** パティ・スミスの東京公演(7・16・2003)について のレポです。 **
レポというより、一個人ファンの日記かな、しかも曲目とかの事実関係はまことに覚束ないですので、ご理解下さいね。
(でもなんだかやたらと長い、です。ご勘弁を)



 今回、東京公演だけは日本のミュージシャンJUDE が前座で出ることになりました。その理由は全く知りません。私自身は正直言って1,2曲しか耳にしたことがないのでパティとのつながりもわかりません。浅 井さんが以前一緒に活動したUAさんは、パティのカヴァーをしていましたけれど。。というわけでJUDEは1時間弱の演奏、パティはきっと8時ごろから だったでしょう。全てが終わって私が駅の時計を見上げた時は10時45分でした。(疲れた〜〜)

 今年のパティの来日は彼女自身のアート作品展「Strange Messenger&Cross Section」の開催に合わせてのもの。この作品展 は米国でも先に開催されていて、今年はその他にもパティは数々の詩のフェスティバルへの参加など、単にミュージシャンの枠におさまらない活動を続けていた ようなので、今回のLIVEがどんなものになるか、予想がしにくかったのです。特に新年のケネディセンターはアコースティックライブだったし、米国ではオ リヴァーと二人だけで催されたアコースティックLIVEの話もあったので、いろいろ想像しすぎてしまったのかも。。フジロックでのパティのポエトリーリー ディングは、平和への彼女のメッセージとして多くの人に強い感動を与えたものだったし・・・そんなこんなで私の思いは定まらないままメンバーを待ったので した。

 去年のFujiではパティを挟んでレニーとトニーの背の高いマイクスタンドが立っていたのけれど、今回はちょっと配置が違う。低いマンクスタンドも。。 もしかして、アコースティックな演奏に?・・・などと考えているうちにメンバーがあらわれる。。髭面のレニーだ! ケネディセンターでのインターネット LIVEで見た時のあの大学教授のようなお髭だ。(最初からレニーのことかい・・と怒らないで下さいネ。じつはLIVEの前に今回はオリヴァーも来ると分 かっていたので、トニー&オリヴァー寄りでよく見てみたい衝動にかられてて、それを友にメールしたら、「だめだよぉ〜〜、あなたはレニー側でなきゃ」とこ ちらの胸の内を見透かしたようなお返事が・・・で、入ってみればやっぱりレニーの正面の(呼吸困難になるとイヤだから最前列ではない)場所にいたのでし た)
 話をもとに、、、パティの登場シーンは、、、それが憶えてないのです。笑いながら手を振って出てきたのか、淡々と中央へ歩いてきたのか・・オープニング は「Rock&Roll Star」!! オリジナル曲でなく、ベスト盤にも入っていないこの曲で来るとはびっくり。60年代のダークでクレイジーなこの曲。なんだかクールに攻撃 的に始まった印象。この曲をぶつけてきたのは、60年代風のアレンジで演奏する最近の音に慣れている若者たちへの挑戦状かしら(会場には70年代以降に生 まれた若者がいっぱい)・・・なんだか不敵にテンション高いです、パティものっけから煽ってきます。どうやら本物のロックンロールを見せつけるつもりなの ね、OK。これでなんだか自分のあやふやが吹っ切れてこっちも踊ることにしました。(ちょっと不愉快な行為をする男がいたので、この曲が終わった所で一 喝! 礼儀をわきまえろよ、若造)
 そして去年のFujiには姿を見せてくれなかったオリヴァーがいるので演奏が厚い。いい感じ。つづいては「Waiting Underground」だったか「Dead City」だったか両方だったか忘れたけれど、オリヴァーの曲だ!と思ったのを覚えてる。ノイジーなオリヴァーのギターの音が嬉しい! 正直言って前座の JUDEの演奏も良かったのだけれど、何故ここまで音量のレベルを上げるのか理解不能、心臓と鼓膜がばくばくしてしまって、余りの音の大きさに神経が参っ てしまいそうだったのです。実際、JUDEのファンも大勢前列に陣取っていらっしゃいました。だからなんだかパティ、最初から飛ばしてるぞ、と思ったのは そんなこともあって・・? ただし、パティたちの演奏は極めてクール。音量もさきほどよりずっと押さえてある。クールのままクレイジーになれるってわかっ てもらえるかしら。

