覚悟

 

怪我をしながらアークエンジェルに戻ってきたアスランはまだ医務室にいる。

それでも話ができるところまで回復してきた。

カガリやキラ、キサカ、マリュー達はアスランから議長のこと、今のザフトのことを聞いた。

そして、キラはラクスに危険が迫っていることを感じ、昨日宇宙へと上がった。

 

アスランから話を聞いたカガリは自室で考えを巡らせていた。

ヘブンズゲートでの戦いに勝利をしたザフトがオーブを目指している。

明日にでもまたオーブで戦いが始まってしまう。

辛い戦いだ。

アスランはまだ動けない。

キラもいない。

だが、逃げるわけにはいかない。

そうしないと、地球は二つに分かれてしまい、もう殺し合いをするしかなくなる。

 

カガリはそこまで考えて、はぁと小さくため息をついた。

今度は、アスランの話を聞いたあとから、彼女の心に渦巻いている思いに目を向けた。

デュランデル議長は世論を味方につけるためラクスの人気を利用しており、

そのためにもアスランが必要だったのだとカガリは感じていた。

この戦争は・・・私が原因なのか。

私がプラントに彼を・・・アスランを連れて行ったことがいけなかったのか。

いや、私がそもそもデュランデル議長の誘いに乗ってしまったのが悪かったのではないか・・・

カガリはそう思った。

議長は以前からこのことを計画し、チャンスをうかがっていたに違いない。

そしてアスランがオーブにいることを知っていたのだ。

私といることを知っていたのだ。

・・・この戦いを引き起こしたのは私だ。

ならば、ちゃんと決着をつけるしかないだろう。

カガリは、左手の薬指の指輪見つめた。

 

           *

 

医務室にいるアスランは、アークエンジェルが動き始めたのを感じた。

どこに向っているのだろう?

・・・また戦いに向うのか?

そうだとすれば、アスランはまだ回復をしきれていない自分の体調を呪った。

と、そこへ医務室の扉が開く音が聞こえた。

彼は痛みに顔をしかめながら体を起こそうとした。

入ってきたのはカガリだった。

アスランの様子に気がついたカガリは駆け寄り、手助けをした。

「大丈夫か?アスラン。」

「ああ・・・艦が動いているな。戦いにいくのか?」

アスランの質問にカガリの顔が曇り、俯いた。

「キラも宇宙に行っている今・・・戦闘をしにいくのか?」

アスランの語気が強くなる。

「仕方ない・・・また、オーブが戦場になるから。」

カガリが静かな声で答えた。

「セイランがジブリールを匿っているようだ。」

「そんな・・・」

アスランは怒りを表すように手を握り締めた。

議長がオーブに兵を向けることのできる格好の理由ではないか。

「ザフト軍が攻撃を仕掛けてきたら、アークエンジェルは戦闘を始める予定だ。

多少揺れるだろうが、お前は、早く体を治すことに専念してくれ。

私もMSで戦闘に出るつもりだ。」

「俺も出るよ。もう大丈夫だから。」

アスランの言葉を予想していたカガリは首を振った。

「大丈夫だ、このくらいの怪我!」

「だめだ!怪我を治すことが、お前の仕事だとさっき、言っただろう。それに、お前が乗る機体はここにない。」

「ムラサメがあるだろう?カガリだって、ムラサメに・・・。」

カガリのストライクルージュはキラが今使っている。

「私は、私の機体、アカツキがある。」

アスランは驚きで目を見開いた。

「ア・・・カツキ?」

「お父様が遺してくれた機体だ。今エリカたちが必死で調整をしてくれている。」

「カガリ!」

カガリはアスランの顔を見つめて困ったように微笑んだ。

「死ぬつもりなどないから・・・デュランデル議長と刺し違えるというつもりはないから安心してくれ。」

昔の誰かと違って、な・・・とカガリは少し冗談めかしに小さい声で言った。

が、アスランにはその言葉は聞こえていなかった。

「け・・・ど・・・」

「でも・・・必ず生きて帰ってくる・・・なんて約束もできないけどな。」

「カガリ・・・」

アスランは思わずカガリを抱き寄せた。

辛い戦いになるはずだ・・・いかにカガリ専用の性能のいい機体に乗っていたからといっても相手はあのシンやレイだ。

行かないでくれ・・・そう発したくなった。

が、彼女の覚悟は変わらないだろうと感じたアスランは何もいえなかった。

カガリを抱きしめる腕に力をいれた。

「一人では無理だ・・・やっぱり俺もムラサメで・・・」

「だめだ、アスラン・・・お前の機体をキラとラクスが宇宙から持ってくることになっている。」

アスランは驚いて、抱きしめていた力を緩め、カガリの顔を覗き込んだ。

「俺の機体?」

「ああ・・・だからお前は早く体を治してくれ。それに・・・」

燐とした表情でカガリはアスランをまっすぐ見つめ続けた。

「この事態を引き落としたのは私だ。だから責任を取る必要がある。」

カガリはアスランの頬に手を伸ばして続けた。

「お前を巻き込んでしまった・・・ごめん。」

プラントへ連れて行ってすまなかった・・・カガリは心の中で謝った。

そして、カガリはアスランの前で左の薬指から指輪を抜き取った。

「アスラン、これを・・・」

カガリはアスランの手をとり、指輪を握らせた。

「カガリ!君は・・・」

驚いたアスランが手の平に乗っている指輪とカガリの顔を交互に見つめた。

「もし・・・生きて帰ってこられたら、またこの指輪をはめてくれないか?」

アスランにはカガリの覚悟がわかった。

彼は指輪を落とさないようにギュッと手を握りしめ、一方の手で彼女を引き寄せた。

重なる唇。

このまま離したくない・・・アスランは思った。

 

 

アークエンジェルが大きく揺れた。

戦闘が始まった・・・彼はそう感じた。

自分はまだ何もできず、ここで寝ているだけだ。

「じゃあ、行ってくる。」

そう言って医務室を出て行ったカガリの姿が浮かんだ。

どうか無事で・・・

アスランはそう願わずにはいられなかった。

 

 

(2005.7.10)

 

【あとがき】

アスラン脱走を見て、議長はラクスの婚約者としてのアスランが必要だったのかしらと思い浮かんだものです。

それから、噂になっている指輪ねたに関しても・・・こういう感じだったらいいのだけど。違うだろうな。

前者の話ですが、きっと議長はかなり前から計画していたってことなのかしら、とも思っています。

ということは1話からすべて仕組まれていたことなのですよね。

カガリがプラントに行かなかったら・・・なんて思ってしまいました。

それにしても議長が目指すものはクルーゼが目指していたものと近い気がしてきます。

イコールではないけれども。

 

あと一部で噂されている指輪ねたについては、こういう感じの話だったら管理人は許せるかなとか思っています。

カガリはオーブの戦いで出るときにはある程度「覚悟」をしていると思います。

落とされるかもしれない・・・と。

テレビのカガリはアスランには何も言わず出撃しそうですね。

 

 

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