あまり期待してはいけない・・・というカガリの予想はあたっていた。

 

授業中、窓側の席のカガリは肘をつきグラウンドを眺めていた。

頭の中をよぎるのは昨日のアスランの謝罪の言葉。

今度の日曜日やはり先約を断れなかったと謝ってきた。

予想はしていたとはいえ、彼からそのことをきいてカガリは少し落胆した。

しかし、早慶戦の時ほど怒りは覚えなかった。

それにここで思い切りがっかりした顔をして彼の成績がまた下がったりするのはいやだった。

「先約だからしょうがないさ。」とカガリは答えた。

 

どこかのクラスがサッカーをやっているのが目に入った。

ポーンとゴール前から1本のロングパスがあがった。赤の15番のゼッケンをつけていた。

そのパスはセンターラインを超えて相手陣内に深く入った。

が、相手に奪われまた攻められる・・・が、攻めきれずこぼれたボールを赤の15番が拾ってまたポーンとロングパスをあげた。

いいキックをするやつがいるな・・・サッカー部か?

カガリは赤の15番に目を向けた。

もう受験をしないときめたカガリにとって授業はさほど重要ではなくなっていた。

先生の視線を気にしつつ、外のサッカーの様子をみる。

もう1本ロングパスがあがる。

あっ・・・あれは・・・アフメドか?ボールの形がちがってもうまく蹴っているよな。

それは1年生のときに同じクラスだったアフメドだった。

彼はダコスタと同じラグビー部で結構気が合っていた。

よく3人でつるんで、体育祭など学校の行事のクラスの輪の中心にいたりした。

2年、3年とクラスが違ってしまったので、以前ほど話すことがなくなっていった。

カガリがアスランと付き合い始めたというもの実は原因のひとつなのだが、彼女はそこの辺りには気がついていない。

確か大学にいってもラグビーは続けるってダコスタがいっていたな。

そういえば・・・・ふとカガリは11月のはじめの事を思い出した。

 

「あっ、ヤマト妹!」

放課後、廊下でカガリはアフメドに声をかけられた。

「おっ!アフメド、久しぶり。元気か?」

「ああ。ヤマト妹の方はどうだ。」

「うん。相変わらずかな。」

普通はそこで話が終わり別れるのだが、そのときは珍しくアフメドが話を続けた。

「それでさ・・・今年もまたみんなでラグビー観戦に行こうって話だけど、知っているか?

 今年は早慶戦に、早明戦も行かないかってさ。」

「へぇー、早慶戦はわかるけど、早明戦も・・・。そいつはすごいな。チケットは手に入るのか?」

話に興味をもったカガリが答えた。

早明戦は早慶戦に比べるとチケットを手に入れにくい。

カガリもまだ直接競技場で観戦したことはない。いつもテレビ観戦だ。

「ああ・・・手に入るかもしれないから・・・俺、大学の推薦入試を受けていて知り合った人から何枚かもらえそうだから。」

「そうなのか・・・そいつはすごいな。」

カガリの中の好奇心の虫がうずうずとでてきた。

早明戦か・・・行きたいな・・・生で見たことがないからな・・・。

うーんと考え込んでいるカガリの顔を見てアフメドはくすっと笑った。

「けど、早明戦に関してはまだ仮だから・・・はっきり決まっていない。」

「そうか」

「みんな受験も近いし、チケットも何枚手に入るか今の時点ではわからないから。」

「ふーん。」

ちょっと残念そうな顔をするカガリだった。

「早慶戦は確実だけど・・・・、どうする?」

アフメドはちょっと期待をこめて聞いた。

「あ・・・11月23日は・・・ごめん、その・・・先約があって」

カガリがすまなそうに答えた。

そっか・・・やっぱりあいつと行くのか・・・・そうだよな。

アフメドはカガリに気づかれないように小さなため息をついて彼女の側に常にいる濃紺の少年を思い浮かべた。

1年のときクラスが違うのに仲がいいなと思い、双子の兄のキラにいたら、幼馴染だと聞いた。

2年生になりカガリとクラスが別れて、話す機会が減ってしまった。

どうしうかと思っているうちに、気がついたらいつのまにか、あいつにかっさわれてしまった。

最近はあまり一緒にいる姿を見ないのだけど。

「けど・・・早明戦は生でみてみたいなあ・・・」

カガリはそんなアフメドに気がつかず呟いていた。

 

