Summer Days

今日は梅雨の合間で久しぶりに朝から太陽が顔をだしていた。

アスランは学校の靴箱の側の花壇に腰をかけ本を読んでいた。

カガリのクラスでは、まだホームルームが続いている。

クラスマッチの選手を決めているので今日は時間がかかっているのだ。

二人が通っている高校では、夏休みの終業式の前に毎年クラスマッチが行われている。

熱心なクラスは期末試験の後の試験休みに練習をしたりしているのだ。

先にホームルームが終わったアスランは、最初は靴箱の壁に寄りかかってカガリが出てくるのを待っていた。

が、10分ほど待っても、見上げた校舎からそういう気配が感じられなかった。

相変わらず熱心だよな・・・、きっと、カガリのクラスは練習とかするのだろうな・・・。

彼はそう思い、場所を移し、本を読み始めたのだ。

 

ホームルームが終わり、教室を出たカガリはまず廊下の窓から下を覗いた。

が、靴箱の側にアスランの姿が見えなかった。

「あれ?」

彼女は振り返り、辺りを見回した。

ざわついているのは自分のクラスだけだった。

カガリは首を傾げたあと左手の時計を見た。

いつもより遅い。

「おかしいな。もうあいつのクラスも終わっているよな。」

どこにいるのだろう。

今日はこれから試験勉強をアスランの家ですることになっている。

来週はもう期末試験なのだ。

彼が黙って先に帰ることはない。

クラスマッチの事を今日のホームルームで決めると伝えてあるから自分の教室で待っているのだろうか。

いろいろ考えたあと、彼女は一つ上の階のアスランの教室に行くことに決めた。

廊下を進み、階段を駆け上り、上の階に着いたところで、もう一度カガリは窓を覗いた。

すると靴箱の向こうの花壇に腰をかけ、本を読んでいるアスランの姿が目に入った。

いた!

なんだ、向こうにいたのか。

頬を緩め、カガリはくるりと向きを変えて、はやる気持ちを抑え、階段を一段飛ばしながら駆け下りていった。

結構待たせてしまったに違いない・・・そう思ったカガリは急いでスニーカーに履き替え、彼の下まで行こうとした。

が、彼女は途中で足を止めた。

顎に手をあて、本に夢中になっているアスランをじっと見つめたあと何か悪戯を思いついたような表情を見せた。

彼女はそっと足をしのばせ、彼に近づくことにした。

最初のうちは、彼がいつ気づいてくれるか少しワクワクしていた。

が、いっこうに気がついてくれないアスランに、カガリはちょっとつまらない気持ちになった。

アスランは自分を待っていることを忘れてしまっているのではないかと思えてきたのだ。

それで、彼女は辺りを見回し、誰もいないことを確認し、花壇に入りこみアスランの後ろから近づいていくことにした。

 

「それ、おもしろいのか?」

彼の肩越しに本の中を覗き込みながら声をかけた。

「えっ・・・」

アスランは声のする方向に顔を向け、カガリが自分の肩越しから本を覗き込んでいる姿にきがつき、驚きの声を発した。

「うわっ・・・カ、カガリ・・・ちょっと・・・。」

彼の視界にカガリの白い首筋が目に入った。

アスランの胸が高鳴り、動揺した。

「何の本を読んでいるんだ?」

覗き込んでいるカガリのブラウスの襟の間から胸の谷間が見えそうで・・・

暑いからといって彼女が一つボタンをはずしているので余計にだが・・・

頬が熱くなっていくのを感じたアスランは、思わず視線を本に戻した。

彼の心臓はドキドキとなり始めた。

「おどかすなよ。びっくりしたじゃないか。」

アスランは少しカガリから体を離すようにして答えた。

その態度が気に入らなかったカガリは彼に近寄り、そのまま彼の隣に座ろうとした。

が、それに気がついたアスランは逆に急いで立ち上がった。

本を左手に持って、右手でかるくズボンをパンパンと土をはらった。

「なんだ、もう読まないのか?」

カガリは、ちょっとがっかりした声で尋ね、座るのをやめた。

だが、彼が夢中で読んでいた本の内容が気になるらしく、

体を曲げてアスランが持っている本のタイトルを覗き込んできた。

彼女を仕草が気になりながらも、少し落着いたアスランは本をカバンにしまいながら答えた。

「ああ・・・。それに、電気工学関係の本だよ。」

「ふーん。」

本のタイトルを聞いたカガリは本に興味を失ったようだった。

「行こう。」

アスランはカガリに声をかけた。

カガリが頷き、二人は校門に向かって並んで歩き始めた。

 

