2009年の映画・演劇 評論

    釣りバカ日誌20 ファイナル 

あらすじ: 一流企業の鈴木建設に勤める、仕事よりも釣りが大好きな万年平社員の浜ちゃんこと浜崎(西田敏行)と会長のスーさんこと鈴木一之助(三國連太郎)は他の社員には内緒にしているが、釣りの世界では、浜ちゃんがスーさんの師匠で気さくに付き合っていた。しかし、鈴木建設にも不況の波が押し寄せ、鈴木会長も自ら役員手当を返上する状況であった。でも、浜ちゃんは、釣り仲間の会社から大きな契約をとり、褒美にスーさんと一緒に北海道での渓流つり旅行賞を貰った。北海道には、スーさんの亡くなった親友の娘:葉子(松坂慶子)の娘:裕美(吹石一恵)が獣医として働いていた。しかし、裕美は葉子に内緒で牧場の息子(塚本高史)と同棲していた。戸惑う葉子を説得する浜ちゃん。そして、高齢のスーさんが倒れる。。。

時代の流れを捕まえられない映画は終わりを迎える!

 ついに、「フーテンの寅」の跡をついでできた「釣りバカ日誌」のシリーズも、この作品で終わりとのことで映画館に足を運ぶ。

「釣りバカ日誌」の第1作が作られたのが、平成元年らしい。
その頃の松竹映画は、正月と夏のお盆の季節には、必らず「フーテンの寅」を上映していたが、主演の渥美清の疲れがあり、「フーテンの寅」を年2作から1作に削った。
その穴埋めの映画として、「寅さんシリーズ」と同じ山田洋次の脚本で、「釣りバカ日誌」を登場させたのだ。

 「フーテンの寅」の大ファンであった私は、「フーテンの寅」と併映されるこの「釣りバカ日誌」のシリーズもかなり観てるが、最近の作品は観ていない。
それは、最初のガッカリとして、浜ちゃんの妻として適役であった演技の上手い石田えりが途中で、まったく面白みのない浅田美代子に代わってしまい、「合体」の言葉が画面で生かされなくなったことが上げられる。
そして、段々と「フーテンの寅」と同じように、日本の各地を巡り、ロマンスを絡めさす設定に新鮮味がなく飽きてしまい、その内、スーさん役の三國連太郎の高齢化が目立ち、浜ちゃん役の西田との駆け引きに面白さが出てこなくなったせいだ。
特に頂けないのは、いつの間にか恒例となった、西田がみせる裸踊りが下品そのままで、嫌になった。

そして、今回の感想は?

山田洋次と監督も務める朝原雄三の脚本は、さすがに、カットも無駄がなく話の流れはよくできている。
なんとなく気になっていた、スーさんの隠し子事件も、すっきりと収まっているし、ロケ地の中標津町付近の映像も奇麗だ。

 でも、テーマとして、今の時代とはかなりのずれがみられるのが、「同棲の扱い」と「三途の川の悪ふざけ」だ。

 かなり古い世代に属する私でも、親に内緒で同棲しているといっても、ここまで動揺はしない。
親元を離れて暮らしていれば、男と女の関係は、もう親が100%管理するのは、昔からできない相談と割り切られているのに、ここでひと悶着あるのは、違和感がある。

 また、西田の裸踊りが絡む「三途の川」での歌と踊りは、まったくひどい!
「フーテンの寅」でいつもみせる「夢」のシーンの延長を意図しているが、わけのわからない服装の歌手やダンスは観るに堪えない悪ふざけとしかうつらない。

三國の高齢化も目立つが、時の流れはもう止められないってことだ。
これでは、今後、観客は呼べない。
終わりもやむなしの作品だった。

このシリーズで活躍していた「谷啓」が、終わりの舞台挨拶で随分と痩せて出てきたのには驚きました。

西田敏行の;「火天の城」
かなり以前に観た;「釣りバカ日誌14」

 

    アバター 3D・字幕版 

あらすじ: 時は、22世紀。人類は地球から遥か離れた、美しい自然が残り大気が異なる惑星バンドラで特殊な鉱石を求めて、先住民ナヴィと小競合いをしていた。そこへ、戦闘で下半身が不自由になった元兵士ジェイク(サム・ワーシントン)が、アバター・プロジェクトの一員として送り込まれてきた。アバター・プロジェクトとは、人間の1.5倍の身長と青い皮膚を持った先住民の身体をした分身に人類の考え方を持たせ、彼らを先住民の中に入り込ませて、鉱物資源のある部落から追い出そうとする作戦だった。どうにか、先住民の部落に入ったジェイクであったが、族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ち、自然を壊す人類の行動に疑問を持つ。しかし、人類はついに圧倒的な武力で攻撃をしてきた。弓矢しか持たないナヴィは。。。

3D(立体)映画の奥行きはすごいが、話は平凡!

