愛しい君たち
「う・・・ん」
アスランは眩しい光に寝返りをうった。
そしてうっすらと目を開けた。
眩しい・・・
ふと、横で寝ているはずの人物を探した・・・がいなかった。
「カガリがカーテンを開けたのか。」
アスランは体をおこし壁にかかっている時計を見上げた。
針は7時をさしていた。
「そろそろ起きるか。」
彼をそう呟いて、床に落ちているパジャマを拾い袖に通して隣の小さなベッドに目を落とした。
「ニコルも起きているのか。」
アスランとカガリの間に生まれたニコルも先月2歳の誕生日を迎えた。
もうベビーベッドで寝るには無理があり、しかしながらまだ自分の部屋で寝るには幼いため
両親の寝室で引き続き眠れるようにと、その小さいベッドは、彼がニコルのために作ったものだった。
実は最初のうちは両親のベッドに3人で川の字のように寝ていたのだが、
これではストレスがたまるとアスランがベッドを作ったのだ。
身づくろいをした彼はシャワーを浴びる前にリビングを覗いた。
「とーたま!」
リビングの床に座っておもちゃで遊んでいたニコルがアスランをみつけて声を上げた。
立ち上がり、とことこと彼の方に近寄ってきた。
「おはよう、ニコル」
彼はかがんで両手を広げニコルを迎え、抱き上げ頬擦りをした。
「おはよう。とーたま。」
ニコルがうれしそうにアスランの顔に手を伸ばしていた。
「おっ、アスラン、起きたのか。」
ニコルの声が聞こえたのかエプロン姿のカガリがキッチンからでてきて近寄ってきた。
「おはよう、カガリ、シャワーを浴びてくる」
彼は昨日仕事で帰宅が深夜となっていた。
「うん」
アスランはカガリを引き寄せ軽く口付けをしてニコルを手渡した。
ニコルはとーたま・・・とつぶやいて少し顔をゆがめた。
カガリはニコルの頭を撫でながら彼に話しかけた。
「お父様はこれからシャワーだって。お前はご飯だろう?ほら今日はホットケーキだ」
「とけーき?」
ホットケーキと聞いてニコルの目が輝き、機嫌が直った。
「うん、たべゆ」
「そっか、じゃあ、いすに座るぞ。」
アスランはカガリに軽く手を上げリビングを出て行った。
アスランがシャワーを終え、身支度を整えてリビングに再び入ったときにはテーブルに朝食が並んでいた。
アスランの向かいにはカガリとニコルが並んで座っていた。
もうニコルは食事がほとんど終わったようで両手でコップを握り牛乳をゴクゴクと飲んでいた。
「そういえばカガリ・・・この時間にその姿って、お前今日は休みなのか?」
カガリはまだ先ほどと同じエプロン姿のままだった。
「あっ、うん・・・言ってなかったっけ?」
ちょっとアスランは眉を吊り上げてこたえた。
「聞いてないと思うけど・・・」
「そうだっけ?」
カガリはアスランと目を合わせようとせず、ニコルの頬についてメイプルシロップをふいていた。
言ってないな・・・こいつ、とアスランは彼女の態度から感じた。
「お前も今日は13時からの会議だけだろう?」
それなのに朝から行政府に行くかな・・・とカガリは小さな声で続けた。
アスランはカガリがニコル出産後、育児休暇を取っているときに行政府の仕事を始めた。
現在は科学技術分野を担当している。
「まあそうだけど・・・あれ?13時って・・・15時だった思うけれど」
あわてたようにカガリが言った。
「あっ・・・なんか急に変更になったって聞いたぞ。私は。お前にも連絡がいっていると思うが」
「昨日はモルゲンレーテで遅くなってしまったから行政府には帰り寄ってないからな。」
「それでさ、会議が終わったら今日はすぐに帰ってこいよな」
「は?なんで」
スクランブルエッグを口に入れようとしたアスランの動きが止まって聞きかえしてきた。
「ほら、今日はキラ達がくるからさ・・・ラクスもセアも連れて」
セアは今年1歳になるキラとラクスの一人娘だ。
「そうだったか?・・・・・ああ確かに先月、ニコルの誕生祝いに来てくれたときにいっていたな。」
記憶をたどったアスランが一人納得してそして続けた。
「そうか・・・それで今日お前は休みを取ったわけだ。」
「うん・・・まあ、それもあるかな。」
少しカガリがはにかみながら答えた。
「それもって?」
アスランは思い当たらず頭をかしげた。
「まあ相変わらず自分のことには鈍いよな・・・お前って」
アスランの様子をみながらカガリは呟いた後にニコルの顔をみて言った。
「ニコル・・・お父様は鈍いよな?」
「なぁー」
ニコルが笑いながらカガリに相槌をうった。
玄関で、カガリがニコルを抱いてアスランを待っていた。
