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第1章から

端末に向かっていたカガリは思わず打ち損ねた自分に腹を立てた。

スカンジナビア王国へ今後のことを相談するためのメールを打っていたのだ。

彼女は急いでオーブに戻らねば・・・と思っていた。

プラントのデュランデル議長がラクスそっくりの少女と一緒にロゴスのことを公表してまだ数時間も経っていない。

「落着け・・。」

相手は用意周到に計画を練って行動をスタートしているのだ。

何を計画しているのかは具体的にはまだわからない。

わからないが、何かあまりよくないことだと本能で感じていた。

目的もわからないし、情報も足りない状況で今こちらが対策に遅れているのは仕方がない。

落着け・・・。

カガリは深呼吸をした。

そうだ・・・どこかで彼の真の目的を知り、潰すことができるはずだ。

まだ間に合うはずだ。

カガリの脳裏にアスランの顔が浮かんだ。

「アスラン・・・お前も早く気がついて、戻って来い。」

デュランダル議長を信頼してプラントへ向かった彼。

だが、デュランダル議長は彼を道具にしか思っていなかったのではないかとカガリは感じた。

エースパイロットの彼。

それに、あのラクスそっくりの少女・・・彼女を本物に見せるために必要な彼。

彼が側にいるだけで、あのデュランダル議長の横にいる彼女が本物に見えるだろう。

 

―ごめんなさい。ちゃんと婚約解消のことを公表しておけば

よかったですね。

 

ラクスの言葉がカガリの頭をよぎった。

それは彼女そっくりの少女がザフト軍を慰問しているというニュースをみんなで見たあとに言われた。

ラクス自身ショックだったと思うのに、自分に対する彼女の気遣いに、カガリは首を横に振ることしかできなかった。

そう、彼女のことはラクスのせいではないのだ。

あの少女も結局は議長の駒にしかすぎないことをカガリは感じていた。

だから、アスランも彼女に気を遣い、はっきりと否定しないのだと思った。

しかし、ラクスそっくりの少女まで用意しているデュランダル議長にカガリは驚きを通り越し、呆れていた。

彼ならそんなことまでしなくても、強いリーダシップで人々を惹きつけられるだろうと思っていたからだ。

ラクスのプラント国民への影響力を感じつつ、そこまでやる必要があるのかと感じていた。

第2章から

(中略)

以前は戦うことが嫌でオーブに行き、カガリの手助けをしたくて護衛になった。

彼女の助けになっていたのか自信はないが・・・。

今度は自分の力が一番発揮できる場所で、彼女と同じ夢を追いたいと思った。

アスランはアークエンジェルやクサナギと一緒に、愛機インフィニットジャスティスと共に地球へと戻ってきた。

アスランは今後のことでカガリのところへ訪れた。

「オーブ軍に残るというのか?」

アスランは頷いた。

プラントからも招聘されていると別なルートから聞いていたカガリは彼がオーブに残るといってくれるのは嬉しかった。

が、まさか軍にそのまま残るとは思っていなかったのだ。

「でも・・・お前・・・。」

カガリはアスランの顔を覗き込んだ。

揺れている瞳がアスランを見つめた。

カガリは心配だった。

前の戦争のあと、軍に入ることを拒んだ彼が今度は軍に残るという。

「大丈夫だ。」

アスランは微笑ながら答えた。

カガリはその様子を見て、うーんと口に手をあて思案した。

アスランに迷いの様子は見られない。

「軍に残るというのなら、キサカと話をしてくれないか。連絡をしておくから。」

一旦言葉を切った後、ちょっと上目遣いにアスランを見ながらカガリは続けた。

「配属先とかは彼に任せるつもりだけど・・・いいよな。」

「ありがとう。」

そう答えたアスランはカガリをじっと優しく見つめた。

ふとカガリは予感を覚えて、先手を打った。

今は二人きりだから・・・まあ問題はないといえばそうだが・・・その後しばらくは落着かなくなるだろう。

「あの・・・アスラン。」

彼は首をかしげた。

その表情は優しかった。

「き・・・今日は暇か?・・・・その、家で食事をとらないか?」

カガリの予想外の言葉にアスランはえっと驚いた表情をした。

「その・・・マーナもお前に会いたがっているし。」

仄かに頬が赤いカガリの様子にアスランは満足した。

「後で寄らせてもらうよ。」

アスランはそう言って部屋を出て行った。

 