 大ヒットしたあの「タイタニック」を創り、かなり儲けた(?)、ジェームズ・キャメロン監督が、その金を元になんと構想14年、製作に4年をかけた作品だ。

 今年、2009年はアニメを中心に立体映画が数本上映されていて評判になっているが、私と立体映画の関係は、かなり前に、海外旅行で行った先で観た大型画面のIMAXやテーマ・パークのユニバーサル・スタジオで「ターミネーター」の15分程度の物は観たことがあるが、162分もの長編は今回が初体験だった。

 今までの立体画面というと、スクリーンから物が飛んできてぶつかりそうになったり、すぐ目の前に物が浮かんでいて掴めそうになる特徴があったが、このアバターでは、それらの他に奥行も強調して作ったとのことだ。

 確かに、冒頭の水の中でのシーンは、不思議な感覚がした。また、ふわふわと浮かぶ木の精や光輝く聖霊の枝垂れは、ファンタスチックであり、後半の目玉である戦闘シーンも3Dならではの迫力はある。

 だけど、ストーリーは今までどこかで観たものばかりで退屈だった。

 弓矢しか持たない先住民とミサイルまで持っている人類の設定と戦いは、アメリカ大陸におけるインディアンと白人との西部劇の置き換えだし、空中に浮かぶ大陸もビデオ・ゲームでよくあるし、空を飛ぶ竜にいたっては、古典的な乗り物だ。

 戦闘のシーンで使われている人間が入る形のロボットも、SFではお馴染みになっている。

 だいたい、進歩した人類が、無くした昔の自然や隣近所との付き合いがあった共同体に帰りたいということも、よくあるパターンである。
ただ、自然破壊を追求している点は、アニメの宮崎監督からのメッセージを引き継いでいて、私も納得できるが、全体としては、画面に引きつける物は無い。

 製作にかけた4年の間に、キャメロン監督のアイデアも過去のものになってしまったようだ。

 この程度なら、立体映画としての特別料金(プラス¥300)を払わなくてもよかったのではと思う出来だった。

なお、「エイリアン」で活躍していた、シガニー・ウィーヴァーもおとなしい役で出ています。

 

    パイレート・クィーン ミュージカル (帝国劇場) 

あらすじ: 時は、16世紀。アイルランドの族長の娘グレース(保坂知寿)は男勝りで、女性は乗れない海賊船に紛れ込んで、アイルランドを完全な支配下に置こうとする隣国のイングランド軍を撃退し人々から慕われていた。グレースには恋人ディアナン(山口祐一郎)がいたが、イングランドに勝つために、別な部族の長の息子ドナール(宮川浩)と政略結婚をする。一方、イングランドでは、エリザベス女王(涼風真世)が、ヒンガム卿(石川禅)をアイルランド総督に任命し、両国の争いはいよいよ激しくなっていく。グレースが男の子を産んだ時に、夫ドナールが裏切りグレースは囚われの身となるが、ディアナンが身代わりとなり釈放される。しかし、グレースが戻ったアイルランドはヒンガム卿による過酷な税の取立てで荒れた地となっていた。ついに、グレースはエリザベス女王と会うが。。。

本場、アイルランドのダンサーを交えたアイリシュ・ダンスは効果があった!

 脚本:アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク、リチャード・モルトビー、JR。
 日本語の訳詞は竜真知子。演出:山田和也。
 いつもの帝国劇場なら、楽団は舞台の前にあるオーケストラ・ボックから演奏するが、この「パイレート・クィーン」では、舞台上の後方にいて、ヴァイオリンニストや笛の演奏者は、時々出演者とも絡むという演出だ。

 女性が海賊の船長として活躍する、スペクタクル・ミュージカル・アドベンチャーとうたっている。
 スペクタクルと云うだけあって、出だしの船の戦闘シーンでは、保坂知寿がロープでマストから降りたり、大人数で、靴音を鳴らすアイリシュ・ダンスもテンポもよく、リズムもあり動きも快調だ。

