2007年 1月の映画・演劇 評論

2007年

 それでもボクはやっていない 

あらすじ:フリーターの金子徹平(加瀬亮)が面接に向かう朝の満員電車の中で、女子中学生のお尻を触った痴漢行為で警察に捕まった。警察の取調べも検察官も犯罪を認めれば、早く片付くと迫るが徹平はやっていないと「否認」し、ついに裁判になる。弁護を引き受けたベテランの荒川(役所広司)と新人の須藤(瀬戸朝香)両弁護士を中心に、徹平の母親(もたいまさこ)や親友(山本耕史)、そして同じような痴漢事件で冤罪を訴える人たちの支援を受けて公判が開始される。刑事事件で起訴された場合、有罪になるのは、99.9%といわれている。徹平は無罪か、それとも。。。

明日はあなたが、法廷によびだされる!? 
 監督と脚本は「Shall we ダンス?」の周防正行だ。「Shall we ダンス?」が1996年の作品で、それから11年目の監督作品とのこと。

 かなり長い映画(144分)だけど、話の展開が調子よくて、最後まで観させる。
多くの人にとって未体験の世界である拘置所の生活、犯罪者を前提にした取調べのやり方、日本の裁判の問題点を実に丁寧で分かりやすく纏めている。

 刑事事件ではないが、「住宅の退去事件」で、何も悪いことをしていないのに、突然「被告」として法廷に立たされた経験をもつ筆者にとっても、映画ででてくる弁護士事務所の書類の山や街頭でのビラ配り、傍聴の方たちの支援が、「ああ、そうだった」と思いを蘇えらせるリアルさだ。
実際、この映画のように私の裁判でも、傍聴人の数の多さが裁判官の心証を良くするとの弁護士のアドバイスで、多くの人に傍聴を呼びかけたものです。

 脚本の段階から周防監督が時間をかけて日本の裁判制度全体を取材した成果が実っている作品だ。
それを、加瀬亮が自然なセリフで上手く演じた。
周防監督の演出も家宅捜索の場面では自宅に忘れた「履歴書」をちゃんと出したり、法廷で公訴文を読みあげる検事にあわせて弁護士の視線が書類を追っていたりと細かい点も抜かりなく、よくできている。

  最初から罪を犯す積りなら、色々と準備して、証拠を隠したりするが、急に犯罪者にさせられた時には、何も無罪を証明するものもないし、裁判の面倒さが分かっているので、軽犯罪ならつい認めてしまうことはあり得る。
でも、それは間違いで、無実は無実だと主張すべきである。 しかし、裁判という制度を中間にいれると「無実」でも「無罪にはならない」言うテーマは殺人などの重大犯でも「冤罪(えんざい)」として存在しているが周防監督は、余り深刻でない題材で観客に問いかけて成功した。
罪を裁くのは、裁判官という人間であり、事実の認定は裁判所の中で争われる事項だけであれば、あってはいけないが裁判所の組織の事情や、裁判官の人生観が罪状の判断の基準ともなる。法廷では真実が真実でなくなる怖さがある。

 普通の民間人も裁判員となり罪を判断する「裁判員制度」の導入も近くなってきている。多くの人が、警察のあり方や裁判制度について考えるいい映画だ。


ご参考までに筆者が受けた裁判の記録:「金町団地の建替闘争の記録」
痴漢被害者の声;「姫の痴漢日記」

アメリカでのリメイク;「Shall We Dance?」

 マリー・アントワネット 

あらすじ:1770年、フランス。15歳の皇太子ルイ・オーギュスト(ジィエソン・シュワルツマン)と14歳の神聖ローマ皇帝の皇女マリー・アントワネット(キルスティン・ダントス)との政略結婚式が執り行われた。ウィーンから嫁いできたマリーには、朝の着替えから食事の儀式など、身の回りのフランス流は戸惑いの連続だった。また、狩や錠前つくりの方が好きな皇太子は、ベッドでもマリーの体に触れようとせず、マリーは気晴らしに、パリの仮面舞踏会へ行ったり、ケーキを食べて過ごしていた。ルイ15世が亡くなり、皇太子のオーギュストが19歳で即位しルイ16世となったが、アメリカの独立支援や今までの乱費がフランスの財政を破綻に追い詰めていた。そして、民衆が立ち上がり「フランス革命」が始まる。。。

いつまでたっても、何もおこらない? 
 歴史上も有名な、フランス革命で「断頭台の露」として消えたルイ16世の王妃マリー・アントワネットの物語だ。

  お輿入れでフランス領に入ると、今まで着ていたオーストリアの洋服を脱がされ、全部フランスの衣服に着替えさせられた話やケーキが好きで凝っていた話。
また、愛人も作っていたなどの逸話が散りばめられている。
フランスのヴェルサイユ宮殿で実際にロケが許されて、宮殿の外観だけでなく、鏡の間なども本物とのこと。広大な裏庭も出てくる。

