卒業

 

2月に入り学校は長い試験休みとなった。

次に学校へ行くのは卒業式とその前日だけとなる。

アスランとカガリが通う学校は毎年3月1日が卒業式と決まっている。

いよいよ一般受験を選択したメンバーの本格的な試験シーズンが始まるのだ。

アスランもその一人だった。

「今日も自動車学校に行ってきたのか?」

代々木にある予備校の教室で問題集に目を通していたアスランは顔をあげ、声の方向を見た。

ダコスタだった。

「相変わらず、余裕だな。」

そう言ってダコスタは彼の前の席に座った。

カバンから問題集や筆記用具を出し、机の上に並べ始めた。

これから英語の授業が始まる。

文系の学部を受験するダコスタと一緒に受ける唯一の時間だった。

センター試験が終わり各自の目指す志望校や学部が明確になってきたのだ。

そのためアスランは一人で予備校の授業を受ける機会が増えたのだ。

「自動車免許の方はどんな調子だ。もう路上とかなのか?」

荷物を置き終えたダコスタがアスランの方を向き、更に尋ねた。

アスランは彼の言葉に首を振りながら答えた。

「2週目だからまだまだだよ。」

「ヤマト達はどうだ。」

自然に話題は二人の共通の知り合いの双子の話となった。

「キラは順調だけど・・・カガリは苦戦しているようだ。」

「へえー、あいつでも苦戦することがあるのか。」

ダコスタの意外そうな表情に気がついたアスランはフォローするように言った。

「いや、普通の人に比べたら上手い方だと思うけれど。」

俺たちと比べるから機嫌が悪くなるのだよな、とアスランはブーッと頬を膨らませているカガリの顔を思い出して笑った。

 

アスランは午前中自動車学校に行き、午後から予備校に通うという生活を送っていた。

カガリも自動車学校はアスランと一緒に行き、午後は家の手伝いをしていた。

バレンタインが終わるまでのバイトだとアスランは聞いていた。

彼女は1月の終わりに専門学校を決めた。

双子の兄キラと同じく進路が決まったので試験休みをのんびりとすごしていた。

自動車学校は当初、アスランは受験中だからといって、カガリと二人だけで行くことをキラは計画していた。

が、その話をカガリから聞いたアスランが自分も一緒に行きたいと言ってきたのである。

受験生なのに・・・という二人の問いかけに対して、いい気分転換になるし、規則正しい生活となるから大丈夫だと

アスランは答え、一緒に申込みをしてしまったのだ。

そしてその言葉通り、アスランは朝、カガリと一緒に自動車学校に出かけ、技能講習を受けていた。

そのあとキラと合流し3人で学科講義を1時間受けていた。

学科講習が終わったあと、アスランは予備校へ通っているのだ。

カガリは、いつもアスランと一緒に自動車学校を出るのだが、今日は技能講習の車に空きがあったので、

キラと同じく学科講習の後に技能講習を受けることにしていた。

彼女の話だと自分より2時間は遅れているらしい。

焦らなくてもいいのに・・・とアスランは思っているのだけれども、なかなか伝わらないようだ。

 一方、キラの話を聞いたダコスタは、彼の様子を想像して笑い始めた。

「まったくあいつらしいな。」

「だろう?」

アスランの同意の言葉にダコスタは頷いた。

「でもよく乗れるな、混んでいるだろう?」

ダコスタもアスランと同じようにこの期間に自動車学校へ通う事を考えてなかったわけではなかった。

が、準備が遅く、申込みに行った時にはすでに自動車学校の方も混んでいて、2月の後半からしか通えないといわれ諦めたのだ。

「朝一番に乗るのは、若干まだ余裕があるから。

だから早く行って予約を取れるだけいれているよ。

あ、でもキラは・・・。」

「ヤマト妹に頼んでいるってことか。」

アスランの次の言葉をダコスタがウィンクをしながら先に言った。

「そういうなよ。カガリが世話好きなだけだよ。」

「一応キラのフォローをしているわけだ。」

ダコスタは面白そうに笑った。

カガリの世話好きのことも本当だ。

だからキラが甘えてしまうのだ。

「それはそうと話は変わるけどさ、願書はもう送ったよな。」

頭をぽりぽりと掻きながらダコスタが尋ねてきた。

「この間、郵便局でだしたけど、受験票がくるまでは心配だよな。

ちゃんと記入したかなとか気になってさ。」

アスランも彼の言葉に同感と頷いた。

「足切りでだめだったら諦めがつくけど、記入不備でだめだったらがっかりするよな。」

もちろん足切りには引っかからない成績をお互いにとってはいる。

「ああ、さすがに俺も緊張しながら書いたよ。」

アスランも先日、願書に記入して郵便局に持っていたときの事を思い出して答えた。

すると身を乗り出すようにダコスタが話してきた。

「そうだろう。母さんから自分で書きなさいといわれて困ったよ。」

「でもチェックとかはしてもらっただろう。」

「まあな。」

アスランもカガリや母レノアに確認をしてもらって送った。

「じゃあ、大丈夫だよ。」

アスランの言葉に、自分を納得させるかのようにダコスタは頷きながら答えた。

「そうだよな。それから、私立も受験するよな。」

「ああ、一応、W大とK大を受けるつもりだ。」

「やっぱりそうだよな。」

「受けておけばと母に言われたから。」

曖昧な表情でアスランは答えた。

実際のところ、彼はあまり私立を受けるつもりはなかった。

というか受けることすら考えていなかったのだ。

母レノアからT大にこだわるのならば、私立は受けなくてもいいわよ、万が一失敗した場合は、浪人してもかまわないから

と言われて、始めて私立大学の事を意識したのである。

それに、アスランは、浪人という言葉が気になったのだ。

そして、自分が浪人をして、カガリが専門学校に通うことを想像した。

すると少し切ない気分になってしまったので、私立の事を考え始めたのである。

 もちろん、アスランは私立の事をカガリに相談した。

「お前、受けないつもりだったのか?」

アスランの話を聞いたカガリはまず目を丸くしながら答えた。

だが、その後、彼女は明るく言い放った。

「大丈夫だろう、お前なら。浪人しそうに見えないし。」

アスランは妙に自信を持っていう彼女に脱力したのだった。

 

(2006.7.2)

 

あとがき

さて最終章のスタートです。たぶん3回で終了です。

ちょっと短いかもしれませんが、キリがいいのでここで一回あげました。

ほとんど、アスランとダコスタの話になってしまいました。

アスランは結局、自動車学校に通いながら、受験勉強をしています。

彼のことだから、真面目に11時間、車に乗っていると思います。

ちなみに、カガリとキラは同じ先生の車に乗っています。

次回は自動車学校の話と、前期試験の話かな。最後は卒業式の予定です。

 

 

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