 今回のトニーはピアニストに徹していた、、、という位、ずっと坐ったまま。(実際、ベースを弾く時も後半までずっと坐ったままだったのです・・何故??  トニーがレニーと向き合ってorオリヴァーと3人でJamる所を楽しみにしてたのに、、、ちょっと残念、だけど背の高さからいって目立つトニーだから、 パティとオリヴァーを前面にするために引っ込んでた? それとも腰とか痛めた・・?)・・トニーのベースをオリヴァーに渡して、あの可愛らしい 「Redondo Beach」。レゲエを刻むレニーが頭を揺らしたり、膝を曲げてリズムをとったりするのがとっても好き。この辺りのレニーは本当に気持ち良さそうに弾いて た。かな〜りオーバーアクション気味なのでこっちまで笑みがこぼれてしまう。
 「Frederick」と静かな曲がつづいて、、、この曲の時のパティは、いつもそうだけれど、なんともいえない優しい表情をする。フレデリックとい う、愛しい名前を口にする時の、天上の人へのパティの思いがいっぱいにつたわってくる。それも時が経過して、悲しみよりも、優しさのほうがいっぱいにこ もった歌。。つづいて・・「この曲は50年代の偉大な人々のために・・・」とそんな風に語って、アレン・ギンズバーグ、ローレンス・ファーリンゲッティ、 グレゴリー・コルソ、ウィリアム・バロウズ、、、と詩人の名前を挙げていくパティ。最前列からはそのたびに「Yeah!」と声が上がる。ほとんどが天国へ いってしまった、パティの愛した詩人たちの名前。そして、今なお闘いの中にいる「偉大なチベットの人々のために・・・」とダライ・ラマを歌った 「1959」。ステージの背後のスクリーンには子供たちや、チベットかインドの僧だろうか、老人の顔のアップや、モノクロの風景や、曲のイメージに合わせ た映像が少しぼやけながら映っている。時折、万華鏡のような光のモザイクが現れてみたり、今、演奏しているパティやメンバーが映ったり、、、でも、目の前 の生の彼らを見るのに夢中で、私はそんなに映像を見る事はありませんでした。それよりも今回は演奏がとても充実していた、というのが私の本音の感想。倒れ てしまうんじゃないかと思わせたくらい息苦しそうだった去年のマーキーでのパティより、今年はすべてに余裕が感じられるパティ。冷静な演奏。あの満面の笑 みで「Hi〜〜」と手を振ったのもほんの数回。MCもほとんど無し。そして今回最もスリリングだった演奏のひとつ「Free Money」に。大学教授風の知的な表情のレニーが、「Dead City」や「Free Money」でクレイジーにテンションが上がっていく。そんな姿が本当にロックンローラーだと思う。真のロックを心から愛してる男です、自分を押さえきれ ない感じ(別に抑えなきゃいけない場じゃないけど)、何かが身体で爆発していく感じが物静かなレニーから溢れてくる。何十年バンドを続けていても、クレイ ジーになれる。(レニーがもしかしてピックを投げた? 一瞬、私は何が起こったかわからなかったのですけど、、、)
「Free Money」のスリリングな演奏はジェイ ディーのドラムもかなめ。私はギターにばっかり耳がいってしまいがちだけれど、「Free Money」や「Gloria」でスピーディーになっていく所の、地の底からひっさらわれて胸倉をつかまれいくような快感は、ジェイディーのドラムあって こそですね。それによってパティや全体のテンションがぐぐ〜〜っと上がっていく。
  昨年、トニーがギターパートを刻んで、なんだか「ヘンだ・・」と不満だった「Ain't It Strange」も今年はオリヴァーがいるから大丈夫。これもルーズなレゲエのリズム。演奏がずっしりと重い。
 