 アイルランドの雰囲気は、アイルランドの縦笛(ホイッスル)や太鼓(バウロン)そして、アイルランドの国章に因んだハープを使い、メロディーもそれらしくできている。
確かに、度々出てくるアイリシュ・ダンスは、本場のダンサー4人も交えていて、足さばきも軽やかで、大人数で演じても、きれいに揃っていて拍手ものだ。

 エリザベス女王の衣装も豪華ですごいが、海賊服のアイルランド軍と、きれいな赤で統一されたイングランド軍との戦闘シーンも分かりやすくていい。
しかし、グレースが子供を産んでからの展開がかなりだれた感じだ。
7年の流れがアット云う間で、しっくりこない。

 恋人ディアナンがグレースの身代わりになるのであるが、グレースはイングランドにとって許しがたい憎い敵である。
それが、こんなに簡単に身代わりができるとは、物足りない。
ここは、エリザベス女王が、同じ女性としてのグレースの心情を理解し、母親として子供を愛する気持ちをさらに盛り上げる構成がないとつまらない。

 山口祐一郎は気持ちよく歌いあげているが、主演の保坂知寿がもっと活躍し、もっとステージで輝く演技をしないと終わりが締まらない。
そう、映えのある女優としての動きが期待されるが、それが無かった。

 女性が海賊のキャプテンになるアイデアはいいが、最後まで海賊を貫かなかった点が、面白さにつながらなかった。

保坂知寿のシアタークリエの舞台;「スーザンを探して」
先月から大活躍の山口祐一郎;
「レ・ミゼラブル」

 

    パブリック・エネミーズ 

あらすじ: 時は、1930年代のアメリカ。世の中は大恐慌で人々の生活は苦しかったが、ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)の一味は、州を跨ると捜査が及ばないのをいいことに全米のあちらこちらで銀行強盗を働き豪華な生活をしていた。しかし、FBIの特別捜査官メルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)も、少ない人員ながら必死にデリンジャー達の行方を追っていた。好きに生きてきたジョンであったが、ある日、クローク係のビリー・フレシェット(マリオン・コティヤール)に出会い一目ぼれをする。ビリーを愛人として銀行強盗を重ね、捕まっても脱獄してまた銀行に押し入るが、捜査も厳しく仲間たちも殺され、ジョンも傷を負う。愛するビリーがかくまってくれたが、ついに。。。

女:相変わらず、かっこのいいジョニー・デップね!

男:仕立てのいいスーツを着て、「社会の敵」が気持ちよく銀行強盗をやっているね。
女:でも、話が荒いわ。
男:上映時間は、141分とかなり長いけど、全然チラシにあるような愛の逃避行になっていないね。
女:監督:マイケル・マンの変な思い入れがつまらなくさせたのよ。
男:最後の方で出てくる「クラーク・ゲーベル」の「男の世界」のことかい。
女:そうよ。
  映画館の場面で「男の世界」を出して、「潔く死ぬ」なんて、この場に臨んで何を言いたいのか、無駄な演出ね。

男:監督のもう一つのこだわりもあるね。
  ジャズの曲「バイ・バイ・ブラックバード」だよ。
女:懐かしい映画や歌に対する、個人的な思い入れで新しい映画を作るときは、他の観客との共感がないと駄目よね。
  余りにも古すぎて、「クラーク・ゲーベル」の「男の世界」は観たこともないし、ジャズの歌詞は知らないし、こんな、作り方では、まったく観客と離れた「男の世界」ね。

男:おれは、FBIがまだ小規模な組織で州にまたがった犯罪の捜査で苦労していた話は面白かったよ。
女:でも、堂々と捜査の事務所がある警察内に入り込むのも、無茶な設定ね。
男:それと、映画館で、指名手配のジョンを探すのに、観客席で左右を見てと云うシーンは、笑いを取りたかったようだけど、ここも、返ってしらじらしい気持ちにさせた。
女:監督の主な狙いは、ラブ・ストーリーなのか、義賊と云われた銀行強盗なのか、はっきりしなかったのよね。
男:ジョンが、ビリー、一人を愛したという宣伝文句だけど、アメリカのあちらこちらに行っていっていては、これも訴えてこないね。
女:夜の銃撃戦やちょっとだけのカーチェイスと観客に訴えようと余分な部分を盛り込み過ぎての失敗になったのよ。
男:あちらこちらに手を出すと、何も手に入れられないと云う見本だね。
女:貴方が云うと、妙に真実味があるわね。
男:な、なんのこと?
女:人生を振り返って、よーく、胸に手を当てると分かるでしょ。
男:いやっ、何も、分からないけど...

