2006年 12月の映画・演劇 評論

2006年


 大奥 

あらすじ:時は江戸時代。第六代将軍家宣が亡くなり、4歳の家継が将軍となった。女性だけが暮らす江戸城の大奥では側室だが将軍の生母となり力を得てきた月光院(井川遥)と大奥総取締役:絵島(仲間由紀恵)の派閥と以前から大奥を牛耳ってきた先代の正室:天英院(高島礼子)の勢力がドロドロとした争いを繰りひろげていた。大奥の闘いは表の政治でも月光院派の側用人:間部詮房(及川光博)と天英院派の老中:秋元(岸谷五朗)の争いと連なっていた。そして、天英院側から絵島をおとし入れるために、二枚目歌舞伎役者の生島(西島秀俊)が「恋のわな」の仕掛け人として差し向けられる。男性に対してうぶな絵島の気持ちが揺れる。。。

絢爛豪華な衣装と女優たち、大物俳優がバラバラの配列で登場する! 
 テレビでも評判になった「大奥シリーズ」を、フジ・テレビが製作にからんで映画化した。
映画の予告編でも仲間由紀恵を中心にした、美しい女優たちが羽織る豪華な打掛はテレビと同じように、確かに眼を引く。

 この作品も前回紹介した「犬神家の一族」に負けないくらい、いやそれ以上の出演俳優を揃えている。
女優では、他に浅野ゆう子、杉田かおる、松下由樹、麻生祐未、木村多江、中山忍など。
男優もすごい。柳葉敏郎、藤田まこと、竹中直人、北村一輝などが友情出演、特別出演で並ぶ。

 これだけの俳優を観ていると、昔、チャンバラ映画で鳴らした東映が正月映画用に作った「オール・スター総出演・総天然色写真」を思い出させる。
綺麗な女優たち、豪華な衣裳、金のかかったセット、美しい景色。でも、話題性は凄いけど、内容には乏しいのだ。

 それは、うたい文句のドロドロとした大奥の女性たちの闘いと、生島に対する絵島の純真な恋心がまったく観客に伝わってこない演出のせいだ。
藤田まことの商人としての出番、竹中直人の歌舞伎場での酒の扱いなど、明らかに絵島との絡みが必要でないシーンが強引な感じで入ってきていて、流れが途切れる。
多くそろえた大物俳優に、個々の出番を与えたため、余分な場面が入っていて、纏まりが悪くなっている。
また、海外を狙ったような江戸時代の物売りや、意味不明の風車、人を集めただけの祭りなどの挿入も無駄である。

 きれいな絵島と生島の舟でのシーンは上手くできているし、最後のはりつけの場面もいいが、これだけでは、二人の愛の推移と確認の場面が少なすぎる。
上演時間内(約2時間)に納めるなら、多くの有名俳優の出演場面をもっと削り、くだらない三人組の笑いを狙って失敗している場面を省き、身分を捨ててまで「恋に生きる」絵島と「死をもってまで貫いた」生島の切ない情感に沿って纏めるべきだった。
 
映画だから、バラバラと撮影してもいいが、それを上手くつなぎあわせていく編集作業も、監督の責任だけど、林 徹にはまだそこまでの技量がないのか。
与えられた「華やかな色紙」をそのまま、観客に羅列してはいけない。

 演技としては、仲間由紀恵は、今まで出演してきた軽妙なセリフが中心の「トリック」から、今年のNHKの大河ドラマ「功名が辻」を経験した成果でかなり時代劇にも馴れてきたが、「色気の表情」をつけると今後も期待できる。
 高島礼子のセリフは、強烈だ。これでは将軍家の正室ではなく「極道の妻たち」の話し方だった。
側用人を演じた及川光博は、いつまでたっても一本調子でいつも正面を向いたような間のとりかたは、ここまでくるともう苦笑いするより他にない。
唯一の救いは。井川遥の「癒し顔」だった。


ご参考までに;仲間由紀恵の 「トリック −劇場版2-」

 犬神家の一族 

あらすじ:大財閥を率いる犬神佐兵衛(仲代達矢)が信州の湖畔の家で莫大な財産を残して亡くなった。遺言状には、恩師の孫娘:野々宮珠代(松嶋菜々子)が、佐兵衛の腹違いの3人の娘たち、松子(富司純子)の息子佐清(すけきよ)、竹子(松坂慶子)の息子佐武(すけたけ)、梅子(萬田久子)の息子佐智(すけとも)の誰かと結婚することにより全財産を受け取るという驚きの内容が記されていた。血なまぐさい相続争いが起きることを心配した財産を管理する法律事務所から依頼を受けた私立探偵:金田一耕助(石坂浩二)が現地に向かうと、恐れていた残忍な手口の殺人事件が次々と起きる。入り組んだ家族関係の中、金田一は事件を解決できるのか。。。

