Poets On The Road


 昨年のパティ・スミスのポエトリー・リーディングで泣いていた女の子たち・・私 にとってもかけがえのない体験でした。言葉って人をこんなにも感動させ、励ますものなのか。言葉を発する人の存在感と、その人と同じ場所で声を聴くという ことが、こんなに意味を持つことなのか、あらためて考えました。

 機械から流れる電子音声、本当に判で押したように均一なリズムで吐き出されるラップミュージッ クの言葉、、、呪文のように繰り返される言葉の洪水は、とうとう街中のマーケットで売り子の役割までし始めて、、「白線の後ろへおさがりください」「ドア が開きます、ドアが閉まります」「雨の日は足元がすべります・・」「お気をつけ下さい」「ご注意ください」「さかなさかなさかな・・」「きのこのこの こ・・」、、、これらのことに私たちはそろそろうんざりし始めてきたのではないかしら・・?
 機械的な反復の音は、わたしたちにとっては無視することをうながすもの、そうしなければ耐えられない ものになってしまったけれど、体温をもつ人間の声はそうではない、ということにだんだん気づき始めたのかもしれません。言葉を声にすること、そのリズム、 その抑揚、耳に触れる感触、あたえられるやすやぎ、あるいはまた、ときめき、想像。。
 
 今回はそんな「声」を感じるためのCDをご紹介します。音に最も敏感なミュージシャンたちが、言葉に 着目して、言葉と音楽を出会わせた、というのはもっともなことだと思います。過去のWAVESに「声の文化と文字の文化」がありますので、そちらも参照し ていただけたら、と思います。そこでは、声の発し手と聞き手の関係は集団とか共同体をつくりだすものである、という特徴から、形だけ、イメージだけで、声 の文化を真似ていることへの危惧を書きましたが(もちろん言葉を鵜呑みにする危機感は常にあります)、今回はその反面として、「声にされた言葉」ができる 何か、について探してみましょう。(文中のリンクをクリックするとAmazon.co.jpなどのリンク先へとびます)





Eagle  Talk / Tom LaBlanc, Yamaguchi Hiroshi, and Hosomi Sakana

絵  / 仲井戸麗市

Closed On Account Of Rabies 〜Poems and Tales of Edgar Allan Poe

The Lion For Real / Allen Ginsberg

Kicks joy darkness 〜Kerouac トリビュート

The Raven / Lou Reed




    **  Eagle Talk **

       Tom LaBlanc, Yamaguchi Hiroshi, and Hosomi Sakana

(2002年)

 昨年12月に発売されたばかりのこのアルバム「イー グル・トーク」を知ったのは、朝刊でした。ちょうどリーディングに関心を持っていた時期でもあり、眼についたのですが、すぐに「買う!」と決めた のは、ギターを弾いているのが山口洋さん、と書かれていたからです。山口さんは20年のキャリアのロックンローラーですが、恥ずかしながら私は2年前まで 存じませんでした。モッ ト・ザ・フープルのトリビュートアルバム『MOTH POET HOTEL』を聴い た時、「ロックンロールは人生に敗れた者のゲームじゃない!」と歌う心意気に感激して山口さんの名前が頭にインプットされたのです。
 トム・ラブランクさんはネイティブアメリカン、ダコタ族の詩人。すばらしい声をしています。大地や生 命を感じさせる声、ただしそれは安らぎばかりではなく、人間がこの大地の上に流し続けてきた血や恥に対する怒りの声でもあります。解説にあるように「ロ ビー・ロバートソンより低く、レナード・コーエンより強気な声」・・うん、そう思います。
    ラブランクさんの深い声を聴いていると、父親がわりをつとめてくれた叔父の声を思い出す な・・・その話を少し・・・
 大地そのものが生命を持って語りかけてくるような、深く低いラブランクさんの声・・・。最近こんな声 を持った人にはなかなか出会わない、と思いつつ聴いていた私に遠い記憶が蘇ってきました。七、八才の時のことです。そのころ父は病の床にあって、そんな日 々の中、農家の伯父の家へ遊びに行くことが私にとっての旅行であり冒険でした。私は伯父に連れられて、初めて野焼きを見ました。乾いた草に火が点けられる と、真っ白い煙が周囲を覆い、目に見えない昼間の炎は草を黒く焦がしながらひたひたと地を舐めるように拡がっていきます。その時、伯父が太い声で「風下に 行くなァ!」と怒鳴ったのでした。
 風下(かざしも)…私はその意味を知りませんでした。けれども、白い煙にのみ込まれてしまいそうな子 供の私に向かって発せられた伯父の声の響きと、驚くような速さで這ってくる黒い焼け焦げの線によって、私は初めて聞くその言葉の意味がわかったのでした。 語意によって言葉を理解したのではなく、声によって理解したのです。
 声には、そんな不思議な力があります。ラブランクさんの語りは英語ですが、ギターを弾いている山口洋 さんは何か「言霊」のようなものを感じて、すっと理解できたと雑誌で話していらっしゃいました。このCDでは歌っていませんが山口さん自身、とても気骨の ある声を持ったシンガーでもありますから、魂が共鳴するような調和を互いに感じることができたのでしょう。その共鳴は「あらゆる命は繋がっている」という インディアンの精神「グレイトスピリット」のあらわれの様に思います。

