アスランとカガリはベッドで寝ているニコルを見つめた。

思い出したようにカガリが言った。

「明日起きたら、ニコルは機嫌が悪いかもしれないな。」

アスランはカガリの肩口で首をかしげた。

「お父様が来た時に起こしてくれればよかったのに・・・といいそうだ。」

クスクスとその様子を想像しながらカガリは続けた。

「ニコルはお前のことが大好きだからな。」

その言葉に驚いたアスランは思わず顔をあげ、ニコルを見つめた。

「そうなのかな。・・・仕事ばかりであまり相手をしていないのだが。」

ふと父パトリックの姿が頭に浮かんだ。

いつも仕事ばかりで自分には近寄り難かった。

自分ももしかしたら・・・

「そうか?・・・ちゃんと相手をしているじゃないか。今日だって一緒に 海に行っただろう。」

カガリはただ感じたまま言った。

が、アスランの気分は少し浮上した。

「いつも一緒にいるばかりだけじゃないと思うぞ。」

カガリは父ウズミのことを思い出していた。忙しい彼と一緒に過ごせる時間は少なかった。

が、一緒に過ごせる時には、きちんと父は自分と向き合ってくれていた。

幼いカガリにはそれだけ十分だった。

だから自分もニコルに対してそう接しているし、アスランだって同じようにしてくれていると、カガリはいつも感じていたのだ。

「カガリのこともニコルは大好きだよ。」

彼女の肩口に再び自分の顔を埋め、アスランは言った。

二人の話し声に反応したのか、手を広げ上を向いて寝ていたニコルがころりと体の向きをかえ、横を向き二人の方に顔を見せた。

彼の濃紺の髪はアスランを思わせる・・・とカガリは感じていた。

一方アスランは、ニコルの顔立ちはカガリに似ていると以前から思っていた。

それに、性格も。

「それにしても、ようやく二人きりで、ゆっくりできる。」

カガリの肩口から再び顔をあげ、彼女をもう一度抱きしめ直ししながらアスランが言った言葉に、カガリはクスリと笑い、彼の顔を見上げた。

一週間ぶりにアスランに会ったので、ニコルは一日中彼のうしろをついて回っていた。

「ずっとニコルがお前に纏わりついていたからな。」

アスランはカガリに顔を近づけた。

彼の意図することを悟り、カガリは目を閉じた。

アスランは彼女の唇の輪郭を確認するように、軽く、しかし、少し長めのキスをした。

「そういえば、マーナさんが言っていたな。ニコルを見ていると昔のカガリそっくりだって。」

「え・・・どこが?」

カガリが意外な顔をしてアスランに尋ねた。

アスランはクスクスと笑いながら言った。

「マーナさんは、俺の後ろを追いかけているニコルの姿を見ると幼い頃のカガリを思い出してしまうそうだ。」

カガリが真っ赤な顔をして俯いた。

確かに自分も父が休みのときは今日のニコルのように追いかけていたような気がする。

「俺もマーナさんと同じで、ニコルを見ているとカガリが小さい頃はこうだったのかな・・・とか思っているよ。」

「マ、マーナは、私の小さい頃しか知らないからそういうだけだ。」

カガリは赤い顔をしながら反論した。

「わ・・・私は、お前の小さい頃はこうだったのかなとニコルを見て思っているぞ。」

「どこが?」

アスランは思わず尋ねた。

自分では思い当たらない。

カガリは俯いてちょっとおもしろくなさそうにポツリと言った。

「聞き分けがいいところ。」

そうなのだ、ニコルは不満げに顔を膨らますが、「はい」と頷くのだ。

自分はもっと駄々をこねていたような気がするのに。

「そうかもしれないな。」

アスランは、カガリの様子に笑いながら答えた。

アスランの笑い声が大きかったのか、ニコルが「うーん」と身じろいだ。

「まあ、元気なのが何よりだから。」

カガリの言葉にアスランは頷き二人はベッドへと向かった。

 

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(2006.8.28)

 

あとがき

年初めの通販のペーパーとして書いたものです。

本当は5月くらいにサイトにアップしようとしたのに・・・。

ただ、ただ甘い話です。

前編、後編のあとがきにも書きましたが、管理人のオフ本の表紙を書いていただいている

徳司千尋さんの「Astraia」に展示してある「うちへかえろう」というイラストを見てイメージしたものです。

種戦後の設定で「二人をつなぐ小さな灯火」の後日談です。

 

 

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