ベテラン監督:市川崑と豪華な俳優陣だけど「何で、また作るのか?」  
 この「犬神家の一族」は30年ぐらい前に、同じ石坂浩二が金田一探偵に扮して市川崑の監督で作られている。
横溝正史原作のおどろ、おどろした殺人事件と複雑な家族関係を、頭のフケを飛ばしながら解決していく金田一探偵の活躍で評判となり、私も観ている。

 今回、出演している俳優たちがすごい。
上に紹介した以外にも、警察署長に加藤武、弁護士に中村敦夫、そして大滝秀治、草笛光子、深田恭子、中村玉緒、岸部一徳。
さらに、三谷幸喜、落語家の林家木久蔵も出ている。豪華キャストをそろえたものだ。

 確かに石坂浩二は、歳を感じさせない容貌で、必死に走り、昔のように頭からフケを飛ばす。
署長の加藤武は「ヨーシ、分かった」と以前と同じセリフをいう。
中村敦夫は見事に抑えた弁護士役をこなす。
富司純子の煙草をすって告白する最後のシーンの演技は貫禄充分だ。

 でも、みんな熱演には違いないけど、これなら30年前と特に変らないのではないか。
市川崑が以前撮った映画を、同じようなメンバーで新しく作りたい意図は何だったのか?
 俳優たちの年齢を経た演技力の比較か?
それなら、同じテーマの映画でやるより、別な素材を俳優に与えてやらせるべきだ。
俳優たちも若い時の演技と比較されても、酷な話である。
自分たちの成長(不成長も含めて)をどう評価すればいいのか、戸惑うだろう。

 話の展開も複雑な一族の関係の説明がまどろっこしくて、退屈だった。
同じ作品でやるなら、ベテランたちの芸よりも松嶋菜々子をもっと使って新しい装いにして欲しかった。

 観終わって「何でいまさら、作ったの」という感想だ。        

 硫黄島からの手紙 −日本から見た「硫黄島」ー

あらすじ:1944年、日米の太平洋戦争もアメリカ軍に優勢となりだした頃の硫黄島。この島がアメリカに占拠されると日本本土が直接空爆を受ける。必死の防衛線だ。ここを守るために新しくアメリカ留学の経験を持つ栗林陸軍中将(渡辺謙)が指揮官としてくる。西郷(二宮和也)ら一般の兵士にとって栗林やオリンピックの馬術競技の金メダリスト:西中佐は、体罰を容認する古い体質の陸軍とは違った、兵士思いの上官だった。栗林中将は硫黄島に地下道を掘らせ一日でも長く抗戦する作戦を取る。そして1945年2月、アメリカ軍の総攻撃が始まる。援軍もなく、水も食料も乏しい中、日本軍の懸命な戦闘が続く。生きて家族のもとに帰ると約束した西郷の命は。。。

淡々とした戦闘では、訴えるものが薄い!  
 10月末に公開されたクリント・イーストウッド監督による硫黄島シリーズの「父親たちの星条旗」に続く2部作目の作品だ。
最初の作品「父親たちの星条旗」は、日米の硫黄島における闘いをアメリカ側から見たものであったが、この「硫黄島からの手紙」は、同じ硫黄島の戦闘を、今度は日本軍を中心にしている。 セリフも日本語だ。

 栗林中将の、日本本土に残してきた家族に対する手紙を介し、家族のために、そして日本のために戦場に尊い命を落としていった兵士の気持ちを描く。
しかし、訴える力(ちから)が弱い!

 西郷を演じる二宮がまず問題だ。
彼の演技と顔では、一般の「大人の兵士」になっていない。
これでは、世間知らずで我侭な「少年兵」でしかなく、祖国に妻と赤ん坊を残してきた「生きる執念」が感じられない。

 また、画面も洞窟のシーンや夜襲の場面が多いため、暗くまるで「白黒映画」のようでメリハリがなさ過ぎた。
国旗掲揚がされていなくて、憲兵隊がうるさい犬を殺す場面は、別に夜にしなくてもいいと思う。もともと、夜も国旗が揚がっているのも不自然だけど。

 戦後60年以上が過ぎ、クリント・イーストウッドもかなり日本を理解しているようである。
(それが、ハリウッド的な興業上の発想かも知れないが。)
軍隊の扱い方にも、日本軍の酷さだけを取り上げずに、投降した丸腰の日本兵をアメリカ兵が殺すなど、アメリカ万歳の扱い方ではないのはいいが、まだ日本人の私には、軍人らしく玉砕したことになっている伊藤中尉(中村獅童)のとった自爆の行為や、浜辺で刀をもちだした栗林の「死に方」の捉え方は、まだまだ不満だ。

