改札口からでてきたカガリはアフメドと2、3言と話し、じゃあな、という感じで手を上げた。
アフメドも、お前も・・といった感じでカガリの頭をくしゃくしゃとさわった。
カガリに駆け寄ることができなかったアスランはその様子を見つめていた。
1年の時同じクラスだったとカガリから聞いてはいたが、かなり親しそうだ。
いや、ダコスタも同じクラスだったから、きっとカガリにとってあいつはダコスタと同じ男友達の一人だろう。
まさか二人だけで今日の試合を見に行った・・・ってわけじゃないよな。
アフメドの顔をよく見ると、確かに1年の時いつもカガリの側にいた何人かのクラスメートの中にいた1人だとアスランは思いだした。
自分とは違い、明るく気さくで分け隔てのあまりないカガリの周りにはいつも人が集まる。
彼女はあまり意識していないが、かなり人気があるのだ。
結局、高校では同じクラスになれなかったアスランはカガリと付き合う前も、付き合いだした今も常にそのことが気になりやきもきしている。
この間も1年生からラブレターもらっていたってキラから聞いたばかりだ。
そういえば、今から思うとダコスタもいつもカガリと一緒にいたな・・・と、1年のときだけじゃなく・・・去年も今年も・・・・。
そりゃあ3年間同じクラスだったわけだから・・・そうだけど・・・ダコスタ、あいつはカガリのことをどう思っているのだろう。
アスランは思わず自分達に協力的なダコスタにまでやきもちの矛先を向けてしまったりしていた。
アスランが考えにふけっている時、彼に気が付いたカガリが、ニッコリと笑いながら彼のほう向かって駈けて来た。
「アスラン。」
アスランは自分を見つけ、走ってきてくれるカガリに気がつき、ともて嬉しくなり、先ほどまで頭をよぎっていた暗い考えが一掃した。
自分も彼女のほうに近づいて抱きしめようとしたが、カガリの肩越しにバス停へ向かって歩いているアフメドの後姿が目に入り動けなくなった。
カガリはアスランの視線に気づき、彼女も振り返ってアフメドを確認した。
「あーあいつ、ここからバスだって。同じ駅だなんて知らなかったよ」
「そっか」
「あっ、迎えにきてくれてありがとう。けど、めずらしいよな」
いったい今日はどうした、といった感じでカガリが首をかしげながら言った。
アスランは少し頬を染めた。そして照れをかくすように横をむいていった。
「本屋にも行きたかったから、ちょうどいいかと思って」
本当はただ顔が見たかった、会いたかっただけなのだが、照れくさくてアスランは言えなかった。
「そうか・・・、そういえば、用事はもうすんだのか?」
「あ・・・。うん」
「役に立ったのか?」
カガリはアスランに尋ねた。
「うん、まあ」
実は・・・そうでもなかったのだが・・・カガリの手前、アスランはそう答えた。
「そっか、よかったな。じゃあ本屋へ行くか?私も欲しい本があるし、ちょうどよかった。」
カガリはニコリと笑った。
「それに・・・・」
アスランにはカガリが少し上機嫌のように見えた。
「何?」
「ううん、何でもない。」
お前の顔が見たかった・・・なんて、照れくさくって言えない・・・カガリは心の中で呟いていた。
2人は駅ビルの6Fにある本屋へ向かった。
急ぐ人のため、エレベータは並んで乗らなかった2人だったが、カガリの下の段にいたアスランは彼女の手をそっと握った。
カガリは赤い顔をしてちらりとアスランの方を見たが、何もいわず、でもぎゅっと握り返した。
アフメドと何を話していたのか・・・。
そもそもどうして自分に黙ってラグビーを見に行ったのか・・・。
俺に内緒にしていることがほかにもあるのか・・・。
アスランはカガリにいろいろ聞きたかったのだが・・・彼女の反応でその気持ちを押しとどめた。
自惚れかもしれないが、カガリもまた自分と会いたかった・・・同じ気持ちだったような気がしたからだ。
2人は手をつないだまま参考書・問題集のコーナーへと向かった。
まず自分のための本を探そうとしていたアスランにカガリが言った。
「アスラン・・・私、向こうでほしい本を探すけどいいかな?」
「え?お前、問題集買わないの?」
「あ・・・うん、アスランは自分の選んでいて・・・私も選んだら戻ってくるから・・・じゃあな」
