次の日の朝、アスランがカガリの家に行くと彼女の準備は終わっていた。
「おはよう!アスラン。」
「・・・おはよう、カガリ。今日は早いね。」
アスランはすでに準備済みのカガリに戸惑った。
昨日のように待たされるのを見越して迎えに行ったのだ。
学校に行くには時間が早すぎる。
「・・・アスラン?・・・」
彼が困惑しているのをみて、小さな声で不安げに呼んだ。
喜んでくれるかと思ったのに。
「・・・今日は早く目が覚めちゃって・・・その・・・毎日こんなに早いとは限らないから。」
実は、明日もアスランが朝迎えにくると思ったら眠れなくなったカガリだった。
浅い眠りを繰り返し、6時に目を覚ましたのだ。
さすがにもう眠るのはやめ、学校に行く準備を始めたのだった。
「たぶん、迎えに来てもらうのに・・・なっ、慣れてしまったら・・・待たせるかもしれないし。」
すまなさそうにじっとアスランを見上げてカガリは言った。
「その・・・家でコーヒーでも飲んでから行くか?」
「いや、学校に行こう。・・・ごめん、カガリが気にすることじゃないのに。」
アスランはそう言って手を差し出した。
「大学に行くのをやめたこと先生に言ったのか?」
学校へ向かいながらアスランは気になっていたことをカガリに聞いた。
カガリが彼の顔を見上げながら答えた。
「いや、まだだ。今月の面接の時に言うつもり。母さんとー緒の時に言わないと、
親にちゃんと言っているのかって、聞かれるだろう。たぶん」
カガリの答えにアスランは納得した。
センター試験の申込もしているし確かにそうだろう。
そうか、申し込んでいるのに
受験しないのかと、アスランは改めて思った。
それほど決心は固いということだ。
「それで・・・家で働くのか?」
そうしたら大学に行きながらでもだめなのか、とまたアスランの心の中をよぎった。
「えっ、あっ・・・と、たぶん専門学校に行くと思うよ。家で働くわけじゃない。」
「専門学校って・・・」
「今、父さんが探している。いくつか候補を上げるからその中で決めなさいとこの間いわれたよ。」
「おじさんが・・・」
アスランは考え込んだ。
「ちゃんと基礎は学びなさいって。まあ、空いた時間とかは家を手伝うつもりだけど。」
「何年くらいなの?学校・・・1年とか?」
「2年のところと、3年のところがあるらしい。」
3年か・・・アスランはカガリに聞こえないように呟いた。
「多分、東京の方の学校だと思うよ・・・この近くにはないから。」
「えっ?」
カガリは視線を足元に移しながら不満気に呟いた。
「でも、私には家から通え、って父さんも母さんも言うのさ・・・多分。」
アスランはカガリを覗き込むように見た。
「キラは東京で一人暮らしなのに。」
「カガリは一人暮らしがしたいの?」
カガリが驚いたようにアスランを見つめた。
「いや・・・違う。キラと一緒に住めばいいだろう?それに・・・」
「それに?」
「おっ、お前だって・・・東京の大学に行ったら・・・その・・・」
カガリは恥ずかしいのかアスランとは視線を合わせないようにしながら言いかけた。
「大丈夫・・・カガリがここから通うなら、俺もここから通うから。」
「えっ・・・でも・・・本当?」
アスランは握っていた手を離して、カガリの頭の上にのせぐしゃぐしゃとした。
「ああ・・・そうしたら一緒にまた通えるよな。」
やめろ・・・といった感じでカガリはアスランの手を押さえながら嬉しそうに頷いた。
「その・・・できれば3年のところにすれば?」
アスランはボソリと呟いた。
「なんで?」
無邪気に笑ったカガリが理由を聞く。
「いや・・・別に・・・なんとなく。」
ほんのりと頬の染まったアスランを見てカガリは首をかしげた。
「よくわかんないけど・・・そうするようにするよ。」
大学は少なくとも4年ある。
3年の専門学校にカガリが行ってくれれば、場所は違うが、学生生活としては3年間一緒に過ごせる。
カガリが卒業してどこかで働き出して、社会人と学生になったとしても
・・・1年くらいだったらなんとかなるだろう。
そして自分が就職を決めたら・・・やっぱり経済的に自立しないと言えないからな・・・アスランは心の中で思っていた。
いつもより学校に早く着いてしまった二人は、アスランの教室で時間を潰すことにした。
まだ誰も来ていなかった。
窓際のアスランの席の後ろは今空いている。
そこにカガリは座り、カガリは昨日の夜のキラの様子をおもしろおかしく話していた。
どうも昨日キラは自分が朝置いていかれたことに対してかなり憤慨していたらしい。
アスランに文句を言いに行きたかったようだが、昨日に限ってそれができなったので余計に家でぶつぶつと言っていたようだ。