ジョニー・デップは;「スゥイーニー・トッド」「パイレーツ・オブ・カリビアン」
マリオン・コティヤールの;「エディット・ピアフ」

 

    イングロリアス・バスターズ 

あらすじ: 第二次世界大戦下のドイツ・ナチスに占領されていた頃のフランス。ドイツ軍の中でユダヤ人の取り締まりを行うハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)は、その冷酷さで”ユダヤ人ハンター”として恐れられていた。そのランダ大佐によって一家を銃殺されたショシャナ(メラニー・ロラン)は、今はパリの映画館の支配人になっていたが、ナチスへの復讐心が消えることはなかった。一方、アメリカ軍のアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)は特殊部隊を率いてフランスに潜み、ナチスを容赦なく殺していた。そこで、彼らはドイツ軍から、”バスターズ(ならず者)”と呼ばれていた。そんな時、ショシャナの映画館で、ナチスの上級将校が集まり国家高揚の新作映画のプレミア上映会を開く情報が入る。そこには、秘密ながらヒトラー総統も出席するようだ。上映会を家族の復讐の場にしたいショシャナとアルドの部隊も動き出すがランダ大佐の警護も厳しい。復讐は成功するのか。。。

妥協しない非情さが、新しい面白さを産み出した!

 監督と脚本そして製作は、好き勝手に暴力的な映画を作っているのでいろいろと話題を提供している、クンティン・タランティーノだ。
ブラッド・ピットが出ている予告編を観たら、ヒトラーとの駆け引きで、これまた悪おふざけの映画かと予想していた。
ところが、実に緊迫感をあちらこちらにまぶした面白い映画に仕上がっている。

 これには、ドイツ軍のランダ大佐役をやっているクリストフ・ヴァルツの優れた演技力と、ドイツ語・英語・フランス語さらにイタリヤ語さえも駆使する努力の成果が大きく反映されている。

 で出だしの慇懃無礼的な尋問での緊迫感から始まり、最後の意外な寝返りに至るまで、クリストフ・ヴァルツの活躍が抜きん出ている。

 また、スリルの作り方が、無駄なく練られていて上手かった。
映画館の支配人に身を変えているショシャナが、ランダ大佐の質問を受けるレストランのシーンでの、もしかしたら、ばれるかとの冷や冷や感。
また、地下のバーでのシーンは特に緊張させられる。
長男の誕生をゲームをしながら祝うグループの傍で、二重スパイの女優が本当に信じられるのか、そして、ドイツ将校に化けた英国軍人とナチス将校との”言葉のなまり”での掛け合いは、ゲームという緩さと正体がばれるのかという張り詰めた感じのバランスがよくて、流れに無理がなくスリルを味わう。

 確かに、殺したナチスの頭の皮を剥いだり、バットでなぐり殺したりの残虐なシーンはあるが、この映画の流れとしては特に違和感もなく受け入れられる。
それは、出ている二人の女優:メラニー・ロランとダイアン・クルーガーの美貌を際立たせる撮り方も貢献してるからだ。
特に、真っ赤なドレスを着たメラニー・ロランの死に方はきれいといえるほどのできだ。

 グロテスクな場面も、美しい女性を絡めることで、かなり弱められる。

 それに加えて、ユーモア精神もうまく活きている。
イタリヤからきた映画人に化けるブラッドには、ゴッドファザーでのマーロン・ブランドのような顔真似をさせたり、二重スパイの女優の足に注目させてシンデレラのように靴を一致させるなど観ていて、”くすりとした笑い”もところどころに取り入れられていてここらも結構楽しめる。

 多くの人が知っているヒトラーの暗殺事件とは異なった解釈ではあるが、タランティーノ監督は、今までの自分だけの世界から脱却して、新しい歴史を自分の作品においても作りだした。

タランティーノ監督の不作だった;「キル・ビル」
ブラッド・ピットのつまらない;「バーン・アフター・リーディング」
ダイアン・クルーガーなら;「敬愛なるベートーヴェン」

 

