決意
−正直言って面白くなかった
あいつのことなどすっかり忘れていた。
アスランは迎えの車に乗ったあと深いため息をついた。
ふと思い出し・・・慌ててポケットの中をさぐると
それは内ポケットにひっそりと収まっていた。
アスランはホッと胸をなでおろした。
プラント訪問の間に折をみて渡そうと思ってそこにしまっていたのだ。
すっかり忘れていた自分に苦笑する。
MS強奪騒ぎに巻き込まれ、ミネルバに乗り込み、
ユニウス・セブンの破砕作業といろいろ大変だったが
でも二人きりでゆったりとした時間を過ごせたのも久しぶりだったかもしれない。
だからこそすっかり忘れていたのだ。あいつのことを。
アスランの頭に半年前のことがめぐっていた。
アスハの屋敷でアスランはキサカから行政府に明日から来るなといわれた。
「なぜ?俺はアスハ代表の補佐官ですが。」
何か失敗をしたのだろうか・・・アスランは自分の行動を振り返る。
思い当たらない・・・。どうしてなのだ。
「り・・・理由を聞かせてください。」
キサカの横にいたカガリが困った顔をした。
カガリの気持ち頬が赤いのは気のせいだろうか・・・とアスランは思った。
「お前がくるとあいつらがうるさくて・・・・だから。」
キサカに促されてカガリが答えた。
「あいつらって?うるさいって?何」
よくわからないって顔でアスランがカガリに噛み付く。
「お前もこの間怒っていただろう?あいつのこと。」
アスランはわけがわからずきょとんとしていた。
「だから・・・ユウナ・ロマ。お前かなり怒っていたじゃないか。」
ユウナ・ロマ・セイラン。
先月から行政府の閣議に出席するようになった宰相ウナト・エマ・セイランの息子。
アスランは思い出した。妙にカガリになれなれしく、自分に敵意をみせる男。
「実はカガリさまにユウナさまとの結婚の話が起きています。」
「えっ?えー!」
アスランは驚いた。なぜ・・・そんな表情をした。
それを見たカガリはアスランと視線を合わせるのを避けた。
「ウナトさまのお話だとウズミさまと生前決められたということで・・・正式に婚約、婚儀の予定を決めてほしいといわれています。」
思わずカガリの顔を見つめる。
「なん・・・」
「そんな話・・・私も知らなかった。」
カガリも気落ちした態度で答えた。彼女の様子からそれは嘘ではないとアスランは確信した。
けれど・・・カガリがあいつと?
まさか・・・カガリは俺のことを・・
混乱をしているアスランに近づき、彼の両腕を掴みながらカガリは彼を落着かせるように言った。
「ウナトは「親同士が決めた許婚」といっていたが、私はお父さまからそのことは聞いていない。キサカもそうだ。」
キサカが大きくうなずいた。
「もし、その話が本当であればお父さまはキサカには何らかの形で知らせていると思うのだ。」
「確かに私も聞いてはいない。だから、こちらも「はいそうですね」と話をすすめたくはないのが本音だ。」
だから安心してくれ・・・といった表情でカガリがアスランを見上げた。
「ただ、肝心のウズミさまがいない今、彼らの言うことに反論する根拠もないのが事実だ。」
キサカが続けた。
「そう・・・ですか。」
アスランは彼女の婚約騒動について納得したわけではないのだが、事実の認識をした。
まだ決まったわけではない・・・なんとかそれだけは防がなければと・・・彼は思った。
が、一つ腑に落ちないことに気がつき、カガリとキサカにむかってたずねた。
「けれど・・・それと俺の行政府の件とどう関係があるのですか?」
「どうも今回のことの原因の一つに君のこともあるようだ。」
「俺のこと?」
キサカがうなずく。
「どうもカガリと君の仲を気にして・・・心配して申し出たように見受けられる。」
「俺とカガリの仲?・・・心配って?」
アスランは顔をすこし赤くしながらカガリの方を見た。彼女の顔も真っ赤だった。
それに心配って・・・俺のことはやはり認められないってことか。
「ああ・・・もちろん私は君たちのことは承知しているし、応援したいと思っている。」
キサカは渋い顔ながらもそうアスランに向かっていった。
「君の事をどこまで彼らが知っているか、こちらは今ひとつわからないのだが、彼らにしてみれば
アスハの跡取りの一人娘がどこの馬の骨かもわからぬ男と仲がよいということに対して危機感のもったようだ。」
「それで、俺がいるとあいつらがうるさいってことか?」
今度は納得したようにカガリを見た。彼女は小さく頷いた。
「こちらとしては丁重に断りをいれている。今は相手を刺激したくない。」
目に涙をいっぱい浮かべて・・・小さな声でごめん、と彼女はさらに呟いた。
その後、カガリに聞いたらユウナのセクハラもどきの行動は減ったといっていた。
そういえばあの話はどうなっているのだろうか。
今日、目の当たりをしただけでも十分面白くなかった。
やはり渡さなければこの指輪。
彼女を縛ってしまうかもしれないと思ってなかなか渡せなかったのだけれども。
俺の決意のしるし・・・君をおれものだと公言する。
(2004.12.19)
【あとがき】
8話を見て・・・アスランが行政府になぜついていかなかったのかというのが気になってしまい書いたものです。
お迎えの車に乗って・・・軍の施設でシャワーを浴びる間に彼が思ったことはこれかなと思っています。
このときには、まだプラントに行くことはきめていないということにしてください。
これのカガリVERも今思案中です