第1章 3

 

遅い・・・早く帰れるといったのにもう9時だぞ。

少しカガリは不機嫌になってきた。

「・・・ったく、連絡ぐらいしろよ。」

テーブルの上にはビーフシチューがのっている。

朝はロールキャベツを作ろうかと思ったのだが、昼間モルゲンレーテでキラと話をしてやめた。

 

「ただいま」

玄関から声が聞こえた

「おそーい!」

カガリが玄関へ向かって子供のように走り出した。そしてアスランに勢いよく抱きついた。

「・・・おい!」

アスランはカバンを床に落とし、カガリをだき止めた

「ごめん。大学の仕事がたまっていて。」

カガリを自分の腕の中にとじこめながらアスランは謝った。

「でも、早いか」

カガリはアスランをみあげ、にこっ、と笑った。さっきまでの不機嫌さはどこふく風といった感じだ。

そのあと少し恥かしそうにアスランの胸に顔をうずめて小さな声でいった。

「うん。早いぞ。全然」

アスランもまた嬉しくて彼女をギュッと抱きしめながら答えた。

「でも・・・やっぱり少し遅いよな」

カガリが腕の中で首を振る。

それが嬉しくてアスランは彼女の顎に手をあて上を向かせて言った。

「お帰りなさいのキスは?」

カガリは頬を染め、少しはにかんだ顔をして・・・彼の唇に自分の唇を重ねた。

「久しぶりだな」

「ああ・・・そうだな」

そういいながらアスランの顔が近づいてきたのでカガリは目を閉じた。

今度は彼の方から彼女に口付ける。

ただ重ねるだけのものではなく、彼女の唇を確認するかのように軽くついばむようなキス。

そしていったん唇を離したあと、彼女の両頬に手をそえ、角度をかえもう一度口付けをする。

今度は濃厚なキス。

彼女の唇をわって、舌を侵入させ彼女のそれを探し出し絡める。

久しぶりなカガリはそれだけで頭がくらくらしてきた。

アスランもまた玄関先にいることを忘れて夢中になっていた。

が、カガリの息があがってきたのに気がついていったん唇を離した。

カガリは余韻に浸るように甘いため息をついてアスランの胸に顔をすりよせた。

そのしぐさにアスランは堪らなくなって、彼女に再び顔を近づけていった。

 

と、そこでカガリがはたと現実にもどり、近づいてくるアスランの頬を両手でつつむようにして抑えた。

「ちょ・・ちょっと待って」

えっ?とアスランは一瞬驚いた顔をし、眉をピクリと動かした。

「なんで?」

とても不機嫌な声に聞こえた・・・が、カガリはひるまずに続けた。

「えっ・・・と・・・その食事の用意がしてあるから・・・リビングへ行か・・・」

「カガリはキスしたくないの?」

自分の頬に添えられているカガリの手をとり、逆に顔を近づけながらアスランは言った。

「そ・・・そんなことない・・・あ・・・」

アスランは再び彼女の唇を塞いだ。今度は左手を彼女の腰に回し右手で彼女の頭を抱き寄せて。

彼女に有無をいわせないように情熱的なキス。

「う・・・ん・・・あ・・・」

彼の左手は彼女の背中をさまよい始めた。

まずい・・・このままでは・・・

カガリは彼の唇が離れた隙に、必死で言葉を放った。

「あの・・・さ・・・私は明日9時にはアスハの屋敷に行かないといけないから・・・」

「だから・・・」

彼は彼女の首筋に唇を這わせながらきいた。

「その・・・せっかく食事を作ったから・・・食べないか」

「うーん・・・俺はカガリを先に・・・」

「けど、そうしたら食事が・・・」

「あとでいいだろう?」

アスランが耳元でささやく。

「だって・・・私、寝てしまう・・・・・・その・・・たぶん。だから・・・食べられないと思う。」

アスランは顔をあげた。

「明日の朝も早いから・・・その・・・」

カガリの顔は真っ赤で・・・少し泣きそうな顔をしていた。

「せっかくお前が・・・その早く帰ってくるから・・・一緒に食べようと思って作ったのに」

カガリの必死な顔を見て、まあ彼女の言うことにも一理あるなと思ったアスランは

「そうだな・・・今日はまだまだ時間があるよな・・・ごめん」

カガリの額に自分の額をおしあてていった。

「シャワー浴びてくるから、用意していて」

「うん」

カガリの顔が喜びで綻んだ。

 

