災難の朝に思うことは

 

黒海沿岸の都市、ディオキアの基地にミネルバが寄港し、しばしの休息をすごすクルー達。

アスラン、シン、レイ、ルナマリアレイはンやををんのは・うますますはデュランデル議長に食事へ招待された。

その後、議長の好意からアスラン、シン、ルナマリアはその日は基地に戻らずホテルに宿泊することとなった。

災難は次の日の朝やってきた。アスランは目を覚まし、体をおこし、ふと枕元を見ると、不自然なふくらみが目に入った。

彼は訝しげにそれをめくると中に艶かしい格好のミーアが眠っていた。

どうしてここに・・・彼は驚きのあまり声をあげ、ベッドから転げ落ちた。

その物音にミーアは目を覚ました。

慌てふためくアスランをよそに彼女はいたってのんびりと体をおこした。

と、そこへルナマリアがノックをしてきた。

アスランは青くなった。

いくら朴念仁の彼でもこの状況はまずいと思っていた。

が、彼の思いとはうらはらにミーアが扉をあけ、ルナマリアに言い放った。

「ありがとう、でもどうぞお先にいらしてくださいな。アスランは後から私と参りますわ。」

ルナマリアは戸惑いながらも扉を閉めた。

アスランはミーアを怒鳴りつけた。

彼女は驚いて聞いてきた、久しぶりに婚約者と会うのだから・・・と、するとアスランは彼女の言葉をさえぎり言い切った。

「ラクスは・・・そんなことはしない。」

「えっ、しないの?何で」

「ラクスだからだ。」

ミーアの反応にアスランは頭を抱えた。

ミーアを部屋から追い出した後、アスランはベッドの端に座り大きくため息をついた。

どうせベッドに忍び込まれるのなら、恋人・・・カガリ・・・ならよかったのにと思った。

まあザフトにいてはそういうことはありえないのだが・・・自嘲気味に呟いた。

そういえば、以前・・・ふとアスランはある出来事を思い出した。

 

 

