駅についたアスランはカガリとテレビ観戦をするために彼女の家にむかった。

今は1時50分・・・なんとか試合開始には間に合うはずだ。

卒業生にあって、受験勉強のアドバイスを聞くから・・・というのが今日の集まりの目的だったのだが、

単なるお茶会、食事会と化してしまったので、アスランは急用ができたからと言って抜け出したのだ。

これだったら最初からカガリとの約束を優先しておくべきだったと彼は思っていた。

抜け出すときにダコスタが苦笑していたのが目に入った。

本当に俺って馬鹿だよな・・・と自嘲気味に呟いたが、彼女を驚かせたくてアスランは連絡をしないでいた。

 

ところがカガリの家に着くと予想外のことが待っていた。

「えっ、出かけた?」

アスランはカガリの母親から「カガリはいない」と告げられたのだ。

カガリが喜んで出てくるのを期待していたアスランは拍子抜けをした。

「あら、てっきり貴方と出かけているばかりと思っていたのだけど」

カガリの母親は申し訳なさそうにいった。

そして振り返り奥のリビングに向かって声をかけた。

「ねえ、キラ。あなたはカガリがどこにいったかしらない?」

「なんだい母さん?」

と、キラが玄関にでてきてアスランに気づいた。

「あれ、アスラン」

アスランは少しばつが悪そうにキラから目をそらしうつむいた。

キラはその様子を一瞥し、母親の方を向いて答えた。

「カガリならラグビーを見にいくって言って11時頃出て行ったよ。国立競技場に行ったと思うよ。」

「あらそう、早明戦ね。」

「うん。17時くらいには帰ってくるといっていた。」

「そう・・・。ごめんね。アスランくん。そういうことらしいの。」

驚きのあまり顔をあげ目を丸くしているアスランに彼女は告げた。

そしてキラの方を向いて、あとはお願いといって家の奥へと入っていった。

「一体誰と?テレビで見るっていっていたのに。」

アスランはおもわずキラに詰め寄った。

「僕は知らないよ。みんなで・・・っていっていたけど。」

キラは両手をあげてわからない・・・といった感じで答えた。

そして、大体、誰かさんが最近ほっておくから・・・と小さく呟いた。

アスランはその声が耳に入ったのかキラを睨みつけた。

「きっとあの人といったのではありませんか?」

奥の方から透き通るような声がきこえピンク色の髪の女の子が玄関の方にでてきた。

「ラクス!」

「あら、こんにちは、アスラン・・・あなたの声がちょっと聞こえてきたので。」

キラはラクスの方に顔を向けたずねた。

「あの人って?」

「ほら金曜日学校でみかけた人です。カガリと話をしていた。」

アスランをちらりと見ながら、ラクスはにっこりと答えた。

「あぁ。アフメドか。」

キラは思い出した。

確か金曜日ラクスと靴箱で会ったときに、カガリがアフメドに手を上げて走り去るのをみた。

ラクスはその時の様子を思い浮かべながら続けた。

「カガリと彼の話の内容までは聞こえてきませんでしたが、カガリが行ってしまった後

それはとてもうれしそうな顔をしていましたわ。彼。」

「そうか、アフメドだったらチケット持っているかもしれないな。」

キラが納得したように答えた。そして追いうちをかけるようにラクスは続けた。

「彼はきっとカガリのこと好きですわ」

アスランはギクリと身体がこわばった。

「たぶんね。まあカガリは気づいてないかもしれないけど。」

キラはラクスに相槌をうった。と、そこでキラは今さらながらあることを思い出した。

「というか、どうして君はここにいるの?確か今日は用事があるっていってなかった。アスラン」

するとアスランはすねたようにプイっと横を向いて答え始めた。

「ああ、用事はあったが、あまり意味のない集まりだったので途中で抜けてきた。」

これだったらカガリと・・といいかけてハッとアスランは気づき赤くなって俯いた。

「カガリと会っていればよかった、か。」

キラが意地悪く言葉を続けた。

「カガリだって都合がありますわ。いつも貴方の都合にばかりあわせようとしけはいけませんよね。」

責めるようにラクスも続ける。

それはまるで自分のいつも都合のいい時にばかりカガリと会っているように聞こえてしまいアスランはムッとした。

「そのくらい、わかっています。」

思わず口調も荒くいった。

「そうでしょうか。ここしばらくはそのように見えないのですが。」

ラクスが静かな、しかし強い口調で答えた。

その言葉にアスランが反論を続けそうになるのをさえぎるようにキラがいった。

「まあ、今日はしょうがないね。アスランの方に用が入っていたのだから。

カガリが他の用事をいれて外出していても文句はいえないよね。」

「わかっているさ。キラ、お前の言うとおりだ。」

強い口調でアスランもいってきたのでキラとラクスは思わず彼の顔を見た。

もうあれこれ言われるのは勘弁してくれ・・・といった顔をしていた。

「じゃあ俺は帰るから。カガリによろしくいってくれ」

キラとラクスは顔を見合わせ苦笑した。

 

家に戻ったアスランは勉強する気にもなれずベッドに寝転がっていた。

出かれることにしたなら・・・教えてくれればいいのに。

彼は携帯を操作したが、カガリからの連絡はどこにも入ってなかった。

会いたいよ・・・カガリ。

アスランはベッドの上で目を閉じた。

 

