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(中略)

夏の初戦はクラスマッチの前日だった。

相手は昨年の優勝校のT青高校だった。

試験休みということもあり、球場にはかなりの生徒がやってきた。

まあ、9組の男子・・・キラ、シン、ディアッカ、カガリと同じクラスの・・・が他のクラスに声をかけてくれた結果だった。

外野スタンドの入り口で、カガリはキョロキョロと辺りを見回した。

「カガリ、こっち!」

ミリアリアがスタンドの一番上で手を振っていた。

その傍らに、カメラがのった3脚がセッティングされていた。

彼女の側に向かってカガリは階段を駆け上がった。

「ここで、撮るのか?」

「そのつもり。低い位置だと、フェンスが邪魔になるから。」

そうだが、ここだと、ファールボールとかに気をつけないといけない。

ボールがミリアリアやカメラに当たってしまってはまずいのではないかと彼女は思った。

どこか他にいい場所がないかな、とカガリはキョロキョロと辺りを見回した。

「望遠で撮るし、練習だと思っているから。」

「そうか・・・じゃあここで見るか。」

そう言って彼女はミリアリアの隣に座った。

自分の勇姿を撮ってくれないか、とディアッカに事あるごとに言われていたミリアリアは、球場でカメラを握ることに最初は渋っていた。

が、マリューから頼まれたので、彼女は撮ることを引き受けた。

(まあ、アスランとカガリが付き合い始めたことも理由の1つだが。)

カメラの練習だと思えばいいよ、とカガリも彼女を誘った。

彼女は写真部だ。

動いている被写体を撮ることは、練習にもなるのは事実だ。

それに、今回の対戦相手は強豪で、この試合がもしかしたら野球部の夏の大会の最後の試合にもなるかもしれない、とディアッカから聞いたからだ

カガリは視線をグラウンドの方へ向けた。

バッターボックスにマリューがいるのを認めた。

ということは、今はN浦の守備練習だ。

スコアボードでN浦が先攻だと知った。

この後に、相手の守備練習があって、試合が始まる。

彼女は空を見上げた。

どんよりと曇っている。

「天気もつかな。雨に対する準備をしてきたか?」

カガリは準備をしているミリアリアに向かって言った。

カメラとか濡れてしまうとまずいのでは、と彼女は思った。

すると、しゃがんでジュラルミンの四角いボックスの中を触っていたミリアリアが顔を上げた。

「やっぱり、そう思う。ねえ、雨が降っても中止にはならないのよね。」

ミリアリアの問いかけにカガリは頷いた。

それから、彼女の首に掛かっているカメラと3脚の上のカメラを交互に見ながら尋ねた。

「なあ、2台で撮るつもりなのか?」

「うん。3脚だけだと、被写体をいろいろ変えるのが難しいというか・・・。だから・・・。」

彼女は空を見上げた。

雨に対する準備をしてはきたが、やっぱり途中から降りだしてきたら、いろいろバタバタしそうだ。

「やっぱり、3脚だけにするわ。

そうなると投手や打者ばかりが被写体になってしまうけど。」

この天気なら仕方ないかもしれない。

ミリアリアはそう納得して、首にかけていたカメラを外し、しまい始めた。

「まあ、ボールが常に来るところはそこだからな。」

でも、雨が降っても3脚のカメラの方は大丈夫なのか、とカガリは思った。

防水性のカメラなのだろうか。

詳しくないからわからないけれど・・・。

グラウンドに視線を戻すと今度は相手の守備練習が始まっていた。

 カメラをしまいおえたミリアリアはカガリがアスランと付き合い始めた事を思い出し、好奇心から尋ねた。

「そういえば、アスランはどうだった?」

「アスラン?」

どうだった、ってミリアリアは何が知りたいのだろう。

彼女は意味がわからずきょとんとした。

いつものようにアスランが家を出る時に声をかけた。

彼が試合に行く時はいつもそうだ。

シニアの時も彼のチームと一度も対戦をしたことがなかったから出来たことでもあるのだ。

それは高校になってからも変えるつもりはなかった。

「そう、朝、会ったんでしょう?」

「うん、まあ、隣だから。」

ミリアリアの意味深な言い方にちょっと拗ねた感じで彼女は答えた。

確かにアスランは自分の彼氏だ。

幼馴染から2人の関係は変わった。

だからといって何か大きく変わったかというと、そういうことはなく、今までと変わらなく過ごしていた。

それでいい、とアスランからも言われたからだ。

しかし、以前と違うことが1つだけあった。

彼の言葉や行動に、カガリの胸がドキドキする時が増えたのだ。

「で、自信満々だった?」

「うーん、普通だった。」

その時の事を思い出しているのか、カガリは頬を染めながら答えた。

ミリアリアは彼女の表情の変化を微笑ましく感じた。

「そうか、普通か。ディアッカは昨日楽しみだって言っていたわ。」

「へぇー、ディアッカはそんなことを。それは頼もしいな。」

そう答えながら、いつミリアリアはディアッカと話したのだろう、とカガリは思った。

自分がアスランと付き合うようになったからなのか、カガリはディアッカの思いに気づいたのだ。

が、ミリアリアは、どうなのだろうと思っていた。

まあ、高校に入学した頃に比べると、随分仲良くなっている気がするのだが。

まだ、付き合っている様子ではない。

「そうだ。アスランからは、雨具の用意をして見に来いって言われた。」

アスランには朝、それを強く言われたのだ。

「ふーん、そうか。アスランが言うなら、やっぱり雨が降るってことだ。」

アスランを天気予報官がわりにしているミリアリアにカガリはクスクスと笑った。

「そうかな。」

まあ、でも、とカガリは持ってきたバッグの中の雨具をミリアリアに見せた。

なんだかんだと結局カガリがアスランの言う事をきちんと聞いている姿が可愛らしくミリアリアは感じた。