アスランがシャワーからリビングへ戻ってきたときにはテーブルの上に食事の準備が整っていた。

「これはなかなか豪華だな・・・」

カガリがさっきこだわっていた気持ちがわかった。

テーブルの上はきれいにセットアップされており

温野菜のサラダ、白身魚のカルッパチョ、パン、それからシチュー皿が並べてあった。

そしてカガリの温め直したビーフシチューの鍋を手にキッチンから入ってきた。

「あ・・・うん・・・その・・久しぶりだし、私は今日休みだったし・・・それにシチューだからそうでもないさ。」

カガリが少しはにかみながら答えた。

ワインで乾杯をしたあと二人は食事を始めた。

頃合いをみてカガリがシチューを皿にとりわけ始めた。

「あ・・・・そういえば、その魚はどうだった?この間マーナに教えてもらって初めて作ったのだけど。」

「へえ・・・、おいしいよ。」

「よかった。」

カガリは満足そうな笑みを返した。

マーナに報告しなきゃ・・・彼女は小さく呟いて喜びを全身で表していた。

アスランはカガリが母親に教わるように侍女のマーナに聞いている姿を思い浮かべた。

「あのな、本当は今日休みだったからロールキャベツにしようかと思っていたけどさ。」

「そうなの?」

「けど、昼間キラのところに行ったら・・・」

「キラ?って、モルゲンレーテにいったの?」

アスランがちょっととがった口調でカガリの話をさえぎった。

「あ・・・うん。」

「俺が大学にいったあと?」

アスランはちょっと不満そうな顔をしていた。

「だって・・・午前中は家のことやっていたし。それに・・・その明日の・・・」

彼が帰った後にモルゲンレーテにいったのがまずかったのかとカガリは悟り慌ててフォローをいれた。

「ほら、明日の料理と今日の夕食のメニューが重なるとまずいかな・・・と思ってさ。だからそれを聞くために・・・」

アスランはじろりとカガリを見た。まだ・・・不満そうに見えた。

カガリはいいにくそうに・・・頭を掻きながら答えた。

「ついでに、会議の資料のこととかも聞いたけど・・・ね。」

それをきいて、アスランは思い出したように、けれども相変わらず不機嫌そうな顔をしながら、カガリにたずねた。

「あのさ、カガリ。俺には最近質問とかあまりしないけど・・・仕事のほう大丈夫なのか?」

「え?」

シチューを口に運ぼうとしていたカガリの手が止まった。

「いや、今日大学でちょっと思って・・・最近どうしているのかな、と。」

ああ・・・とカガリは頷いて、とまっていた手を動かした。

「まあ、俺の方もちょっと忙しかったから聞けなかったのかもしれないが。今日キラに聞いて解決したならいいけれど。」

カガリは視線をちょっと泳がせて、そのあとソファーの方をちらりと見た。

「う・・・ん、実は聞きたいことはあるにはあって・・・ソファーの上のあのファイルだけど。」

「ああ、あれね。」

カガリは大きく頷いた。

「じゃあ、食事がおわったらみることにするよ。」

「ありがとう!アスラン」

 

