1)脳卒中とは?
脳卒中は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの、突然脳内に発生する病気の総称です。みな
さんもご存知のように日本人の3大成人病の1つで、死因では、悪性新生物(がん)、心疾患に次い
で3位となっています。さて、この脳卒中が気候とどのような関係があるのでしょうか?
2)くも膜下出血
90%以上が脳内の脳動脈瘤が破裂して出血を起こしたものです。ですから脳動脈瘤がなけれ
ば、ほとんどの場合、くも膜下出血は起こしません。名前は非常にメジャーでみなさんご存知の病
気ですが、頻度は1万人に1〜3人と、それほど多くはありません。イメージとして、発症しても命は
助かるだろうと思われがちですが、実は半数近くの人は亡くなってしまうという恐ろしい病気なので
す。さて、くも膜下出血と気候との関係はどうでしょうか。
ロシア、シベリアの'82〜'92の調査によると、くも膜下出血は64例発症しましたが、気温、気圧、
湿度などのパラメーターとの関連は見出せなかったそうです。(Feigin VL et
al., Eur J Neurol
7(2): 171-178, 2000)
アメリカ、オハイオ州での調査では、'81〜'89の間に1,487例のくも膜下出血患者が発症し、男女
別にみると、男性は晩秋に、女性は晩春に多かったそうです。男性の場合、発症3日前の気候変
化が関係しているようでしたが、女性の場合には気候変化との関係はなさそうでした。(Chyatte
D et al., J Neurosurg 81(4): 525-530, 1994)
南アフリカの2年間の調査では、60例のくも膜下出血患者が発症し、1日の気圧変化や月毎の
平均気圧との関係は明らかでなかったけれども、前日との気圧変化が10hPa(ヘクトパスカル)以
上あった場合には、明らかな関連性が認められたそうです。(Br J Neurosurg 11(3):
191-195,
1997)
日本の津和野での3年間の調査によると、人口約7,000人のうちくも膜下出血を発症したのは7
例で、春に多かったとのことです。(岡田ら、日本老年医学会雑誌 32(1): 39-46, 1995)
以上をまとめますと、くも膜下出血の発生は、
1)気圧・気候の変化と何らかの関係があるらしい
2)男性は気候との関連性があるようだが、女性はあまり関係ないようだ
3)晩秋、晩春に多いようだ
となります。ただし、脳出血ほど、気候との関連性ははっきりしないようです。
3)具体的予防法
以上のように、気候とくも膜下出血の発生との因果関係はあまりはっきりしませんが、可能性があ
る限り予防しようとするに越したことはありません。まず大前提として、発生源である脳動脈瘤がある
かないかということが最も重要です。40歳を過ぎたあたりから脳動脈瘤の発生率が上昇し、脳ドック
受診者全体の4−6%に脳動脈瘤が発見されると報告されています。もし、これまでにMRA(磁気共鳴
脳血管画像)を受けたことがない方は、是非一度、
脳ドックを受けられることをお勧めします。一度でも受けておくと安心です。
(注)MRAを撮ってもらって、たとえ脳動脈瘤が見つかったとしても、大きさが5mm未満であればほと
んど破裂することはない、ということが最近判明しました(UCAS JAPAN中間発表、第61回日本
脳神経外科学会総会、2002)。ですから、いたずらに心配する必要はなく、われわれ脳神経外科
専門医も、そのような小さな脳動脈瘤の方には、決して破裂予防のための手術を勧めません。脳
ドック受診者で脳動脈瘤が見つかった方の半数以上が大きさ5mm未満の小さな動脈瘤なので、
実際のところ、脳ドックを受けても、手術を勧められるような方は、極めて少数です。
その他に、
1)血圧の変動に気をつける(脳出血の項を参照してください)
2)トイレでいきまない(便秘に気をつける)
3)重いものをもたない
4)激しく興奮しない
5)くしゃみや咳は激しくしない
などなどがあります。「こんなんじゃ生活できない!」と言う人もおられるかと思いますが、これらは
くも膜下出血を起こした人が発症時に行っていたことの実例です。この他に、ドライブをしていた、テレ
ビを見ていた、寝ていたなどもあり、ようするに何をしていてもくも膜下出血を起こす可能性があるの
です。ご家族(親や兄弟)にくも膜下出血を起こした人がいる人は、とくに注意が必要(家族性発症に
ついては、2親等内の血族にくも膜下出血を起こした人がいた場合、そのような人の約15%に脳動脈
瘤が発見されたという報告があります)なので、是非脳ドックを受けることをお勧めします。