カガリはまだ10時近くというのにベッドの上でゴロゴロとしていた。
一度机の前に向かったが勉強をする気がさっぱりおきなったので
今日はいろんなことがあったのでしょうがないよなと自分を納得させ
ベッドのうえに転がり込んだのだ。
早慶戦は父親と行くことになった。
ついでに厨房で使うカガリの道具も買いに行こうといってくれた。
嬉しかった。
アスランとの会話を外で聞いていたのかもしれない父が自分に気遣ったことだとしても。
机の上を見る。
机には英語の問題集が開いたままである。
大学はどうしようかな。
まだ進路についてははっきりと決めかねているのだけれども、
父親は専門学校を探し始めるよともいっていた。
私が大学には行かないといったら、あいつ、どんな顔をするかな。
「アスラン・・・」
そう呟やくと涙がこぼれおちそうになってカガリは目をこすった。
あんなに強い口調で言われたことはあまり記憶がない。
「わがままをいって俺を困らせないでくれないか。」
困らせているつもりなどはなかった。
受験生だから会えない時間が増えてきても仕方がないとわかっている。
だから、会いたいという気持ちを自分なりに抑え我慢している。
だけども、どうしても行きたかったのだ。
久しぶりに電車とかのって二人だけで出かけたかったのだ。
「それにあいつ、あんなことはちゃんとしっかりしている気がする。」
この間の映画の後のことをカガリは思い出し赤くなっていた。
「なんかずるいよな。あいつ。」
そうつぶやいて、小さくため息をついた。
アスランともっと自由に会いたいし、話がしたい。
けれども学校ではクラスが違うから、彼が他の女子と話している姿を見ると少し胸が痛い。
見るとつらいなら必要以上に見なければいいのかもしれない。
そうだ見なければいいのか。
そこまで考えたところで、携帯がなった。アスランからだ。
カガリは少し躊躇したが、出ることにした。
11月22日
カガリとキラが渡り廊下の2階で1年生の校舎の方をながめていた。
今日の朝、カガリの靴箱にラブレターをいれてきた1年生をチェックしていたのだ。
カガリのラブレターの相手は必ずキラがチェックすることになっている。
「えっと。あそこの窓にいるやつ。バスケ部だって。」
キラがカガリに教える。
「どれ?あーあいつね。」
「覚えた?」
「多分。」
「意外とかっこいいね。みんなの評判もいいみたいだし。冷たいアスランから乗り換える?」
キラが冗談めいていった。
「馬鹿いうな。」
「冗談だって」
「じゃあ、今日の夕方会う?」
「うん。あっ思い出した、私ちょっと売店に買い物いってくる」
そういってカガリは廊下を駆け出していった。
「あれ?カガリは?」
アスランは先ほどまでキラとカガリが一緒にいるのを見つけて階段をあがってきたのだ。
「ああ、売店にいっちゃったよ。何か忘れ物をしたから買ってくるってさ」
「そうか」
残念そうな表情のアスランにキラがいった。
いつものように夕方カガリとは会っているのだが、
ここ2、3日は学校でカガリを見てない気がしていたので、話がしたかったのだ。
「待っていればじきに戻ってくるよ」
「そうだな」
アスランはキラとカガリが見ていた方向を見た。
1年の教室?
「何をしていた?」
アスランはキラに尋ねた。
キラは少し困った顔をしながら答えた。
「うーん・・・・偵察」
「偵察?って、まさか」
カガリがラブレターを受け取ったときの対処をアスランも知っていた。
「体育祭の時に一目ぼれしてしまいました。今付き合っている人がいなければ付き合ってください・・・だって。」
「・・・・・」
「実は今月に入って3人目。」
「えっ。」
「安心してよ。ちゃんと断っているから。」
「当たり前だ。・・・・でも何で」
ここしばらくはラブレターなんてカガリはもらってなかったはずだ。
とそこに階下から声がきこえてきた。
「カガリ・ヤマトってフリーになったって聞いたけどさ、知っている?」
「え?そうなのか?」
「じゃあガセかな。けど、最近一緒にいないよな、あの二人。」
「そうだな。確かに・・・じゃあチャンス到来か」
「でもさあ、やっぱり元彼があのザラだとちょっとビビルよな。」
「そういえば、俺もこの間5組のアフメドが告白したとか、デートに誘ったとか聞いたぞ」
「じゃあやっぱりフリーなのかな」
「そろそろ昼休み終わりだぜ。行こうか」
今にでも飛び出していきそうなアスランを押さえていたキラの手が緩んだ。
鋭い視線でキラをみながらアスランはいった。
「今の話は何だ?」
「最近の噂。」
「・・・・・」
「そりゃあ誰だって気になるよね。あれだけ毎日仲良く帰っていたのに最近はぜんぜんだもん」
「それは俺が・・」
「勉強に専念したいから別れた」
キっとアスランがキラを睨んだ。
「ってみんながいっているだけだって・・睨まないでくれる?」
「別れてないって」
口をとがらせていうアスランに「はいはい」という感じでキラはこたえた。
「けどさ、最近カガリにアプローチが増えてきているのも事実だよ。」
「そう・・なのか」
「うん、下級生・・・特に1年とかは、体育祭の時にカガリを知った連中が多いみたいでさ。
その後くらいから補講が始まって、一緒に帰らなくなっているだろう?