 再びトニーがピアノの前に座る。「Pass That Cross」美しい曲。ロバート・メープルソープや、サミュエル・ワグスタッフや、去っていった人々のことを思い出す「出会いの小道」と訳された歌。次に は、オリヴァーのベースを今度はレニーが持って。。この曲、え?!? 懐かしい曲!・・タイトルが思い出せない。それこそ25年も前のアルバムの曲。(家 に帰ってCDを探して『Horses』の中の「Break It Up」だったとわかりました)亡くなったリチャード・ソルが弾いていたピアノパートをトニーが。そしてトム・ヴァーラインのギターをオリヴァーが弾く。オ リヴァーはすごくものすご〜〜くギターが巧くなった!(こんな書き方はすご〜く失礼ですよね、でもでも、97年のガーデンプレイス以来なんだもの、オリ ヴァーを見るのは・・)彼はめったにお客さんの方も見ないし、いつでも身体を屈めて一心にギターを掻き鳴らしているのだけれど、長い髪を耳の後ろにかけて 弾いているところを見るとやっぱりカート・コバーンに似ているな〜カッコいいなあと思ってしまう。いえそんなことはどうでもいい。今回は本当にオリヴァー の演奏力が目立ったし、オリヴァーがいてくれことでトニーとレニーの味付けの幅に余裕もあったし、曲の中でポイントになるフレーズを音の色合いまできっち り表現しようと、時には私からは見えないくらい床に低く屈みこんでギターをフィードバックさせる、それはそれは真剣に弾く彼の様子は(彼はいつもそんな風 に真剣に映像や写真に写っているけれど)いいメンバーになったなあ、と思う。やっぱりオリヴァーがいてくれなきゃ!ここでのギターには胸がぞくぞくしまし た。
 さて話を戻して、レニーからまたベースが・・・オリヴァーに・・(ねえ、1本きりしかないのかい?・笑)それで、はは〜ん、と曲目が判ってしまいました (笑)今度は去年と違ってピアノからベースへの早変わりの妙技をしなくても済むね、トニー、、、。当たりです!「Because The Night」・・サビではお客さんの方へも照明が向けられて光の中に拳が突き上げられる。

 レニーが弦をスクラッチしたり、エフェクターで不思議なギターを弾いていたのはどの曲だったろう。「Seven Ways Of Going」かしら。。パティがクラリネットを吹き鳴らし、オリヴァーが床にはいつくばってギターをフィードバックさせ、ジェイディーがシンバルを銅鑼の ように鳴らし、トニーがハイポジションで眩暈のような音を叩きだす。その音の洪水が延々と続く。。。すごい、、、と思った。それは「Pissing in the river」などの曲でもそう。決してノリの良い曲ではない重々しい曲での緊張感の恐ろしいこと。実際、「Because The Night」や「People Have The Power」で盛り上がるのは当然なんだけれど・・・去年のFujiと、どうしてもお客さんの反応を比較してしまったのです。パティに会えた! パティと 同じ空の下にいて、パティの声を聴いている!という感動を露わにしていた(私も含めて)観客は圧倒的に昨年の方が多かった。「Peace!  Peace!」の鳴り止まない声の中、「People Have The Power」のイントロを聴いた感動は忘れられない。ここでは詳しく書きたくないけれど、今回、もの凄く不愉快な観客の姿もあったのです。パティが苗場の 雰囲気を心から愛している、と語ったFujiの観客は(その中でも問題があったのは確かだけれど)演奏する場にいることをお客さんが心から楽しんでいた。 その時と比べてしまうのは何故だろう。だけど・・・と思い直す。彼らの演奏は本当に充実していた。どうしてもパティの存在感だけが取り上げられ、パティの メッセージだけが伝えられることが多いし、パティは永遠のジャンヌ・ダルクかもしれない。でもこの5人でバンドなのだということを今回はとっても感じた。 パティ・スミス・グループの失われたメンバーの後釜として、トニーやオリヴァーがいるのじゃない。リチャード・ソルの存在は確かに大きかった。でもソルの ピアノを生かした楽曲が、今またこうして聴けるのも、トニーがいて、オリヴァーがいてくれるから。「パティ・スミス・グループは終わったんだよ。今はこの 5人がバンドなんだ」と97年に語ったレニーのインタビューを思い出す。