行きたいな・・・早明戦。

あの時アフメドがいっていた話はどうなったのかな。

期待はしなかったとしても・・・もしかしたらという気持ちもあったので日曜日はまるきり予定がはいっていない。

このままだと家で一人テレビ観戦だ。

きっとアスランのことだから終わったらまた会いたいっていうにきまっている。

・・・いうよな・・・たぶん。

けど、それで会うのは・・・なんとなく癪である。

いや会いたくないわけじゃないけど・・けれど癪なのである。

ここ何回は彼の都合のいいときしか会ってない気がするのだ。

しかし早明戦は明後日だ。今さらアフメドたちと行きたいといっても・・・。

カガリは小さなため息をついた。

 

放課後、久しぶりに学校に来ていたラクスが靴箱から出たところで足を止めた。

あら・・・・あれは?

ラクスの視線の先にはカガリと・・・アフメドがいた。

カガリが話している相手をラクスは知らなかったが、彼がすごく嬉しそうな顔をしているのに気がついた。

カガリはそんなことも気がつかず、夢中で何かを言っているようだ。

あらあら・・・

ラクスはしばらくそこで眺めることにしていた。

 

カガリは校門に向かう途中でグラウンドへ向かっているアフメドに気がついた。

そして、今日授業中に自分が考えたことを思い出し、思わず彼に声をかけた。

「アフメド!」

「あっ!ヤマト妹」

急に声をかけたれたアフメドは驚いた顔をして振り向いた。

「久しぶり。お前今日さ体育あっただろ、相変わらずいいキックしているよな。これから練習か?」

無邪気に話しかけるカガリにアフメドは少しドキドキしながら答えた。

「あ・・・ああ。ヤマト妹は一人か?」

「えっ、うん。あいつ・・・アスランは補講だから。お前はいいのか?」

「俺?ああ・・・俺は推薦がきまったから、後輩に混じって練習さ。」

「そうなのか。おめでとう。ラグビーの推薦だろう?すごいな、お前・・・よかったな。」

「けど、ヤマト妹こそダコスタから聞いたけど・・・」

「私か・・・まだ少しだけ迷っているけどさ。」

「そうか。」

じゃあ・・・と行こうとするアフメドを引き止めるようにカガリは声をかけた。

「それでさ・・・その・・・こんなぎりぎりの時期にいって悪いのだけど。」

えっという顔をしてアフメドはカガリを見つめた。

「前に言っていた早明戦の話・・・みんなでいく話ってどうなった?」

「うん?早明戦って?」

アフメドは何の話か一瞬思い出せずに首をかしげた。

「あっ、やっぱり今からは言っても駄目だよな。」

一人納得したようにカガリは頷き、話を続けた。

「前に、今年は早慶戦だけじゃなく早明戦も皆で行くといっていただろう?」

アフメドもカガリと話をしたことを思い出した。

「ああ・・・予定だったけど・・・ダ・・」

「お前はいかないのか?」

「あっ、俺、俺は行くけど・・・けど・・その・・」

「実はさ、私もチケットが余っているのなら行きたいな、なんて。」

皆と行く話はなくなってしまった・・・とアフメドはカガリに言えず心の中で呟いた。

「やっぱり今からいっても無理だよな。」

お前それって・・・アフメドは戸惑いながら聞いた。

「えっと、チケットは2枚か?」

「あっ、いや、私一人だ。その・・・アスランはその日他の用事がある。」

ちょっと寂しそうにカガリがいった。

アフメドは迷った・・・が、彼は自分の気持ちも抑えることができなかった。

「そうか・・・1枚ならあまっているから・・・行くか?」

「本当か!やった!いってみてよかった。」

カガリが心底嬉しそうな顔をした。

「じゃあ・・・皆との待ち合わせの場所を教えてくれ」

1回ぐらいいいよな・・・・アフメドはそう思った。

 

