論文の紹介
Relationship between aneurysmal subarachnoid hemorrhage and climatic conditions in the
subtropical region, Amami-Oshima, in Japan.

Oyoshi T et al., Neurol Med Chir (Tokyo) 39: 585-591, 1999.



 これは、日本脳神経外科学会誌に掲載された論文です。6年前なのでやや古い論文ですが、

海外ではなく日本(奄美大島)でのくも膜下出血の発症と気候との関係について調査した研究な

ので、みなさんにご紹介したいと思います。


1) 要旨

 
これは、1986年から1996年にかけての奄美大島における調査研究です。210例のくも膜下出血

の患者について、その発症日と、最高気温、最低気温、平均気温、気圧、相対湿度の気象要素

との関連性を調べたところ、とくに有意な関連性は見られなかったということです。しかし、

女性と高齢者に注目してみると、3月から5月にかけて発症例が増加する傾向があり、とくに高

齢者は晩春にはくも膜下出血の発症に注意すべきだと述べています。


2) 私の意見

 以前の報告に、男性は晩秋に、女性は晩春にくも膜下出血を起こしやすいというものがありま

した(Chyatte D et al., J Neurosurg 81(4): 525-530, 1994)。これは、海外の報告なので、日本

でもあてはまるかどうかはわかりませんが、「女性が晩春に多い」ということは
今回の結果と一致

しています。

 少しわき道にそれますが、
くも膜下出血は圧倒的に女性に多い病気だということは意外と世の

中に知られていません。平成15年度の厚生労働省の統計を調べてみますと、くも膜下出血による

死亡者数は、男性約5700人に対し女性約9300人と、1.6倍も女性が多かったのです。また、経時

的に見てみますと、男性の死亡者数は横ばいなのに、女性は増加傾向にあります。このことが何

を意味するのか判断は難しいのですが、女性の社会進出の増加が一因として考えられています

(岡本和士ら.厚生の指標.39: 34-43, 1992.)。


 さて、
くも膜下出血を予防するためにはどうしたらよいでしょうか。

 「気候と脳卒中」コーナーの「くも膜下出血編」でお示ししましたように、くも膜下出血は、睡眠中、

会話中、食事中など、一日中いつでも発症する可能性があります。それでは予防できないのか!?、

と思われるかもしれませんが、実は予防できる可能性があるのです。

 くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤の破裂であることがほとんどです。ですから、その脳動脈瘤が破

裂する前(未破裂脳動脈瘤といいます)に、破裂を予防できればよいのです。具体的には、前述のコ

ーナーでもご紹介しましたが、脳ドックなどでMRAという検査を受ければ、未破裂脳動脈瘤を発見す

ることができるので、その後、脳神経外科を受診して必要があれば手術(開頭術、血管内手術など)

を受ければよいのです。実際には、手術の必要がない場合の方が多いので、もし、脳動脈瘤が見つ

かったとしても、いたずらに心配しないことが重要です。

 
 
「本当に脳動脈瘤の破裂予防手術はくも膜下出血の発生予防効果があるのか」という重要な問題

があります。

 その点、第12回日本脳ドック学会総会(大阪、2003.6.13)で興味深い発表がありました。それは、

北海道の釧路脳神経外科病院(斉藤孝次理事長ら)を中心に未破裂脳動脈瘤の破裂予防手術を

過去10年以上続けていたところ、近年、釧路・根室地区でくも膜下出血の発生が減少傾向にあると

いうものです。まだ経過観察期間が短い、高血圧の有病率は減少していないか、などの検討すべき

点はありますが、非常に有意義な研究であり、今後の報告に注目していきたいと思います。



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