補講が終了したので期末テスト前はカガリとアスランは一緒に勉強することにした。

アスランの塾がある日は、塾に行く前に限定されたのだが。

久しぶりに一緒に学校から帰り、二人はカガリの家で勉強をした。

カガリは家に着くと、リビングでまず父親からの課題の作業をする。

アスランはいつもその様子をソファに座って眺めていた。

そして失敗作の苺が試験勉強のデザートとなっていた。

とはいえ、意外とカガリは上手く、失敗作はあまりでず、20分もあればすぐに課題は完成した。

アスランは最初の日、一緒に居る時間が短くなってしまう気がしてカガリに苺の課題は後からすれば・・・と提案した。

だが、失敗した苺をデザートにできるし、そんなに時間はかからないからとカガリに言われたのである。

まあ実際そうだったのであるが。

とはいえ、最近アスランの補講や塾通いのせいで一緒に過ごせなかったこともあったので

この試験勉強の時間は楽しみとなっていた。

 

「終わった!」

課題が終わるとカガリは嬉しそうな顔をして、ソファのアスランに微笑みかけた。

「いつも思うけど、上手いな。」

「でもまだまだだ。3つ失敗したし、時間ももう少し早くないと。」

カガリは時計を見て呟いた。

「えっと、今日は塾の日じゃないから・・・みっちり勉強って日か。」

カガリの言い方にアスランは苦笑しながら答えた。

いつもより長く一緒にいられるのに・・・彼はそう思った。

「今日も昨日の数学の続きをする?」

「うーん。どうしようかな。」

カガリは台所へ珈琲を淹れに向っていた。

「数学もだけど、化学を今日は先に教えてくれないか?」

「化学?」

「ほら、そもそも受験するつもりだったから、選択でとっていたのさ。」

「そうか、わかった。・・・けど、カガリ、ノートはちゃんととっている?」

台所から戻ってきたカガリがしまったという顔をしていた。

「とってない・・・か。」

「ごめん。」

「じゃあ試験範囲教えて。たぶん大丈夫と思うから。」

「うん。じゃあ始めようか。」

カガリは珈琲が3つと苺とりんごが入った器がのったお盆を持っていた。

階段をあがり、キラの部屋の前でノックをカガリがした。

「キラ!珈琲いれたよ。」

扉の向こうからキラが現れた。彼女の手から珈琲とりんごを受け取った。

「ありがとう。やあ、アスラン、いらっしゃい。」

「ああ・・・」

「じゃあな、キラ」

カガリはそう言って自分の部屋へ入った。

アスランもそれに続いた。

一度くらい俺の部屋で勉強したいな・・・アスランは少しだけ思った。

彼も年頃の男だ・・・彼女の部屋に二人きりというのは、魅力的な構図だ。

だが、隣の部屋には彼女の双子の兄で、彼の幼馴染のキラがいる。

さすがに押し倒せないよな・・・アスランは心の中で呟いた。

だから一度くらいは・・・と思うのだが、カガリの機嫌を損ねたくなくて黙っていた。

それにあんなこといわれたら・・・言い出しにくくなってしまったのだ。

まあいいか、試験休みに入ったら1日くらいゆっくり出来るだろうとアスランはそう自分を納得させていた。

 

が、アスランの予想ははずれた。

期末試験が終了し試験休みに入るとカガリは1日家の手伝いをするようになったのである。

折しもクリスマス前なので、ケーキ作りは佳境になっていたこともある。

アスランの方はと塾の冬期講習はまだ始まっていないので、

家で自分のペースで勉強をすればいいのだが・・・カガリと今度は時間が合わなくなってしまった。

塾に行く日、夕方、駅前のカガリの家のケーキ屋を覗くと申し訳なさそうにカガリが厨房から顔をだし、

「忙しくて話できない、ごめん。」

といわれるばかりだった。

アスランは自分が放っておかれているような気がして寂しかった。

 

クリスマス・イブ

アスランは自分の部屋にいた。

先ほどまでは、机に向い勉強していたが、今はベッドの上でゴロゴロとしていた。

時計は夜10時を過ぎようとしていた。

カガリからは連絡がない。

まだ厨房で作業をしているのだろうか・・・アスランは目をつぶった。

作業が終わったら迎えに行くから連絡をくれと頼んだのだが・・・。

 

両親は昨日からホテルに行っている。

彼も高校1年生までは両親とすごしていたが、昨年から家ですごすことにした。

勉強したいからということを理由にそれを両親に告げた時、父パトリックはいぶかしげに眉をよせた。

が、母レノアはカガリの顔を思い浮かべたのか、アスランの顔をみてニコリと笑った。

彼は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

昨年のクリスマスはまだ付き合いはじめて日が浅いこともあり、カガリとキラとラクスの4人で過ごした。

カガリ達の家のケーキ屋でパーティをし、そのあとキラとカガリの家でゲームなどをした。

結局、アスランはキラの部屋に、ラクスはカガリの部屋に泊まったのだ。

今年のクリスマスはキラ達とは別々に過ごすことになっている。

カガリが家のケーキ屋を手伝うということも理由にはあるのだが、二人きりで過ごしたいという思いもあるからだ。

ラクスは明日クリスマス・コンサートとパーティを予定していることもあるので、

彼らは都内のホテルで過ごしているはずだ。

カガリがラクスに頼まれて、パーティのケーキを作っていたとも聞いていた。

キラもラクスも大学が推薦で決まり受験勉強が終わっている。

うらやましい・・・これから実際に受験が始まるアスランは思った。

 