    ゼロの焦点 

あらすじ: まだ、日本が敗戦というつらい過去を多く残していた昭和30年代の終わり頃。広告会社勤務の鵜原憲一(西島秀俊)と見合結婚をしてまだ7日目の禎子(広末涼子)は、業務引継ぎで金沢に行った憲一が行方不明になっているとの連絡を受け金沢へ旅立ち夫の足取りを追う。金沢で憲一が懇意にしていたレンガ会社の社長夫人:室田佐知子(中谷美紀)の話には新婚の禎子が知らない憲一の過去がたくさんあった。そんな時、憲一の足取りを別行動で調べていた憲一の兄:鵜原宗太郎(杉本哲太)が青酸カリで毒殺される。目撃者の話では、アメリカ軍相手の娼婦が着るような派手で赤いコートを着た女がその場から逃亡したとのことだった。また、憲一は、以前米軍基地がある立川で警官をしていた経歴が分かる。立川へ戻った禎子が得た情報で、憲一・室田佐知子、そして佐知子の友人:田沼久子(木村多江)の関係が明らかになってきた。しかし、田沼久子も自殺のような死に方をする。日本で始めて女性が立候補した市長選挙が行われる中、禎子の調査が進むが。。。

戦後の苦しみを生き延びた女性が描かれていない!

 原作は、云うまでもなく、あの松本清張。
 チラシよると、アカデミー賞を得た3女優の競演となっている。

 広末涼子は、その演技は別として、「おくりびと」で、本場アメリカのアカデミー外国語映画最優秀作品賞をとった映画のヒロイン。
 中谷美紀は、2007年度、「嫌われ松子の一生」で日本アカデミー最優秀主演女優賞をとり、木村多江は、2009年度、「ぐるりのこと」で、日本アカデミー最優秀主演女優賞を獲っている。

 しかし、脚本:犬童一心(監督も兼)と中園健司は、原作の松本清張から何を取り出したかったのか分からない。

 この作品の背景には、敗戦という過酷な時代を、手段を選ばず生き延びなければならなかった人々の生活があるはずだが、その部分を描ききっていない。

 そう、女性の生活では、占領軍であるアメリカ兵を相手にした娼婦、パンパンという忌まわしい過去からの逃亡。
また、男性たちの、憲一にしても、忘れることのできない戦争での体験があり、レンガ工場で成功している社長にしても公にしたくない過去が潜んでいるはずであるが、この部分が十分に描かれていない。
 そのために、殺人を犯してまで、現在の自分を守るという動機付けで、納得できないもどかしさがある。

 どうも、昭和30年代、40年代の路面電車や蒸気機関車、またサスペンスでお馴染みになった崖や風景を再現する方向に監督の気分が行ってしまったようである。

 また、謎の仕掛けが、ポロッとでてきた2枚の写真では、安易すぎるし、憲一の兄が嘘までついて調べていた訳や、佐知子の弟の画家の存在などの方が、メインの話より、よっぽどミステリーである。
 女性たちの選挙運動も歌を入れたりでは、どこか、間延びした印象だ。
歌と云えば、プラターズが歌う「オンリー・ユー」の選曲も、無茶苦茶に安易だろう。
ラストで中島みゆきに歌わせるなら、劇中でも使える、愛の歌を作ってもらえばよかった。

 もっと、登場人物を整理し、掘り下げないとミステリーにならないし推理もできない。

 ただ、血だらけの中谷美紀の演技が、ますます乗ってきたという収穫はあった。

中谷美紀なら;「シルク」「嫌われ松子の一生」
広末涼子の最近作は、
「ヴィヨンの妻」

冴えない監督:犬童一心の作品は、「眉山」

 

   マイケル・ジャクソン THIS IS IT 

あらすじ: 2009年の3月。世界中で有名なアメリカのロック歌手、マイケル・ジャクソンは、7月からロンドンでコンサートを行うと発表した。そのコンサートのタイトルは「THIS IS IT」。そして、ロンドン・コンサートに向けて、リハーサルが行われていた。体育館を借り切っての大がかりな練習が続く中、2009年6月25日、突如、マイケル・ジャクソンの死亡がカリフォルニアから報じられた。まだ、50歳の若さだった。
 この映画は、そのロンドン公演に向けたマイケル・ジャクソンのリハーサルの模様を映画化したものです。
ヒット曲;ビリー・ジーン、今夜はビート・イット、スリラー、ブラック・オア・ホワイトは勿論のこと、懐かしいジャクソン5時代の映像も織り込んでいます。

陽気に踊りだすリズムが、この映画では胸をしめつける!