 No more murdering, no no no!、このアルバムはたくさんの人に聞いて欲しいなとおもいま す。

山 口洋さんのバンドHEATWAVEのオフィシャルサイトはこちらです>>






  **  絵  / 仲井戸麗市 (1990年) **

 日本語を聴くCD、ということで大好きなCHABO さんのソロ2作目の『絵』を。
 RCサクセションのたくさんの歌も好きでしたけど、当時からCHABOさんが大好きだった。華やかな 色を持った清志郎さんも素敵だけれど、モノトーンに徹したチャボさんに惹かれてて、何かのインタビューでチャボさんが好きなギタリストとしてブルース系の ギタリストと共にトム・ヴァーライン(Television)の名前を挙げていたのがまた嬉しくて、その少し後に出たチャボさんのソロは私が抱いていた チャボさんの大好きな印象、人づきあいがちょっと苦手で、引っ込み思案で、甘くは無いけど心から正直で、胸の底に絶対に許せない怒りを抱えてて、でもひさ こさんが大好きで・・。そして何より素晴らしかったのが歌詞。
 幸いCHABOさんのホームページのディスコグラフィーには全部のCDが載っているし、歌詞も全部掲 載されているので、読んでみたい方はそちらでチャボさんの詩の世界を味わって下さい。

 それで、どうしてこの『絵』というアルバムを選んだかと言うと、ここには俳句を歌詞にした歌が あるからなのです。「スケッチ'89・夏」という曲。ここには、三つの句が歌われていて、私 の記憶違いでなければ、チャボさんのお父様がつくられたものだとか。たしかご友人か、大事な方を亡くされた心境を詠まれたのだと思います。(もし、記憶違 いでしたらご容赦下さい)
   
    お別れの 何か告げてる 目の涼し
 
    コラもっと 日陰歩けよ 黄泉の道  (「ス ケッチ'89・夏」歌詞より)

 チャボさんはそれぞれの句を2回ずつ繰り返してゆっくりと歌っています。日本語は、とりわけ俳 句や短歌は、読む時のスピードがとても重要なものです。というよりも、世界でも最も短い詩形の中に凝縮されている思いの量が、声として開かれた時、さっと 読み上げて次へ移ることををゆるさないのだと思います。ここに歌われた句の素晴らしさと同時に、チャボさんが2回ずつゆっくりゆっくり歌ったことで言葉に こめられた思いがいっぱいに伝わってくるような、そんな歌。(句と歌の優しさに何度も泣いた歌です)
  もちろん、チャボさん独自の詩も、言葉の微妙な使い方におどろかされるところばかり。例えば・・

    他へ行こう 他へ行こう 他へ行こう
    他へ行こう 他へ行こう 他へ行こう
    どこへでも ホーボーへ   ホーボーへ 
          (「ホーボーへ 〜アメリカン・ フォークソングへのレクイエム」より)

 「方々へ」を「ホーボーへ」と表すセンスに嬉しがっていたら、そんな程度の意味ではなかったの ですね。「ホーボー」は英語で(Hobo)[houbou] 放浪者、渡り労働者、の意味。 ジャック・ケルアックの『孤独な旅人』(新宿書房 96年発行)の中にも「消えゆくアメリカのホーボー」と いうエッセイがあって、ケルアックも時代と共に消えていくアメリカの放浪者たちのことを「ジェット機時代はホーボーを十字架に懸けつつある、だってどう やって貨物輸送機に飛び乗るのだ?」と愛をこめて書いています。たしかに「方々へ行く」っていう言い方、最近はしなくなりましたよね。
 ちなみにチャボさんのこれらの曲は、今年1月発売の「Chabo's Best Hard & Heart 」の中にも入っています。