 マリー・アントワネットの宮殿での生活が当然のことながら中心となるが、無邪気な娘の勝手気ままな行動を捉えただけとしか映らない。
10代や20代の、ただ退屈な王妃の日常ばかりを見せられては、当初は興味があっても徐々にあくびがでる。
お酒や舞踏会、そして靴の収集などの贅沢三昧で、フランス人民から糾弾されたことは映画でなくても多くの人が知っている有名な外見上の話である。

  私が期待したのは、政略結婚に使われ、人民から嫌われ死刑を宣告されたマリー・アントワネットの内面的な気持ちの変化であったがそれは描かれて無かった。
子供ができないための中傷や、外国人であったための苦労などそこには、マリーとしての悩みがあったと思われるが、監督:ソフィア・コッポラによる描き方は表面的である。
撮られている宮廷での生活にプラスした、フランス革命により処刑されるまでのマリーの姿と気持ちが、いつ出てくるのかと待っていたが、何も出てこないうちに終わってしまった。

 究極の貴族の生活と趣味だけを映画にするのなら、別にマリー・アントワネットでなくても、他の優雅なお姫様を題材にすれば良かった。


おまけ;ヴェルサイユ宮殿は去年訪問していて、正面や庭など懐かしさを感じました。詳細は「駆け足で回ったヨーロッパ」の「7日目(フランス編)」にあります。


ご参考までに:出来が良かった同じ「マリー・アントワネット」のミュジージカル版

 ディパーテッド 

あらすじ:アメリカはマサチューセッツ州の警察学校を優秀な成績で卒業した二人の警官がいた。その一人ビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)にはボストンの暗黒街を牛耳るギャング:フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)の一味として潜入し犯罪情報を警察にもたらす特命が与えられた。もう一人の警官コリン・サリバン(マット・ディモン)は幼い頃から親分のフランクに育てられ、警察の情報をギャング団に流す役目があった。お互いを知らない二人はギャング団と警察の中で任務を果たすが、ギャング団と警察は、共に身内にいる裏切り者の存在に気付く。熾烈な「スパイ探し」が両方の組織で始まり身の危険が迫る。二人はどこまで騙せるのか。。。

持続する緊迫感がたまらない! 
 余りアメリカや宣伝パンフレットでは触れていないけどで、あらすじで分かる人もいるかと思うが、オリジナルは2002年の香港映画「インファナル・アフェア」のリメイクだ。
因みに「インファナル・アフェア」とは「非道な」とか「地獄の出来事」と言う意味で「ディパーテッド」とは「死者」の意味だ。

 オリジナルの香港版でも、何時通報者としてばれるのかと、次から次へと展開される緻密なストーリーにワクワクさせられたがその緊迫感の連続を監督:マーティン・スコセッシは、舞台を香港からボストンに変えても上手く処理ができた。

 一つの死で解決したと思っても、まだ終わらないという、最後の最後まで気の抜けない、ここまでやるのかと言う香港映画の精神が、ハリウッドの単純なハッピー・エンドとは違った趣で生きている。

 暴力が支配する裏社会の非情さ、恐怖は、表社会の警察でも似たようなものだという皮肉は面白い。

 役柄としては、以前から悪役にも挑戦して、大分こなせるようになったレオナルド・ディカプリオの進歩がみられる。
でも、なんと言ってもこの映画の主役はジャック・ニコルソンだ。
悪役としての憎々しさ、恐怖で支配するギャングのボスの不気味さと貫禄の出し方は、観客を充分に納得させる。

 音楽も「ザ・バンド」やジョン・レノンを使い、やや暗い70年代をイメージさせていいが、「マイクロ・チップの取引」の話はちょっとばかり、時代が合わなかった。全編を麻薬取引で貫いた方がよかった。

 この映画のもう一つの主役となっている携帯電話だが、利便性と同時に使い方で怖さも持ち合わせていることを再認識した。

 本当に「健在だぜ、ニコルソン」という映画だった。

ご参考までに:ディカプリオのファンなら「アビエーター」、 「ギャング・オブ・ニューヨーク」

 愛の流刑地 

あらすじ:最近はいい恋愛小説が書けない作家が、人妻を殺し、警察に自首の電話をした。殺したのは村尾菊治(豊川悦司)、被害者は村尾の作品のファンであった入江冬香(寺島しのぶ)。二人は京都で知り合い、その後人目を避けて逢うたびに「愛」を確かめ合っていたが、村尾によって平凡な妻から「愛に狂う女」に変えられて行く冬香はいつしか「死」を望むようになっていた。ベッドの上でたびたび「首を絞めて」と言われて、ついに村尾は殺してしまったのだ。この事件を担当することになった検事(長谷川京子)にとって、「愛しているから殺した」と言う村尾の気持ちが大きくのしかかる。。。

男にとって「都合のいい女」を、飽きたから殺した! 
 原作は会社で読まれる「日本経済新聞」に連載され過激な性描写で朝からサラリーマンやOLの話題だったという渡辺淳一の作品。
そのせいで、平日、昼間の上映にもかかわらず、男性の観客が目立つ。

 男性社会での性の最高の快楽は盗み、つまり他人の妻との営み。そして、性の達人として女性に指南できること。
おとなしくて、従順で、抵抗しなくて、着物の似合う、本当に古い、古いタイプの女性を自分の好きなようにもてあそんで、うっとうしくなったら、殺してしまった。
こんな話は、いくらなんでも、今時の日本にはありえないだろう!