結局、カガリはアフメドと早明戦に行くことにした。

二人きりというのは少し引っかかったのだが、だからといってそのことを理由で帰ることはできなかった。

彼とは友人だし、少なくとも今回はちゃんと確認しなかった自分も悪い。

それにやっぱり競技場で見ることのできるせっかくチャンスなのだ。

そして試合は早稲田の圧倒的な強さで勝った。

 

アスランは自分の部屋で早明戦を見ていた。

というよりは、テレビをつけていただけだったのだが。

彼は相変わらず勉強には手がつかず、ベッドの上でごろごろと趣味の電子工学の雑誌を読んだりしていた。

テレビで試合が終わったことを確認すると、今度は携帯を取り出した。

そしてメールを打ち込んでは消し、また打ち込んでは消し・・・という作業を何回か繰り返していた。

 

カガリは試合が終わったあとアフメドからお茶をしていかないかと誘われた。

キラに17時には帰るっていっているから30分くらいしか時間がないとカガリはアフメドに伝えたが

せっかくだからという言葉に押し切られて、駅の近くの喫茶店に二人は入った。

競技場では試合のことに頭がいっぱいだったので気にならなかったのだが、

喫茶店に入るとカガリはアフメドと二人きりということを意識してしまった。

きまずい沈黙を破ったのはアフメドだった。

「あの・・・さ、あいつとうまくいっているのか?」

「え?・・・あいつってアスランのことか?」

「あ・・うん。」

ちょっとアフメドは視線をそらしながら続けた。

「その最近あまり一緒にいるところを見ていないから。」

「ああ、あいつは補講受けているからな。」

「そっか。でも・・・」

「何?」

カガリはパフェのアイスクリームをほおばりながらたずねた。

「なんでもない。」

寂しそうに帰っているくせに・・・アフメドは心の中で思った。

が、彼は不意に違う話を始めた。

「その今日は悪かったな。」

「え?」

急に謝られてカガリは不思議そうな顔をした。

「付き合ってくれてありがとう。」

「え・・・な・・・何いって・・・」

真っ赤な顔をしたアフメドが続ける。

「いや・・・今日、他の奴がこないこと俺知っていて・・・。でも、俺ヤマト妹と二人きりで・・・出かけてみたかったから。」

カガリはパフェをつついていた手をとめてアフメドを見つめた。

「俺・・・ヤマト妹のこと好きだ。」

「は?」

カガリは驚きでスプーンを落とした。

「私・・・えっ・・・あの・・・その・・・・」

あまりに取り乱すカガリにアフメドは苦笑した。

カガリの頭にはアスランの顔が浮かんだ。

「その・・・ごめん。私はあいつ・・・アスランが好・・・」

真っ赤な顔をしてうつむきながらカガリがいった言葉をさえぎってアフメドはいった。

「わかっている。でも・・・俺の気持ちは聞いてもらいたかったから。」

カガリはうつむいて、小さな声ですまないと呟いていた。

「このまま何も言わず、卒業したら後悔するかもしれないと思ったから。だから今日はありがとう。」

カガリは顔をあげ・・・すまなそうにアフメドを見つめた。

それからまた二人はしばらく黙っていたが、アフメドがダコスタの話をはじめたのをきっかけに

1年のときのクラスメイトの話をしていた。

カガリはアフメドに悪いと思いながらも次第にアスランの顔が見たくなってきた。

その時、携帯がなった・・・が、2回ほどでCALL音が消えた。

「あいつから?」

「あ・・・うん。メールだ。・・・ごめん、見ていいかな。」

カガリはアフメドに断って携帯を取り出しメールを見た。

 

−試合どうだった?今、どこにいるの?駅まで迎えに行ってもいい?

 

誰から試合を見に行ったことを聞いたのだろうか?と疑問を持ちながらも

アスランに会いたいと思っていたカガリの顔がメールを見て綻んだ。

そしていそいそとメールの返信を打ち込み始めた。

アフメドはそのカガリの表情を見てやはりあいつにはかなわないのかと実感した。

「行くか?」

アフメドはメールを送り終わったカガリに声をかけた。

 

散々迷って送ったメールに対してカガリから返信がきて、アスランは心躍った。

そして、アスランは駅でカガリを待っていた。

 

−いいよ。まだ、競技場の近くでお茶している。電車に乗ったらメール入れるね。

−えっと、今電車に乗りました。快速です。

 

もうそろそろ着く時間だよな、とアスランは携帯の時計をみて思った。

顔を改札の方に向けるとカガリの姿が見えた。

はやる気持ちをおさえ彼女の方に駆け寄ろうと一歩足を踏み出したがカガリのすぐ後ろにいた人物に気がつき足を止めた。

あいつがアフメドって奴か。

 

−あの方とてもうれしそうでしたよ。きっとカガリのことが好きだと思いますわ。

 

ラクスの言葉が頭によぎった。

アスランはカガリに近づくことができず、手を握り締めたまま改札を見つめていた。

 

 

(2004.12.12)

 

あとがき

カガリは結局アフメドと早明戦に行くことにしてしまいます。

が、とりあえず告白されておどろいています。が、逆にアスランへの気持ちを再確認です。

アスランはキラとラクスにちょっとぐりぐりやられて凹み気味です。

さて次回は少しアスランが暴走するかな。

 

 

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