 アンコール前、最後の曲は「Gloria」。曲の始まりの淡々とした部分をCDよりももっともっとのろのろとだらだらと演奏して、それがこの曲を知って いる者にはもうたまらない快感。
ノリノリのサビでもないのに、なんでこいつは気が狂ったように興奮しているのか・・?と隣の青年から何度か 見られたようだけれど、そんな眼は無視して、「来る、来る、来る」と身構えていると、パティは例の「G L O R I A」に入る手前のフレーズをCDよりもひきのばして、レニーがその様子をじっと見つめて間合いを計って、ジェイディーがダッダカダッダカダッダカダッダカ のビートを打ち鳴らして。。。家に帰って、CDを聴いていて思う。BLITZの演奏はCDの百倍も良かっ た。レニーとオリヴァーの掻き鳴らすギターの迫力、ジェイディーのスリリングなドラム。とにかく何度も言うようだけれどこんな演奏力を持っていることに、 まだまだ巧くなっているということには本当に感動しました。キャリアを重ねて巧いながらもイージーになっていく演奏、エンターテイメントに徹してお客を楽 しませるのもそれもプロの在り方。でもそういう姿勢は否定はしないけれども私を熱くはさせてくれない。その時のメンバーの有り方、時代との関わり、思い、 伝えたいこと、観客のリアクション、それらすべてが一回こっきりのActに結びついていくバンドだからこそ、見たい。

 アンコールは、、これも本当に驚いてしまった「We Three」。この曲はとても意味深な三角関係の歌だったんじゃないかしら。。それにしても・・・ 今回のレポはパティのことをまるでレポしてませんね。パティのこの歌ののびやかな声のツヤにもびっくり。本当にパティは信じられないくらい若い。去年より も若々しくて、(このアンコールの時じゃなく)中間で一旦ひっこんでパティが白いシャツを脱いで、素肌に黒いベストだけを着た姿で出てきたのだけれど、そ のしなやかな身体の美しさには見惚れてしまいました。20代の痛々しいくらいに痩せた角ばった身体よりも今がずっとずっと女らしい。本当に綺麗。。。エア ロスミスのふたりがトレーニングと食事であのスリムで強靭な肉体を維持しつづけているのも誰もが知っていることだけれど、パティもパフォーマンスをつづけ ていくために身体を維持しているんだろうな、と思う。もともとドラッグやアルコールに染まらなかったことも今まで健康を保てた理由でしょう。その強靭さが R&R Starなんだ、ということ。それがパティの全身のメッセージだったような気もする。ラストはもちろん「R&R Nigger」・・・前列でダイブして宙を泳いでいる男の子がいる。ひとりがやると、次々に。。パティのライブでダイブを見たのは初めて。でもパティもレ ニーもそれに一瞥も向けない(と見えた)。どう思うかは人それぞれだけれど、あの行為(ダイブ)がパティのようなアーティストへのリアクションの方法にな りうるか、私はそうは思わない。それは勝手なアクションであって、リアクションではないと思うから。
 パティがギターの弦を切りながら祈りを捧げて、「平和のために・・」と言って最後の弦を引きちぎって、ステージを去る。手も振らずに、観客に笑顔も向け ずに、厳しい顔で。。レニーが後ろ向きに膝でギターをバーンと蹴ってスピーカーに立て掛けてフィードバックさせて、それでもレニーはいつものように、両手 を胸の前に合わせて深々と礼をして去っていった。オリヴァーは正面のモニターに屈みこんでギターを置き、最後に残ったトニーがシンセのかん高い音を引き伸 ばしたまま、、、軽く片手を上げて立ち去った。

 ベスト盤「LAND」の中でやらなかった曲はほんの数曲、という位、とにかく緩急、時代の新旧、あらゆる曲をやったという感じでした。パティのメッセー ジをもっと聴きたかったか? う〜ん、そうでもない。その姿勢は昨年じゅうぶんに見させてもらったから。パティと自分を重ね合わせてみるような少女のよう な憧れももうないし、、、今はぶ厚い演奏を見せてくれたジェイディー、美しいピアノを弾いてベースを弾いて美しい歌声でコーラスを入れてくれたトニー、 やっぱり好きでたまらないクールでクレイジーなレニー、そしてトム・ヴァーラインばりの官能的なギターを弾いてくれたオリヴァーに、またすぐにでも会いた い、聴きたい。。
「Free Money」や「Break It Up」、「Seven Ways Of Going」が忘れられない。


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