったアスランは追求した。
「もしかして、ちゃんとプリントを読まずにお前捨てたな」
ありえる・・とばかりに、キラは思わず苦笑した。
カガリも思い当たったようで、ばつが悪そうにキッチンへ戻っていった。
「まったく・・もうおまえ達は」
「おまえ達って僕も?心外だな。僕はちゃんとプリントは母さんにみせたし、もし推薦がだめだったら・・・」
キラが頬を膨らませて、アスランに文句を言い始めた。が、カガリの声でさえぎられた。
「おーい!キラ、アスラン。準備できたから二人ともこっちにこないか」
「あれ、なんでカガリがアスランの前に座るの?いつも僕の向かいでしょう?」
4人がけのテーブルにはアスランと、キラが並んで座り、カガリがアスランの前に座っていた。
キラの問いかけにロールキャベツを口に入れようとしてた、カガリがピクッと眉を動かして答えた。
「この間私がアスランの隣に座ったらお前怒ったじゃないか。後で。」
うっ、とキラは言葉に詰まった。(座る場所ではなく、態度に文句をいったんだけどなあ)
確かに前回はお茶だったが、アスランとカガリがならんでキラがアスランの前に座った。
デザートとしてケーキがテーブルに並べられていたのだが、
アスランがカガリの頬についたクリームを拭いたり、自分のケーキを半分あげたり、と
あれこれとかまっているのをみて当てられた格好になったキラは少し不愉快になっていた。
そして、アスランが帰宅したあとカガリに文句をいったのだ。
二人の話についていけず、きょとんとしていたアスランの顔をみて、カガリが思い出したように言った。
「そういえば、さっきの話に戻るんだけど。補講があるということは、明日はアスランと一緒に帰れないのか?なんか寂しいな?」
そのあと恥かしくなったのか、カガリは左で頬杖をついてアスランと目を合わせず、フォークでロールキャベツをいじっていた。
あ・・そうだ、アスランもそのことにはじめて気が付いた。そこへ追い討ちをかけるようにキラが告げた。
「あれっ、補講って毎日じゃなかったけ」
「えっ!毎日?」
カガリは思わず顔をあげた。キラはそんなカガリの様子を気にしつつ続ける。
「アスランは確か全コマでるんでしょう。」
「うん・・。」
アスランがカガリの方をうかがいながら答えた。彼女はまた頬杖をついて今度は少し口を尖らせていた。
「僕はラクスをパソコン部で待つからカガリも一緒に待ってる?教室は補講で全部使われちゃうみたいだから。」
カガリが少しうれしそうにキラの方をみたが、次の彼の台詞に苦虫をつぶしたような顔をした。
「あっでも、ラクスは1コマだけだから。」
「うーん」
「カガリも補講受ければいいじゃないか。そうすれば一緒に帰れる。」
そもそも自分の中ではそういう予定だったのにと思い出したアスランはカガリを誘った。が、カガリの反応にガッカリした。
「えー。補講は出たくない」
(何でだ。受験生だろう・・俺達)
ちょっとテーブルの空気が悪い方向にむかっていると感じたキラがカガリに提案をした。
「じゃあ、店で待っていればいいんじゃない?アスランに帰り寄ってもらえばちょうどいいんじゃない」
あっとカガリが顔をあげキラのほうを見た。
「そうだね。」
「いっそバイトしちゃえば。カフェの方、なんかバイトの子が一人急に辞めちゃって大変だって母さん言ってたし。」
「そっか。そうだよね。母さんに頼んでみよう。それでいいよな。アスラン」
なんて名案なんだとカガリは顔をあげ、現金にもアスランに極上の笑顔を見せた。
アスランは双子のとんでもない提案と彼女の笑顔にクラクラとなりながら言った。
「おい、カガリ、バイトって。受験生なんだぜ。俺達。」(まったく何考えてんだ)
カガリはちょっとしゅんとなって俯いてしまった。
その姿にキラがやれやれという感じで二人に向かっていった。
「まあそうだけど、とりあえず明日はそうすれば。バイトの件はおいといて。アスランもその方が安心でしょう?
図書館とかその辺のファーストフードとかでカガリが一人で待っているよりは」
(それは確かにそうだ)
アスランはキラの言葉に一理あると思った。
下手に一人で待たせるほうが不安で自分も勉強に集中ができない気がした。
「そうだな。」
アスランは頷いたあと、カガリに向かって優しく言った。
「カガリ、明日はカフェで待っていて。補講が終ったらよるから。それでそれからのことは明日相談しよう」
しかし次の日補講が終ってカフェにいったアスランはカガリから爆弾発言をきく。
「ええっ!バイトする?」
「うん!」
補講が終わり、アスランが駅前のカフェに到着したのは閉店30分前の7時半頃だった。
アスランに気がついた彼女の母親が奥の工房にむかって声をかけた。
『終ったのか?』と満面の笑みで工房から駆けててでてきたカガリに気を良くしていたアスランへ
カガリは開口一番バイトの件を伝えた。
「どうして。」
カガリは眉間に皺をよせたアスランをみて、弁解するようにいった。
「いや。私がやりたいっていったわけじゃないぞ。母さんからやってほしいって言われたんだ。」
その言葉をきいてアスランはおもわず大きなため息をついて頭をかかえてしまった。
(おばさん、カガリは受験生じゃないんですか)
「でも、ずーっとじゃなくて、次のバイトの人が30日からしかこれないので、それまでの限定だけど。」
カガリが慌ててさらに付け加える。そして続ける。
「でもバイト代が入るから、携帯を買おうと思って。」
アスランが顔をあげる。
「だから今度一緒に買いに行かないか?『前借りしてもいいわよ』って母さんがいってくれたし」
そしてカガリは俯いて小さな声で言った。
「だめか?」
(あーもうしょうがない)
「わかった。バイトは今月いっぱいだぞ。」
「うん」
ぱっとカガリの顔が輝いた。
「約束だぞ。」
「うん」(アスラン、バイトのお金でお前の誕生日プレゼントを買うんだ。)
(2004.5.29)
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なんかんだと長くなってしまいました。結局最初から最後までラブラブな二人です。
そうそうカガリは受験生って自分のことを思ってません。あくまでもマイペース。
さて、これからですがアスランは受験勉強、カガリは家の手伝いと一緒に過ごす時間が以前より減ってくる予定です。
そうそうカガリの母親がバイトをすすめたのはある思いがあったからなのです。これもおいおいでてくると思います。