だから、アスランとのことを知らないやつが多いみたいだよ。」
「・・・・・」
「もう少し自分のものだって宣言するなりしたほうがいいかもね。」
わかっているよといった感じでアスランはキラを見た。
「あっ、そういえばあいつらが言っていた、5組のアフメドって奴のこと知っているか?」
すると、
「あっ、それは僕も初耳だよ」
「そうか」
「でも、カガリはラグビー好きだろう。誘われたのかもしれないなあ、早慶戦」
「おいっ」
「気になるのだったら自分で聞けば?アスラン」
キラが戻ってきたカガリの方に視線をむけた。
「あれ?アスラン何か用か?」
突然のことでアスランは少し動揺し、何もいえなかった。
するとカガリはキラのほうに顔を向けた。
「キラ、やっぱり売店にはなかったよ。残念。」
「そう」
「次、英語だろう?今日はラボ教室だからそろそろ行かなきゃ授業が始まる。」
カガリがキラに促した。
「あの、カガリ・・」
アスランは先ほどから気になっていることを聞きたくて声をかけたが、
カガリはその声がきこえなかったのか、くるりとアスランのほうをふりむき
「じゃあな。アスラン」
といってすたすたとラボ教室へ向かっていった。
「えっ・・・」
アスランはあっけにとられたが、授業がそろそろ始まるのは事実なのでしかたなく自分の教室へと戻った。
ラボ教室へ向かう途中、キラはカガリに尋ねた。
「ねえ、5組のアフメドと二人きりで話をしていた、と聞いたのだけど、デートでも誘われたの?」
するとカガリは『はあ?』という顔をし、苦笑しながらいった。
「ああ・・あれか。あれはデートの誘いじゃないさ。今年もまた皆で早慶戦を見にいくからいかないかって言われたのさ」
「みんなで?」
「ほら、1年の時、同じクラスの何人かでいっただろ、早慶戦。お前もクラスが違うのに一緒についてきたじゃないか。」
覚えてないのか?といった目をしてカガリは更に続ける。
「あいつも一緒のクラスだったしな。それで今年もいかないかって言われたのさ。」
キラは思い出した。確かに1年の時全然クラスが違うのにカガリにくっついていった。
その中に確かにいたような気がする。
「で、カガリはいくの?」
「いや。今年もアスランと行こうと思っていたから断ったさ。」
とカガリの顔が少し暗くなった。キラは余計なことを思い出していた。
(そうだよな。去年はアスランと二人でいっていたよな。カガリは。確か初デートだったような。あれっ・・)
「思っていたって?どういうこと?」
「模試だからいけないっていわれた。」
「えっ、そうなの?」
カガリは両手を頭のうしろにもっていき、
「模試のこと聞いてなくてさ。先に聞いていればあの時『行く』っていえたけどな」
とつぶやき
「まあ、もう今更いえないし・・あはは」
と寂しそうに笑った。
キラは少しカガリがかわいそうになって
「じゃあ僕と行こうか?チケットかっているのだろう」
とカガリの顔を覗き込みながらいった。
「あ・・・父さんといくことにしたから大丈夫。」
「父さんと?」
「ついでに合羽橋に行って私の道具もかうことになっているのさ。」
「そうか。それはよかったね。」
道具を買ってくれるということはカガリが父親から認められたということだ。
「それに夜はお前の合格祝いをすることになっているだろう」
「そうだね。」
しかし早慶戦に父さんといって学校のやつらに見られたらまた噂がひろまるのではないのか
キラは一抹の不安を抱いた。
(2004.9.5)
あとがき
だらだらと書いてしまったような気もします。
まあけどそういう噂も流れるのかなと、二人とも無頓着でなかなか気づかなさそうですが。
次回ようやく早慶戦おわりです。