 音楽が好きな私にとって、ビートルズを始めとするロックやイージーリスニングが気持ちの上では中心を占めていますが、当然、他にもレイ・チャールズやシュープリームス、テンプテーションズなど黒人歌手や黒人グループによるソウルやリズム&ブルースの世界にも関心はあり、色々な曲を耳にしてきています。

 その中で、マイケル・ジャクソンの思い出としては長い歴史があります。

1960年代後半、10歳前後のマイケルは可愛い顔で、兄弟で結成した「ジャクソン・ファイヴ」の一員として清んだ声で「ABC」や「I'll Be There」などを歌っていました。また、ソロとしてのヒット曲には「ベンのテーマ」もあります。そして、「ママがサンタにキスをした」はクリスマスになると必ず聞く曲です。

 マイケルがジャクソンズのグループとは別の活躍をし出してからの、衝撃は「スリラー」です。
これは、曲よりもプロモーション用映像として作られた方が印象に残っています。
墓場から蘇るゾンビ達との肩を上げるダンスは、よく真似をしたものです。

 当時には、この「スリラー」のように、ストーリーがあり、ゾンビにメーキャップをさせるなど、お金をかけた内容のある音楽の宣伝用映像作品はありませんでしたから、この点でも世間の注目を浴びていました。

 それからの、マイケルの歌手としての活躍は、「BAD」やビートルズのポール・マッカトニーと歌った「The Girl Is Mine」などヒット曲を次々と飛ばしています。
しかし、歌以外にも良くない話もあります。そう、少年への性的虐待で訴えられたことがありましたね。

 また、黒人でありながら、鼻を整形し皮膚を白くして白人化させたことも有名です。

 これについては、マイケルの本心は分かりませんが、彼ら黒人がアメリカ社会で受けてきた人種差別が原因のように思えます。
いくらショー・ビジネスの世界で成功しても、依然として白人達からは、蔑視されるアメリカの持つ冷たさが、黒人であるマイケルの心をいつまでも傷つけていたのではないでしょうか。

 この「THIS IS IT」でも、キューの出し方や共演者などとの会話において、マイケルのスタッフに対する謙虚さが随所にみられます。
演出をしているケニー・オルテガに対する丁寧さも、「King Of Pop」と呼ばれるまでになったマイケルでも、まだまだ乗り越えることのできないアメリカにおける「黒人差別の裏返し」と観たのは、私だけでしょうか。

 そんなことを考えていたら、本来なら、マイケルが歌う曲のリズムに乗って踊りだす気持ちになるのですが、もう生のマイケルには会えないと思うと、「ビリー・ジーン」を聞いていても、いつのまにか、胸がしめつけられ、まなじりには、うっすらと涙が出ていました。

 でも、歌手は幸せです。
たとえマイケルが亡くなっても、彼の歌声はCDにありレコードに残されていますから、またいつでも彼に会えます。

 月を見上げれば、兎の隣で「ムーン・ウォーク」をしているマイケルに会えますから。

 合掌。

追記:この映画を見た後で、マイケル・ジャクソンの1992年のプカレストにおけるライヴ版(DVD)を見ました。
    大観衆に囲まれ、失神者続出のライヴは、もしロンドンでの公演があったならば、こんな状態が再現されたのだと思わせる内容です。
    歌だけでなく、踊りとマジックのような瞬間移動などもあり、また、偉大なシンガーであったマイケルを追悼しました。

追記 その2:このマイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」は、上映期間が、当初2週間限定でしたが、好評でまた2週間上映期間が延ばされました。
    そして、その最終日が、11月27日(金)だったのですが、当日は、夜遅くの回まで満員状態が続いていました。

 

   レ・ミゼラブル ミュージカル  (帝国劇場)

あらすじ: 1815年のフランス。ジャン・バルジャン(橋本さとし)は、パンを1切れ盗んだだけで19年もの過酷な刑に服していたがどうにか仮釈放の身となった。しかし、元囚人に対する世間の眼は冷たく、食事を与えてくれた教会の銀の食器を盗みまた警察に捕まる。だが、司教の暖かい言葉で罪を免れたジャン・バルジャンは改心し、名を変え仮釈放から逃げる。それから8年後、真面目に働き工場を経営し、市長にまでなったジャンであったが、ジャベール警部(今拓也)は執拗にジャンの跡を追っていた。そんな時、田舎に娘を預け、養育費を稼ぐために娼婦となったフォンテーヌ(山崎直子)は、警察に捕まったところをジャンに助けられる。が、病が重く、娘:コゼット(神田沙也加)の将来をジャンに託して亡くなる。フォンテーヌの遺志を継いだジャンは親代わりになってコゼットを育てるが、コゼットは革命を志す学生:マリウス(泉見洋平)と恋仲になる。学生たちの蜂起は軍隊に鎮圧され、多くの同士が殺さる。負傷したマリウスはジャンに助けられるが。。。

相変わらずの感動ミュージカルだが、父親の気持ちが不足だ!

