*ブラウザの「戻る」で戻ってください


 

(第1章から)

 

 端末の画面に映る大量の報告を次から次へと見ていたアスランの手が止まった。

新議会発足にあたりプラントは地球での友好国・・・アフリカ共同体、大洋州連合、スカンジナビア王国、そしてオーブ首長国連合などに会談を求めていた。

アスランが手を止めた報告はオーブに駐在している大使からのものだった。

内容はオーブ代表との会談は難しいとの報告が書いてあった。

オーブ代表カガリ・ユラ・アスハ・・・彼の脳裏に愛しい人の姿が浮かんだ。

戦争の間、彼の心の奥底に沈めていた思いが浮かび上がってきた。

確か代表はまだ変わっていないはずだ。戦争はもう終わった。

オーブも中立を取り戻した。・・・会いたい。会って話をしたい。そういう衝動にアスランは駆られた。

よく考えてみたら戦争が終わって彼女と連絡はまだとっていなかったことに気がついた。

もう、ザフトではないのだ。なのに、忙しさに紛れて連絡をしていなかった。

「これでは忘れているのと一緒だ。」

決してアスランとしては彼女のことを忘れていたわけではなかった。

ザフトに所属していたので、戦争の時は連絡を取れなかっただけだ。戦後は忙しかったので連絡が遅れた。

だが少しわだかまりもあった。

彼女は一度他の男と結婚式を挙げようとした・・・そのことを少なからずとも彼は気にしていた。

が、オーブは中立に戻り、セイランは失脚し、彼女はまだカガリ・ユラ・アスハのままだ。

気になって取り出したオーブ駐在のプラント大使館の資料では彼女の左手に自分が贈った指輪が輝いていた。

早く連絡しないと・・・。アスランは苦笑をし、端末からある回線にアクセスしようとして止めた。

ここではさすがにまずい。家に戻ってからの方がいいと判断した。

そして彼はオーブに駐在している大使に対して指示を出した。

 

―何とか代表と会談したい。もう少し交渉にあたってほしい。

 

職権乱用かな・・・アスランは苦笑しながら呟いた。

だが、自分は今プラントを離れるわけにはいかない。

だからこの会談に彼女が来てくれれば会えるなと思っていた。

それにしても彼女の耳にも自分が議長になったことが入っているにちがいない。

それならば会談に応じてくれてもいいような気がするのだが、なぜ困難だという返事を大使はいうのだろうか。

アスランは最後に会った時のことを思い出しながら手を再び動かし始めた。

少し彼女にひどい言い方をしたのかもしれない、そう感じてきた。そのことが原因なのだろうか。

もし彼女があの時傷ついて自分のことを嫌いになったりしていたら・・・いや大丈夫だ、少なくとも指輪は彼女の手にあるじゃないか。

それに彼女は公私混同をしないはずだ。

アスランは早く仕事を片付けて家にもどりオーブへと連絡をとりたいと思い、いつもより早く自宅へと戻った。

 

(第2章から)

 

その時、秘書からの連絡を告げるブザーがなった。アスランは手元の石を見つめ、そして答えた。嫌な知らせでなければいいが。

「なんだ。」

「議長、オーブのアスハ代表が宿泊先のホテルで襲われました。」

「何だって?・・・それで、カガリは・・・アスハ代表は?」

アスランの声は震えた。手元の石を見つめ、彼女の姿を思い浮かべた。いったい、なぜ・・・、誰が・・・、彼女を・・・。

「ナイフで刺されたようで、今、病院に運ばれて緊急手術を受けていらっしゃいます。」

「命の危険は?」

「そこまでは、まだ、連絡が入っておりません。」

「犯人は?」

「その場で取り押さえられたそうです。両親を先の戦争で亡くしたコーディネータの少年らしいのですが・・・。」

「少年?」

どうしてそんな一介の少年がカガリの泊まっているホテルを知っているのだ。・・・これは何か裏がある。アスランは秘書官に向って、指示を出した。

「病院へ行く。すまないが、今日のこれからのスケジュールはキャンセルしてくれ。」

「ぜ・・・全部ですか?」

「当たり前だ・・・対応を誤るとまた戦争がはじまってしまう。報道管制の方はどうなっている。」

「今、確認中です。」

「では、報告は病院で聞く。それから、イザーク・・・彼は地球だったな・・・じゃあディアッカだけ呼んでくれ。・・・あとの指示は車の中で出す。いいな。」

そう言ってアスランは机の引出しに彼女から返された指輪をしまい、

上着をとり、ハウメアの石を握り締め、病院に行くために部屋を飛び出した。

「カガリ・・・死なないでくれ。」

 

 

(第3章から)

 