「ちょ・・・ちょっと・・・」
引きとめようとするアスランの声が聞こえないのか、カガリはさっさと行ってしまった。
なんであいつは・・・問題集とかいいのか?まったく受験生なのに・・・。
小さく呟きながらアスランは問題集を選び出した。
自分のために数冊選んだあと、彼はカガリのために数学の問題集を選び始めた。
この間のがもうそろそろ終わっているはずだから・・・。
「アスラン・・・決まった?私買ってきちゃった。」
カガリは2冊の問題集とにらめっこしているアスランに声をかけた。
「カガリ・・・もう買ったって・・・。あっ、お前さ、ほら次の数学の問題集は・・・」
アスランは手に取っていた問題集のうち1冊を選んでカガリに見せようとした。
彼のその様子にカガリは嫌な顔をした。
「お前・・・まさか・・・」
「あっ、ごめん、アスラン、まだ前の分が残っているから・・・今日はいいよ。」
「カガリ」
「わかっている。ちゃんとやるってば・・・。さっさと買って来い。」
カガリは自分の受験勉強の件でアスランにいろいろ言われたくなくて、彼をレジへ向かわせた。
そして小さくため息をついた。せっかくいい気分だったのに・・・もう。
けれど・・・大学へ行くのをやめたことはまだ言っていないからな。
いつ、言おうかな・・・。早く言わないと怒るよな・・・、それに、驚くよな・・・きっと。
カガリはもう一度彼が戻ってくる前にため息をついた。
「そういえば・・・試合面白かった?どっちが勝ったの?」
本屋からカガリの家に向かう途中で、アスランはカガリに尋ねた。
「えっ・・・、ああ・・・試合は早稲田が勝った。って、どうして知っている?試合に行ったこと。」
カガリはアスランに確かいわなかったはずなのに、と首をかしげながら答えた。
「いや・・・別に」
お前のうちに昼過ぎにいって聞いたとは言えないアスランは視線を泳がした。
「それで・・・どうだった?」
アスランはカガリがアフメドと一緒に帰ってきたことが気になっていた。
「何が?」
「だから試合とか・・・そのあと、お茶とかして・・・」
「うん、まあ・・・。でも、何で知っている?」
「いや・・・だから・・・」
「ふーん、どうして知ったか教えてくれないなら・・・話さない。」
カガリは立ち止まって答えた。
アスランもカガリにつられて止まり、見上げたらカガリの家の前だった。
カガリはアスランの答えをしばらく待ったが、彼は黙ったままだった。
「教える気はないみたいだな・・・。じゃあ、送ってくれてありがとう。また明日な。」
「ちょっと待って。」
アスランは慌ててカガリの腕をつかんだ。
「もう少し・・・もう少し話がしたい・・・・だめか?」
アスランとカガリの家の間は徒歩で10分くらいの距離である。
二人は手を握ったまま黙って歩いていた。
アスランはふと握っている左手を自分のコートのポケットに入れた。もちろんカガリの手を握ったままで。
カガリはえっ、と驚き、アスランの顔を見上げたが、彼はにっこり笑っただけだった。
カガリハその笑顔に真っ赤になって目をそらした。二人の距離が少し縮まり寄り添うような形となった。
しばらくしてアスランの家に着いた。
ちょうど彼の母、レノアが外出から帰ったところのようで、買い物袋を抱えながら玄関のカギをあけていた。
「母さん」
アスランが母親に声をかけた。ふりむいたレノアが二人に気づき声をかけた。
「あら、アスラン、カガリちゃん」
「こんばんは、おばさん」
カガリはレノアに気づき、挨拶をするとともに、あわてて握っている手を離そうとしたが、
いやだというばかりにアスランが強く握りしめたためできなかった。
レノアはアスランの仕草をみてクスリと笑った。
「カガリちゃん、久しぶりね。最近うちに来ないのでさびしかったのよ」
レノアは玄関に入り、二人を招き入れた。
「アスラン、ごめんね。今から晩御飯作るけど大丈夫よね。そうそうカガリちゃんもうちで食べていってね」
ウィンクしながらレノアは言葉を続けた。
アスランはわかった、と頷いたが、カガリは少し戸惑いながら答えた。
「あっ、でもうちには何も言ってきてないので・・・」
「大丈夫よ。私が電話をしてあげるわ。この間のお歳暮のお礼もまだだから。」
「あっ、でも・・・。その・・・。すぐ帰ろうと思っていたので」