 それを、映像化したとは、原作の渡辺淳一の時代錯誤で現実逃避の感覚に乗ってしまった監督:鶴橋康夫の高年齢が充分に出ている。
「殺したいほど人を愛したことがあるか」何て、言葉に騙されてはいけない。
これは、あくまでも「たとえ」であって、本当に殺してしまえばその愛も終わることの矛盾が分かっていない作品だ。
「愛の本質」とは程遠いできだ。

 セックス・シーンも複数の画像を入れて、何とか観させようとするが、たびたび繰り返されると、中だるみがする。
取調べ室に代表される反射するガラスと光、そしていつも雨にからむ画面構成は、一貫したテーマであるが、2時間の内容でこう多用されると、うっとうしく感じる。

 古いタイプの女性としての寺島しのぶの配役は実に極まった。彼女の演技は目立たないけど成長している。
「ください」は本年度の流行語大賞の候補になるかも。

  酷い扱いは検事役の長谷川京子だ。単に綺麗なだけの彼女に、知的で肉感的なものを求めた設定が悪すぎる。
大きく開いた胸や、白いミニスカートでは衣裳だけが存在している。
外形だけで、何も役者としての立場が分かっていないのは、監督の責任が大きい。

 男として:こんな女性がいれば、いつでも「あげる」 けど。

 敬愛なるベートーヴェン 

あらすじ:1824年、ウイーン。交響曲「英雄」「田園」「運命」そして「エリーゼのために」などを作曲してその地位を確立していた53歳の音楽家ベートーヴェン(エド・ハリス)だが、妻も子供も無くネズミがいる市中の安アパートに住み、近所に迷惑をかけながら、創作活動をしていた。かなり耳も聞こえなくなってきていたが、「第九交響曲」の初演も近くなり気分も高揚していた。そんな時、出版元に頼んでおいた、譜面を清書する「写譜師」がやってきたが、その「写譜師」は、女性でしかも23歳という若さのアンナ・ホルツ(ダイアン・クルーガー)だった。最初はアンナを気に入らなかったベートーヴェンだったがアンナの写譜はベートーヴェンの意図を十二分に汲んだもので、すぐにアンナはベートーヴェンの「耳」として活動を始め、「第九交響曲」の初演は大成功を収めた。写譜師だけでなく作曲家としてデビューしたいアンナであったが、容赦ないベートーヴェンの批評に自信が揺らぐ。心の底から尊敬し偉大なるベートーヴェンとの別れが訪れる。。。

女:だらしない中年の生活は夢を壊されたわ! 
男:楽聖と呼ばれたベートーヴェンの晩年にスポットを当てた話だね。
女:もうこの頃には、交響曲だけでなく、ピアノ協奏曲やヴァイオリンのソナタ、弦楽曲も随分と書いていたんでしょう。
男:そうだろうね。でも、30歳ぐらいから、耳の病気で悩まされて、精神的には参っていたのは、本当のようだ。
女:それにしても、権力者をパトロンに持つ売れっ子音楽家が、体を洗った水が下の階にすぐ落ちるような安アパートに住んでいてもいいの?
男:ベートーヴェンの肖像画の、あの髪の毛の乱れ方からは、身の回りにはあまり気を使わないのは想像できるけどね。
女:余りにも名声と実生活の落差を描くのは、簡単に受けを狙って強調しすぎじゃない?
男:それなら、最初は女性の写譜師を嫌がるベートーヴェンがすぐに、アンナの才能を認めるのも、安易な設定かな。
女:いつでも、男性は若い女性なら、それだけでいいってことよね。
男:そう言ってしまうと、自分としては、かなりの部分で認めるけど。
  でも、映画で扱うときは、もっと違った形で取り上げて欲しいよね。
女:最高の見せ場は、難聴のベートーヴェンが指揮する「第九交響曲」にアンナがテンポと入りを合図するシーンね。
男:ここは、よかったね。
  日本でも年末に恒例として演奏される第四楽章の「歓喜の歌」も当然に出てくるから自然と盛り上がった。
女:主演のエド・ハリスやダイアン・クルーガーも指揮を随分と勉強したようね。
男:しなやかなダイアン・クルーガーの手の振りが綺麗に印象に残る。
女:女性が活躍していなかった中世の「音楽界」でも、作曲に挑戦した女性もいたという設定はどうなの?
男:現実にはありえないようだね。
  だけど、今はかなり堅苦しくなっていて、一部の人だけの音楽となった「クラッシック音楽」も当時は宮廷や貴族だけでなく、普通の人々も楽しんでいたんだと言うのは分かる。
女:そうよね。音楽に上品も下品も無いわけよね。
  ただ、気持ちに訴えるかどうかだけよね。
男:音を楽しむ心だね。
女:生活にも余裕がないとそれもできないわね。
男:気持ちの持ちようだと思うけど。
女:やっぱり、お金が必要よ。
男:どうしても、最後はお金になるのか。。。
女:何かいった。。。
男:いや、何も。。。


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