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(中略)

6月の中旬、カガリは専門学校を卒業する。

彼女は考えた末、パリでフレイの会社に就職することにした。

それに合わせたかのように、アスランの留学期間がもう2年延びることになった。

そして、幼馴染の二人が恋人同士になってから、もう7年近く経っていた。

いずれは・・・と、二人の間では結婚を少しずつ意識するようになってきた。

先に意思表示をしたのはアスランだった。

カガリがパリに留学して、最初の長期休暇で帰国した時に、一度、アスランは彼女に結婚のことを口にした。

それは、パリに戻る彼女を成田空港まで見送りにいった時だった。

彼は彼女にこう言った。

 

―カガリがパリから戻ったらさ・・・結婚したいのだけど・・・いいかな。

 

彼女ももちろん同意した。

彼以外には考えられなかったからだ。

だが、自分はパリで就職することにした今、その話は随分先のことだろうとカガリは呑気に思っていた。

アスランは逆にその気持ちが強くなっていったのであるが。

 

 5月・・・パリの街に緑が溢れ始めていた。

カガリの誕生日が近づいたある日、アスランとカガリはフランスを訪れていたアスランの両親から食事の誘いを受けた。

久しぶりにアスランの両親と会うカガリは緊張した面持ちで出かけた。

彼女は昨年、レノアからプレゼントされたワンピースを着て行った。

それは仕事でパリに来たレノアが、カガリと二人だけで出かけた時に誕生祝いだと買ってくれたものだ。

それから、カガリは手土産にと手作りのケーキを持って行った。

食事も終わり、デザートとしてカガリが持ってきたケーキを食べている時に、アスランが両親に向かって、彼女と結婚すると切り出した。

彼から、何も聞かされていなかった彼女は、彼がその話を始めた時に、驚きのあまりきょとんとしていた。

二人の間では気持ちは固まっていたのだが、お互いの両親へ意思表示をするのは、今回が初めてだったのだ。

とはいっても、パトリックから、不器用な息子だがよろしく、という言葉に、カガリは力強く頷いた。

食事の帰り、車に乗ったところでアスランはカガリに尋ねてきた。

「うちによる?」

彼女は、うん、と大きく頷いた。

アスランはエンジンをいれながら更に尋ねた。

昨日からハイネは帰国準備のため、ドイツに戻っていた。

来週帰ってくることになっている。

「マリアさんに遅くなるって言っている?」

彼女はじろり彼を見た後、今度は小さく頷いた。

まったく、いちいち聞くな・・・と頬が熱くなるのを感じながらカガリは思った。

今日、彼が家まで迎えに来たので、マリアの方から先に、遅くなるのね、と確認されてしまったのだ。

「よかった。いろいろ相談したいことがあったから。」

アスランは上機嫌だった。

思い切って、両親に二人の結婚のことを告げ、反対されなかったからだ。

「相談したいこと?」

何かあっただろうか・・・彼女はピンとこなかった。

彼のあらたまっての相談といえば、大学のことが多かった。

「何?・・・お前の留学のこととかか?」

もしかしたら、彼の留学の予定が変わったのかもしれないと、カガリは心配になった。

が、彼女の的外れな問いかけに、アスランはちょっと首をすくめた。

「違うよ。ここで話すのはなんだから、家でゆっくり話そう。」

「わかった。」

そうだ、ついでに日本に戻る日程について相談しよう・・・とカガリは思った。

自分の卒業式の頃は、彼の大学は休みになっている。

いつも一緒に日本に帰ることにしているからだ。

 

 アスランに続き、彼の部屋へ入ったカガリは、彼に背中越しに声をかけた。

「コーヒーを淹れるか?」

カガリが慣れた足取りでアスランを追い抜きリビングから台所に向かった。

彼女の後からリビングに入った彼は、椅子に座り、しばらく考えたあと、彼女に向かって声をかけた。

「ねえ・・・結婚式は、今度の秋にしないか?」

えっ・・・、アスランの言葉にカップにコーヒーを注いでいたカガリの手が止まった。

「おじさん達に挨拶が必要だよね。とすると、夏に日本に帰った時に、おじさん達に挨拶をしたとして・・・やっぱり、秋だよね。」

カガリは、気を落着けるように一回深呼吸をして、再びコーヒーを注ぎ始めた。

彼は珍しく饒舌に話を続けた。

「でも、秋だと、カガリはもう就職しているから、式はこっちでするしかないよな。そうなると・・・。」

コーヒーを注ぎ終わったところでカガリはアスランに台所から声をかけた。

「アスラン・・・お前、その・・・何の話だ。」

「だから・・・俺たちの結婚のことだけど。」

「えっ、結婚って、秋に。」

コーヒーカップを両手に目をぱちぱちとして、驚いて台所から出てきたカガリを見てアスランはおかしいなと首を捻りながら言った。

「さっき、うん、って言ってくれたじゃないか。」

彼の両親との食事の後、彼が結婚の話をした時に、そう答えたのをカガリは覚えている。

それに、自分の両親からOKをもらったら、好きな時に結婚してもいい・・・と彼の両親から言われたことも覚えている。

が、まさかパリにいる時に結婚するとは彼女も思っていなかった。

ただ、ああ、本当に彼といずれ結婚するのか・・・という感じでしかなかった。

でも、彼は違ったようだ。

「二人とも日本に帰ってからの話じゃないのか?」

頬を染めながらも、カガリも困惑した表情で答えた。

「いや、俺はもうこっちでのつもりだよ・・・。その・・・カガリさえよければ、いつでも・・・。」

いつでも・・・と真顔でアスランに言われ、カガリの方が自分の顔を更に赤くした。

が、もう一度、彼女は確認してみた。

「だって・・・お前はまだ学生だろう?」