帰り道、二人は近づいてきたクラスマッチのことを話していた。

が、アスランの家に近づいたところで、カガリは話題を変えた。

「なあ、試験勉強なんだけど・・・今日はうちでやらないか?」

えっと、アスランが足を止めた。

「キラが今日は一緒にやりたいって昨日言ってきた。初日だけは一緒にしないか・・・って」

今思い出した・・・と下をペロリとカガリが出して言った。

「それって・・・まさか」

眉を顰めたアスランの様子を見て、カガリが笑った。

「お前の予想通りだよ。古文のヤマを教えてほしいって。」

アスランは苦笑した。

キラは、古文が苦手だ。

とはいえ、推薦で大学入試を狙っていることもあり無下にすることもできない。

受験科目にはないのだが・・・。

まあ、以前からアスラン頼みの一夜漬けというパターンが多い。

「それに、ついでに今日は家で夕食とっていかないか、おばさん、仕事で泊まりなのだろう?」

カガリは昨日、母親が言っていたことを思い出し、付け加えた。

「あっ・・・ああ、まあそうだけど。」

「今日だけだってキラは言っていたけど。」

まったく・・・とアスランは呆れながらも、ちらりと、カガリの白いうなじを見つめた。

彼女の家で勉強をして食事をとるのはよくあることだ。

その場合、一度自分は家に帰って着替えていく。

帰る時間を気にしなくていいから、自分も彼女も落ち着くからだ。

だが、ここ最近は彼女の家を訪れるのは複雑な気分でもあった。

それは恋人で幼馴染の彼女の無邪気な行動に戸惑うことが増えてきたからだ。

 

やっぱり・・・

カガリの家を訪ねたアスランはまずそう思った。

彼女は彼の予想通り、赤いノースリーブのタンクトップに短パンで出迎えた。

アスランは彼女のすらりとのびた足に一瞬釘付けとなった。

去年までは全然気にならなかったのに・・・いや気にはなっていたが、

今年のようにどきどきし・・・触れたい・・・という気持ちまでは湧きあがらなかったのだ。

だが去年とは違い、幼馴染から恋人同士へと二人の仲が進展してしまったからこそ

彼女の一挙一動にアスランはときめき、・・・戸惑っているのだ。

今日の学校の帰りでもそうだった。

冬の制服の時にはそこまで気にならなかったのだが、

6月に入り制服が夏服になってから・・・顕著に感じるようになっていたのだ。

「アスラン、遅いよ。待ちくたびれたよ。」

キラもリビングから顔を出してきた。

アスランは苦笑した。

カガリもちょっと呆れた顔をしながら、二人に向かって言った。

「じゃあ、私の部屋でいいよな。何か飲み物持ってくるから、先に部屋へ行っていて、アスラン、キラ。」

ちらりとリビングに向かうカガリを目で追ったあと、

もう少し・・・自覚してほしいと願いながらアスランは彼女の部屋へと向かった。

 

(2006.12.2)

書き始めたから出来上がるまで3ヶ月近くかかりました・・・情けない。

忙しかったのとアスランのどきどき加減がなかなか書けなかったのでありました。

これでも伝わっているかどうか・・・うーん。

そういえは、今はもうホームルームと言わないかもしれないが・・・学校って何時頃終わっているのでしょうか?

本当はキラも含めた3人の会話を入れて終わりたかったのですが・・・できなかった。

次回は冬コミの原稿が終わってからかな。

 

Next

 

目次へ戻る