 もう云うまでもない、ヴィクトル・ユゴーの「ああ、無情」が原作で、日本では1987年に帝国劇場で初演された。
それから、20年以上が過ぎたが、その人間愛を中心とした話の展開は、今なお光り輝いている。

 私も、この間、1999年、2003年、2005年、2007年、そして、今年2009年と何度もこの舞台と多くの出演者を観てきた。

 多くの若手は、今回の神田沙也加のように新人が抜擢されるが、橋本さとしや今拓也等は役が違っていても、以前から「レ・ミゼラブル」には関係している。
また、森公美子のように、養母の役を続けている人もいる。

 3時間にも及ぶ舞台では、主な配役にはいつも、ダブル・キャスト以上のキャストが用意され交代で演じている。
主なところでは、ジャン・バルジャン役は、他にも山口祐一郎、別所哲也、今井清隆がおり、ジャベール役は、阿部裕、石川禅、岡幸二郎。コゼット役には、辛島小恵、菊地美香、マリウス役には、藤岡正明、小西遼生、山崎育三郎といったところが昼・夜、そして公演日を変えて出ている。

 今回は、逃げるジャン・バルジャンは橋本さとし、追いかける警官のジャベールは今拓也。養娘のコゼットは松田聖子の娘:神田沙也加。そして、学生マリウスは泉見洋平。マリウスに想いをよせる娘:エボニーヌに知念里奈。因業な里親マダム・テナルディエに森公美子といった布陣が主な顔だ。

 演出や舞台装置は、今までのとおりで、相変わらず、盛り上がっていくバリケードでの戦闘のシークエンス。また、逃亡する下水道の特徴のある音の響きなどはよくできている。

 しかし、自分の心の痛みを経験し、他人から慈しみの心を貰ったジャンだから、無欲にコゼットを愛せ、また若者を支援するのであるが、今回はどこか、この気持ちの表現が足りない。

 そう、ジャンを演じる橋本さとしの歌声に、もう少し落着きのある低めの声量を期待したい。
聴いている客に、父親の優しさと勇気を与える発声だ。
そうすれば、もっと、もっと感動が大きくなる。

 また、舞台照明も暗すぎる。
私は、1階席のかなり後方で観たが、ここからは、暗くて出演者の表情が残念ながら汲み取れない。
後方の席であっても、照明で観客から不満がでるような演出はいけない。

 その程度の不満はあるが、依然として歌詞を始めとしてよくできたミュージカルであることは、大きな帝国劇場であっても、さらに毎回補助席が出ていることで証明されているだろう。

 神田沙也加のような舞台でも冴える新人を登用して、さらに次の世代に引き継がれる役割を果たす立派な出来栄えだ。

2007年の;「レ・ミゼラブル」
2005年の;「レ・ミゼラブル」
2003年の;「レ・ミゼラブル」

 

   沈まぬ太陽  

あらすじ: 時は昭和30年代。日本を代表する航空会社:国民航空の労働組合の委員長を務める恩地(渡辺謙)は交渉も上手くて、労働者側に有利な条件を会社側に飲ませていた。しかし、会社側からは疎まれ、僻地のパキスタンやイラン、そして航空路線のないアフリカはケニアと通常なら海外勤務は2年が過ぎれば、日本に戻れるはずであったが、9年も連続して海外に追いやられていた。一方、労働組合で副委員長を務めた同期の行天(三浦友和)は、会社の上層部に取り入り出世コースを歩んでいた。そんな時、羽田発、大阪行きのジャンボ・ジェット機が群馬県の御巣鷹山へ激突し520名もの犠牲者をだす。急遽、遺族の担当にさせられた恩地たちは事故の対応に当る。夫や息子の家族など肉親を奪われた遺族への補償も難航していたが、恩地の誠意が徐々に遺族の心へ伝わっていく。しかし、国民航空は、複雑な組合問題や政治家・官僚も絡んで経営危機に陥る。そこで、民間から抜擢された国見(石坂浩二)を会長にして、新しく国民航空の再建が始まり、恩地も刷新グループのメンバーに加えられるが、再建は。。。

女:訴えるものはあるわね!
男:原作は、今テレビでやっている「不毛地帯」や「白い巨塔」など社会派の山崎豊子だ。
女:長い映画ね! 
  上映時間が3時間22分よ。

