きっかけ

それはある日唐突に聞かれた。

「そういえばニコル様って今度3歳ですわね。次はまだなのですか?」

「えっ?」

カガリは何のことを聞かれたのかわからず、読んでいた書類から頭をあげ、尋ねたエリカの方をじっと見つめた。

見つめられたエリカの方が少し困った顔をしながら続けた。

「子供ですよ。・・・二人目はまだなのですか?」

「二人目・・・って、えっと・・・」

「アスランと・・・だんな様とそういう話はされたりしないのですか?」

「だ・・・だんな様って・・・」

エリカの言葉にカガリは頬をそめながら答えた。

結婚してもうすぐ3年近くにもなるというのに、カガリはアスランのことを

だんな様やご主人と呼ばれることに慣れず未だに恥ずかしくて仕方がなかった。

「今でしたら長いお休みをとることも可能ですよ。」

「長いお休み?」

カガリの言葉にエリカは頷いた。

「けれど・・・」

カガリは考え込んだ。

そういわれても・・・まあ・・・その・・・彼と一緒にゆっくり夜を過ごせる時は、それなりのことをしているわけで・・・。

まあ以前に比べると彼の仕事も忙しくなってゆっくりできる時間は減ってきてはいるけれども・・・・。

でもその分、中身が濃厚・・・、とそこまで考えが及んだ時に

ハッと、エリカに見つめられているのに気がついて、顔を真っ赤に染めて言った。

「ア、アスランがコーディネータだから出来にくいんじゃないのか?

別に私は子供を欲しくないとか思ったことはないぞ。」

まあ確かにあまり考えていなかったような気もするが・・・と、ちらりとカガリは思ったけれどもそれは黙っていた。

一方、エリカもあらら・・・と思っていた。

確かに以前、アスランに釘をさしたのは自分だけれどカガリに内緒でそれを忠実に守っているとは思ってもいなかった。

彼らしいといえば、その通りなのだが。エリカはクスリと笑って言った。

「では、二人目が欲しいとおっしゃってみればいいと思いますよ。」

「いえば・・・できるのか?」

カガリはわけがわからないという顔をした。

エリカはクスクスと笑った。

「ええ、たぶん。・・・理由はだんな様に聞いてみるといいですわ。」

首を傾げるカガリに向かってエリカは手を振って部屋を出て行った。

 

同じ頃、アスランはキサカの部屋を訪ねていた。

新しくモビルスーツに導入される技術について報告を求められたからだ。

「そういえば、先日ニコル様にお会いました。大きくなられましたね。」

報告を終えた後、珍しくキサカがアスランに話しかけてきた。

「ええ。・・・今度3歳になります。」

「妹が欲しい・・・とおっしゃっていましたよ。」

「え?」

アスランは目をパチパチとした。

丁度、フラガ夫妻が家族でカガリの所に挨拶に来ていたので、そう思われたようだとキサカが続けた。

「ニコル様の言葉ではないですが、そろそろ二人目を考えてもいい時期かもしれないが。・・・君も大分認められてきたし。」

まさかそんなことをキサカから言われると思っていなかったアスランは返事に困った。

キサカは彼の様子をあまり気に留めず続けた。

「今だとカガリも長期の休暇はとりやすいだろうし。」

「・・・えっと・・・わかりました。」

アスランは顔を赤くしながらキサカに答え、部屋を辞した。

 

その日の夜、アスランが屋敷に戻るとカガリが待ち構えたように彼の側にやってきた。

話がある・・・と言いながらも頬を赤く染めたまま何も言おうとしなかった。

自分も話がある・・・とアスランが告げると カガリは、お前の話を先に聞くといい始めた。

彼はちょっと悩んだが照れくさそうな顔をしながらカガリの耳元で囁いた。

「その・・・ニコルの妹か弟が欲しいのだけれど・・・」

その言葉を聞いたカガリは、思わず彼の首に手を回して抱きついた。

「私の話も同じだよ。」

顔を赤くしながら、耳元で聞こえた彼女の声にアスランはギュッと力をこめて抱きしめた。

 

(2006.12.2)

2月の通販のペーパーとして書いたものです。

種戦後の設定で「二人をつなぐ小さな灯火」の後日談です。

ほぼ、同時に二人目のことをいわれるアスランとカガリを書きたかったので・・・。

わかる人にはわかるかと思いますが・・・

アスランはちゃんとエリカのいいつけを守っていました(笑)

 

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