アスランはパソコンが入ったカバンを手に書斎からでてきた。
「じゃあ、いってくる。」
「うん」
アスランはカガリの唇を確認するかのようにチュッと口付けをした。
そのあと、ニコルの頬に一つキスを落とした。
「とーたま、てらっしゃい。」
アスランはにこりと笑って彼の頭をなぜた。
「ほら・・・ニコル、今日はあれを言うのだろ?練習しただろう?」
カガリが抱いているニコルの背をたたきながら言った。
アスランがなんだ?とばかりに首をかしげながら、ニコルの顔を見やる。
「えーっと・・・・うーんと」
ニコルが両手を口にあて首を右に左に傾けながら何かを思い出そうとしていた。
その仕草や表情はカガリを思い出させ・・・アスランは自然と微笑み始める。
カガリがニコルに優しく促す。
「ほら、ニコル・・・・お父様になんていうつもりだっけ?ほら・・・お、た、ん、じょう、び・・・」
はっ・・・とアスランは気がついてカガリの顔を見た。
カガリは彼にウィンクをした。
ニコルはまだ少し悩んでいた。
「お、め、で、と、う・・・だろう、ほら、お父様お誕生日・・」
「あぁ・・・」
ニコルが何かを思い出したようで彼は手をたたいた。
そしてアスランの方へ手を伸ばした。
「とーたま、たーじょーび、めでとう」
「ああ・・・ありがとう、ニコル」
アスランはカガリからニコルを受け取って抱きしめた。
「めでとう。とーたま。」
アスランはもう一度ありがとうと呟き、彼の頬にキスをした。
そして自嘲気味にいった。
「本当、おれは鈍いな・・・」
ククッとカガリが笑った。
「だから早く今日は帰ってこいよな。」
「ああ・・・わかったよ。」
アスランはニコルを片手でだいてもう一方の手でカガリを引き寄せた。
そして彼女の頬に唇を落とした。
「そういえば・・・カガリ、君からは言ってもらってないのだが・・・」
するとカガリがちょっと頬をそめて、でも少しむっとしたような顔をしながら答えた。
「言っただろう?覚えてないのか、お前・・・」
「へ?」
アスランは首をかしげる。
「だーかーらー、昨日の夜というか・・・えっとお前が昨日帰ったあと・・・ほら・・・」
「だって昨日だろう?」
「でも・・・ほらお前は遅く帰ってきただろう?・・・・だから・・・さ・・・もう・・・」
カガリは口を尖らせながら・・・顔をさらに赤くしていった。
夜遅くって・・・・あっ・・・・アスランも思い出したらしく顔が少し赤くなった。
そういえば・・・いっていたような気がする。
俺は夢中であまり話をきいてなかったのか・・・。
昨晩、日が変わってから帰宅したアスランが夜食をたべたあと
寝室で洗い物を片付けるといってキッチンに向かったカガリを待っていた。
そして寝室に入ってきた彼女をみて・・・驚きと喜びでいっぱいになった。
いつもの装いと違い彼女はネグリジェを着ていた・・・
レースをふんだんに使い・・・少しすけて胸とかがはっきりとわかるような。
しかも恥ずかしがりやの彼女が顔を赤く染めながらも自分の横にもぐりこんできて首に腕を回してきたのだ。
いつもにまして積極的なカガリに彼はすっかり抑えがきかなくなった。
「どうしたの・・・今日は・・・こんなのを着て・・・」
「う・・・・ん。その・・・」
「すごく・・・いいよ・・・何かあったの?」
「お前の・・・誕・・生日だから・・・」
「そう・・・」
「おめでとう・・・アスラン」
「うん・・・」
「誕生日おめでとう・・・」
「ああ・・・」
彼はいつにもまして熱心に彼女を堪能した。
「そうだね・・・確かに言ってくれたね。でも、今またききたいのさ。」
アスランはカガリの耳元で囁く。
もう・・・とカガリが頬を膨らませる。
「そうすれば、早く帰ってこられると思うよ。」
カガリはアスランの頬にキスをした。
「誕生日おめでとう、アスラン、来年も一緒に祝おうね」
(2004.10.29)
【あとがき】
誕生日話なっているかどうか・・・微妙かもしれませんが。
設定としてはSSの寝返りの続きという感じでしょうか。
ニコルに「おめでとう」とはじめていわれて喜ぶアスランっていうのがいいのかなと思って。
そうそう真ん中にニコルを挟んでの川の字に寝ていたアスランのストレスがたまるのは当然ですよね。
追記・・・2005.10.16
えっと一部修正です。
キラとラクスの子供の名前を変えました。
セア(SEA)ちゃんにしました・・・ラクスの父親のシーゲルさんのあたま3文字をとりました。
ヴィアちゃんは、アスランとカガリの子供にしたいなと思いまして・・・。