カガリがオーブに戻って1週間後、オーブ代表交代の正式な発表がなされた。

その2週間後に、カガリは代表の座をフエゴに譲ることになった。

カガリにとって残念だったのは、プラントで療養している間に留学の話がなくなってしまったことだった。

代表を辞めた後、カガリはモルゲンレーテの会長に就任することになった。

自分が提案した特許の制度を維持するためには必要だからと説得されたのだ。

 カガリの代表としての最後の仕事は、彼女の退任とフエゴの就任披露パーティへの出席だった。

パーティに出るのは苦手なカガリだったが、自分のこともあるが、フエゴのことも考えるとさすがに欠席することは出来なかった。

とはいえ、例の暗殺未遂の件もあり、警護のことも考慮して、パーティはアスハの屋敷で開かれることとなった。

パーティは盛況だった。ここしばらくそういう場への出席を控えていたカガリが出席するということで、挨拶を希望する人々が集まった。

カガリとフエゴは挨拶におわれた。

そのころパーティの片隅で小さなざわめきがおきていた。

「お前・・・どうしてここに。」

プラントの議員服をきこんだイザークは、タキシード姿の男をつかまえて小さな声で怒鳴っていた。

それはアスランだった。現在、イザークは戦後処理のためにカーペンタリアにいる。

今日はプラント議長代理としてパーティに参加していた。彼はアスランがプラントを離れることを聞いていなかった。

「お前が出席するとは聞いていないぞ。しかも・・・」

イザークは一旦言葉をきって、あたりを見回して言った。

「護衛をつけていないじゃないか。」

するとアスランはじろりとイザークを見て答えた。

「いや、一組は連れてきた。」

「お前は自分の立場をわかっているのか?」

「わかっている・・・だから議長服はやめた。ただ、例の事件のことで動きがあったから、降りてきた。」

アスランはイザークの肩越しにカガリが見えることに気がつき、彼に答えながら彼女を見つめていた。

その視線に気がついてイザークは苦笑した。が、すぐに自分の気を引き締めた。

こいつがわざわざプラントからきたということは、彼女にまた危険がせまっているということだ。

「また、奴らが動くというのか。」

イザークは小さな声でアスランに聞いた。彼は頷いた。

「可能性が高い・・・とディアッカが連絡してきた。」

イザークの眉がピクリと動いた。

「それにキラからも、狙いはカガリらしいという連絡があった。」

「けど、彼女は今日で代表をやめる。」

「ああ・・・でもモルゲンレーテは今回から彼女の配下となる。それに軍に対する彼女の影響力はまだ大きいからな。」

代表を辞めた後は、スカンジナビアあたりで2年ほど大学に通いたいと彼女は希望していた。が、だめだったと、アスランはキラから聞いていた。

「まあ、今日来た理由はそれだけではないだろう。」

まったく・・・イザークは心の中でぼやいた。彼女に会いたかったのだろう。

「彼女には今日来ることを知らせてあるのか?」

「えっ。」

イザークの質問に、アスランはぷいと顔をそらしながら答えた。

「知らせていない。」

「そうか。」

アスランは自分がパーティに出席すると聞いたら、欠席はしないものの、早々とカガリは退席してしまうかもしれないと思っていた。

彼女はまだ自分に心を許してはいない。

今回の事件の件で連絡をとる必要があるからといって、アスランは彼女とのホットラインを手に入れ、やりとりはしてはいたのだけれども、相変わらず彼女は他人行儀だった。

黙り込んでしまったアスランをフンと見やり、イザークは言った。

「まだ俺も挨拶はしていないから、一緒に行くか?」

「ああ。」

二人はカガリの方に向かって歩き出した。

「今日はいつものパーティに比べると客が多い。」

イザークの言葉にアスランは同意した。カガリが珍しくパーティに出席しているからだろう。

その上、警備もいつもより多い。アスハの警備も加わっているように感じた。アスランが見知っている人間も何人か見かけた。

どこかの大使に捕まっているカガリの側につき、イザークは声をかけた。

「カガリ様、怪我の具合は・・・」

彼女はイザークを確認すると、目の前にいた大使に会釈をして、彼の方を向き、軽やかに笑った。

「イザーク、そんな堅苦しい言い方はしなくてもいいぞ。まったくいつも・・・」

いつ会っても堅苦しい挨拶をするイザークに、軽口をたたこうとしたカガリは、彼の隣にいたアスランに気がついて言葉が途切れた。

どうしてここに・・・。しかも・・・タキシードなんか・・・。

カガリはそのタキシードに見覚えがあった。彼がオーブにいた時に彼女が見立てたものだった。

きりになった。

気を利かせてくれたのか・・・アスランはふとそう思った。