アスランは冬休みに入った昨日から代々木にある予備校の冬期講習に通い始めている。

冬期講習は10時から16時までだ。

クリスマス以降は、講習のあとしばらく自習して時間を潰し、帰りに家の手伝いの終わったカガリと会う予定になっている。

クリスマスまでは家の手伝いが大変だから・・・ごめん、とアスランはカガリに期末試験の最後の日に言われた。

予約のケーキだけでも大変でさ・・・とカガリがぼやいていたのをアスランは覚えている。

それでも今日は一緒に過ごせなくてもいいから・・・会って話だけでもしたいと思いアスランは駅前のケーキ屋を訪れた。

クリスマスケーキを買う人たちでお店の中はすごく賑わっていた。

アスランはカガリと会うのをあきらめ、彼女の母親に頼んで厨房の中をこっそり覗かせてもらった。

カガリは懸命にケーキの飾り付けをしていた。

その真剣な表情にアスランは目を奪われ、見とれた。

少しは早く帰れないかと、彼女の母親に頼もうかと思っていたが、アスランはカガリの様子をみて我慢した。

その時は納得したつもりだけど、やっぱり少し寂しくなった。

アスランはもう一度時計をみた。1015分だった。

もう少し早く終わるのではないかと、ほんの少しだけ期待していたのだ。

「やっぱりだめなのかな」

彼はベッドの上で呟いて、目をつぶった。

 

携帯の着信音が部屋の中で響いた。

あれ?寝ていたのか俺。

アスランはベッドから体を起こした。

携帯が鳴り続いている。

アスランは慌ててベッドサイドの携帯に手を伸ばした。

「カガリ?今どこ?まだ厨房か?」

問いかけながらアスランは時計を見た。

23時50分を指していた。

こんなに遅くまで厨房に・・・。

「厨房だろう?迎えに行くから。」

アスランはベッドからおりコートに手をのばしながら答えた。

「いや・・・その・・・お前の家の前。」

怒られると思っていたカガリは小さな声で告げた。

が、今日は違った。

「えっ!」

アスランは慌てて部屋を出て階段を駆け下りた。

いつもなら、夜中家を抜け出してうちに来るのはあぶないからやめろ、と怒鳴るのだが、今日ばかりは嬉しかった。

現金なものだ・・・アスランは苦笑しながら、玄関の扉をあけた。

小さなケーキボックスを手にカガリが照れくさそうに立っていた。

 

小さい声で彼女が紡いだ。

「ごめん。遅くなって。大丈夫か?」

「いや。・・・来てくれて嬉しいよ。寒いだろう。」

アスランはカガリを玄関の中へと促した。

玄関の中でカガリは小さな声でアスランに話しかけた。

「その・・・おじさんやおばさん達が寝ているのだろう・・・でもどうしてもこれだけは渡したくて・・・」

「いや・・・今日は居ないから大丈夫。上がらないか?」

アスランはカガリが小さな声で話している理由がわかりほほえましくなった。

「そっか・・・そのこれを作っていて遅くなってしまった。」

カガリは声のトーンを戻し、アスランに小さなケーキボックスを渡した。

アスランはそっと箱をあけた。

小さな丸いケーキが入っていた。

「これ・・・って」

「その・・・お前・・・この間食べてみたいっていっただろう。また作らないかって」

「カガリ・・・」

もう作らない・・・作れないからっていっていたのに・・・アスランは嬉しくなった。

「だから作ってみた。食べくれると嬉しい。」

「・・・」

「でも時間が遅くなっちゃったけどな・・・店の作業が終わってから作り始めたから・・・」

小さな声でカガリが続けた。

アスランは感激で言葉がしばらくでなかった。

「じゃあ渡したからな。明日まで忙しいから・・・そのごめん。」

カガリはそう言って、玄関から出ようとした。

「あ・・・ちょっと待って。」

アスランは慌てて彼女の腕をつかんだ。

「その珈琲を淹れてくれる?今から食べたいから・・・。」

「えっ・・・でも」

カガリは戸惑った。

「ちゃんと送っていくから・・・だめ?」

困った顔をしてカガリがアスランの顔を見つめた。

彼の顔はほんのり赤かった。

「ほんとか?」

「・・・うん。ちゃんと送るから。」

カガリは疑いもまなざしを向けながら言った。

「珈琲だけだぞ。」

「判っているって」

アスランは嬉しそうにケーキボックスを持ってカガリの手を握りリビングへとむかった。

 

結局カガリは次の日の朝早くアスランに送ってもらった。

 

(2005.4.17)

 

あとがき

アスランは自分のことは棚にあげて一人さびしかっています。

自分もカガリに対して同じようなことをしているのに気がついているのでしょうか。

カガリは結局アスランには弱くて、彼のためにオリジナルケーキを作ってあげています。

もちろん珈琲だけですまないのもわかっているのですが・・・

 

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