第3章から

手渡された軍の資料の中に彼の名前を見つけたカガリは思わず顔が緩んだ。

そしてしばらくその行を見つめていた。

 

『アスラン・ザラ 宇宙艦隊MS部隊長兼MS指導教官を命ず。』

 

彼の名前を軍の資料で見たのは何度目だろう。

あの戦争から1年以上経っている。

カガリは、軍の異動記録に時折、彼の名前が載っているのを見つけていた。

その度に、頑張っている彼の姿が浮かんだ。

まだ階級は一佐のままだが、役職は少しずつ重要な位置になりつつあった。

今回の異動で彼はクサナギから降りることになるだろう。

「あと少しか・・・。」

カガリはポツリと声に出した。

この調子だと、早くて次の異動では、自分が人事権をもつメンバーの中に彼が入ってくるだろう。

まあ、今回の異動で、そろそろ会議で見かけるようになるかもしれない。

カガリは、彼の働きについて軍だけでなくモルゲンレーテの資料でも見かけて知っていた。

彼は部下のパイロット達とMSの改善ソフトの提案を何度もしていた。

アスランは、以前とは変わりなく連絡はよこしてくるが、地球に降りてくることはなかった。

前回会ったのは、カガリが月に演習を見に行った時だった。

彼は時々、メールをくれるが、その内容はもっぱらカガリの体調や仕事に対する心配や労い、キラやラクスのことが多かった。

ラクスのことはキラから聞いていることを書いているようだったが。

もう少し会えるといいのに・・・と思わないときもなかったのだが、自分も仕事が忙しくて、なかなか時間がとれないでいた。

だが、これからは仕事で地球に降りる機会があるだろう。

地球でも会えることが出来るのではないかとカガリは思い嬉しくなった。

 

第4章から

 アスランは宇宙軍の新しいMS部隊の編成を考えていた。

先日、司令官から指示を受けたからだ。

すっかり宇宙軍の司令官は、アスランのことを気にいったようで、地球での会議には必ず彼を連れて行った。

アスランにしてみれば、地球に行けるのは嬉しいのだが、彼が、自分とカガリの仲に関心を持っていることが理由なのはちょっと困っていた。

 

―お前を連れてきてくれるのは・・・嬉しいけど。でも絶対あいつはおもしろがっている。

 

カガリもまたはアスランによくメールで司令官のことを書いていた。

オーブ軍でかつてのウズミ・ナラ・アスハを親しく知る人物は、その娘カガリを自分の娘のように思う傾向があった。

司令官もまたその一人だった。

ひょんなことから彼はカガリの思い人がアスランであることを知った。

幼い頃から知っている彼女が、アスランの前で見せたはにかんだ表情に、彼は思わず嬉しくなった。

まだ18歳の若さで国の長となった彼女にも、ちゃんと好きな男がいることに安堵した。

彼はその相手が自分の部下だということをいいことに、地球に降りるときは、彼を伴うようになった。

カガリの喜ぶ顔が見たかったからだ。

それに、普段は生真面目でちょっと近寄り難いところのあるアスランがカガリの前で見せる豊かな表情もまた楽しみだったのだ。

そんな彼がアスランを呼び出して宇宙軍のMS部隊の再編成の指示を出した。

2ヵ月後にオーブ宇宙艦隊は月の部隊とヘリオポリスの部隊に分かれることになったと彼はアスランに伝えた。

昨年から再建工事が始まったヘリオポリスの基礎工事が完成するのだ。

工事関係者、および、軍関係者の移住が始まる。

司令官は宇宙軍のMS部隊から10チーム40個小隊をヘリオポリスに異動させると伝えた。