懐かしい顔

「カガリさま、アスランさん」

 

食堂の近くの廊下で、すれ違い様にカガリとアスランは声をかけられた。

いぶかしげに二人は顔を見合わせ振り向くと、ミネルバの整備クルーだった。

「お久しぶりです。お元気そうでなによりです。私はエターナルで・・・」

「ああ・・・、お前。元気だったか。」

カガリは思い当たったようで彼と話を始めた。

「はい。」

「そうだ、ディアッカと一緒にプラントに戻るっていっていたな。」

「ええ・・・。家族がプラントに残っていたので。」

「そうかあ、それで今はこの艦のクルーか。」

「はい、ミネルバが発進するときにMSデッキでお見かけをした時は「まさか」と思ったのですが。」

アハハ・・・そうだよな、とカガリは苦笑した。

「先ほど屋外でお見かけして、やはりと思いまして、ご挨拶できればと・・・」

「ああこちらこそ、声をかけてくれて嬉しいよ。」

そこで二人の会話についていけなかったアスランが、カガリに耳打ちをした。

「・・・カガリ・・・その・・・誰?」

アスランは彼のことをどうにも思い出せなかったのだ。

「ああ・・・ほら、ぼろぼろのストライク・ルージュでキラをエターナルにつれて帰ったときに手伝ってくれた・・・」

「あ・・・」

「そのあと私がクサナギに戻るためのシャトル・・・」

「ああ・・・あの時の」

アスランも思い出したようだ。

「お元気で、なによりです。すいません、すぐに思い出せなくて。」

「お前もあの時はルージュと同じでぼろぼろだったからな。」

ちょっとアスランが拗ねた顔をしてカガリを睨んだ。

その様子をみてクスクス・・・と整備クルーは笑い出した。

「そうやっていると、エターナルの頃とかわりませんね。」

二人は顔をみあわせて少し恥ずかしそうにした。

「けれど、お綺麗になられましたね。カガリ様。それに、アスランさんもさらに精悍になられて。」

「そ、そうか?」

カガリが照れくさそうに頭をかいた。

その様子をみてアスランは微笑んだ。

「あの彼は・・・キラさんは、どうしていますか?」

「キラはまだ・・・その休養をしています。」

「そうですか・・・大変な戦いでしたから・・・」

3人ともしばらく黙っていた。

その横をシン、ルナマリア、レイ、メイリンの四人が通り過ぎて行った。

シンやルナマリアはチラリとこちらを気にしていたように見えた。

彼らに気がついた整備クルーはカガリに向かって少しすまなそうに言った。

「うちのクルーはまだ若くて、それにカガリさまのことを知らないので失礼なことを言ったりもしますが、お気になさらずに。」

「あっ・・・ああ・・・・」

カガリは少し戸惑ったような顔をしてうつむいたあと、顔をあげ

「ありがとう。」

と、ニッコリ笑い、彼に礼をいった。

「では、あまり長話もいけませんね。バルドフェルド隊長やダコスタ副長にもよろしくお伝えください。」

「わかりました。オーブに寄港していただけるそうですから、会う機会があればいいですね。」

アスランが答えた。

「ああ、お前も元気で。」

 

「こんなところであの時のメンバーに会うとは思ってもいなかったな。」

「ああ・・・」

「みんなちゃんとがんばっているな。」

「・・・そうだな・・・ディアッカもそうだったな。」

「ディアッカか。イザークの下にいるって聞いたけど。」

カガリが足を止め、アスランの顔をみあげた

何だ?とアスランも足をとめた。

「お前、さっきザクに乗ったときに話したのか?」

アスランが一瞬考えるよう顔をして答えた。

「ああ・・・少しね。」

「そっか・・・よかったな。」

「ああ・・・相変わらずだったよ。イザークも」

カガリはアスランとイザークの会話を想像して噴出した。

「おい」

「いや・・・おまえ、なんて言われたのかな、と考えたら可笑しくなった。」

「別にいいだろう。部屋に戻ろう。」

その声は少し固かったので、カガリはしばらくクスクスと笑っていた。

 

