彼女に思いを告げ、晴れて付き合い始めて1ヶ月。

毎日学校の帰りは二人で帰っているけれども、一緒に出かけてみたい。

とはいっても映画だと駅前ですんでしまう。

どこがいいのだろう・・・遊園地かな。

カガリは・・・彼女はどこに行きたいのだろう。

今度こそ勇気を持ってたずねてみよう。

 

彼から思いを告げられて、幼馴染から恋人へ変わって1ヶ月。

毎日一緒に帰って、休みの日も会ったりしているけれども、

一緒に出かけたことがないなと思った。

どこかに二人で行きたいな。どこがいいだろう。

アスランは・・・どう思っているだろう。

今度彼に言ってみよう。遊びに行かないか・・・と

 

もうひとつの早慶戦

 

「早慶戦?」

カガリは目を瞬いてダコスタを見つめた。

「そう・・・早慶戦。ほら去年みんなでいっただろう?」

「そっか・・・もうそんな時期か。」

確かに1年のとき、クラスのみんなで盛り上がって早慶戦を見に行った覚えがある。

ダコスタを始め、ラグビー部が5人くらいクラスにいたからだ。

「それで、2年になってクラスがばらばらになってしまったけれど、

 今年も集まろうかってことになっているのさ。」

行くだろう?という顔をしてダコスタは続ける。

「実はヤマト妹とキラは頭数に入れてもう前売り券を買ってしまったよ」

そうか・・・そういえば去年は全然クラスが違うのに

僕も行く、絶対行くといってキラがついてきたのを思い出した。

まあ体育祭で同じ組だったから多少顔見知りもいたりはしたのだけれども。

「今年もキラとくるか?」

カガリはダコスタから尋ねられ時に、別な人物が思い浮かんだ。

「あ・・・そうだな、キラの都合とか聞いてみるよ。」

「わかった・・・なるべく早く返事してくれよな。もしいけなかったら他のやつ探すからさ。」

ちょうどその時授業の始まるチャイムが鳴った。

 