「お待たせ!ラクス・・・って何みているの?」

キラは靴箱の側に佇んでいるラクスを見つけ声をかけ、彼女の視線の先をみた。

カガリが嬉しそうに手をあげてアフメドと別れている姿をみた。

「あれ?カガリ・・・とアフメド?珍しいな。何を話していたのかな」

キラは首をかしげた。

「カガリさんのお友達ですの?」

「うん。1年のとき同じクラスだった。」

「そうですか。あの方カガリさんのこと・・・」

「そうだね。たぶん。でもカガリは気がついてないみたいだけど。」

キラは首をすくめた。

「行こうか、ラクス」

 

補講が終わったアスランはダコスタ達と塾に向かっていた。

駅前の交差点で信号待ちの時、アスランはカガリのいるケーキ屋を見つめていた。

昨日の帰り保留になっていた日曜日の約束が駄目になったことを彼女に伝えた。

怒鳴られるだろうと覚悟していたのだが、彼女の反応はあっさりしたものだった。

ちょっと寂しそうな顔をしてはいたけれども。

けれど、今思い返してみるとどちらかといえば最初から期待をしていなかったというか

あきらめていたというかそんな感じがしてならない。

アスランはそう思うと少し気持ちがめいってきた。

「信号が変わったぞ!」

ダコスタがアスランに声をかけた。

「あ・・・ああ」

二人は歩き始めた。

「お前さ・・・受験生でもクリスマスのイベントくらいはちゃんとしろよな。」

「え?」

「そのくらいの余裕がないと・・・」

「わかっている。けど・・・」

小さいため息をアスランはした。

「あいつの家はケーキ屋だから。」

「でも、さすがにイブの日はそんなに遅くまでは作らないだろう。」

ちゃんと誘えよ・・・とダコスタがアスランをひじでつついた。

 

日曜日、カガリは玄関で靴紐を結んでいた。と、そこへキラがやってきた。

「あれ?カガリ、出かけるの?」

「うん。みんなで国立競技場。」

「えー、今日はラクスがきてカガリに頼みたいことがあるって言っていたのに。」

「17時までには帰ってくるよ。じゃあな。」

カガリはそういって家を出て行った。

 

「あれ?みんなは・・・」

待ち合わせの場所・・・千駄ヶ谷の駅前にはまだアフメドしかいなかった。

時間を間違えたのか・・・カガリは困惑の顔をして彼に尋ねた。

「あ・・・ごめん。その・・・みんなは来ない。」

「えっ、えぇー!けど・・・」

カガリは驚いた顔をした。

「俺は行くっていったけど、みんなと・・・とは言わなかっただろう。」

それに違うと何度もいおうとしたけど、ヤマト妹が話をさえぎって・・・とアフメドは言った。

カガリは金曜日の放課後のことを思い出した。

確かに・・・そうだ。自分が勝手にみんなで行くのだと思い込んで、夢中で話していたような気がする。

カガリはアフメドから目をそらし考え込んだ。

「その、ごめん。いやだったら帰っていいから。俺もその・・・確かに悪かったし。」

アフメドがすまなそうにいった。

アフメドは友人だ。ここで帰ってしまうのも角がたつよな。それに早明戦だ。

けど・・・二人きりって・・・困ったな。

アスランの顔が頭をよぎった。

 

(2004.12.9)

 

あとがき

今回はカガリがメインです。えっと・・・はい・・・カガリちゃんは思いきり思い込んでいました。

さすがに二人きりはまずいよな・・と思ってはいます。けど・・・好奇心の虫に勝てるか。

あと一応アフメドは・・・カガリのことをお前とは呼べません。

キラとラクスに目撃させたのは次回への複線です。

次回はアスランあせる?落ち込む・・・でしょうか。

 

 

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