仲井戸麗市さんのオフィシャルサイトはこちらです>>





  ** Closed On Account Of Rabies
〜Poems and Tales of Edgar Allan Poe **
                       (1997年)

「すべてはポーにつながる」とアレン・ギンズバーグはこのアルバムのライナーで語っています。 「バロウズ、ボードレール、ジュネ・・・ディラン・・全ての文芸にポーの影響を辿る事ができる・・」(ライナーより/訳・筆者)
 もちろん私自身、英詩の朗読がラクに聴き取れるほどの英語力はないのですが、ここに参加している ミュージシャンの名前を見たら、興味を覚える方がたくさんいるのではないでしょうか。

disc1. 
1. Alone (ひとりで)・・・ Marianne Faithfull
2. The Raven (大鴉) ・・・ Christopher Walken
3. The Tell-Tale Heart (告げ口心臓) ・・・ Iggy Pop (*)
4. The Conqueror Worm  ・・・ Ken Nordine
5. The Black Cat (黒猫) ・・・ Diamanda Galas (*)
6. For Annie (アニーに寄せる) ・・・ Gavin Friday
7. To Helen (ヘレンに) ・・・ Ed Sanders

disc2.
1. The Haunted Palace (狂える城)・・・ Ed Sanders
2. Ulalume (ユーラルーム) ・・・ Jeff Buckley
3. Berenice (ベレニス) ・・・ Dr. John (*)
4. The City and the Sea (海中の都市) ・・・ Deborah Harry & The Jazz Passengers
5. Annabel Lee (アナベル・リー) ・・・ Marianne Faithfull
6. The Masque of the Red Death (赤死病の仮面) ・・・ Gabriel Byrne (*)
7. The Raven (大鴉) ・・・ Abel Ferrara

アーティスト名の後に(*)をつけたものは小説、それ以外は詩です。イギー・ポップが低い声で語る「告げ口心臓」など、時間があれば本(翻訳でも)を見な がら聞いていると大変リアル。。。そして、ポーが「朗誦用の詩を」と依頼され、「朗誦することで人を陶酔にみちびく」(『対訳 ポー詩集』岩波文庫解説) という『ユーラルーム』。これを、ジェフ・バックリーの朗読で聴くと、天上に棲む最愛の人へ捧げたこの詩の、美しい韻律の意味がわかるような気がします。 ライナーによれば、アレン・ギンズバーグがジェフに朗読の手ほどきをし、97年2月13日に録音がされ、翌日ジェフはレコーディングが中断していた2作目 のアルバムのためにメンフィスへ戻ったそうです。このアルバムを遺してギンズバーグは4月5日に他界、ジェフは5月30日にミシシッピー川で行方不明 に、、、。

♪ こちらのサイトで視聴が出来ます>>





  ** The Lion For Real **
        Allen Ginsberg (1989年)

 最初にご紹介したエドガー・アラン・ポーのCDも、このアレン・ギンズバーグのポエトリー・ リーディングCDも、それから後でご紹介するルー・ リードの新作『The Raven』も、プロデューサーはハル・ウィルナーという人 です。このような詩と音楽とのコラボレーションによるCDを手掛けたこの人ってどんな人なのかしら・・?と思っていた所、佐野元春さんが編集出版していた 雑誌『THIS』のインタビューで取り上げられていたらしく、Web上にそのファイルが公開 されていました。プロデューサー、ハル・ウィルナーや、ビートニク詩人であるローレンス・ファーリンゲッ ティ、マイケル・マックルーア、ゲイリー・スナイダー、エド・サンダースなどについて知る上でとても参考になったので、関心のある方はご覧 になってみてはいかがでしょう。
 『THIS』 のインタビューはこちらで読めます>>

 このアルバムはアレン・ギンズバーグ自身による詩の朗読に、ミュージシャンが演奏をつけたも の。JAZZ風のものあり、演劇的なものあり、、、ギンズバーグの声はう〜〜ん余り魅力的な声とは思えないけれど、檻に捕らわれたライオンがぐるぐるぐる ぐる歩き回るような、絶え間ない独白のような、ギンズバーグの即興的な言葉のつらなりを耳で味わうのは、翻訳された詩集を読むより、解りやすく思えまし た。(某CD屋さんの3枚500円コーナーで見つけたんですけどね、コレ)
 このライナーに書かれていたのですが、当初ギンズバーグはレコーディングに乗り気ではなかったそう。 けれども、当時ハル・ウィルナーが手掛けていたマリアンヌ・フェイスフルの『ストレンジ・ウェザー』というアルバムをギンズバーグが気に入 り、マリアンヌの激励もあって、ギンズバーグはこのレコーディングをやる気になったそうです。マリアンヌの『ストレンジ・ウェザー』は私もとても好きでか つてよく聴いていたアルバム。マリアンヌ〜ハル・ウィルナー〜ギンズバーグの結びつきが、後にエドガー・アラン・ポーのCDにもつながっていったことがわ かります。

