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第1章から

目覚めたカガリは目に入ったテーブルで、自分がオーブから離れていることに気がついた。

目をこすりながら起き上がると、そこはソファの上だった。

いつの間にか眠っていたようだ。カガリは時計を見た。

針は2時を回っていた。

「あいつ・・・」

カガリはそう呟いて、もう一度コロンとソファに体を倒した。

ここはプラントのアスランの家だ。

今日は会議が夕方から始まるので、帰りが遅くなると言っていたことをカガリは思い出した。

主要メンバーが揃うのが今月はもう今日しかなく、いろいろ決めないといけないことがあるから、

かなり長い会議になるだろうとも確か言っていた気がする。

「しかし・・・これはいくらなんでも遅すぎるだろう。」

カガリ自身、以前自分がオーブの代表をしていた時に、同じようなことをよくやっていた。

だから、会議が遅い時間に始まることや、長引いてしまうことはよくあり、仕方のないことだと理解はできる。

だが、明日は土曜日で休みだとはいっても、夕方6時に始まった会議がここまでかかることはないだろう。

途中休憩をいれたとしても、人間、集中できる時間には限りがある。

多分、日が変わるくらいまではやっていたかもしれない。

そう割り引いてあげたとしても遅い。

きっと彼のことだ、会議が終わった後なにやら仕事をしているに違いないとカガリは考えた。

「何でも一人で抱え込むなよ。」

ポツリとカガリはこぼした後、自分も以前よく彼に言われていたことに気がつきクスリとした。

彼女は立ち上がりテーブルの上に並んでいた食器に手を伸ばした。

「まったく人のこと言えないよな。」

そう呟きながら、彼女は食器を片付け始めた。

使っていない食器を棚に戻した時、自分の分の洗い物がまだだと気がついた。

洗い物をしている間にアスランが帰ってくるかもしれないと考えたカガリは台所へと向かった。

 

(中略)

 

土曜日、二人はディセンベル市へと向かった。

アスランが月から戻り暮していたところだ。

彼はそこに残っている自宅を処分することにしていた。

その前に一度荷物の整理もかねてカガリと訪れることにしたのだ。

アスランの過ごした場所を彼女が見たいと言ったのである。

国内線のシャトルの中でカガリはアスランに尋ねた。

「本当に家を売ってもいいのか?」

彼が以前オーブにいてカガリの護衛を務めていた時もディセンベルの自宅はそのままだったのだ。

だから彼女は気になっていた。

あのアプリリウスの家を購入したのが原因ではないかと。

「ああ。もう生活の拠点はアプリリウス市だ。ここには戻らないだろうから。」

納得しきれていないカガリの表情を見てアスランは苦笑した。

彼女にはまだきちんと話していないが、いずれ議長を辞めたらアスランはオーブに行くつもりでいる。

アプリリウスのあの部屋も仮住まいだと彼は思っていた。

いずれオーブに移った後は、あそこがプラント訪問時の滞在場所になるだろう。

 

第2章から

(中略)

それから一週間くらいたったある日の会議の後、カガリはホムラとフエゴに声をかけた。

「叔父上、フエゴ・・・あの・・・お話があるのですが。」

二人は顔を見合わせた。

カガリの頬がうっすらと赤くなっているようにフエゴは思った。

「ここでもいいか。」

ホムラはこのあと別な会議が予定されていた。

カガリが周りを見ると会議室には自分達3人しかいなかった。

それならかまわないだろうとカガリは判断し、言葉を続けた。

「はい。急で申し訳ないのですが、再来週・・・21日から24日の間どこかお時間を頂きたいのですが。

そっ、その叔父上に、あとフエゴにも会ってもらいたい人がいるのです。」

「予定は、秘書に確認しないと正確なことはわからないから、約束はできないが。珍しいな、カガリ。」

ホムラは不思議な顔をした。

彼女がわざわざ自分にスケジュールを確認することはあまりない。

秘書に空いた時間を尋ね、やってくるのが常だった。

一方、フエゴは彼女の様子からも何の話か予想がついたようで、口元が綻んだ。

「そうですか?」

「ああ・・・いつもは押しかけてくるじゃないか。」

ホムラはその様子を思い出したのか、ハハハと笑いながら答えた。

カガリは頬をわずかに膨らませたが、本来の目的を思い出した。

「で・・・では、予定を確認していただいて・・・その・・・できれば21日の午後がいいのですが。えっと・・・実はその・・・。」

「21日の午後だな。わかった。秘書に確認をして返事をしよう。」

ホムラの返事にカガリがホッとしながらも、続けた。

「いつ頃わかりますか?」

「次の会議が終わればわかると思うが・・・そんなに早く知りたいのか。」

「あ・・・いえ、今日結果がわかるのであれば大丈夫です。」

カガリの答えにホムラは首をかしげた。

さっきからあまりにいつもの彼女と違うからだ。

そこに二人のやり取りを黙ってみていたフエゴが口を挟んだ。

「彼はわざわざ、来るのか。だから、その時にしか時間がとれないってことなの、カガリ?」

「あっ、うん。」

急な問いに、彼女は思わず、素で答えた。

フエゴはカガリの答えに思わず感嘆の声をだした。

「そう。彼もなかなかやるね。」

カガリはフエゴの言葉に顔を真っ赤にした。

それは、アスランがプライベートで降りてくるということだ。

オーブから何度も公式な訪問を依頼しているのだが、まだ承諾をもらえていない。

それなのにカガリのためには来るというのか。

「彼?」

一方ホムラも自分の息子の言葉に反応した。

「男・・・なのか」

カガリが視線を泳がせながら頷いた。

ホムラは大きなため息をついた。

 