アスランがオーブに来て1年余りが過ぎた頃のことだった。

彼はカガリの護衛となり彼女と行動を共にするようになっていた。

代表に先頃就任したカガリは、今回もアスランを伴いとある東アジアの島国を訪問していた。

今回の訪問にはビジネスショウを視察することも含まれていた。

ただ、ビジネスショウのため、ホテルの空きがあまりなく、アスランとカガリは別室に泊まることとなった。

普段はベッドルームが二つあるスィートに護衛のアスランとともに泊まるのだが。

それに今回は日程前半2日がセイラン親子と一緒になったことも別室にした理由だった。

訪問の初日の夜、政府主催の歓迎晩餐会が開かれ、カガリはセイラン親子と出席することとなっていた。

セイラン家の護衛がつくためアスランの随行は断られた。

「留守番をしっかり頼むよ。」

ユウナはアスランにそう告げ、ドレスを纏ったカガリを連れて行った。

やるせない思いでカガリを見送ったあと、彼はひとつため息をついてホテルの自分の部屋へと戻った。

護衛としては・・・彼女を守ると誓った自分としては、カガリの出席するパーティに随行できないのは不本意であった。

いくら訪問国の治安がよく、セイラン家の護衛がいるからと言われても。

だがそうはいってもユウナの婚約者として紹介されるカガリを目の当たりにするのはあまり気分がいいものではなかった。

特にユーナはアスランがいると見せつけるかのようにカガリに対してべたべたするからだ。

だから今回は同行することに対して固執しなかった。

前日夜遅くまで今回の訪問のための資料を作っていたアスランは、疲れからか眠気を感じ、カーテンをあけたままベッドにもぐりこんだ。

次の日の朝、アスランは眩しい日差しを避けるため、体の向きを変えた。

と、何かが手に当たったので、彼は目を覚ました。

体を起こして、ふと枕元を見ると、不自然なふくらみが目に入った。

彼は訝しげにそれをめくると中に浴衣をきたカガリが寝ていた。

「えっ・・・ええー。」

どうしてカガリがここに・・・。

彼は寝ぼけた頭で考えた。

時折重ねる逢瀬で自分がカガリのベッドで一緒に眠ることはあっても、彼女から自分のベッドに来ることはめったになかった。

ましてや忍んでくることなどありえないことだ。

本物か・・・アスランはじっと気持ちよさそうに寝ているカガリを見つめた。

「うーん」

カガリが寝返りをうった。

浴衣から胸が少しはだけて見えアスランはどぎまぎした。

彼は彼女を起こさぬようにそっと覗きこみ・・・頬を人差し指で触ってみた。

「本物だ」

彼はそっとベッドを降り部屋のクロゼットを覗いてみた。

カガリが昨日着ていったドレスがきちんとかけてあった。

そして、テーブルの上には昨晩、彼女が持っていった小さなバックと彼女を飾っていた装飾品がきちんと並べてあった。

合点がいったアスランはクスリと笑った。

彼女には今回は同室ではないからと説明をして、ちゃんと自分の部屋の鍵を渡したはずなのだが、

何をどう勘違いしたのか・・・パーティから戻ってきた時にこの部屋が自分の部屋だと思いこんでしまったようだ。

おおかた鍵がすぐに見つからなくてフロントに行ってあけてもらったのだろう。

アスランはベッドの側に戻り彼女の顔を再び見つめた。

「さて・・・どうしたものか。」

彼は小さく呟き、時計を見つめ、少し思案した後、再びベッドに入り込んだ。

カガリを後ろから抱きしめて再び眠りについた。

カガリは、眩しい光と背中の重みで目をさました。

アスランが再び眠りについて30分くらい経っていた。

「眩しい・・・うん?あれ?」

カガリは自分の背中の重みを確認すべく顔を後ろに向けようとして驚いた。

「えっぅ・・・ええー」

カガリは驚きで飛び起きそうになるのを抑えた。

何でアスランがここにいるのだろう・・・カガリは不思議に思った。

彼とそういう関係になってから、一緒に朝を迎える時はあるにはあるのだが・・・。

だが、昨日は違うはずだ。

少なくとも彼は寝ている所を忍び込んでくるような不届き者ではない。

では・・・どうして。

混乱しながらも彼女はアスランの腕の中から彼をおこさないようにそっと抜け出して、体を起こした。

はだけていた浴衣に気がつき、身づくろいを整えた。

「おはよう・・・」

そこへアスランが声をかけた。

ぎょっとしてカガリは彼を見つめた。

「お・・・お前・・・その・・・どうしてここに。」

その顔はほんのりと赤かった。

「忍び込んでくるなんて・・・。今回はユウナも一緒なのに・・・。」

アスランは笑いをこらえてカガリに伝えた。

「いや・・・ここは俺の部屋だ。」

カガリは合点がいかない顔をした。

「けど、ベッドはこれ1つしかないじゃないか・・・だから私のベッドだと・・・」

クスリと笑ってアスランは言った。

「いつもはホテルの部屋は一緒だけど・・・今回は部屋が別だろう?」

えっ・・・とカガリが首をかしげた。

「ほらカガリの部屋は2506だって教えただろう。ここは2510だ。ほら・・・」

アスランはベッドサイドの電話を指した。

そこには2510とあった。あっ・・・と思い出したのか、カガリがうつむいてポツリといった。

「間違えた。」

そうだ・・・いつもはホテルの部屋番号が同じでもベッドルームが二つある部屋だった。

今回はその部屋をセイラン親子に譲ってしまったから別々になったのだ。

それで荷物とか見当たらなかったのか。

「だって・・・いつもお前と一緒の部屋じゃないか。

だから・・・夜遅くなって・・・鍵が見当たらなくて、ホテルのフロントにお前と同室だから入れてくれって頼んでしまった。」

「そう・・・けど、気づかないか?・」

アスランはカガリの様子が可愛らしくてしかたなかった。

「で・・・荷物が見当たらなくて変だなとは思ったさ。でもお前がどっかにしまったのかと思った。

けど・・・ドレスだろう。どうしようかと引き出しをみたらこれがあったから。」

カガリは自分が着ているホテル備え付けの浴衣を指した。

「だからこれを着て寝ることにした。」

アスランは彼女を引き寄せて抱きしめ、顔を近づけていった。

カガリも彼の意図することを察して目を閉じた。

 

 

  今となっては懐かしい思い出だ。

またいつかそんな日が来るのだろうか・・・アスランはため息をまたついてホテルの部屋を出た。

廊下の向こうにミーアが待っているのが見えた。

アスランは眉を寄せた。

「さっきの彼女に一緒に行くっていったでしょう。」

「・・・そうだったな。」

愛想のない声でアスランは答えた。

いつまで自分は彼女の・・・ラクスの婚約者の振りをしなければならないのだろう。

議長はいつまで彼女を使うのだろうか・・・。

戦いの火種がなくなるのはいつなのだろうか・・・。

アスランは遠く離れた恋人の姿を思い浮かべひとつまたため息をついた。

 

 

(2005.3.27)コピー本にて

(2005.7.10)サイト上にUP

 

【あとがき】

春のイベント&春の新刊を通販で購入してくれた方に配ったコピー本です。

戯言がいくつか浮かんできているのもあり、時期的にももういいかなと思い、UPすることにしました。

テレビでアスランがひっくり返るほど動揺していましたが、

もしカガリだったなら・・・あそこまではひっくり返らずにまじまじと見てしまったのではないかと思いました。

でも、カガリがアスランのベッドに忍び込むなんて必要ないから

どうしたらそういう状況になるか考えて書いた話です。

うちのアスカガははい・・・それなりにアスランが頑張っていましたということで。

でも種運命本編はどうなのでしょうね。

 

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