Patti Smith / AVALON Field (7.26 17:00)
それにしても天国への道のりは遠かった。
メインの目的は21:30からのPatti
Smithだったのでちょっとヘヴンまでの距離を確かめておきたかったのと、15時の忌野・泉谷さんを見るために森の中のラフな道を歩き出したものの、気
温は高い、遠い、アップダウンもあり、で早くもへばり気味。。「ごめん、アタシ夜のパティ、あきらめるかも・・・」と呟くと、「何言ってんのよ! ここま
できて!」と友に叱られる。。
・・で、まあヘヴンまで辿り着いただけで、西陽を受け
ながら立っているのは不可能になってしまい、忌野・泉谷さんの姿をちらっと見た後は道端に座り込んで音だけ参加いたしました。
この日配られたプログラムではメインのグリーン
ステージのMUSEが、17時となっていて、もし本当だとしたら友はMUSEも見たいし、早くも戻らなきゃならない、、というわけでまた歩き出したら途中
の電光板に「NEXT Patti Smith AVALON...17:00」の文字が。。えっ?AVALONってどこ? 夜のヘヴンじゃなかったの?
とわけわからないまま、また引き返す。
AVALONのステージは本当にこじんまりして、ナ
チュラルで、田舎の村芝居に使う舞台を低くした感じ。つまり観客が草地に座り、その同じ高さに板張りのステージがあるだけ。まわりには手作りTシャツなど
を売るお店がならんでいて、本当にアットホームな雰囲気。ここでパティのポエトリーリーディングが聞けるなんて、夢のよう。(この突然のステージは知らな
かった人も多かったようで、後でパティのライブの時に話した人は、知らなかった事を悔しがっていました、私たちはラッキーでした)
どきどきしながら待っていると、そでの垂れ幕の
隙間から、パティがちらっと会場を覗き込む。そして、にこ〜っと微笑む。
パティは詩集を片手に現れて、とても嬉しそうに、とて
も優しく笑いながらお客さんを見回して、大好きな友達に会ったみたいに「Hi〜」と手を振る。「ごめんなさいね、私は英語でしか詩を読めないから心で聞い
てね」と断って彼女の最初の作品「piss factory」を朗読する。工場で汗にまみれて機械的な労働を繰り返す毎日をとびだして、ここから出て行く
のよ、NYへ行くの、二度ともどらない、、と宣言する詩。
パティの朗読は、天性のリズム感にちがいない言葉の
ロックになっていて、彼女がまだ歌を歌った事のない頃、リーディングパフォーマンスをしていたら、いきなりステージに飛び込んでギターを弾き始めた男がい
て、それが現在までのギタリスト、レニー・ケイなのだけれど、まさにレニーが飛び出していきたくなるような疾走感、グルーヴ感に溢れていた。じつはフェス
へ行く車中、友は「Babelogue」をやってくれたら・・、私は「Beneath the southern cross」が聴けたらいいなあ・・と
話していたのだけど、これが次々と魔法のように実現して、、なんだか胸いっぱい。
とんぼはパティの声が好きなのかな? しきりにそばに
飛んできては羽を休める。私の指の上でもじっとして動かない。アコースティックギターを鳴らしながら、森の中の広場で、空の下で、風の中で、じっと耳を傾
ける若者と小さな生き物と、それらと同化しながら響くパティの歌声をきいていたら、その場所が祭礼の輪のように思えて、すべての精霊がその場に集まってき
ているような気がした。そう、ジェフが、フレッドが、リチャードが、空にいるパティの愛する人たちがみんな見守っているような、そんな穏やかな気持ちにな
りました。
・・・ところが、パティはやっぱりパンクロックの女王
だったのよね(笑)朗読するパティの顔の正面にカメラを向けようとするMTVのカメラマンを罵倒して追い払う。その台詞が凄かった。(何と言ったかはフジ
ロックのORGサイトのレポをどうぞ)で、すぐその後で、マイクに留まったとんぼに向かって「You stay here」とにっこり。いいぞ、パティ。
でも後でそのことをパティは謝っていました。謝りつつもやっぱりカメラマンの行為は許せなかったようで、「Fuckin' MTV!」と。。(パティは聴
衆と自分とを遮ろうとする者をとても嫌うみたいで、お客さんのそばへ、そばへ、と近寄ろうとするパティの姿はライブでも頻繁に見られて、カメラマンやガー
ドの行動が凄くパティの苛立ちになっていたみたい、それはまたライブのレポで)
でも、それ以外ではお客さんのすぐ目の前で語り、歌え
るのでパティは心から楽しんでいる様子でした。ふと見ると、ステージ左にお客さんに混じってひときわ背の高いレニーの姿が。。興奮してレニーに近づいてい
くようなお客さんも全くいなくて、パティも話していたけれど、フェスの雰囲気は本当にPeaceful。何かリクエストは?と問うパティに、男の人から
「Because the night」の声が上がって、内心、(これは朗読する詩とはちょっと違うのでは?)と私は思ってしまったけれど、そこはパ
ティ、上手に途中からみんなを合唱させて盛り上げる。あとで自分だったら何をリクエストしただろう、と考えてみたけれど、「La Mer」も「Notes
for future」も詩は素晴らしいのはもちろんだし、聞いてみたかったけれど、日本人の私たちの耳にはたぶん難しくって、やっぱりみんなが一番良
く知っているあの曲で良かったのかもしれないなあ。。。
みんなに語り掛けるパティの声は慈愛に満ちたお母さん
みたい。スタッフが運んでくれた珈琲を「まあ、嬉しいわ」と口に運んで、でもそれをひっくり返してこぼしてしまったら、あわてて床にかがみこんでごしごし
それを拭き取って、「I’m so miserable..」とみんなに照れ笑い。あ、そうそう、ギターを間違えたときも、亡くなった夫フレッドからギ
ターを教えて貰った時のことを話して、少女のまんまの笑顔を浮かべながら「Take2!」と言って弾き直す。怒って、笑って、照れて、感謝して、そんな心
のままをさらしてくれるパティだからこそ、戦争への抗議と平和を希求するメッセージも彼女の正直で真剣な、嘘のない言葉なのだろうと思う。終戦直後の46
年に生まれたから大戦は知らない、けれども歴史に対しては責任がある、だからヒロシマ、ナガサキ、の悲劇に対して謝らせて欲しい、と。地球上から安全な場
所がどんどんなくなっていることを憂い、だからこそ絶対に戦争を忘れるな、平和を求める気持ちを忘れるな、と、自分の子供の世代へ強く語りつづける。そし
て「People have the power」(人民には力がある)を朗読。
・・どうやら舞い上がってて記憶の順序が曖昧になって
しまったけど、最後(?)だったのかな? パティはウィリアム・ブレイクの詩を朗読しました。会場から嬉しい声が上がるとブレイクが知られている事をパ
ティは喜んで、「きっと彼も喜んでいるわ、彼は生前はぜんぜん理解されてなかったもの」とたぶんそんなような事を言いました。ブレイクの詩は「仔羊」と日
本では訳されている詩です。
仔羊よ誰がお前を創ったの
(中略)
仔羊よ教えてやろう
その方はよばれる お前とおなじ名で、
ご自分を仔羊といわれたので。
その方は おとなしく やさしく、
小ちゃいこどもになられた。
私は子ども お前は仔羊、
私たちはその方とおなじ名前。
仔羊よ 神様のおめぐみあれ。
仔羊よ 神様のおめぐみあれ。
(土居光知 訳)