男:途中、10分間の休憩がある。
女:でも、この内容なら、休憩なしでもよかったかもね。
  見ごたえはあったわ。

男:主役の渡辺謙が、この映画化については、若い頃からの思い入れが随分とあったようで、テレビでも涙を流しながら宣伝をしているね。
女:誰が見ても、この映画のモデルは、今、ちょうど、政府でも再建問題に苦労している日本航空であることはすぐ分かるわ。
男:そうだね。
  実際の日本航空は、この映画でも指摘されているように組合の数が多く、また世界不況や新型インフルエンザ流行の影響もありで、旅行者が激変して大幅な赤字となっている。
  そして、以前から、経営の刷新が言われているが、まさに航空行政を牛耳っている国土交通省も絡んで、全然経営が上手くいっていない。
女:そんな問題の多い会社の内情を取り上げ、さらに実際におこった御巣鷹山の大事故も扱っているんでは、あちらこちらから映画化に反対の動きもあったでしょうね。

  だけど、どうして国が絡むとこんなにごたごたとするのかしら?

男:空の行政も、また、郵政での郵便貯金もそうだけど扱っている規模が巨大だ。
  そこで、管轄している国土交通省や、旧郵政省の場合もそうだけど、官僚の天下り意識と政治家がどうしても利権を求めて経営に横槍を入れる。
  これでは、民間から請われて経営を刷新しようとしても、その会社のトップは経営手腕を発揮できない。
女:本当ね。
  この映画の石坂浩二が演じた、会長が辞任に追いやられるのと同じ状況が、先日の郵政のトップ問題で民間の銀行からきた西川さんが辞めるのと重なっているわね。

男:官僚や、利権に明け暮れている政治家の意識の大改革が必要だね。
女:そういう意味では、今度の政権交代は効果があるでしょうね。
男:そう期待するよ。
女:御巣鷹山の大事故は、未だに日本航空の経営に大きな影を与えているわね。
男:仕方ない。大惨事だからね。
女:そんな、バックグランドはおいといて、映画としてみましょうか。

  まず、恩地の生き方ね。
  今の時代なら、ここまで会社から冷遇されたら、辞めるでしょう。

男:そうかな。
  日本航空のような超一流の企業に勤めれば、世間以上の給料は貰っているだろうし、家族を養うことも考えると、今でも簡単には辞めないよ。
女:映画では「矜持」といっているけど、そこまでプライドや面子が必要なのかしら。
男:男としては、その企業が一流でなくても、入社したからには、何とか出世して定年まで勤めるというのは、多くの人が持っていた考え方だ。
  そこで、左遷をどうとらえるかは、個人差がある。
  現実に企業も生きていて、上司も変わるから、長い目でみれば、この映画のように主な職務に復帰する事もあるからね。
女:三浦友和の悪役はどう?
男:悪役としては、まだまだだね。
  どこかに、今まで演じてきた「いい子」の演技が残っている。
  これは、脚本のせいだろうけど、汚れ役にするのに俳優に遠慮をしては、いけない。
  もっと、悪どい演技を要求して、恩地と対比させると映えるけどね。
女:遺族の妻役の木村多江や左遷に耐えられない役の香川照之の演技は印象に残ったわ。
  でも、画面でどうも納得できないのが、アフリカで象を殺すシーンよ。

  昔のアフリカで狩猟ができた事は知っているけど、象を殺してさらに象牙を家に飾るのは、この映画の一場面として入れる必要性があった?
男:アフリカでのシーンは、他にもストレスが溜まって猟銃を部屋でぶっ放すシーンもあるけど、ここも全体の流れからは不要だね。
女:最後にアフリカは、安らぎを得る場所ってことになっているのに、象を殺した場所では、関連付けがおかしくなったわ。
男:全体としては、家庭の描き方が子供を含めて下手だね。
  海外への転勤で子供や母親が苦労するのは、もう当たり前で、折角海外ロケをしているのに、現地の生活との折り合いが十分に溶け込んでこない。
  日本映画の製作陣として、海外駐在員と現地の研究をもっとして欲しいところだ。
女:なんだかんだといっても、ここまで言わせるということは、それなりに収穫があったってこと?
男:大作であり、問題作品であることは確かだね。
女:動物保護にしても自然保護にしても、「世界で一番危険な動物」である人間がしっかりしなければいけないわね。
男:そうだよ。
  その点、歳はとってもしっかりしているでしょう。
女:ヘン、からいばりだけで、動物の本能が全然役に立っていないくせに。
男:エッ、動物の本能って、どこのこと?
女:よーく、胸に手をあてて考えなさいっ!

御巣鷹山の事件なら;「クライマーズ・ハイ」
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「ラスト・サムライ」

 


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