アスランは子供達と一緒に食事をとるために、子供達の頭を撫でた後、立ち上がった。
それから、テーブルにつこうと足を進めた。
が、できなかった。
ニコルがアスランの右足にしがみついていたのだ。
すると、ヴィアもそっとアスランの左腕を抱きかかえた。
その様子に普段彼らと接していないアスランはどうしようかと戸惑い、助けを求めるように、思わず彼等の乳母のマーナを見た。
彼女はクスリと笑った後、子供達に向かって声をかけた。
「さあ、二人とも席についてください。お父さまもお食事をとられるのですから・・。
お二人とも一緒に食べられるのでしょう?」
その言葉に、ヴィアは何か言いたそうにアスランを見つめた後、いそいそとテーブルへ戻り、よいしょ、と自分の椅子へと上った。
だが、ニコルは、相変わらすギュッとアスランの足を抱きしめたまま、じっとマーナを見つめた。
その仕草は幼い頃のカガリを思い出させた。
彼女はアスランとニコルを交互に見ながら言った。
「お父さまは逃げませんよ。今日からお休みですよね。」
あっ、とニコルはアスランの顔を見上げた。
「おやすみなの?」
ニコルが確認するように尋ねた。
アスランは微笑みながら答えた。
「そうだよ。」
「わすれたの、ニコル?」
すると、いつまでもアスランにしがみついているニコルに対して不満なヴィアは少し頬を膨らませてニコルに向かって言った。
「おぼえているよ。」
言われたニコルもブーと頬を膨らませながら答え、とことこと自分の席へと向かった。
アスランは子供達の様子に苦笑しながら自分も席についた。
自分の食事が運ばれてくるまで、アスランは幼い二人の食事の様子を見ていた。
彼らが小さな手でパンケーキを切り、フォークをつきさし頬張る姿を見て、大きくなったと感じ目を細めた。
一緒に食事を取るのは久しぶりだ。
前回会ったのは宇宙港での待合室でシャトルの出発までの時間だった。
カガリが子供達と訪ねてきたのだ。
その時はほぼ日帰りに近いスケジュールだったので、彼らと会うことを諦めていたアスランを驚き喜ばせたのだった。
が、時間が短く・・・子供達の成長をあまり気がつかなかったのだ。
しばらく大人しく食事をしていたニコルが手を止めた。
それから食事を始めたアスランをちらりと見た後、目の前のヴィアに視線を移した。
が、彼女は黙々と食事を続けていた。
ニコルはその様子が不満なのかちょっと頬を膨らませて・・・また、アスランの方を今度はじっと見つめた。
「なんだい、ニコル?」
ニコルの視線に気がついたアスランが手を止め尋ねた。
「えっと・・・その・・・。」
ニコルは、困ったようにヴィアをちらりと見た。
が、彼女は相変わらず、マイペースで食事を続けていたので、彼は続けた。
「あのね、ちちうえ、おねがいがあるの。」
「ずるいよ、ニコル。それはわたしがいうってきめたじゃない。」
ニコルの言葉に、ヴィアが慌てて食事の手をとめて口を挟んできた。
「だって、ヴィア、いつまでたってもいわないじゃないか。わすれ・・・」
「わすれていない・・・。」
「じゃあ、はやくいわないと、ちちうえ、たべおわっちゃうよ。」
彼の言葉に、彼女は、はっとアスランの手元を見て、口を開いた。
「あのね、おとうさま・・・あとで、ほんをよんでほしいの。」
「いつもは、ははうえがよんでくれるけど、きょうはちちうえに、って。」
「きのう、ふたりでそうだんしたの。おとうさまにたのんでみようって。」
相談って・・・アスランは子供達の顔を交互に見つめた。
期待に満ち溢れた二人の瞳に対し、彼はちょっと照れくさそうに答えた。
「俺でよければ・・・・。でも、カガリほど上手くないと思うけど。」
「やった!」
急いで食べないと・・・と、二人は言葉を交わし、手を動かし始める姿を見て、アスランは暖かい気持ちに胸がいっぱいとなった。
(2007.10.8)
あとがき
2006年11月からの通販のペーパーです。
普段、子供たちと一緒に過ごしていても・・・アスランはきっと彼等のパワーに押されているんじゃないかと思っています。
一緒の部屋で寝起きしている双子は、いつもなんらかしらおしゃべりをしています。
この後は、オフ本「この宇宙(そら)の向こう」のエピローグに続きます。