食事を終えたあと、コーヒーを手にしてアスランはソファーに腰をおろした。

そして、たくさんの付箋がついているファイルを手にしたアスランは思わず呟いた。

「こんなに・・・これじゃ1時間くらいじゃ終わらないな。」

量がすくなければ、今日のうちに片付けてしまって、週末をゆっくりと二人ですごそうかと

アスランは考えていたのだが、半日はゆうにかかってしまいそうな量だった。

テーブルの上を片付けていたカガリが彼の言葉に気がついてアスランの側に近づいた。ーにたにうににきはとでこーひーこ

「あ・・・いや・・・お前に聞こうと思ったのは赤い付箋のところだけで・・・」

カガリが頭を少しかきながらいった。

「あとはキラにきいたから・・・」

 それにしても結構赤い付箋があるように見えた。

「あっ・・・その・・、日曜日でいいのだけど。に、日曜日もあいているっていっていたよな。」

アスランはファイルをぱらぱらとめくり始めた。

「その・・・ごめんな。」

カガリがぽつんといった。

「えっ、何が?」

アスランは資料に気をとられ生返事をした。

「いや・・・せっかくの休み・・・もしかしたら・・・これで結構つぶれてしまったら・・・」

カガリは声のトーンを落として答えた。アスランは思わず頭を上げた。

「そんなこと・・・俺のほうこそ時間がいままでとれなかったわけだし。」

「でも・・・、あ・・・あのさ・・この★のマークがついているところだけでも・・・大丈夫だから」

カガリが顔を近づけて・・・アスランの手元にあるファイルを覗き込みながらいった。

「そうなのか・・・。でも他のところも必要なのだろう?」

「・・・・うん、まあね。けど・・・もうちょっと後でも大丈夫なんだ。」

「まあとりあえず見せてもらうよ・・・赤いところだね。」

アスランがファイルを見始めたのを確認したカガリはキッチンで洗い物を始めた。

コーヒーを飲みながらカガリのファイルを一通りみたアスランは小さくため息をついた。

やはり日曜日の半分くらいはこれでつぶれてしまうか。

しかたないか。

顔を上げるとキッチンで動いているカガリが目に入った。

 

 「なあ・・・明日にすれば・・・」

アスランはカガリを後ろから抱きしめ、腰に手を回し彼女の頭をのせささやいた。

 「あ・・・アスラン・・・お前」

カガリは思わず洗っている皿を落としそうになった。が、洗うのをやめなかった。

チュウ・・・アスランは彼女の首筋に後がつかない程度にキスをおとした。

カガリはさすがに驚いて、手を止めた。

「おい・・・やめろよ。」

腰にあった左手がいつのまにか彼女の胸を弄びはじめた。

「俺が明日洗うから・・・」

「う・・・ん・・・、こら・・・、でも・・・」

「・・・・だめ?」

アスランは取っておきの声で彼女にささやいた。

「も・・・・う・・・」

彼女はかるく彼を睨んで、手にしていたスポンジを流しにおき手を洗った。

「あ・・・」

それを合図にアスランはカガリを抱きかかえ、寝室へと向かった。

 

彼女をベッドに横たえアスランは彼女の上に覆いかぶさり口付けを落とし始めた。

「明日はドレスなのか?」

「いや・・・たぶん・・・違うか・・・な」

「そうか・・・」

彼は、彼女の鎖骨あたりに赤い印をつけた。

「あ・・・」

「ドレスは着ない、っていったよね?」

「けど・・・・あっ・・・」

 

3週間ぶり・・・かな。よく我慢ができていたものだ。

そう思い・・・アスランは彼女に見えないように一つ苦笑をした。

そして・・・その甘いやわらかい彼女を堪能し始めた。

 

二人の長く甘い夜が始まった。

 

 (2004.11.21)

 

あとがき

またしても久しぶりの更新です。しかも金曜日の夜だけ終わってしまった。

ラブラブな週末と予告していましたが・・・そうなっているかしら。

そういえば、プラント視察に行く予定が入っていることをまだカガリは告げてないし

アスランも聞いていませんね。次回でなんとか1章をおわらせたいです。

 

 

 

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