「あの・・・さっき、オーブの代表とお話をしていましたよね。」

MSデッキでルナマリアは先ほどアスランとカガリと話していた整備クルーをみつけ尋ねた。

その横にはシンやレイもいた。

「ああ・・・」

彼は作業を続けながら答えた。

「その・・・何で?」

「言わないとだめか?」

「いや・・・けど気になって。」

彼は小さくため息をついて答えた。しかし、その手をとめることはなかった。

「俺は昔、エターナルに乗っていたから。」

えっ・・・3人とも驚いた顔をした。

「知らなかった。」

ルナマリアが呟いた。

「別に言いふらすようなことじゃないだろう。俺はザフトに戻ったわけだし。」

「けど、整備クルーでしょう。しかもエターナルだし。あいつはオーブの人間だし。」

今度はシンが彼に尋ねた。

「カガリさまはエターナルのMSデッキにこられた時は俺ら整備クルーにいつも労いの言葉をかけてくれたよ。

 あの時はエターナルもクサナギも同じ仲間だったわけだから、オーブとかプラントとかそういうことはあまり気にしてはいなかったさ。特にあの方はね。」

「けど、それだけじゃあんなふうには話さないでしょう?」

ルナマリアがさらに聞いてきた。

「はぁー」

整備クルーは大きなため息をついて、手をとめて彼らの方をむいた。

「別にお前らに話す必要はないだろう。」

「けど・・・知りたいって思っても。」

ルナマリアは食い下がった。諦めたように彼は話し始めた。

「俺は最後の戦いの後、エターナルに戻ってきたカガリさま達の手伝いをしただけだ。」

「なんでエターナルにあいつが。」

「俺だってはっきりはしらない、が、たぶん、ジャスティスをジェネシスの中で爆発させ、カガリさまの確かストライク・ルージュで戻ってきたんだ。」

ぼろぼろのストライク・ルージュからフリーダムのパイロットを抱えてでてきたアスランとカガリ。

そのあと、シャトルの準備が整ったと知らせようとしたときに待合室の前で聞いてしまった二人の会話。

自爆するつもりでジェネシスに乗り込んでいった彼をカガリが連れ帰ってきたことを知った。

「機体はぼろぼろだった。たぶんあと何秒か遅れていたら、二人とも爆風にやられていたかもしれないよな。」

「・・・・」

「エターナルのもう一人のパイロットも収容していたし、エターナルが一番近かったからエターナルにきただけだといっていた。」

「・・・・」

「パイロットを医務室へ連れて行くのを手伝い、初陣でつかれていたカガリ様をシャトルでクサナギに送ってあげただけだ。」

「初陣?」

「ああ・・・そうきいたよ。確かにあの機体は初めてみるものだったし」

「でもあいつはナチュラルだろう・・・それに・・・アスハの人間なのになんでMSに・・・」

「さあ、俺は知らない。ただあの時はみんな自分のできることを精一杯やっていただけだ。俺は今もその気持ちは変わってないけどな。」

「初陣があのヤキンの戦いで、生き残ったということはすごいですね。」

今まで黙って聞いていたレイがいった。

「けど、きっとアスランさんがあいつを守って・・・」

整備クルーはそんなシンをみてため息をついて、また作業を始めた。

「シン、お前、自分がMSに乗っていてよくそんなことがいえるな。」

レイがすこしきつい口調でシンに向かっていった。

シンは思わず言葉に詰まった・・・が、何かいいたそうにしていた。

整備クルーも頷いて、そして口をひらいた。

「あのさ、人ってそれなりにいろいろ経験してきている。誰一人同じではないさ。

そしてそんな経験なんてべらべら人には普通言わないものだろう。まあ、今日みたいに聞かれたらこたえるけどさ。

だから、相手のことをよく知らないうちにいろいろ言わない方がいいと思うぜ。」

「何だって?」

シンが整備クルーにつかみかかりそうになるのをレイが抑えた。

「さあ、この話はここでおしまい。お前らはいった、いった、自分の仕事につけよ。」

「お前に何が・・・」

「シン、やめろ。もう行くぞ。」

「けど・・・」

レイがシンを押さえながら、整備クルーに向かって頭をさげた。

「貴重は話ありがとうございます。」

「あ・・・すいません。本当に。」

ルナマリアも頭をさげた。

整備クルーは片手を挙げて答えた。

 

整備クルーは3人が離れたあと、作業の手を止めて思った。

あのときシャトルの待合室で泣きながら聞こえてきたカガリの言葉。

あの言葉から、彼らがどんな思いで、ジェネシスに突入し脱出してきたか、自分なりに考えるだけで切なくなった。

だからこそ、ミネルバに乗り込んできたザクから二人が出てきたのを見たとき、少し嬉しかった。

もうザフトに戻った自分があの二人と会えるとは思ってもいなかったからだ。

二人並んであの時と同じようにがんばっているのだと思った。

そしてユニウス7の作業から戻ってきたザクを迎えに息せき切って走ってきたカガリをみてほほえましく

船外デッキで一方的にシンに責められるカガリを痛ましく感じた。

あの二人には幸せになってもらいたいものだ・・・

再び彼は作業をはじめた。

 

(2004.11.28)

【あとがき】

私なりの7話の補完です。こういうことがあってもいいよなという思いの話です。特に前半。

ディアッカがイザークの下で働いているということは、ミネルバのクルーの中にエターナルのMS整備クルーがいてもいいかなと思って。

後半は本当に願望ですが・・・・でも、これでもシンくんはカガリちゃんに好意をもっていないので、反発しています。

やっぱりこいつにはわからなかったよな・・・と思っている整備クルーです。

 

目次へ戻る