1.Scribble    
2.Complaint of the Skeleton to Time
3.Xmas Gift
4.To Aunt Rose  (ローズおばさんに)
5.Lion for Real  (本物のライオン)
6.Refrain
7.Shrouded Stranger
8.Gregory Corso's Story  (グレゴリイ・コオソの物語)
9.Cleveland, the Flats
10.End   (終り)
11.Stanzas: Written at Night in Radio City
12.Sunset  (日没)
13.Hum Bom!
14.Kral Majales
15.Guru
16.Ode to Failure
17.C'mon Jack
       ( )内に日本語タイトルを載せたものは『ギ ンズバーグ詩集』(思潮社)に収載されています。

Amazon.coで視聴が出来ます>>



  **  Kicks joy darkness 〜Kerouac トリビュート〜  **
                       (1997年)

 ビート・ジェネレーションという言葉の生みの親で、JAZZを愛し、言葉を愛し、人を愛し、ア メリカじゅうを駆けめぐった淋しがり屋の旅人、ジャック・ケルアック。彼を慕ってやまないミュージシャンたちが思い思いの方法でケルアックへ捧げた、音と 言葉のアルバムです。参加アーティストの名前がすごいです。モーフィーン、リディア・ランチ、マイケル・スタイプ(R.E.M.)、スティーヴン・タイ ラー、ジョー・ストラマー、ジョン・ケイル、パティ・スミス、エリック・アンダーセン、グレアム・パーカー、ジェフ・バックリーらのミュージシャンに、 ジョニー・デップ、マット・ディロンという俳優に、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ、ローレンス・ファーリンゲッティ、ジム・キャロル、マ ギー・エステップらの作家陣。。。
 ケルアックは溢れ出る言葉を物凄いスピードで書き留めていき(あるいはタイプしていき)決して書き直 したりしなかったそうです。路上の真ん中にまっすぐに引かれたセンターラインみたいな長い長いロールペーパーにひたすらにタイプして出来上がったのが、ま さしく『路 上』という物語。
   「On the Roadは読んだ?」
   「ああ、読んだよ。何度も読んだ、15の時にね」
 バー・カウンターに並んでレッド・ストライプだったかテカテだったか、缶ビールを飲みながら、青い眼 の青年と交わした言葉。あれからもう15年にも。。「俺たちと一緒に行かないか?」 そんなことをあっさりと言ってのける放浪者たちは今ごろどこかに根を 下ろしたかしら・・。愛する人と家庭をもつことが出来たかしら・・。
 青空にそそり立つアルプスがいつも見守っていた私の田舎に、どうしてそういう世界からの放浪者たちが 立ち止まって(中には住み着いて)、毎週末いつもの店に集まってはそこが社交場にもなりディスコにもなり、、そんな奇妙な夏のひとときが何故出来たの か、、、考えてみればNYを後にしたケルアックが目指したのがデンバーだった。町の片側には雄大なロッキーがそびえていて、それを越えたら未知の西部が 待っている。その風景になんとなく似ていたのかしらん・・?
 
 ケルアックの早口の朗読にコンビューターサウンドをミックスしてクラブ風にアレンジした、ジョー・ス トラマーの曲がとても見事で、そう言えば『サ ンディニスタ!』時代からこういうセンスは素晴らしかったんだなと感心したり、MTVのポエトリーチャンネルから生まれたという新世代の詩人、マ ギー・エステップの朗読はさすがエキセントリックで格好いいし、ジョン・ケイルの「月」の歌はケルアックが独りになった時のナイーブな感じがとてもする し、それぞれの曲や語りが独特で全30作品どれも楽しめて、それと言うのも、中川五郎さんの丁寧な翻訳のお陰。高木完さんの訳詩は高木語になっていて、こ れはこれで翻訳詩でのトリビュート作品かも、と思います。

 ・・・聴衆は朗読会場の後方から犇きあって前の 方へと押し寄せ、ほくはワインを片手にガロン瓶でぐびぐび飲みながら「行けぇー」と大声で叫び、アレンは彼の「吠える」の詩を吠えるように読み、そこには ほかにも頭のぶっ飛んだ詩人たちがいて、とにかくめちゃくちゃな状態で、永遠に終わることはなく・・・(1955年のケルアックの手紙/ CDブックレッ トより 中川五郎訳)

こちらのサイトで視聴できます。>>
なお、日本盤の方はボーナストラック付き。(カタログNo.VACK1128)



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