B 「猛暑中にみられた高齢者脳梗塞5例の臨床的検討」
岩本俊彦ら、日老医誌 36: 565-571, 1999.
ちょっと古い論文ですが、今年も猛暑でしたので、みなさんにご紹介したいと思います。
1)要旨
猛暑中に脳梗塞で入院した65歳以上の高齢者5例と、その前後の猛暑でない時期に脳卒中で入院した
高齢者8例、猛暑中に脳卒中で入院した65歳未満の若年者1例、その前後の猛暑でない時期に脳卒中で
入院した65歳未満の若年者7例とを、それぞれ比較した研究です。
猛暑中に脳梗塞を発症した高齢者の特徴は、いずれも活動中あるいは活動後の午前中に発症したも
のであり、脳血栓が3例、脳塞栓が2例ありました(脳梗塞と脳塞栓の違いは、メニューの「気候と脳卒中」
の「脳梗塞」のページをご覧ください。)。原因としては、猛暑下での過剰な発汗が脱水症を助長し、脳梗塞
を惹起したのではないか、と推察しています。さらに、予防として、起床後に十分な水分をとることが重要で
あるとしています。
2)私の意見
この論文の「考察」でも高齢者の特徴について取り上げていますが、みなさんもご存知のように、人間は
年を重ねるごとに、どんどん体内の水分が失われていきます。赤ちゃんが最も瑞々しく、おじいちゃんやお
ばあちゃんが一番乾いているわけです。したがって、高齢者の場合、発汗などで体内の水分が失われると
若年者に比べて早く脱水症状を起こしやすくなってしまいます。今年の猛暑でも、高齢者の方の熱中症患
者が非常に多かったのは、記憶に新しいことですね。
この論文で強調しているのは、高齢者の「激しい運動による急な発汗」を避けるべきだ、という点です。
確かに、若い人なら多少発汗してもしばらくの間は大丈夫でしょうが、高齢者は違います。普段から、比較
的余裕がない状態ですので、短時間にちょっとでも発汗して水分を失ってしまうと、すぐにでも脱水症や血
液粘調度亢進(ようするに「ドロドロ」)を起こし、脳梗塞へといたってしまう可能性が高いのです。
とはいえ、いったいどのタイミングで水分を補給したらよいか、わからないことが多いですよね。この論文の
筆者が推奨するように、朝起きたら水分補給をする、というのも1案ですが、それでは、その後は一切水分
補給しなくてもよいのでしょうか。もちろん、そのようなことはありません。たとえば、毎食後に必ずコップ1杯
の水を飲むことを習慣づけることもよいと思いますが、自覚症状として、「発汗を感じたら水を飲む」ことが重要
だと思います。
発汗には、運動により上昇した体温を下げるために、汗が皮膚から蒸発するときに必要とされる気化熱を
体から奪うという役目があります。ごく少量の発汗は体感せずに蒸発し、有効に気化熱を奪って体温を下げ
る効果を発揮しますが、多量の発汗は、蒸発せずに流れ落ちる熱放散を伴わない無効発汗となります。つ
まり、自分の体表を「つーっ」と流れる汗を感じたときには、発汗が過剰である証拠ですから、水分補給が
必要であるというサインとなるわけです。
具体的な予防法をまとめますと、
1 500ml程度のペットボトル(水が望ましい)を常に携帯し、発汗を感じたら1口飲む。
2 発汗を感じる運動(たとえばウォーキングや山登りなど)をするときには、スポーツドリンク(ポカリスウェ
ット、アクエリアスなど)を持ち歩く。
3 熱中症予防に準じて、帽子をかぶり、日陰での適度な休憩をとるようにする。
4 もちろん、炎天下のゴルフやサウナの後のビールは厳禁!!
5 朝起きたらまずコップ1杯の水を飲む。
6 寝る前や、入浴前後にもコップ1杯の水を飲む。
となりますが、メニューの「気候と脳卒中」の「脳梗塞」のページも、今1度ご確認ください。(2004.9.16)