紫外線と皮膚癌
 このタイトルと同じ論文が、比較的最近発表されていましたので、ご紹介します。

<論文>

竹之内辰也:県立がんセンター新潟病院医誌、42(2): 1-5, 2003


1)論文紹介の前に


 オゾンホールのコーナーでも少しふれましたが、皮膚癌が世界的に急増しているようです。われ

われ日本人はあまり感じていませんが、南半球の、とくにオーストラリアやニュージーランドで皮腐

癌(悪性黒色腫)が激増しています。累積罹患率をみると、オーストラリアの男性では、前立腺癌、

結腸癌についで3位、女性では、乳癌についで2位と報告されています(国立がんセンターのWeb

pageの統計より。2002年の統計らしい。)。日本の男性の部位別がん死亡率では、1位肺癌、2位

胃癌、3位肝臓癌(2003年統計)ですから、オーストラリアでは様相が全然異なっていますよね。

 ただし、じゃあ日本でも皮膚癌が増えるのか!?というと、実はまだその点がはっきりしないよう

です。確かに、皮膚癌による死亡数は日本でも右肩上がりに増え続けているのですが、人口10万

人対死亡率をみると、1953年から1992年にかけては減少しているのです。

 一般的な皮膚癌はスイスやスペインなどのヨーロッパに多く、がん部位別罹患率をみますと、いず

れの国においても、皮膚癌は大体1位から3位までの間に入っています。つまり、どうも白人主体の

国に皮膚癌は多いといえそうです。さらに、いろいろな人種が生活しているハワイをみてみますと、

日本人や中国人の黄色人種では、前立腺癌、肺癌、結腸癌、直腸癌、リンパ腫などが多いのです

が、白人では、前立腺癌、肺癌、結腸癌についで悪性黒色腫が多くなっています。これは、悪性黒

色腫が白人にできやすいということを意味しているのでしょう。


 以上より、私たち日本人は皮膚癌にはなりにくいのだろうと少し安心したところで、今回の論文を

ご紹介しましょう。


2)要旨


 日本人において紫外線と皮膚癌の因果関係を示した疫学データは乏しいのですが、この論文は、

日本全国の皮膚癌の罹患状況および死亡数などを各種統計データから調査し、緯度との関係を検

討しました。その結果、
日本人では皮膚癌罹患率、死亡率ともに緯度との間に有意な相関はみられ

ず、
紫外線による皮膚癌発生の仮説は成立しない、と結論付けています。(ただし、現時点での皮膚

癌の疫学データは精度、分類法などの点で決して満足できるものではなく、今後の改善が必要だと

付け加えています。)


3)私の意見


 オーストラリアやニュージーランドにおける皮膚癌増加傾向は異常といえます。

 この論文に各国別の皮膚癌年齢調整死亡率のグラフが載っているのですが、私も正直なところ、と

ても驚きました。やはり、南半球の極側を中心に広がっているオゾンホールとの関係が強く示唆されま

す。たとえ日本人がオーストラリアに移住したとしても、必ずしも皮膚癌にかかりやすくなるわけではな

いだろうということが、この論文からわかりましたが、それでもやっぱり気になりますよね。

 白内障との関係もそうですが、このような環境変化のために、われわれの病気の状況がどんどん

変わってきています。もちろん、それ以上に医療技術が進歩していますので、そのような変化にも必

ずや迅速かつ的確に対応して治療することができるでしょう。が、しかし、このまま環境変化に対して

何も対策せずに放置しておくと、間違いなく大きなしっぺ返しをくらうことになるでしょう。昨年の大地震、

大津波といった災害、異常気象のことが頭に浮かぶのは、私だけではないはずです。

 何はともあれ、オゾンホールの拡大は絶対に食い止めなければなりません。オゾン層を壊すフロンガ

スなどは、全世界で使用を中止すべきです。当たり前のことかもしれませんが、病気から人類の生命・

健康を守るために、全世界の国々が、目先のことだけでなく環境問題にも目を向けなければいけない

と思います。

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