第3章から

アスランの積極的な行動により、二人の婚約が正式に決まった。

結婚式も来年の6月に決まった。

プラントとオーブ双方で同時にそれは発表され、二人揃っての記者会見をプラントですることになった。

カガリはその打合せもあり、プラントへ来ていた。

発表は来週だ。

二人が顔を直接会わせたのは、結婚を認めてもらうためにアスランがオーブを訪れて以来だった。

アスランは早々と仕事を切り上げ、カガリが待つ自宅へと戻った。

久しぶりに顔を合わせた二人は遅くまで愛を確かめ合った。

アスランは何か鳴っている音に気がつき目を開けた。目の前には腕の中でぐっすり眠っているカガリがいた。

― ピピピピ、ピピピピ

音は鳴り続けていた。

彼はそっと、彼女の眠りを妨げないように体を起こし、音の所在を確認した。

それはカガリの携帯だった。

こんな時間に何だ・・・彼は眉を顰めた。

が、仕方ない。彼はため息をついた。アスランはカガリを起こそうと彼女の体を揺らした

「カガリ・・・起きて・・・携帯が・・・」

― ビービービー

今度は壁に埋め込まれているモニターからもコール音が鳴り始めた。

アスランはビクリとした。

これは自分宛の緊急連絡のコールだ。

カガリの携帯も鳴っている。

なにか起きたのかもしれない。

目の前のカガリはとても疲れているのか、この喧騒の中でもまだ目を覚まそうとはしなかった。

その原因のほとんどは自分なのだが。

アスランはカガリを起こすのをやめて、自分宛のコールに出ることに決めた。

彼はベッドから降り、床に散らばっている服を手に取り、身繕いをしながらモニターへと向かった。

諦めたのか、カガリの携帯のベルが止まった。

彼は『SOUND ONLY』を確認し、モニターのスイッチを入れた。

「アスラン・ザラだ。何かあったのか?」

「お休みのところすみません、議長。実は、オーブ大使館から緊急の捜索依頼が入りまして・・・」

「何だって・・・オーブから。」

捜索依頼だと・・・こんな時間に誰の・・・。

その時、アスランの脳裏にオーブ代表のフエゴの顔が浮かんだ。

今回、二人の婚約発表にあわせてフエゴもプラントを訪れ、アスランと会談することになっていた。

彼の妻レイラはコーディネータでプラント出身だ。

今回は家族も連れて行くことにしたらしいとアスランはカガリから聞いていた。

嫌な予感がした。

「まさか・・・」

その時、カガリの携帯がまた鳴り始めた。

アスランはモニターに向かって思わず大きな声を出した。

 

第4章から

カガリが帰宅をするとマーナが彼女に告げた。

「カガリ様・・・アスラン様がお見えです。いつもの応接室の方にお通ししています。」

カガリはその言葉に足をとめ、怪訝な顔をした。

ここに来るという話は聞いていない。何かあったのだろうか。

「カガリ様・・・あの・・・。」

マーナがもう一度声をかけた。

「ああ、わかった。」

カガリは後ろにいた秘書の方に顔を向けた。すると彼は心得たように答えた。

「今日の予定は、夕方からのパーティへの出席のみとなっております。それから・・・特に急ぐ書面も今は手元にございません。」

彼が遠慮がちに付け加えてくれた一言に、カガリは少し頬を染めた。

急ぐ書面もないということは、今日は屋敷で仕事をしなくてもいいということだ。

「そうか。」

「では、パーティへ出発の際にお迎えに参ります。」

「わかった。ありがとう。」

カガリはそう答えて、アスランの待つ応接室と向かった。

あの事故以来、彼と直接会うのは始めてだ。

連絡をとっていなかったわけではないが。

彼が会いにきてくれて嬉しいと思う気持ちと、何のために彼が来たのかわからない不安な思いとが胸の中が揺らめいていた。

婚約の発表はまだしていない。

それに・・・式の日程については誰からも何もいわれていない。

どうなるのだろうか。カガリは気になっていた。

今日はそのことでアスランは来たのかもしれない。

嫌な話じゃなければいいのだけど。

カガリは応接に入る前に一つ深呼吸をした。

が、彼女が部屋に入った時、アスランは気持ちよさそうにソファで眠っていた。

 アスランの通された応接室には、サンルームがあり、そこから庭へと出られるようになっている。

彼はソファに座り、優しい日差しに少しまどろんでいた。

プラントでは感じることができない自然の光。

それはプラントからカーペンタリアへ降り、すぐさまオーブへと向かったアスランの睡魔を誘ったのだ。