 いつまでたっても無くならない、互いに命を奪い合う戦争の虚しさ、愚かさ。
残された家族、国家のあり方、誰も望んでいない戦争がどうして、世界の各地で起こるのか。
クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」の2部作では、それらに対する主張が乏しい。

ご参考までに;硫黄島を描いた1作目「父親たちの星条旗」
         

 武士の一分(ぶしのいちぶん)

あらすじ:東北の小藩で藩主の「毒見役」を勤める三村新之丞(木村拓哉)は、幼馴染で明るい妻:加世(壇れい)と父の代からの中間:徳平(笹野高史)の3人でつつましい日々を送っていた。剣にたけている新之丞はいつか自分の道場を開いて、多くの人々に分け隔てなく剣術を教える夢があった。しかし、ある日の毒見で、貝の毒にあたり、命はとりとめたが失明してしまう。前途のない暗闇の生活を悲観している新之丞を暖かく支えたのは、加世と徳平の二人だった。だが、僅かな家禄も取り上げられてしまう話が持ち上がり、加世が頼った藩の重臣:島田(坂東三津五郎)は口ぞえをするとみせかけ加世を追い詰め体を奪う。それを知った新之丞は加世を離縁するが、武士としての怒りがおさまらない。どうしても譲れない「武士の一分」が島田との闘いを決意させるが、相手もかなりの剣の達人。盲目の新之丞の勝ち目はないが。。。

女:思いやりがあふれる映画ね!
男:山田洋次監督で、藤沢周平の下級武士を扱った小説からの「たそがれ清兵衛」「隠し剣ー鬼の爪」と続く三作目だね。
女:第一作目の「たそがれ清兵衛」は本当にしみじみとした下級武士の生活と決闘シーンがよかったけど、二作目の「隠し剣」は前と同じような話で、期待はずれだったわ。
  こんども、また同じ藤沢周平さんの原作ではどうなっているかと思っていたけど、さすがに山田監督ね。同じミスは犯していないわね。
男:現代の「二枚目」として定着している木村拓哉に時代劇の侍をやらせ、映画初出演の元宝塚の壇れいの配役では、どう料理するか、山田監督のお手並み拝見って感じでみたけど、見事に二人を使い切ったね。
女:私は、最初からキムタクでもう充分だったわ。
  彼みたいな、いい男から優しい言葉をかけられれば、一緒に生活しているだけで充分よ。
男:今度の映画の主題は君が言うように「思いやり」だね。
  眼が見えなくなっての食事の場面では、白湯のかけ方なんかに、言葉には出さないけど、二人が本当に互いに相手を思っている気持ちがきれいにでているよ。

女:撮影も相変わらず丁寧ね。
  障子をつたう「蛍」や、庭でまっている時の「蚊」や枯葉なんかの山田監督特有の「手を抜かない」やり方がまた画面を引き締めていたわ。
男:ささいなことだけど、このあたりの細やかな気の配りが、また大きく作品の出来に影響して来るんだよ。
女:演技としては、キムタクはそれなりにだったけど、中間役の笹野高史さんがこんなに活躍できるって思っていた?
男:イヤーッ、まったく意外な使われ方だったね。
女:笹野さんは「釣りバカ日誌」の社長さんのお抱え運転手でいつもチラッとしか出ていないかったけど、今度の映画では、大活躍ね。
男:キムタクや壇れいだけでは、どうしても山田監督が考えている「雰囲気」がだせない所を、気心の知れた山田組のベテランの笹野高史でカバーした演出だけど、これも適中した。
女:それなら、世話焼きの叔母さん役の桃井かおりもピッタリよ。
男:話としては、最後の台所のシーンへの持って行き方は、実に上手いね。
   「煮物」の味付けで加世が戻ってきていると分かっていても、新之丞と加世の二人が手を取り合う場面では涙を流したよ。
女:私なんかは、声を出して泣いていたみたい。
男:ふるい形かも知れないけどこれも「夫婦の愛」なんだね。
女:なにをシミジミと言っているのよ。
  共感できるのは、あなた好みの女優と山田監督の起用する女優が重なっているからじゃないの?
男:そういえば、「たそがれ清兵衛」の宮沢りえ、「隠し剣」の松たか子、そして今回の壇れいは、好みだね。
女:まったく、いつも女優だけを見ているんだから。もうーッ!
男:そんなことはないつもりだけど。。。


余談ながら;時代劇の木村拓哉を観ていると、市川雷蔵を思い出した。凄みのある「眠狂四郎」が再現できるか?

ご参考までに;山田洋次監督の時代劇「たそがれ清兵衛」
                       「隠し剣 鬼の爪」


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