その話を聞いて、今日キラが怒鳴り込みに来るかな・・・とアスランは覚悟をした。
「それでさ・・・キラったら、もう受験終わっているくせに、頭にきて勉強ができないじゃないかとか言っていたぞ。」
キラは、推薦入試でもうK大学に行くことに決まっていた。
カガリはクスクスと笑った。
その話をきいたアスランはあっと声をあげた。
「カガリ、大学に行くのをやめたからといって期末テストの勉強をさぼっていいというわけじゃないぞ。」
来週の水曜から期末テストが始まることに気がついたアスランは、カガリの方を見て言った。
キラが勉強って言っていたのは期末テストのことだとアスランは気がついた。
きょとんとカガリはアスランを見つめた。
忘れている・・・やっぱりとばかりに、アスランはカガリをじろりと見た。
彼の視線に居心地が悪くなったカガリは12月のカレンダーを思い浮かべた。
「期末・・・そうだテストだ。」
すっかり忘れていた・・・カガリはー気にブルーになった。
相変らずこういうことには細いなとアスランの顔を眺めた。
「まさか試験前も厨房に入ってケーキ作りしようと思ってないよな。」
アスランはカガリに釘をさした。
えっ、と彼女が初めて気がついた反応に彼は不安になった。
「ちゃんとおじさんに言うよな。」
「あっ、あたり前だろう。」
カガリは少しムッとした表情で答えた。
アスランは疑いのまなざしで彼女を見つめた。
「馬鹿にするな。ちゃんと言うよ。」
アスランの熊度にあからさまにカガリは不快感をあらわした。
「じゃあ明日から一緒に勉強しよう、いいよな。」
アスランの提案にカガリは首をかしげながら尋ねた。
「お前、受験勉強はいいのか・・・補講とか塾とか・・・」
「ああ、補講は今日で終わりだ。」
「本当か?」
「ああ、だから期末の勉強はー緒にできるよ。今日、夕方決めようよ。だから・・・」
カガリはあとに続くだろう彼の言葉を予想し、さえぎった。
「わかっているよ。父さんにちゃんと言うさ。父さんだって私が期末テストのことを言わなかったら怒るさ。」
カガリはプーっと頬を膨らませながら続けた。
「まったく信用していないのか?私のこと。」
その様子が可愛らしく・・・アスランは思わず噴出した。
カガリがアスランを睨みつけた。
「悪い、悪い。ごめん。」
アスランはカガリの頭を撫ぜながら言った。
「信用しているよ。」
授業も終わり、補講を受ける教室へと移動したアスランはダコスタから塾の件を聞かれた。
「冬期講習?」
「ああ、冬休み期間中のことだよ。駅前の塾もだし・・・代々木の方も。」
ああ・・・改めて気がついたようなアスランにダコスタは苦笑した。
こいつはまったく自分のことになると疎いよな・・・
ヤマト妹のことはあんなに気にしているくせに。
「さすがに試験休み期間中には昼の講習はないけど、冬休みに入ると昼間講習があるのさ。」
まあ・・・夜まであるのだけど・・・とダコスタは続けた。
「そうなのか・・・気がつかなかった。」
「俺はもう・・・冬休みに入ったら、駅前の塾はやめて、代々木の方の冬期講習に昼間通うつもりさ。」
ダコスタはアスランの手にいくつかパンフレットを渡した。
「これやるよ。代々木の分もある。お前はどうする?」
「あ・・・ありがとう。・・・けど、きっと俺もお前と同じかな。ちょっと考えてみるよ。」
アスランはダコスタの気遣いに感謝した。
冬休みに入るときっとカガリも日中家の手伝いを始めるだろう。
そうであれば、自分は日中塾に行ったほうがいいだろう。
塾の帰り、家の店に寄れば話ができるだろうし、一緒に帰れるだろう。
前回塾に行くと決めた時にはカガリにちゃんと相談もしていなかったから
今度はきちんと聞いてみようか、彼はそう思った。
「そういえば、ヤマト妹、今日難しい顔していたぞ。」
「そうか?・・・ああ・・・今日期末テストのこと言ったからかな。」
ダコスタはなるほど・・・と納得し、笑った。
「忘れていたのか・・・あいつ・・・。まあ、らしいけどさ。」
どうやっておじさんに切り出そうか考えていたってことか・・・
アスランはダコスタの話をきいて思った。
アスランは補講が終わっていつものようにカガリの家の店を覗いた。
カガリの母親に挨拶をしたあと、ちらりと奥の厨房を覗くとカガリが父親と何か話していた。
ちゃんと言っているように感じアスランは嬉しかった。
いつものように喫茶の奥の席に向かいながら、アスランは店の内部がすっかりクリスマス仕様にデコレートされているのに気がついた。
もうすぐクリスマスか・・・。