「あら。ダメ?私もあなたと話がしたいのだけれど、いいでしょう?ほんと最近顔を見せてくれないから寂しくって」
「でも・・・」
困惑しているカガリをよそにレノアは話を続ける。
「それにカガリちゃんにケーキのお礼がしたいし、ね。」
「えっ?」
思い当たることがあるらしくカガリは大きく目を開いたあと、彼女の顔が赤くなった。
「先月だったかしら。美味しかったわ」
「あっ、ありがとうございます」
恥かしそうにカガリが答えた。
二人の話の内容がさっぱりわからないアスランはしばらく黙って様子をみていた。
が、なかなか話が終らないので少し不愉快になり、二人の会話に口をはさんできた。
「いい加減に玄関でのおしゃべりはそのくらいにしてよ。母さん、カガリのうちに電話をするっていっていましたよね?」
有無をもいわせない口調だった。
「カガリもいいよね。うちで夕食とるよね。」
カガリが口を開きかけ、何かいおうとしているのを無視した。
「じゃあ2Fに行くから」
再びレノアに向かっていい、カガリの手を引っ張って階段の方へ向かっていった。
部屋に入ってすぐ、二人の会話に入っていけなかったアスランはカガリに尋ねた。
その声は少しとがっていた。
カガリはコートを脱いでいる手をとめ、えっ、と振り返った。
アスランは彼女からコートをうけとるべく、手を差し出しながら、さらに尋ねた。
「さっき母さんと話していたケーキのこと」
とがった調子があがったようだ。
カガリは脱いだコートを彼に渡したが、何も答えなかった。
が、その顔は少しムッとしているようにアスランは思えた。
受け取ったコートをコート駆けにかけるためにカガリに背をむけながらさらに言葉をつづけた。
何でお前がそんな顔を・・・と心の中で思いながらも。
「俺はたべたことない。・・・なんで・・・母さんが食べて・・・」
彼が全部言い終わらないうちにぶっきらぼうにいうカガリの声が聞こえた。
「しょうがないだろう。お前が食べにこなかったから」
「えっ?」
振り向くと、カガリはベッドに背をもたれさせて座っていた。
いつも彼の部屋にきたら座っている場所だ。
彼女は手元の袋から、本屋で買ってきた本を取り出していた。
その顔は怒っているようにも見える。
少し動揺しながらもアスランは彼女に近づいた。
「もしかして・・それって・・」
最初はカガリの手作りケーキのことを自分は食べたことがないということ、
いや作ったということすら知らなかったことにショックをうけた。
そのことを彼女が自分に話してくれなかったことに対しても少し怒っていた。
が、彼女の態度と言葉であることを思いだした。
「カガリ・・・」
確かめようとして彼女の隣に座ろうとしていたとき、階下から母親の声が聞こえてきた。
「アスラン!コーヒーが入ったからとりに来て」
「母さん。さっきカガリとケーキのこと話していましたよね。いつ頃の話ですか?」
アスランはコーヒーとお菓子がのっているトレーを受け取りながら聞いた。
「えっ・・・と」
レノアはちょっと首をかしげ考え込んだ。
「確かあなたの誕生日近くだったわ。なんか試作品って聞いたけど。」
やっぱり・・・
「えっと、甘さが控えめでなかなかだったわよ。飾りつけは確かにちょっと・・・だったけど。あなたも食べたのよね。」
「・・・えっと母さん食事できたらまた呼んでください。」
アスランは母親に返事も返さず、階段を上がっていった。
カガリはあの日ケーキも作っていたのか。プレゼントはセーターだけじゃなかったのか。
(2004.1.3)
あとがき
さて少し長くなってしまいましたね。カガリはアフメドのおかげで気持ちを再確認、
アスランは少しやきもきしているっていった感じです。
ちなみに1年のときからずっと一緒のクラスだったダコスタはカガリのことをどう思っているかというと、
アフメドと違って、ダコスタは1年のときからアスランのことを実は知っていて
かつ 対カガリらぶらぶ光線も感じていたので・・・、それに、カガリの超鈍感振りにも興味を抱いて、
傍観者になったということにしています。
アスランの暴走は次回かしら・・・でもやっぱり暴走はどうしようかと思案中です。
そうそう、次回、カガリもアスランに宣言してしまいます。