「えっ!?塾?」

「ごめん。もう決めたんだ。しばらく行こうと思うんだ」

 

すれちがいの誕生日

 

今日は日曜日、ここはアスランの部屋。

アスランとカガリはベットによりりかかるように並んで座っている。

駅前の家電量販店で購入したカガリの携帯電話の設定をアスランが彼女に尋ねながら行い、

使い方をおしえ、お互いに携帯でのメールのやりとりなどをやっていた。

その作業が一段落したところで、アスランがカガリに塾のことをきりだした。

塾の件については急に思いついたのではなく以前からアスランは考えていたのだ。

両親からも『行かないのか?』と問われていたりもしていた。

それでも今のところは塾に行かずとも、なんとか成績の方は維持していたこともあり、

それにカガリと一緒にいたいという気持ちの方を優先させてたこともあるため、あまり積極的に考えてはなかったのだ。

が、この間から始まった学校での補講に出席して、志望校が同じメンバーの情報をきいた結果、

やはりレベルの高いところでもまれないとまずいかもしれないと、少し危機感を覚えた。

「週に3回、月水金、なんだけど、学校の補習の後に行くことにしたんだ。駅前なんだけどさ。それで・・・」

そのあとの言葉の予想がついたのか、カガリは驚いた表情のまま、携帯に目をおとしKEYをいじりはじめた。

「塾が終るの9時だから、その・・遅くなっちゃうんだ」

塾の日はあえないということは具体的に言葉にせず、だた、すまなそうにアスランはいった。

「迷ったんだけど、補習にでている皆の話をきいていると行ったほうがいいと思って。」

「そうっか。でも、塾のない日や土日は会えるんだろう?」

俯いていたカガリが顔をあげ、少し寂しそうにアスランにいった。

が、アスランはカガリと視線をあわせないようにいいにくそうに続けた。

「えっと・・ごめん、その土曜日も」

「えっ!土曜日も」

「土曜は東京の予備校の講習に行くんだ。T大受験対策コース」

「T大コース・・か」

かがりはそう呟いて、また手元の携帯をみつめた。

「その・・ごめん。黙って決めて。でも・・・急に決めたんじゃなくて、以前から考えていて」

アスランはカガリの顔を覗き込んで続けた。

「怒って・・・るよね」

するとカガリは首をふるふると横に振って、チラッと上目遣いにアスランを見て

「しょうがないさ。受験生だもんな。」

といって笑った。

それをみて幾ばくか安心したアスランは逆にカガリに尋ねはじめた。

「というか、お前も一応受験生だろう?勉強しているのか?11月からの補講の追加募集にも申込んでいないみたいだし。」

さっきまでの態度から一変して、急に自分の方に話題が変わったので、カガリは驚いた。

なんだよ、こいつ・・・さっきとずいぶん態度が違うぞ、と思った。

そして少し不愉快になり、また携帯に視線をもどしいった。

「うん・・。まあ少しづつだけどちゃんとやっているさ。」

「そうか。俺としてはカガリが補講に出てくれると、もう少し会えるからうれしいんだけど。」

アスランは俯いてしまったカガリの顔を覗き込みながらいった。

「俺が塾に通うことにしても、補講に出てくれれば帰り一緒に帰れるだろう。」

 

アスランの言っていることは受験生としてはもっとものことであり、カガリも十分わかっていた。

が、カガリは補講を受けてまで、塾に行ってまで一つ上のランクの大学をうけるという気にならないのだ。

一応通っている高校が進学校で、ほとんどの生徒が卒業後大学へ進学しているため、彼女も進路としては進学希望と表明している。

しかもアスランにはきちんと告げてなかったが、彼女は今でも県立大学の文学部はA判定を維持している。

ただ、彼女にとっては勉強を一生懸命やって、その結果として、県立大学の文学部から

ランクが一つ上の国立大学の文学部へ入学をすることが可能になったとしてもそれはあまり大差がないことなのだ。

アスランのように(最高レベルの)機械工学を学びたいので・・・というそういうものがカガリには見つからないのだ。

そりゃがんばってアスランと同じ大学に入れるというのであれば塾にでもなんでも行くけれどなあ・・・

とカガリは心の中でつぶやいた。

 

カガリが黙りこくってしまったので、彼女が怒っているのではないかとアスランは誤解した。

そして様子をうかがうかのように、さらに声をかけた。

「カガリ・・?」

カガリは我に返った。

「怒ってないさ。」

「そうか・・・でも・・」

機嫌がとても悪そうに見えるだけど、とアスランはそう思ってまた彼女の顔を覗き込んだ。

「しつこいな。塾のことは怒ってないさ。お前が私の受験勉強のことをとやかくいうからだ。」

「あっ・・」

違うか?といわんばかりにカガリが上目遣いでアスランの顔をみた。

「そうだね。ごめん。それに、これからはカガリも携帯買ったからメールできるし」

と、アスランは自分の携帯をとりだした。もう既にカガリの情報は登録済みだ。

「あ・・そうだ」

とアスガンは何か思いだしたように立ち上がった。

少し機嫌がもどりつつあったカガリ怪訝そうにそれをみつめた。

彼は机の引出しからなにかを取り出し戻ってきてベットに腰をかけた。

そしてカガリにあるものを見せた。

「これ・・・。」

カガリが驚いた顔で彼を見上げた。

「その・・携帯を買うって聞いていたから、昨日塾の申込にいった帰りに買ってきたんだ。」

それは携帯のストラップだった。AとCのアルファベットのパーツを使ったもの。

アスランの携帯にも同じストラップがついている。

「俺のストラップは、カガリがくれたものだから今度は俺があげたいと思ったんだ。」

 