受験生とはいえクリスマスくらいはカガリとゆっくりしたいな・・・と彼は考えた。
アスランはコーヒーを飲みながら、ダコスタからもらった塾のパンフレットを眺めてカガリを待っていた。
しばらくすると、アスランの頭の上から声がした。
「ちゃんと父さんに話したぞ・・・だから明日からは試験が終わるまでは見習いはお休みだ。」
制服に着替え、帰り支度をしていたカガリが目に入った。
胸をはっていうその姿がとても愛らしかった。
「けどな・・・」
「けど?」
ちらりとアスランの顔色を伺うかのようにカガリは見た。
「うん。課題を出された。」
「課題?」
「うん。毎日10個ずつこれを作って父さんに見せなさいって。」
そういってカガリは手に持っていた皿をアスランに見せた。
その上にはカッティングされた苺が3種類のっていた。
「この間から練習しているのさ。」
カガリがアスランに説明を始める。
「こっちがフラワーで・・・まあこれは簡単で・・・。えっとこっちがエスカルゴ。それで・・・」
彼女はちょっと形が崩れている苺をさして言った。
「これがローズ・・・これが難しいのさ。潰したりしちゃって。」
カガリはアスランの前に座って続けた。
「他にも練習しているけど・・・とりあえずこの3つって言われた。いいか?」
いいかと問われて、アスランはきょとんとした。
「何が?」
「だから・・・期末テスト前だけどこの課題はやっていいか、ってこと。」
すごく真面目な顔をして聞くカガリにアスランは笑った。
「何で笑う?」
「いや・・・いいよ。だって、俺は見習いをするなって言っただけで・・・課題はOKだよ。」
「そっか?」
カガリは腑に落ちない気分だったが・・・アスランが苺の課題についていやな顔をしなかったことにはほっとした。
「じゃあ、家で明日から期末テストの勉強をしよう。」
「えっ?」
カガリの台詞にアスランが驚いた。
「だって、課題もあるし・・・いいだろう。」
「えっ、でも・・・俺の部屋でも・・・」
自分の部屋でカガリと期末テストの勉強をするつもりでいたアスランは残念な顔をした。
塾のある日は一緒に家を出ればいいわけで・・・カガリも家に帰ってから課題をすればいいのにと思っていた。
「どうしてアスランの部屋で?」
カガリはアスランのあまりにもがっかりした様子を見て疑問に思った。
が、あることに思いつき、少し頬を染めながら言った。
「お前・・・いやらしいこと考えているな・・・。」
「なっ・・・何を・・・」
半分図星のアスランは動揺しうろたえた。
彼があせっている様子からカガリは自分の考えが当たっていたことを確信した。
「絶対、うちで勉強だからな。」
顔が真っ赤なアスランはカガリをにらみつけた。
「苺たべるか?」
カガリはそんなアスランにクスクスと笑いながら、自分がカッティングした苺を手に取り彼の口に近づけた。
彼はきょろきょろと回りを見て・・・カガリの母親がいないことを確認して口をあけた。
カガリが彼の口に苺を放り込んだ。
甘かった・・・。
「おいしいか?もう1ついるか?」
カガリが満面の笑みで彼に尋ねてきた。
「ああ・・・でも、自分で食べる。」
彼は視線の先に彼女の母親を捕らえていた。
「それから・・・いいよ、カガリの部屋で勉強しよう。」
「失敗した苺が食べ放題だぞ・・・」
カガリは相変わらずアスランに向かって笑いかけた。
期末テストが終わったらクリスマス・イブの予定をカガリと相談してみよう・・・
苺を食べながら、アスランはそう思った
(2005.3.21)
あとがき
らぶらぶ・・・ですね。特に最後・・・。
今は学校のテストのタイミングが随分違っているようですが、
二人の学校は冬休みの前に期末テストがあって、試験休みがあって、終業式という感じで考えています。
キラは某私立K大学のSキャンパスにある学部をイメージしています。だから一人暮らしは決定です。
設定・・・サボっていますが、イメージとしては某Sいたま市あたりに3人住んでいるとおもっていただければと・・・。
(ちなみに管理人は都民ですが)
アスランとしてはキラが一人暮らしをして家をでてくれたほうがよかったりして。
もちろんアスランは将来のこともしっかり考えていて就職したら即・・・と思ったりしていますよ。
話は変わりますが、
少し画像があらいのですが、添付している写真は某クレジットカードの情報誌から撮ったものです。
「あまおう」という苺の特集がされていて、カッティングも工夫するといいですよ・・・と紹介されていたものです。
カガリもこういうのを練習したりするのかしらと思いましたので、使ってみました。
ちなみに春コミの学パロの番外編の表紙にも使っています。