「何だ?カガリ?」

学校の帰り道、ジーっと自分を見上げては視線があうと目を逸らすカガリにアスランは尋ねた。

何か言いたいことがあるように見受けられるのだが、なかなか口を開かない。

「カガリ?何か言いたいことがあるなら言ってくれ、すごく気になる。」

アスランにそこまで言われてしまったカガリは意を決したように彼に聞いた。

「あのさ・・・お前ラグビーとか好きか?」

「ラグビー?」

「あっ・・・もちろんプレイする方じゃなくて、観戦だけどさ。」

ラグビーって確か授業でもやったことのあるあれだよな・・・

楕円形のボールを後ろに投げてつなげてトライを目指すやつ。

好きというほどではないが嫌いということではない。

「どうして?」

「あ・・・いや・・・その・・・」

カガリが少し口篭もる。

「なに?」

アスランがやさしい声で促す。

「じゃあさ、11月23日って、お前あいている?」

今度はなんだ・・・11月23日って・・・その日は確か祝日だ。

今のところは特に用事など入ってないが。

アスランは首を傾げながらカガリに言った。

「すまない、カガリ。もう少しわかるように話してくれないか?」

あっ・・・ごめんとカガリは小さく呟きアスランの顔を見上げて聞いてきた。

ほのかに頬が赤く染まっていることにアスランは気がついた。

「えっと・・・毎年11月23日にはラグビーの早慶戦が開催されるのだけど知っているか?」

「野球じゃなくって?」

「うん。ラグビーの」

「いや知らなかった」

「そっか・・・・」

アスランはラグビーへの興味があまりないようにカガリは思った。

そして少し落胆した表情をみせた。

そんなカガリの様子を見たアスランが少しあせって声をかける。

「それでラグビーの早慶戦が何だって?」

カガリはちょっと迷っているように見えた。

「カガリ?」

「もし・・・よかったら、いっ、一緒に早慶戦見に行かないか。」

えっ・・・・アスランは驚きで目を丸くした。

そして胸がドキドキとなってきた。

「あっ・・・いや・・・そのお前がラグビー嫌いなら・・・しょうがないけれども」

カガリは小さい声で呟いた後、恥ずかしいのか俯き、さらに続けた。

「去年はクラスのみんなと行ったのさ。で、今年は・・・そのお前と行けるといいな、と思って。

 その今年もみんなでいかないかと誘われたのだけど、お前といけるならそっちは断ろうかと思って。」

アスランは突然の彼女の申し出にうれしくて言葉がすぐに出てこなかった。

「おっお前と一緒に・・・出かけたいな・・・なんて思っていたから。」

もしかして同じ気持ちだった・・・・

アスランも彼女と出かけたいなと思っていた。

そう彼女が今日早慶戦のことを言い出さなかったら、遊園地に誘ってみようと思っていたのだ。

まあこの際、遊園地は後回しでも全然かまわない。

アスランは思わず彼女の腕をつかみ抱きしめた。

「えっ・・・アッ、アスラン」

突然のことでカガリは驚きの声をあげた。

付き合い始めたといえ、抱きしめられたのはまだ数えられるほどだった。

ギュッとさらに力をいれて抱きしめながらアスランはカガリに言った。

「いいよ。一緒に行こう。」

「本当?」

「ああ、俺も・・・一緒にどこか出かけたいって・・・ずっと思っていたから。」

カガリに先こされちゃったな・・・彼の呟きが聞こえた。

「よかった・・・・」

そういってカガリもおずおずとアスランの背中に手を回した。

 

「ダコスタ」

放課後、教室から出て行くダコスタにカガリは声をかけた。

「なんだ、ヤマト妹」

ちょっと躊躇しながらもカガリがダコスタに告げる。

「えっと、この間言っていた早慶戦だけれども・・・用が入ったのでいけなくなった。」

「そっ・・・か、それは残念だな。」

ダコスタは8組の濃紺の少年を思い浮かべた。

「みんなに『ごめん』って伝えてくれるか。」

「ああ、いいよ。・・・・・・ま、しょうがないか。じゃあまた明日な。」

そう答えてダコスタは手を上げ部室へ向かおうとした。

がっかりする何人かの顔を浮かべながらも

カガリが断りをいれてくるのはダコスタも予想はしていたからだ。

「あっ、ダコスタ,待ってくれないか。その・・・」

「うん?なんだ、まだ何かあるのか・・・」

ダコスタはカガリのほうを振り返っていった。

「その悪いけどさ・・・早慶戦のチケット2枚売ってくれないか?

「は?」

「いや・・・その・・・この間、私とキラの分は頭数に入って買っているっていっていただろう。

 だからその分を売ってほしいのだ。」

「えっ・・・何・・それってもしかして」

勘の鋭いダコスタはある一つの結論にたどりつく。

「・・・用事がはいったのではなく、みんなとは行けないってこと?」

「あっ・・・・」

カガリの顔が真っ赤に染まった。

「ごめん・・・」

「いいって・・・そっか、あいつと行くつもりか。」

はにかみながらカガリは答えた。

「あ・・・うん、そうだ。行ってもいいって言ってくれたから。」

「わかった、明日もってきてやるよ。」

「ありがとう・・・それからみんなには黙っていてくれるか・・・その・・・」

「了解。先約があったということだろう?」

「えっ?」

「アスランと早慶戦に行くって先に約束していたってことだろう。」

「あ・・・ありがとう」

 

えっと・・・アスランはパソコンの前で睨めっこをしていた。

画面には地図が広がっている。

ここが秩父宮ラグビー場だから・・・表参道の近くで昼食をとれば大丈夫かな。

歩いていってもいいし、一駅だけど地下鉄に乗ってもいいよな。

母さんから教えてもらったお店は・・・と、こことここで・・・

うーんやっぱり今度の休みに下見に行ってこようかな。

ラグビーの試合は14時キックオフだとカガリから聞いたアスランは

彼女に朝から出かけて、どこかに寄って、昼食をとってから試合を見に行かないかと提案した。

 

「じゃあカガリ、早慶戦の前にどこか行きたいところがあるか?」

「原宿」

「へ?」

「原宿に行きたい。この間ミリアリアといって面白かった」

「そ・・・そう」

「それに表参道に出ることができるから、秩父宮にも近いと思うけどな。」

 

原宿っていったい何があるのだろう?

アスランには今ひとつピンとこない。

まあ、カガリが行きたいところであればどこへでも連れて行ってあげたい。

初めてのデートは自分から誘いたかったのだが、

ぐずぐずしているうちに彼女から誘われてしまった。

しょうがないな、俺って・・・・少し自嘲気味になる。

まあどっちから誘うということは関係ないか。

早慶戦の帰りに今度は俺が遊園地に行かないかと誘ってみればいいよな。

そうしてアスランはまたパソコンと睨めっこを始めた。

 

(2004.9.20)

 

あとがき

2年生の時の早慶戦の話です。初デートです。

前後編となってしまいました。次回は当日の話を書きたいと思っています。

キラが1年のときに早慶戦についていったのは悪い虫予防のためです。

アスランは昼食のために感じのいい店を母親に聞いてしまい、カガリのことがばれました。

 

 

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