アスランのストラップはカガリがアスランのために選んで作ってもらい買ったものだ。

デートの時にたまたま入ったアクセサリーの店で

パーツを選び、オリジナルのストラップやキーホルダー等が作れるコーナーで立ち止まり、

キーホルダーが丁度欲しかったといって目を輝かせて選んでいたカガリのために

アスランはキーホルダーを買ってあげた。

遠慮するカガリに自分の分も買うし、お揃いにしたいからといって。

するとカガリがお礼にといって、ストラップを買ったのだ。

 

カガリはアスランが一人でアクセサリーの店に入り、回りの視線に照れながら

ストラップを注文している姿を想像して顔が綻んできた。

「携帯かして・・。つけていい?」

アスランはカガリから携帯を受け取りストラップをつけた。

そして、ほらっと自分の携帯と一緒に持って、カガリにみせた。

カガリは先ほどまでの不機嫌が吹っ飛んでしまった。そして、

「アスラーン!」

といってカガリはアスランに抱きついてきた。

「ありがとう。すごく、すごーくうれしいよ。」

アスランはカガリを受け止めながら答えた。

「気に入ってくれてよかった」

「うん」

そしてアスランは少し意地悪をいった。

「機嫌が直ったみたいだし、嬉しいよ」

カガリは現金な自分に気づき真っ赤になった。そしてアスランの腕の中で暴れ出した。

「もう・・・お前、ずるいぞ・・」

可愛い・・可愛すぎる。ああ、もう我慢できない。

そんな彼女にお構いなしに、アスランは彼女の頭を左で固定し目を伏せ彼女に顔を近づけていった。

あ・・・カガリも察したのか、大人しくなり目を伏せ彼の唇をまった。

それは長く熱い口付け。アスランの舌が彼女の唇を優しくこじあけ口内を味わう。

彼女の体から力が抜けたのを確認し、アスランはいったん唇を離し、そのまま彼女をベットに押し倒そうとした。

と、カガリが口を開いた。

「あっ、アスランちょっと待って、思い出した」

「えっ」

押し倒そうとした手をとめて、彼女を腕の中にとどめたまま、不機嫌そうにアスランは言った。

「何?」

「あのさ、さっきのストラップで思い出したんだけど、今年の早慶戦はどうする?行かないか?」

 

アスランも思い出した。カガリに誘われてラグビーの早慶戦を去年一緒見にいった。

二人で遠出するのが初めてで、とても嬉しく緊張をしたのを覚えている。

早慶戦を見る前に原宿に行き、そこでキーホルダーやストラップを買ったのだ。

そして・・・帰り道、二人ははじめてのキスをした。

 

「受験生かもしれないけど、1日くらいは大丈夫だよね。」

だめか?といった感じで首をかしげながらアスランに尋ねるカガリだった。

そんなカガリの仕草にときめきながら、アスランは考えた。

ラグビー早慶戦は11月23日と決まっている。今のところは模試の予定もない。

確かにカガリのいうとおり1日くらいいいかもしれない。

「ああ。そうだな。今年も一緒に行こう。」

カガリが満面の笑みを浮かべた。

「本当にいいのか。前売券買っちゃうからな。」

「ああ」

「約束だぞ。絶対だぞ。破ったら口きいてやらないからな。」

こつんと、アスランはカガリの額に自分の額をつけた。

「わかった。約束する。口をきいてもらえなくなるのは勘弁だからな」

そして目を伏せ、もう一度彼女の唇を味わうために顔を近づけていった。

再び長い口付け・・・彼は今度は彼女の身体を弄り始め、やがて彼女をベットへ押し倒していった。

 

月曜日の夜。

机の上の早慶戦のチケットを見てカガリは胸が躍った。

今日からアスランが塾に通うことになり、帰りあえなかったのだが、

チケットをみて、昨日の会話を思い出すと寂しさが少し紛れるような気がした。

ピピピ・・

携帯のメール着信音がなった。アスランからのメールの着信だ。

カガリは時計を見た。9時半だった。

 

今家に着きました。これから夕食です。

落ち着いたら電話するかもしれません。

 

カガリは返信を打ち始めた。そしてふとあることに気がついた。

アスランの誕生日が近づいている。が、そのことについて何も約束をしていない。

今年のアスランの誕生日は土曜日だ。確か土曜日も塾だといっていた。

少し前だったら気にしてなかったのだが、塾で遠出するのであれば、夕方会う約束をした方が確実だ。

(誕生日を一緒に祝いたいので会いたい、とは言いたくないのだが)

 

明日相談してみよう・・・カガリは呟いた。

 

(2004.6.20)

 

あとがき

まだラブラブな二人です。

とはいえアスランは塾に通い出し受験勉強一色となってきました。

 

 

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